41 / 67
第14話 夜会警備の打ち合わせ
④
***
ヴィルジールと騎士団員の推薦で、夜会当日の警備はマリユス・デュヴァリエ副団長が指揮を取ることになった。
打ち合わせも滞りなく終了し、皆がそれぞれの持ち場へと戻ったあと、セルジュはロランとともに執務室に残り、散らかった室内を片付けていた。
参考にした地理書を図書室に返却し、地図や見取り図を片付けて、会議用の大テーブルをふたつ隣りの空き部屋に運び、応接セットを元どおりの位置に戻して。
執務室がようやくいつもの姿を取り戻した頃、窓の外は夕陽で紅く染まりかけていた。
セルジュが二人掛けの応接ソファにどさりと身を沈めると、ロランも小さく息をつき、向かい合うソファにゆっくりと腰を下ろして、それから今思い出したと言わんばかりに口を開いた。
「そういえば、セルジュ。コレットさんとは最近どうなっているんですか?」
「どうもなにも、訓練が終わったんだからわざわざ会う必要もないだろう」
わざとらしい質問に、セルジュは右の眉尻をぴくりと動かした。
「それはそうですが……」
投げやりにも聞こえるセルジュの答えを聞くと、ロランは少しばかり考え込むように口元に手を寄せて、灰色の瞳をセルジュに向けた。
「セルジュ、貴方、コレットさんのことを好きだったのでは?」
「……俺は、な。あいつが俺を好きだったわけではない」
「告白する前からそれですか。情けないですね」
ロランにやれやれと溜め息を吐かれ、セルジュは苦々しく口の端を痙攣らせた。
告白すればよかったのだろうかと、セルジュもあのあと何度も考えたのだ。けれど、コレットのあの言葉は――コレットがセルジュに抱く感情が恋愛のそれだったなら、あのような言葉を口にしたりはしなかったに違いないと、そう思えてならなかった。
反論も何もできないままセルジュが黙っていると、さすがにおかしいと思ったのか、ロランが神妙な顔つきでセルジュの顔を覗き込んだ。
「まさか、振られたんですか?」
「……キスしようとして拒まれた」
「それは……」
ロランが言葉を詰まらせて、数秒口籠ったあと、躊躇いがちに呟いた。
「正直、意外です。コレットさんは間違いなく貴方を慕っているものだとばかり……」
「あいつが俺を慕ってくれているのは確かだ。ただ、それは恋愛感情とは違っていて……言ってみれば、俺はあいつにとって兄のようなものだっただけで……」
ありのままの事実を口にしながら、セルジュは微かに声を震わせた。厚意を好意と履き違えていた過去の自分が情けなくて仕方がない。
「俺はあいつのことを女として見てしまうし、ふたりきりになって自制できる自信もない。あまり側にいない方が賢明だろう?」
「そうですね」
即答だった。
多少の慰めくらいはあるだろうというセルジュの期待は、いともあっさりと裏切られた。
セルジュが項垂れてがっくりと肩を落としていると、ぎしりとソファが軋む音が聞こえ、ややあって柔らかい絨毯に艶のある革靴が映り込んだ。見上げれば、革表紙の本を手にロランが薄く笑ってセルジュを見下ろしていた。
「セルジュ、念のため、こちらを渡しておきます」
「なんだ」
差し出された本を手に取り、ぱらぱらとページを捲る。記された文字列を目で追うセルジュの耳に、ロランの爽やかな声が響いた。
「性技の指南書です」
「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声が洩れる。
あんぐりと口を開けて固まるセルジュをにやにやと見下ろしながら、ロランはしたり顔で続けた。
「貴方がコレットさんに本気になったなら、いずれ必要になるときがくるでしょう?」
「くッそ、馬鹿にしやがって……!」
吐き捨てるように悪態をついて。セルジュはロランから本を奪い取り、執務室を飛び出した。
背中に感じるニヤついたロランの視線が忌々しい。
大股で宿舎へ向かうセルジュの靴音が、広い廊下にけたたましく響いていた。
ヴィルジールと騎士団員の推薦で、夜会当日の警備はマリユス・デュヴァリエ副団長が指揮を取ることになった。
打ち合わせも滞りなく終了し、皆がそれぞれの持ち場へと戻ったあと、セルジュはロランとともに執務室に残り、散らかった室内を片付けていた。
参考にした地理書を図書室に返却し、地図や見取り図を片付けて、会議用の大テーブルをふたつ隣りの空き部屋に運び、応接セットを元どおりの位置に戻して。
執務室がようやくいつもの姿を取り戻した頃、窓の外は夕陽で紅く染まりかけていた。
セルジュが二人掛けの応接ソファにどさりと身を沈めると、ロランも小さく息をつき、向かい合うソファにゆっくりと腰を下ろして、それから今思い出したと言わんばかりに口を開いた。
「そういえば、セルジュ。コレットさんとは最近どうなっているんですか?」
「どうもなにも、訓練が終わったんだからわざわざ会う必要もないだろう」
わざとらしい質問に、セルジュは右の眉尻をぴくりと動かした。
「それはそうですが……」
投げやりにも聞こえるセルジュの答えを聞くと、ロランは少しばかり考え込むように口元に手を寄せて、灰色の瞳をセルジュに向けた。
「セルジュ、貴方、コレットさんのことを好きだったのでは?」
「……俺は、な。あいつが俺を好きだったわけではない」
「告白する前からそれですか。情けないですね」
ロランにやれやれと溜め息を吐かれ、セルジュは苦々しく口の端を痙攣らせた。
告白すればよかったのだろうかと、セルジュもあのあと何度も考えたのだ。けれど、コレットのあの言葉は――コレットがセルジュに抱く感情が恋愛のそれだったなら、あのような言葉を口にしたりはしなかったに違いないと、そう思えてならなかった。
反論も何もできないままセルジュが黙っていると、さすがにおかしいと思ったのか、ロランが神妙な顔つきでセルジュの顔を覗き込んだ。
「まさか、振られたんですか?」
「……キスしようとして拒まれた」
「それは……」
ロランが言葉を詰まらせて、数秒口籠ったあと、躊躇いがちに呟いた。
「正直、意外です。コレットさんは間違いなく貴方を慕っているものだとばかり……」
「あいつが俺を慕ってくれているのは確かだ。ただ、それは恋愛感情とは違っていて……言ってみれば、俺はあいつにとって兄のようなものだっただけで……」
ありのままの事実を口にしながら、セルジュは微かに声を震わせた。厚意を好意と履き違えていた過去の自分が情けなくて仕方がない。
「俺はあいつのことを女として見てしまうし、ふたりきりになって自制できる自信もない。あまり側にいない方が賢明だろう?」
「そうですね」
即答だった。
多少の慰めくらいはあるだろうというセルジュの期待は、いともあっさりと裏切られた。
セルジュが項垂れてがっくりと肩を落としていると、ぎしりとソファが軋む音が聞こえ、ややあって柔らかい絨毯に艶のある革靴が映り込んだ。見上げれば、革表紙の本を手にロランが薄く笑ってセルジュを見下ろしていた。
「セルジュ、念のため、こちらを渡しておきます」
「なんだ」
差し出された本を手に取り、ぱらぱらとページを捲る。記された文字列を目で追うセルジュの耳に、ロランの爽やかな声が響いた。
「性技の指南書です」
「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声が洩れる。
あんぐりと口を開けて固まるセルジュをにやにやと見下ろしながら、ロランはしたり顔で続けた。
「貴方がコレットさんに本気になったなら、いずれ必要になるときがくるでしょう?」
「くッそ、馬鹿にしやがって……!」
吐き捨てるように悪態をついて。セルジュはロランから本を奪い取り、執務室を飛び出した。
背中に感じるニヤついたロランの視線が忌々しい。
大股で宿舎へ向かうセルジュの靴音が、広い廊下にけたたましく響いていた。
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。
孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。
その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。
そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。
同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。
春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。
昔から志穂が近くにいてくれるから……。
しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。
登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。
志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。
彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。
志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。
そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。
その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389