幼馴染みに初めてを奪われた騎士はトラウマを克服したい

柴咲もも

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第14話 夜会警備の打ち合わせ

***


 ヴィルジールと騎士団員の推薦で、夜会当日の警備はマリユス・デュヴァリエ副団長が指揮を取ることになった。
 打ち合わせも滞りなく終了し、皆がそれぞれの持ち場へと戻ったあと、セルジュはロランとともに執務室に残り、散らかった室内を片付けていた。
 参考にした地理書を図書室に返却し、地図や見取り図を片付けて、会議用の大テーブルをふたつ隣りの空き部屋に運び、応接セットを元どおりの位置に戻して。
 執務室がようやくいつもの姿を取り戻した頃、窓の外は夕陽で紅く染まりかけていた。
 セルジュが二人掛けの応接ソファにどさりと身を沈めると、ロランも小さく息をつき、向かい合うソファにゆっくりと腰を下ろして、それから今思い出したと言わんばかりに口を開いた。

「そういえば、セルジュ。コレットさんとは最近どうなっているんですか?」
「どうもなにも、訓練が終わったんだからわざわざ会う必要もないだろう」

 わざとらしい質問に、セルジュは右の眉尻をぴくりと動かした。

「それはそうですが……」

 投げやりにも聞こえるセルジュの答えを聞くと、ロランは少しばかり考え込むように口元に手を寄せて、灰色の瞳をセルジュに向けた。

「セルジュ、貴方、コレットさんのことを好きだったのでは?」
「……俺は、な。あいつが俺を好きだったわけではない」
「告白する前からそれですか。情けないですね」

 ロランにやれやれと溜め息を吐かれ、セルジュは苦々しく口の端を痙攣らせた。
 告白すればよかったのだろうかと、セルジュもあのあと何度も考えたのだ。けれど、コレットのあの言葉は――コレットがセルジュに抱く感情が恋愛のそれだったなら、あのような言葉を口にしたりはしなかったに違いないと、そう思えてならなかった。
 反論も何もできないままセルジュが黙っていると、さすがにおかしいと思ったのか、ロランが神妙な顔つきでセルジュの顔を覗き込んだ。

「まさか、振られたんですか?」
「……キスしようとして拒まれた」
「それは……」

 ロランが言葉を詰まらせて、数秒口籠ったあと、躊躇いがちに呟いた。

「正直、意外です。コレットさんは間違いなく貴方を慕っているものだとばかり……」
「あいつが俺を慕ってくれているのは確かだ。ただ、それは恋愛感情とは違っていて……言ってみれば、俺はあいつにとって兄のようなものだっただけで……」

 ありのままの事実を口にしながら、セルジュは微かに声を震わせた。厚意を好意と履き違えていた過去の自分が情けなくて仕方がない。

「俺はあいつのことを女として見てしまうし、ふたりきりになって自制できる自信もない。あまり側にいない方が賢明だろう?」
「そうですね」

 即答だった。
 多少の慰めくらいはあるだろうというセルジュの期待は、いともあっさりと裏切られた。
 セルジュが項垂れてがっくりと肩を落としていると、ぎしりとソファが軋む音が聞こえ、ややあって柔らかい絨毯に艶のある革靴が映り込んだ。見上げれば、革表紙の本を手にロランが薄く笑ってセルジュを見下ろしていた。

「セルジュ、念のため、こちらを渡しておきます」
「なんだ」

 差し出された本を手に取り、ぱらぱらとページを捲る。記された文字列を目で追うセルジュの耳に、ロランの爽やかな声が響いた。

性技セックスの指南書です」
「はぁ!?」

 思わず素っ頓狂な声が洩れる。
 あんぐりと口を開けて固まるセルジュをにやにやと見下ろしながら、ロランはしたり顔で続けた。

「貴方がコレットさんに本気になったなら、いずれ必要になるときがくるでしょう?」
「くッそ、馬鹿にしやがって……!」

 吐き捨てるように悪態をついて。セルジュはロランから本を奪い取り、執務室を飛び出した。

 背中に感じるニヤついたロランの視線が忌々しい。
 大股で宿舎へ向かうセルジュの靴音が、広い廊下にけたたましく響いていた。

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