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第15話 グランセル公爵邸襲撃
③
セルジュはすぐさま後方を振り返った。だが、セルジュが抱いた一縷の希望はあっさりと打ち砕かれた。
リュシエンヌと向かい合う席に座っていたのは、ジゼルと呼ばれていた涅色の髪の少女だった。
両手で拳を握り締め、ぎりと奥歯を噛み締めると、セルジュはリュシエンヌの前に跪き、掠れた声を絞り出した。
「……どういうことか、説明していただけますか」
開きっぱなしの扉の前に、灰色の瞳を見開いて立ち尽くすロランが見える。
ゆっくりとうなずいてセルジュに向き直ると、リュシエンヌはぴんと背筋を伸ばし、ひとつひとつ記憶を辿るように言葉を紡いだ。
「一昨日の朝、父も母も屋敷の使用人も、遠方からの来客を迎える準備で大忙しでした。わたしもコレットも階上の使用人を手伝って、ホールや客室に花を飾る予定でした。わたしは朝食を終えて、動きやすいドレスに着替えるために部屋に向かいました。ちょうどそのとき階下が騒がしくて、わたしが不審に思っていると、コレットが代わりに確認しに行ってくれたんです。わたしは二階の踊り場で、ジゼルと一緒にコレットが戻るのを待っていました。そうしたら、コレットが階段を駆け上がってきて……」
そこまで話して大きく息を吸うと、リュシエンヌは膝の上で両手をきゅっと握り合わせた。
「わたしは驚いて、コレットに何があったのか訊ねました。彼女はわたしの問いに答えず、強引にわたしとジゼルの手を取って、わたしの部屋にジゼルとわたしを押し込みました。それから躊躇いなく使用人服を脱いで、すぐに着替えるようにと脱いだ服をわたしに手渡したんです。何がなんだかわからなくて、わたしには彼女に言われたとおり、使用人服に着替えました。
そうしているあいだに、階下の騒ぎは落ち着いたようでした。けれどそれも束の間、今度は扉を蹴破るような荒々しい音がホールのほうから徐々に近付いてきたのです」
セルジュが苦々しく唇を噛む。
その後の展開は想像に難くなかった。
リュシエンヌら三人は、部屋に押し入った革命軍に捕らえられた。その際、コレットは自らを公爵令嬢リュシエンヌと偽り、リュシエンヌの身代わりになったのだろう。
革命軍の主導者はテレジア人だとロランが言っていた。テレジア語を扱うコレットは革命軍に交渉を持ちかけ、彼らと同じテレジアの難民だったジゼルと、その友人であるもうひとりの侍女としてリュシエンヌの解放を求めた。そして交渉の結果、公爵令嬢リュシエンヌの望みは承諾され、ふたりの侍女は解放されたのだ。
「ごめんなさい、セルジュさん。コレットはわたしの身代わりになって……」
か細い声を震わせて、リュシエンヌはドレスの膝を握り締めた。ゆっくりとセルジュを見上げた翡翠の瞳が大きく見開かれる。
険しかったセルジュの顔にふと薄笑いが浮かんでいた。
王太子の婚約者であるリュシエンヌの身の安全を何よりも優先し、確保する。
実にコレットらしい――先代より以前から国王に仕えるマイヤール辺境伯家の跡取り娘らしい判断だ。
そして、そんな彼女を護るために、かつてのセルジュは騎士を目指した。
ガタリと椅子が音を立てる。
勢いよく席を立つと、セルジュは真っ直ぐにリュシエンヌに向きあって、その言葉を口にした。
「お任せください。コレットは――コレットも、公爵夫妻も使用人の皆も、必ず無事に助け出してみせます」
幼き日の騎士の誓いを胸に、腰に携えた剣の柄を握る。
扉のそばで、ロランがくすりと笑った気がした。
リュシエンヌと向かい合う席に座っていたのは、ジゼルと呼ばれていた涅色の髪の少女だった。
両手で拳を握り締め、ぎりと奥歯を噛み締めると、セルジュはリュシエンヌの前に跪き、掠れた声を絞り出した。
「……どういうことか、説明していただけますか」
開きっぱなしの扉の前に、灰色の瞳を見開いて立ち尽くすロランが見える。
ゆっくりとうなずいてセルジュに向き直ると、リュシエンヌはぴんと背筋を伸ばし、ひとつひとつ記憶を辿るように言葉を紡いだ。
「一昨日の朝、父も母も屋敷の使用人も、遠方からの来客を迎える準備で大忙しでした。わたしもコレットも階上の使用人を手伝って、ホールや客室に花を飾る予定でした。わたしは朝食を終えて、動きやすいドレスに着替えるために部屋に向かいました。ちょうどそのとき階下が騒がしくて、わたしが不審に思っていると、コレットが代わりに確認しに行ってくれたんです。わたしは二階の踊り場で、ジゼルと一緒にコレットが戻るのを待っていました。そうしたら、コレットが階段を駆け上がってきて……」
そこまで話して大きく息を吸うと、リュシエンヌは膝の上で両手をきゅっと握り合わせた。
「わたしは驚いて、コレットに何があったのか訊ねました。彼女はわたしの問いに答えず、強引にわたしとジゼルの手を取って、わたしの部屋にジゼルとわたしを押し込みました。それから躊躇いなく使用人服を脱いで、すぐに着替えるようにと脱いだ服をわたしに手渡したんです。何がなんだかわからなくて、わたしには彼女に言われたとおり、使用人服に着替えました。
そうしているあいだに、階下の騒ぎは落ち着いたようでした。けれどそれも束の間、今度は扉を蹴破るような荒々しい音がホールのほうから徐々に近付いてきたのです」
セルジュが苦々しく唇を噛む。
その後の展開は想像に難くなかった。
リュシエンヌら三人は、部屋に押し入った革命軍に捕らえられた。その際、コレットは自らを公爵令嬢リュシエンヌと偽り、リュシエンヌの身代わりになったのだろう。
革命軍の主導者はテレジア人だとロランが言っていた。テレジア語を扱うコレットは革命軍に交渉を持ちかけ、彼らと同じテレジアの難民だったジゼルと、その友人であるもうひとりの侍女としてリュシエンヌの解放を求めた。そして交渉の結果、公爵令嬢リュシエンヌの望みは承諾され、ふたりの侍女は解放されたのだ。
「ごめんなさい、セルジュさん。コレットはわたしの身代わりになって……」
か細い声を震わせて、リュシエンヌはドレスの膝を握り締めた。ゆっくりとセルジュを見上げた翡翠の瞳が大きく見開かれる。
険しかったセルジュの顔にふと薄笑いが浮かんでいた。
王太子の婚約者であるリュシエンヌの身の安全を何よりも優先し、確保する。
実にコレットらしい――先代より以前から国王に仕えるマイヤール辺境伯家の跡取り娘らしい判断だ。
そして、そんな彼女を護るために、かつてのセルジュは騎士を目指した。
ガタリと椅子が音を立てる。
勢いよく席を立つと、セルジュは真っ直ぐにリュシエンヌに向きあって、その言葉を口にした。
「お任せください。コレットは――コレットも、公爵夫妻も使用人の皆も、必ず無事に助け出してみせます」
幼き日の騎士の誓いを胸に、腰に携えた剣の柄を握る。
扉のそばで、ロランがくすりと笑った気がした。
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