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第17話 宴の夜
④
***
コレットを連れて部屋に戻ると、セルジュは燭台の蝋燭に明かりを灯し、向かい合うように置かれたソファのひとつにコレットを座らせて、もうひとつのソファにどさりと腰を落ち着けた。
強引にワインを勧めながら、夜会での出来事を意気揚々とコレットに報告する。セルジュが問題なくフランセットとダンスを踊り、晩餐に招かれたこと知ると、コレットは自分のことのように喜びはしゃいだ声をあげた。
「すごいじゃないですか! わたしとの訓練の賜物ですね!」
「馬鹿を言え。俺の実力だろう」
「ええー、そこは素直に感謝するところでしょう?」
ぷうっと頬を膨らませるコレットを見て、声をあげて笑ってしまう。女性恐怖症が治ったことも、これで証明できたと言えるだろう。
あとはこのままコレットと――友人のままでいられるならば、それでいい。
そう遠くない別れのときが、刻々と近付いていた。
じくじくと抉られるような胸の痛みをひた隠すように、セルジュはその後もコレットに夜会で見聞きしたことを事細かに話して聞かせた。
コレットはセルジュの話に耳を傾けて、終始楽しそうに笑っていた。
セルジュが粗方話を終えた頃には、すこしワインに酔ってしまったようで。コレットはほんのりと頬を赤く染めて、手にしたワイングラスを覗き込んで、ぽつりぽつりと呟いた。
「そっかぁ……セルジュさんがそのご令嬢と上手くいったら、わたしも……」
さみしそうにそう零すと、そのまま黙りこくってしまった。
置き時計の秒針が、カチ、カチと一定のリズムで時を刻む。
長く続いた沈黙に耐えきれず、何か気の利いた話題をと口を開きかけて。セルジュはぎょっとした。
コレットの膝に置かれた小さな手の甲に、白いエプロンに、透明な雫がぽろぽろと溢れ落ちては滲みをつくる。
セルジュは慌てて席を立ち、コレットの前に跪いた。
「どうした? どこか痛むのか?」
「え……あれ? わたし、どうして……」
濡れた手のひらを見下ろして、呆然と呟いて。未だ溢れ続ける涙を袖で拭うと、コレットは身を翻して扉に向かって駆け出した。
「ごめんなさい。わたし、部屋に戻りますね」
振り返ることなくそう言って、ドアノブに手を掛ける。すぐさま追い付いたセルジュの手が、コレットの細い手首を握り締めた。
「コレット、待て! どうして泣く?」
「なんでもないです、大丈夫ですから……」
「そうは見えない。本当に大丈夫なら顔をあげて見せてみろ」
セルジュは身を屈め、掴んだ手首を引き寄せて、強引にコレットの顔を覗き込んだ。
いつもはくりくりと愛らしいコレットのつぶらな瞳が、涙でくしゃくしゃに歪んでいた。ふるふると首を振り、顔を伏せて、コレットは必死にセルジュから逃れようと踠いていた。
胸の奥が、ずきりと痛む。
「泣くな、コレット。泣くな……」
涙に濡れたコレットの頬に手のひらでそっと触れて。
セルジュは懇願するように「泣くな、泣くな」と繰り返した。
コレットの揺れる瞳がセルジュを映す。
鼻先が触れ合う距離でみつめあって。
唇が、重なった。
コレットを連れて部屋に戻ると、セルジュは燭台の蝋燭に明かりを灯し、向かい合うように置かれたソファのひとつにコレットを座らせて、もうひとつのソファにどさりと腰を落ち着けた。
強引にワインを勧めながら、夜会での出来事を意気揚々とコレットに報告する。セルジュが問題なくフランセットとダンスを踊り、晩餐に招かれたこと知ると、コレットは自分のことのように喜びはしゃいだ声をあげた。
「すごいじゃないですか! わたしとの訓練の賜物ですね!」
「馬鹿を言え。俺の実力だろう」
「ええー、そこは素直に感謝するところでしょう?」
ぷうっと頬を膨らませるコレットを見て、声をあげて笑ってしまう。女性恐怖症が治ったことも、これで証明できたと言えるだろう。
あとはこのままコレットと――友人のままでいられるならば、それでいい。
そう遠くない別れのときが、刻々と近付いていた。
じくじくと抉られるような胸の痛みをひた隠すように、セルジュはその後もコレットに夜会で見聞きしたことを事細かに話して聞かせた。
コレットはセルジュの話に耳を傾けて、終始楽しそうに笑っていた。
セルジュが粗方話を終えた頃には、すこしワインに酔ってしまったようで。コレットはほんのりと頬を赤く染めて、手にしたワイングラスを覗き込んで、ぽつりぽつりと呟いた。
「そっかぁ……セルジュさんがそのご令嬢と上手くいったら、わたしも……」
さみしそうにそう零すと、そのまま黙りこくってしまった。
置き時計の秒針が、カチ、カチと一定のリズムで時を刻む。
長く続いた沈黙に耐えきれず、何か気の利いた話題をと口を開きかけて。セルジュはぎょっとした。
コレットの膝に置かれた小さな手の甲に、白いエプロンに、透明な雫がぽろぽろと溢れ落ちては滲みをつくる。
セルジュは慌てて席を立ち、コレットの前に跪いた。
「どうした? どこか痛むのか?」
「え……あれ? わたし、どうして……」
濡れた手のひらを見下ろして、呆然と呟いて。未だ溢れ続ける涙を袖で拭うと、コレットは身を翻して扉に向かって駆け出した。
「ごめんなさい。わたし、部屋に戻りますね」
振り返ることなくそう言って、ドアノブに手を掛ける。すぐさま追い付いたセルジュの手が、コレットの細い手首を握り締めた。
「コレット、待て! どうして泣く?」
「なんでもないです、大丈夫ですから……」
「そうは見えない。本当に大丈夫なら顔をあげて見せてみろ」
セルジュは身を屈め、掴んだ手首を引き寄せて、強引にコレットの顔を覗き込んだ。
いつもはくりくりと愛らしいコレットのつぶらな瞳が、涙でくしゃくしゃに歪んでいた。ふるふると首を振り、顔を伏せて、コレットは必死にセルジュから逃れようと踠いていた。
胸の奥が、ずきりと痛む。
「泣くな、コレット。泣くな……」
涙に濡れたコレットの頬に手のひらでそっと触れて。
セルジュは懇願するように「泣くな、泣くな」と繰り返した。
コレットの揺れる瞳がセルジュを映す。
鼻先が触れ合う距離でみつめあって。
唇が、重なった。
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