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第19話 夢から醒めて
①
――身体が重い。
柔らかな毛布の中で、セルジュはのそりと寝返りをうった。
騎士を目指しはじめた頃、初めて父に厳しいトレーニングを受けた日の翌朝のように両腕両脚が重い。無理に身を屈めでもしたのか、背骨や腰が酷く軋んでいた。
ほのかに残るこのあまい香りは、年代物のワインのものだっただろうか。とても心地よい、いつまでも包まれていたいような優しい香りだ。
開ききらない目蓋を一度硬く瞑ると、セルジュはぐっと全身にちからを込めて仰向けに寝転がり、赤褐色の眼を見開いた。
天蓋に覆われた見慣れない天井。
背中を受け止める感触も、騎士団宿舎の自室にあるベッドのものとは似ても似つかない。
ぼんやりと眼を瞬いて、はっと息を飲んだ。
触れ合った肌の柔らかな感触を、優しいぬくもりを、手のひらが、唇が、全身がまだ覚えていた。
続いて呼び覚まされた股間に絡みつく感覚に、ぞくりと背筋が震えてしまう。
さすがに三度も射精したあとでは朝勃ちもしなかったが、ここにきて、セルジュはようやくすべてをはっきりと思い出すことができた。
「コレット……」
愛おしむように名前を呼ぶ。
ゆっくりと左右を確認したが、ベッドの上にコレットはいない。
のそのそと身を起こして天蓋を開け放ち、ぐるりと室内を見回してみても、広い客間のどこにもコレットの姿は見当たらなかった。
また性懲りもなく淫夢をみたのだろうか。
そう考えてはみたものの、セルジュは全裸で寝たりしない。脱ぎ捨てたはずの礼服の上着がソファの背に掛けてあり、サイドテーブルにシャツやズボンが畳んで置かれていることから、昨夜のあの出来事が現実だったことをはっきりと確信できた。
シーツに広がる波を打つ亜麻色の髪と、ベッドの上で激しくしなる白い肢体を思い出し、慌てて首を振る。両手で顔を覆い隠し、セルジュは大きく息を吐いた。
夢にまでみていたコレットとの一夜だ。
興奮が抑えきれず、やや乱暴に抱いてしまった気がする。
身体もドレスも汗と唾液と白濁で汚してしまったし、繋がったあそこも――。
そこまで考えて、セルジュははっとした。
すぐさまベッドを飛び降りて、勢いよく毛布を剥ぐ。あらわになった寝台は、血と汗と精液でべったりと汚れていた。
さっと顔が青褪める。おそるおそる視線を下げれば、くたりと項垂れた己の股間も乾いた血と粘液にまみれ、酷い有り様だった。
ベッドの縁に腰を下ろし、セルジュは考えた。
コレットが心配だ。日常的に厳しいトレーニングをこなしているセルジュでも身体が軋むくらいなのだから、あの華奢な身体ではかなりの負担だったはずだ。ベッドの惨状を省みるに、傷だって相当ひどい。
女性だから見目を気にして、無理をして身を清めたり着替えたりしているのだろうか。
気掛かりではあったけれど、セルジュは結局、コレットが部屋に戻るのを待つことにした。
礼服のズボンを穿き、シャツに腕を通して。時計の長針が半周するほど待っても、コレットは戻らなかった。
夜明け前の薄闇に染まっていた東の空が澄んだ青に色を変えたころ、ようやく部屋の扉がノックされた。
顔をあげ、逸る気持ちで扉を開く。
部屋の前でセルジュを見上げていたのは、真っ白なシーツを抱えた見覚えのある涅色の髪の使用人だった。
コレットに頼まれてきたのだろうか。
彼女はぺこりと頭を下げると、セルジュの横をすり抜けるようにして部屋に入り、てきぱきと汚れたシーツを取り変えて、乱れたベッドを整えた。
「ジゼル……だったな。コレットがどこにいるか、教えてくれないか?」
扉の前に立ったままセルジュが問うと、ジゼルは黙ってセルジュを振り返り、困ったように小首を傾げた。彼女はテレジア人だから、セルジュの言葉がわからないのだろう。
腕を組んで困り果てるセルジュをよそに部屋の隅々まで綺麗に片付けると、ジゼルは窓辺に向かい、大きく窓を開け放った。
セルジュははじめ、ジゼルは換気のために窓を開いたのだと思っていた。
しかし、彼女はそれ以上部屋の片付けをするでもなく、かといって退室するでもなく、窓辺に立ったままちらちらとセルジュと窓の外の様子を窺っていた。
その不自然な行動の意味に気がついたとき、セルジュは弾かれるように窓辺に駆け寄った。
グランセル公爵邸の前庭に、黒塗りの馬車が停まっていた。
荷台に次々と荷物を積み上げていく身なりの良い男に、落ち着いた深緑のドレスで着飾った女性が手荷物を渡している。
つばの広い帽子を被っていて、顔も髪の色さえも確認できないというのに、セルジュにはそれが誰だか一目でわかってしまった。
礼服の上着を羽織り、放たれた矢の如く部屋を飛び出すと、セルジュは全力で廊下を駆け出した。
柔らかな毛布の中で、セルジュはのそりと寝返りをうった。
騎士を目指しはじめた頃、初めて父に厳しいトレーニングを受けた日の翌朝のように両腕両脚が重い。無理に身を屈めでもしたのか、背骨や腰が酷く軋んでいた。
ほのかに残るこのあまい香りは、年代物のワインのものだっただろうか。とても心地よい、いつまでも包まれていたいような優しい香りだ。
開ききらない目蓋を一度硬く瞑ると、セルジュはぐっと全身にちからを込めて仰向けに寝転がり、赤褐色の眼を見開いた。
天蓋に覆われた見慣れない天井。
背中を受け止める感触も、騎士団宿舎の自室にあるベッドのものとは似ても似つかない。
ぼんやりと眼を瞬いて、はっと息を飲んだ。
触れ合った肌の柔らかな感触を、優しいぬくもりを、手のひらが、唇が、全身がまだ覚えていた。
続いて呼び覚まされた股間に絡みつく感覚に、ぞくりと背筋が震えてしまう。
さすがに三度も射精したあとでは朝勃ちもしなかったが、ここにきて、セルジュはようやくすべてをはっきりと思い出すことができた。
「コレット……」
愛おしむように名前を呼ぶ。
ゆっくりと左右を確認したが、ベッドの上にコレットはいない。
のそのそと身を起こして天蓋を開け放ち、ぐるりと室内を見回してみても、広い客間のどこにもコレットの姿は見当たらなかった。
また性懲りもなく淫夢をみたのだろうか。
そう考えてはみたものの、セルジュは全裸で寝たりしない。脱ぎ捨てたはずの礼服の上着がソファの背に掛けてあり、サイドテーブルにシャツやズボンが畳んで置かれていることから、昨夜のあの出来事が現実だったことをはっきりと確信できた。
シーツに広がる波を打つ亜麻色の髪と、ベッドの上で激しくしなる白い肢体を思い出し、慌てて首を振る。両手で顔を覆い隠し、セルジュは大きく息を吐いた。
夢にまでみていたコレットとの一夜だ。
興奮が抑えきれず、やや乱暴に抱いてしまった気がする。
身体もドレスも汗と唾液と白濁で汚してしまったし、繋がったあそこも――。
そこまで考えて、セルジュははっとした。
すぐさまベッドを飛び降りて、勢いよく毛布を剥ぐ。あらわになった寝台は、血と汗と精液でべったりと汚れていた。
さっと顔が青褪める。おそるおそる視線を下げれば、くたりと項垂れた己の股間も乾いた血と粘液にまみれ、酷い有り様だった。
ベッドの縁に腰を下ろし、セルジュは考えた。
コレットが心配だ。日常的に厳しいトレーニングをこなしているセルジュでも身体が軋むくらいなのだから、あの華奢な身体ではかなりの負担だったはずだ。ベッドの惨状を省みるに、傷だって相当ひどい。
女性だから見目を気にして、無理をして身を清めたり着替えたりしているのだろうか。
気掛かりではあったけれど、セルジュは結局、コレットが部屋に戻るのを待つことにした。
礼服のズボンを穿き、シャツに腕を通して。時計の長針が半周するほど待っても、コレットは戻らなかった。
夜明け前の薄闇に染まっていた東の空が澄んだ青に色を変えたころ、ようやく部屋の扉がノックされた。
顔をあげ、逸る気持ちで扉を開く。
部屋の前でセルジュを見上げていたのは、真っ白なシーツを抱えた見覚えのある涅色の髪の使用人だった。
コレットに頼まれてきたのだろうか。
彼女はぺこりと頭を下げると、セルジュの横をすり抜けるようにして部屋に入り、てきぱきと汚れたシーツを取り変えて、乱れたベッドを整えた。
「ジゼル……だったな。コレットがどこにいるか、教えてくれないか?」
扉の前に立ったままセルジュが問うと、ジゼルは黙ってセルジュを振り返り、困ったように小首を傾げた。彼女はテレジア人だから、セルジュの言葉がわからないのだろう。
腕を組んで困り果てるセルジュをよそに部屋の隅々まで綺麗に片付けると、ジゼルは窓辺に向かい、大きく窓を開け放った。
セルジュははじめ、ジゼルは換気のために窓を開いたのだと思っていた。
しかし、彼女はそれ以上部屋の片付けをするでもなく、かといって退室するでもなく、窓辺に立ったままちらちらとセルジュと窓の外の様子を窺っていた。
その不自然な行動の意味に気がついたとき、セルジュは弾かれるように窓辺に駆け寄った。
グランセル公爵邸の前庭に、黒塗りの馬車が停まっていた。
荷台に次々と荷物を積み上げていく身なりの良い男に、落ち着いた深緑のドレスで着飾った女性が手荷物を渡している。
つばの広い帽子を被っていて、顔も髪の色さえも確認できないというのに、セルジュにはそれが誰だか一目でわかってしまった。
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