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後日談 マイヤール辺境伯家の婿入り事情
②
***
「頼む! 挿れさせてくれ!」
天蓋に覆われたふわふわのベッドの上で両手をついて、顔を伏せて、セルジュが懇願する。
背中が滑稽に丸まっているのは、股間の逸物が邪魔をして身体を真っ直ぐに伏せられないからだろう。長い禁欲生活を強いられたセルジュの逸物は、恐ろしいほどに太く長く、鉄塊のようにがちがちに硬くなって、さながら棍棒のようだ。どう猛な獣か拷問器具と化した肉棒を見せ付けられて、コレットは涙目になって首を振った。
「む、無理です! そんな規格外のもの突っ込まれたら別の意味で昇天しちゃいます!」
「大袈裟な……この前だって大丈夫だったじゃないか」
「全ッ然大丈夫じゃなかったです! 一日中身動ぐだけで痛かったし、血もなかなか止まらないしで散々だったんですから……」
おまけにセルジュに求婚された翌日、コレットは朝から高熱まで患ったのだ。急な告白から現実を見つめなおすために色々なことを考えすぎて知恵熱でも出たのかとも考えたけれど、アレはおそらく傷口から細菌でも入ってしまったのだ。きっとそうに違いない。
そう考えたらますます怖くなってきて、コレットは両腕を抱きかかえてぶるりと身を震わせた。
「そ、そうだったのか……すまん、平気そうにしてたから全く気がつかなかった」
顔を上げ、セルジュはわずかに狼狽する。それから少し考え込む素振りを見せて、彼は困ったように呟いた。
「いや、しかし……慣れれば気持ちよくなるものじゃないのか……?」
「慣れるって、それまで何回あんな痛い思いしなきゃいけないんですか?」
コレットがすかさずジロリと睨めつけると、セルジュは言葉を詰まらせて、
「ぐっ……だが、お前とできないなら俺はどうしたら……」
そう呟いて、がっくりと肩を落として項垂れた。
「そんな、この世の終わりみたいな顔しなくても……」
「この世の終わりだろう。好きな女に絶対抱かれたくないと言われてるんだぞ」
「そこまでは言ってませんけど……でも、騎士団にいたときだって、何年もそういうことしなくても大丈夫だったんでしょう?」
「やる気がないのとできないのは違う」
落ち込むセルジュの肩にコレットがそっと触れると、セルジュはふたたび顔を上げ、捨てられた仔犬のように憐れな瞳でコレットをみつめた。
後ろめたい思いが膨らんで、コレットの胸をきゅうっと締め付ける。
コレットだってセルジュが好きだ。
こうしてセルジュと触れ合える日を、ずっとずっと心待ちにしてきたし、元はと言えば、今夜は一緒に寝ようと誘ったのもコレットのほうだった。ただ、そこには性的な欲望のようなものなど微塵もなくて、デュランの王城で暮らしていたときに夜の訓練でそうしたように、手を繋いで抱き締めて、一晩中そばにいられれば、それで充分だと思っていた。
とはいえ、コレットだって子供ではない。健康な若い男であるセルジュが、長いあいだ抑圧され続けてきた性欲を持て余していることくらいは理解できていたつもりだった。実際、先刻までは互いに触れ合ったり舐め合ったりと、普段なら考えられないような大胆なこともしていたのだ。
でも、いざ挿入となってしまったら。燃えるように熱いセルジュの男根を膣口にあてがわれたら、あのときの激しい痛みが瞬時に思い出されてしまって。怖くて我慢できなくて、気が付いたときには声をあげて泣き出してしまっていたのだ。
夫婦になるのであれば、ふたりが愛し合うためには避けられない行為だとは百も承知の上だ。けれど、一度あれほどの――股を引き裂かれるような激痛を味わってしまった後では、どうしても尻込みしてしまうのを止められない。
「……わたしにだって、心の準備が必要なんです」
消え入りそうな声で呟いて、セルジュの節くれだった指先を握る。しばらく無言でみつめ合うと、セルジュはふうっと溜め息を吐き、おもむろにベッドを立った。柔らかなガウンに腕をとおしながら、落ち着いた低音を口にする。
「わかった。無理を言ってすまなかった」
そう言って、セルジュはぎこちなく口角を上げた。
「セルジュさん、怒ってる……?」
「怒るわけないだろう。ただ、一緒に寝るのはやめておく。正直言って我慢できる自信がない」
コレットの亜麻色の頭をぽんと撫でると、セルジュはもう一度、今度は穏やかに微笑んで、ちょっぴり寂しそうにコレットの寝室を出て行った。
「頼む! 挿れさせてくれ!」
天蓋に覆われたふわふわのベッドの上で両手をついて、顔を伏せて、セルジュが懇願する。
背中が滑稽に丸まっているのは、股間の逸物が邪魔をして身体を真っ直ぐに伏せられないからだろう。長い禁欲生活を強いられたセルジュの逸物は、恐ろしいほどに太く長く、鉄塊のようにがちがちに硬くなって、さながら棍棒のようだ。どう猛な獣か拷問器具と化した肉棒を見せ付けられて、コレットは涙目になって首を振った。
「む、無理です! そんな規格外のもの突っ込まれたら別の意味で昇天しちゃいます!」
「大袈裟な……この前だって大丈夫だったじゃないか」
「全ッ然大丈夫じゃなかったです! 一日中身動ぐだけで痛かったし、血もなかなか止まらないしで散々だったんですから……」
おまけにセルジュに求婚された翌日、コレットは朝から高熱まで患ったのだ。急な告白から現実を見つめなおすために色々なことを考えすぎて知恵熱でも出たのかとも考えたけれど、アレはおそらく傷口から細菌でも入ってしまったのだ。きっとそうに違いない。
そう考えたらますます怖くなってきて、コレットは両腕を抱きかかえてぶるりと身を震わせた。
「そ、そうだったのか……すまん、平気そうにしてたから全く気がつかなかった」
顔を上げ、セルジュはわずかに狼狽する。それから少し考え込む素振りを見せて、彼は困ったように呟いた。
「いや、しかし……慣れれば気持ちよくなるものじゃないのか……?」
「慣れるって、それまで何回あんな痛い思いしなきゃいけないんですか?」
コレットがすかさずジロリと睨めつけると、セルジュは言葉を詰まらせて、
「ぐっ……だが、お前とできないなら俺はどうしたら……」
そう呟いて、がっくりと肩を落として項垂れた。
「そんな、この世の終わりみたいな顔しなくても……」
「この世の終わりだろう。好きな女に絶対抱かれたくないと言われてるんだぞ」
「そこまでは言ってませんけど……でも、騎士団にいたときだって、何年もそういうことしなくても大丈夫だったんでしょう?」
「やる気がないのとできないのは違う」
落ち込むセルジュの肩にコレットがそっと触れると、セルジュはふたたび顔を上げ、捨てられた仔犬のように憐れな瞳でコレットをみつめた。
後ろめたい思いが膨らんで、コレットの胸をきゅうっと締め付ける。
コレットだってセルジュが好きだ。
こうしてセルジュと触れ合える日を、ずっとずっと心待ちにしてきたし、元はと言えば、今夜は一緒に寝ようと誘ったのもコレットのほうだった。ただ、そこには性的な欲望のようなものなど微塵もなくて、デュランの王城で暮らしていたときに夜の訓練でそうしたように、手を繋いで抱き締めて、一晩中そばにいられれば、それで充分だと思っていた。
とはいえ、コレットだって子供ではない。健康な若い男であるセルジュが、長いあいだ抑圧され続けてきた性欲を持て余していることくらいは理解できていたつもりだった。実際、先刻までは互いに触れ合ったり舐め合ったりと、普段なら考えられないような大胆なこともしていたのだ。
でも、いざ挿入となってしまったら。燃えるように熱いセルジュの男根を膣口にあてがわれたら、あのときの激しい痛みが瞬時に思い出されてしまって。怖くて我慢できなくて、気が付いたときには声をあげて泣き出してしまっていたのだ。
夫婦になるのであれば、ふたりが愛し合うためには避けられない行為だとは百も承知の上だ。けれど、一度あれほどの――股を引き裂かれるような激痛を味わってしまった後では、どうしても尻込みしてしまうのを止められない。
「……わたしにだって、心の準備が必要なんです」
消え入りそうな声で呟いて、セルジュの節くれだった指先を握る。しばらく無言でみつめ合うと、セルジュはふうっと溜め息を吐き、おもむろにベッドを立った。柔らかなガウンに腕をとおしながら、落ち着いた低音を口にする。
「わかった。無理を言ってすまなかった」
そう言って、セルジュはぎこちなく口角を上げた。
「セルジュさん、怒ってる……?」
「怒るわけないだろう。ただ、一緒に寝るのはやめておく。正直言って我慢できる自信がない」
コレットの亜麻色の頭をぽんと撫でると、セルジュはもう一度、今度は穏やかに微笑んで、ちょっぴり寂しそうにコレットの寝室を出て行った。
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