魔女見習いのロッテ

柴咲もも

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第8話 さよなら、わたしの初恋の人

3※

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 二度目のキスは、優しく啄ばむようなものだった。柔らかな感触を確かめ合うように、互いの唇をあまく食んだ。
 三度目のキスは息もできないほど性急で、呼吸もままならないのに必死につま先立って、縋り付くのをやめられなかった。
 止まない口付けに意識が呑まれ、荒げた吐息だけが耳元を掠めていく。ロッテはもう、何も考えられなくなっていた。
 身体がぐいと抱き上げられて、足先が宙に浮く。赤銅色の彼の髪の向こうで、通路にぶら下がった案内板が次々に通り過ぎていった。ゲオルグは重々しい靴音を響かせながら本棚のあいだを突っ切ると、壁際に置かれたデスクの上にロッテを降ろした。
「ゲオルグさん……?」
 ほんのわずか解放された唇で吐息混じりに名前を呼べば、彼は蕩けるような笑顔を見せて、ロッテの唇をまた塞いだ。頬を撫でた大きな手のひらが、首筋をなぞり、ブラウス越しに肩を撫でる。背中を、脇腹を辿り、ロッテの小振りな乳房を包み込んだ。
 指先をやわやわと動かしながら、彼は親指の腹でまだ柔らかい胸の頂きを何度も撫でた。徐々にしこりを帯びた頂きがブラウスの薄布越しに存在を主張すると、彼はその先端を爪の先で弾くように掻いた。
「あっ……ん……」
 唇から漏れたあまやかな声が、薄暗い図書館に響く。彼に胸の先を弾かれるたびに、ロッテはぴくりと肩を震わせた。焦らすような快感がもどかしくて、もっともっとと身体が刺激を求めてしまう。

 我ながら酷過ぎると思っていた。誰もいないからって、図書館でこんなことをするなんて、不謹慎で非常識だ。
 けれど、ロッテはもう、身体の内から込み上げる衝動を抑えることができなかった。今、目の前にいる誰よりも愛おしいひとに、触れられたいと思う気持ちを止められない。
 貪るようなキスに紛れてブラウスのボタンがぷつぷつと外されていく。温かな手のひらがブラウスの内側に滑り込んだ。けれど、その手が直に乳房に触れると、ロッテは咄嗟に後退り、胸元を庇うように身を屈めた。
 ゲオルグが眼をまるくして、首を傾げる。
「どうした?」
「ち、ちいさいから……恥ずかしぃ……」
 ロッテが真っ赤になって呟くと、ゲオルグは「今さら」と笑い、ブラウスの胸元を掻き集めるロッテの手をそっと退かした。肌蹴たブラウスの隙間から、ふたたび手のひらが滑り込む。小振りな乳房をやわやわと揉まれながら、ロッテは熱い吐息を漏らした。

 しばらくのあいだゲオルグは片手で机についたロッテの手を軽く押さえ、もう一方の手で片側の乳房を弄んでいた。ロッテが逃げ出すわけでもなく与えられる刺激に身悶えていると、彼はロッテの手を放し、もう一方の乳房も同様に弄びはじめた。
 ふたつのまるい膨らみを両手で軽く持ち上げてみたり、挟み込むようにして寄せてみたり。パッと手を放すと同時にぷるんと震えるのが堪らないらしく、ぷっくりと熟した桃色の先端を二本の指で捏ね続ける彼の瞳は、欲に溺れた雄の獣そのものだった。みつめられれば下腹部の奥のほうが余計に疼きを訴えて、ロッテは無意識に膝を立て、太腿を擦り合わせた。
 スカートの裾が持ち上がり、白い下肢があらわになる。ゲオルグが視線をちらりと動かして、ごくりと喉を鳴らした気がした。
「はっ……あ、んっ……はぁ……」
 ロッテは目を閉じて、必死に彼の愛撫を受け止めていた。火照った身体は燃えるように熱く、白い肌に珠のような汗がいくつも浮かんでいる。ロッテが一度身震いすると、汗がひと粒線を引いて、小振りな乳房のあいだを、白い腹部のうえを流れ落ちた。
 彼の大きな手のひらが、ロッテの太腿を持ち上げる。
「えっ、ちょっ……ゲオルグさん!?」
 ロッテはぱっと目を見開いて、ゲオルグの顔を仰ぎ見た。熱を帯びた黒曜石の瞳が食い入るように一点をみつめている。視線の先を目で追うと、湿った白い薄布越しに、ロッテの淫部が薄っすらと透けていた。
「やっ……!」
 短い声をあげ、ロッテは太腿ごと膝を伏せようとした。けれどもやはり、ゲオルグの手はびくともしない。しっかりと太腿を固定したまま、彼は指先でロッテの下着を横にずらした。
 綺麗なピンク色の女性器が露わになって、彼の唇から熱い吐息が漏れる。太くて長い指の先が、くちゅりと湿った音を立て、ロッテはびくんと腰を浮かせた。
「……だめっ……図書館ここじゃ、やっ、ぁんっ」
 ちゅく、ちゅく、と蜜が掻き混ぜられる。つうっと秘裂をなぞりあげた指先が、包皮に隠された蕾に触れて。痺れるような刺激に身体の奥が酷く疼いて、ロッテはあまやかな嬌声を図書館の静寂に響かせた。
「ひぁっ……!」
「どこが好いって……?」
 耳元で、彼があまく囁いた。
 ——どこがいい……? どこなら良い?
 快感の波に呑まれゆく意識のなかで、舌足らずなロッテの声が彼の問いに答えた。
「ぁ……へやっ……わたしの……部屋、れ……」
「この状態で王宮の中を歩き回れって……?」
 ゲオルグが吐息混じりに苦笑する。見ると、厚い布越しにでもはっきりとわかるほどに、ゲオルグの雄がズボンの前を突き上げて存在を主張していた。
「……ぁ……だってぇ……」
 口では抵抗しようとするものの、太い指に濡れた秘裂を掻き混ぜられてしまっては、襲い来る身体の疼きを止められるはずもなかった。ロッテは押し寄せる快感に身悶えながらゲオルグの身体に腕を伸ばした。
「や、ゲオルグさ……っも、いやぁ……っ!」
 忙しなく金属が擦れる音がして、ゲオルグが軽く身を捩る。続けざまに、熱い塊がロッテの中心に押し付けられた。
 ゲオルグは蕩けきった表情のロッテを見下ろすと、そそり勃った熱杭をそのままひと息にロッテの最奥まで押し込んだ。
「んっ……んん————ッ!!」
 突き抜けるような快感が全身を震わせる。ロッテは声にならない嬌声をあげ、びくりと背を仰け反らせた。圧倒的質量を持った熱の塊に、ロッテの内側がきゅうきゅうと絡みつく。爪先がぴんと突っ張って、太腿からふくらはぎまでがぴくぴくと痙攣した。
「痛かったら言え……!」
 唸るように告げると、ゲオルグはロッテの太腿を抱き上げて、ゆるゆると腰を動かしはじめた。
 身体が前後に揺さぶられる。律動的な抽送に合わせて腹の奥が掻き乱される。必死の思いで意識の糸をかき集め、ロッテはぶんぶんと首を横に振った。
 痛いところなんてまったくない。奥を突かれるのも、好いところを掻かれるのも、膣内をかき混ぜられるのも、ひたすらに気持ちがいいだけだ。
「あっ……は……ゲオルグさ……ぁんっ、あッ……!」
「ロッテ……ロッテ……!」
 ガタガタと机が揺れる。打ち付ける腰の勢いが強く激しくなっていく。ロッテはゲオルグに縋り付き、ぽろぽろと涙をこぼしながら乱れ喘いだ。
 噎せ返るような熱気と彼の匂いに全身が包まれている。快感がすぎて、もう何も考えられない。唇がまた、熱い吐息に覆われた。
「んっ、ふっ……んむっ……」
 舌先が絡み合い、唾液が溢れ、口の端から筋を引いてこぼれ落ちた。下も上も塞がれて、朦朧とする意識のなかで、ふたたび突き抜けるような快感に襲われる。
「ん、んん——ッ!」

 意識が真っ白に弾けて消えた。
 熱い楔が引き抜かれ、ロッテの白い下腹部に灼熱の飛沫が飛び散った。白濁が太腿を濡らし、ぽたぽたと床にこぼれ落ちていく。
 ロッテがくたりと目を閉じると、ゲオルグの逞しい腕がロッテの身体をちから強く抱き寄せた。


***


 心臓が、まだばくばくと踊っていた。
 ロッテはうっとり目を閉じて、ゲオルグの鍛え抜かれた身体にぴったりと身を寄せた。肌蹴たブラウスから露わになった乳房が、シャツの胸元を寛げた彼の胸板に吸いつくようで、直接伝わるぬくもりがどうしようもなく愛おしい。
 ゲオルグはまだ肩で息をしていて、ときおり思い出したようにロッテの髪を撫でている。まるで仔犬や仔猫にでもなったみたいで、心がちょっぴりくすぐったくて。幸せな気分で目を開けると、乱れた着衣と白濁に濡れた自分の身体が目に入った。
 そうだった。気持ちよすぎて忘れてしまっていたけれど、結局、ゲオルグは図書館でロッテを抱いたのだ。ロッテはちゃんと「部屋に戻りたい」と言ったのに。
 ロッテがぷうっと頬を膨らませてゲオルグの胸筋を指でつねると、ゲオルグは「痛ッ」と声を漏らし、眉を顰めてロッテを見た。
「ゲオルグさん、最低……」
「……すまん。だいぶお預けを食らっていたから気持ちが昂ぶってしまって……抑えられなかった」
「わたし、次にこういうことするときは、ちゃんとベッドの上でって思ってたのに……」
 ロッテは唇を尖らせて、ゲオルグを上目遣いに睨め付けた。途端にゲオルグの頬が緩む。
「悪かった。だが、初めてのときに比べれば痛くなかっただろう?」
 そう言うと、ゲオルグはロッテをぐいと抱き寄せた。
 二度目ということもあってか、確かにさきの行為では、ロッテが痛みを感じることはほとんどなかった。代わりに快感が強すぎて、馬鹿みたいに乱れ喘いでしまったけれど。
 そんなことを考えて、ロッテはふと琥珀の眼を瞬かせた。
だから……?」
「好い嬌声こえも出ていたし」
「ゲオルグさんっ!」
 閃いて、ロッテはぱっと顔をあげた。ゲオルグの肩がびくりと跳ねる。彼は酷く慌てた様子で降参したかのように両手を挙げた。
「す、すまん! 調子にのった」
「そうじゃなくて……!」

 ——どうしてすぐに気づかなかったんだろう。答えはずっと、目の前にあったのに。
 リーゼロッテは始めから答えを示してくれていた。あの媚薬のレシピには、きちんと意味があったのだ。エリクシアの霊薬を調薬すること——それこそが、エッケハイドを討つための唯一の方法だったのだ。

「抗体です! エッケハイドはウイルス性の病気だから、一度病から回復出来れば血液内に抗体が産生される可能性が高いんです!」
 シャルロッテがエリクシアの霊薬で回復するよりも以前、エッケハイドは確実に死に至る病だった。今までに回復した患者がいなかったから、抗体を採取することもできなかった。けれど、今は違う。
「エリクシアの霊薬でシャルロッテ様は病から回復しました。シャルロッテ様の血液にはエッケハイドの抗体が産生されているかもしれません」
 ロッテが説明を終えると、ゲオルグはすぐさま身を起こし、シャツの襟元を素早く正した。それからロッテを振り返り、
「すぐに殿下にお伝えしよう。お前は出掛ける準備を……」
そこまで口にして、改めてロッテと周辺の状態を確認する。不謹慎で非常識な現状を思い出し、ロッテは「あ……」と呟きを漏らした。頬を赤く染めたまま互いに顔を見合わせて、ふたりはそそくさと着衣の乱れを整えた。
「……先に後始末を、だな」
 ゲオルグが気不味そうに呟くから。
 ロッテは顔を俯かせたまま、こくりと小さく頷いた。

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