むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華

文字の大きさ
5 / 50
第一章 寝言の強制力で結婚しました

溺愛されすぎてとろけます

しおりを挟む

「んんっ……」

 薄らとした光の中、私は目を覚ます。
 と同時に目に飛び込んできた光景に、私はひゅうっと息を呑んだ。

「んん……セレン」
 目の前にはシリウスの美しい寝顔。
 少しはだけたガウンから細身にもかかわらずしっかりと鍛え上げられた筋肉が見える。

 まつ毛長っ!!
 何この筋肉!!
 肌も綺麗で整って髪だってサラサラの直毛型……!!
 これが美の女神に愛されし男の寝顔だというのか……!!

 そういえば、シリウスは私の寝顔を見飽きるほど見ていても、私がシリウスの寝顔を見るのは初めてだわ。
 小さい頃からシリウスはきっちりしていて、一緒にお昼寝をしたりお泊りで一緒に寝た時も早起きだったから……。

 まさか大人になってからシリウスと同衾することになるだなんて考えたことなかった。

 昨夜は初夜はしないで眠ってしまったけれど、いずれはすることになるのだろう。
 結婚してしまったからには子を生《な》すことは大切な義務。
 だけど……その相手が私で、本当にいいのかしら。

 3年間。
 3年間白い結婚を通せば、私たちはお互いに瑕疵なく離縁することができる。
 さすがに私が結婚相手では釣り合いが取れなさ過ぎて申し訳ないし、3年を待って離縁することも折を見て話してみよう。
 
 シリウスだって、好きな人がいたかもしれないし。
 うん、早速今夜、ちゃんと話をしましょう。

「あんまりじっと見られると抱きしめたくなっちゃうけど、それで良い?」
「!?」
 シリウスの寝顔を見つめながら思考を巡らせているうちに、彼の綺麗な薄水色の瞳がとろんと開かれ、私の視線と交わる。

 だ、だだ、抱きしめたくなっちゃうって!?
 そんなことされたら私、幸せすぎて深い眠りにつくわ……!!

「い、いつから起きてたの!?」
「ん? さっき。誰かに見られてる気配がするなぁって意識ははっきりしたんだけど、すぐセレンだってわかったからそのまま好きにさせてた。何してくれるかな、って」
「何もしませんっっ!!」
「そう? 残念」

 からかうようにして目を細めるも、私から視線を外すことのないシリウス。
 少しばかりかすれて気だるげな声が色っぽい。
 昔にはなかったはずの寝起きの色気に、思わず全身が熱くなる。

 落ち着いてセレンシア。
 シリウスに私とどうこうなるなんていう気はないんだから、変にときめいても後で落ち込むだけよ。
 私は3年間、己の欲望に勝ち続けてみせる……!!

「どうしたの? あぁでも、これからずっとセレンの寝起きを楽しむ機会があるのか……嬉しいね」
「私の寝起きなんて見慣れてるでしょうに」
 いつもどこかしらで睡魔が襲ってきて、だいたいシリウスが私を叩き起こすんだから。

「ソファやベンチでのうたた寝の寝起きと、ベッドで一緒に眠ったあとの寝起きでは全然違うんだよ。どっちも可愛いのは間違いないけどね」
「~~~~っ」

 タラシだ!!
 タラシがいる!!
 一体これまでどれだけの人の寝起きをベッドで見てきたのか……。
 私なんかとは違って色っぽい女性ばかりだったんだろうなぁ……。
 シリウスは大人っぽいし、そんな大人な女性とのあれこれはさぞ絵になるのだろう。私と違って。

 …あぁ、なんだか急激に、釣り合いもしないくせに変な力で強制的にシリウスの妻の座に収まってしまった自分が惨めに思えてきた。

「ん?   セレン、どうしたの?」
 黙り込んだ私をシリウスが覗き込む。

「な、なんでもないわ!!」
「そう?   ならそろそろ支度をして広間で朝食にしよう。あぁでも、その前に──っ!?」
 そう言ってのっそり起き上がったシリウスは、自然な流れで私の額に軽く口付けた。
 生暖かい感触が額に触れると同時に、彼はとろけるように微笑んだ。

「おはよう、私の可愛い奥さん」
「~~~~~~っ、お……はよう、ございます」

 これがこれから3年間毎日続くだなんて……。
 私、何日生きてられるかしら……。

 ***

「んっ、おいしいっ!!   やっぱりシリウスのおうちのごはんはいつも素晴らしいわ!!」
「……」

 ほかほかのコーンスープに新鮮なサラダ。
 サラダにかけるドレッシングがまた美味しくて、いくらでもサラダをおかわりしてしまいそうになる。

 メインのパンもフワフワでほんのり暖かく、バターとの相性も抜群だ。
 それに小皿に載った果物が瑞々しくキラキラと光って、見ているだけで気分が高揚する。
 ハート型のチョコプレートがさりげなく添えられているのもまた乙女心を刺激する要因の一つだ。

 カルバン公爵家の料理長レゼロは料理の中のさりげないところに気遣いや遊び心を入れてくれるうえ、どの料理も最高においしい。
 そんなレゼロの素晴らしい料理に、私は幼い頃からずっと虜になっている。
 はぁ……幸せ……。

「ポプリ、レゼロによろしく言っておいてね」
「はい、レゼロも喜びますわ」
 侍女のポプリが目尻の皺を濃くして微笑むと、私たちに一礼してから食器を載せてきたワゴンをもって部屋を後にした。

 ポプリは昔からこのカルバン公爵家で働いているベテラン侍女だ。
 幼馴染の私も昔からよくお世話になっているし、彼女のふんわりとした空気が私は大好きだ。

 今回の結婚も、涙を浮かべて喜んでくれたのも彼女で、私はそれを見て少しだけ胸が痛んだ。
 これが本当の、愛し愛された末の結婚であるならば良かったのに、と思ってしまったから。
 それでもこの屋敷でお世話になる間、私は精一杯妻として子を生す以外の役割は果たしたい。それがポプリたちへのせめてもの償いだ。

「……」
「し、シリウス?」
 何やら目の前から視線を感じて顔を上げてみれば、むっすりとした顔で私を見つめるシリウスと目が合った。

 何なの? 私、何か怒らせるようなことした?
 まさか料理がおいしいからってがっつきすぎた!?
 公爵夫人たるものおしとやかに大人しく食べなきゃいけないとか!?

 私がパンを千切る手を止めて固まっていると、シリウスが無表情のまま私に手招きをした。

 こっちにこい、ってこと?
 ……怖い。でも行かなきゃもっと怖い!!
 行くしか……ない……!!

 私はゆっくりと立ち上がって机を挟んで向こう側に座るシリウスの方へ足を進める。
 そしてシリウスの前まで来たところで──「ひゃっ!?」──私の身体は軽々と持ち上げられ、シリウスの膝の上へと降ろされた。
 キスしそうなほど近くにシリウスの端整な顔。

「し、シリウス!?」
「捕まえた」
 耳元で囁くように響く色気を孕んだ低音ボイスに、全身を言いようのない感覚が駆け巡る。

「ねぇセレン。シリウスのおうち、じゃないからね」
「え?」
「もうここは、セレンのおうち、でもあるんだから。そこのところちゃんと理解するように」

 まさかむっすりしてたのって、さっき私が「シリウスのおうち」って言ったから!?
 そんなに気にするところだったのかしら。
 だけど……私のおうちでもある、か。
 胸にチクリとした痛みと共に、温かいものが広がるのを感じる。

「うん。わ、わかったわ。わかったから降ろし──」
「だーめ」
「へ? ひゃぁっ!?」

 シリウスはそのまま私を横抱きにすると、さっきまで私が座っていた椅子へ移動し、再び私を自分の膝に座らせた。
 そしていたずらっぽさの中に色気を含ませた笑顔を向けると、シリウスは千切りかけのパンをひとかけら千切ってから、それを私の口に押し当てる。

「このまま。食べさせてあげる」
「ひっ……」

 全ての朝食をシリウスの手ずから食べさせてもらい終えてからようやく彼の膝の上から解放されたころには、私は羞恥心で一人ではまっすぐ立てないほどに力が抜けていた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

冷淡姫の恋心

玉響なつめ
恋愛
冷淡姫、そうあだ名される貴族令嬢のイリアネと、平民の生まれだがその実力から貴族家の養子になったアリオスは縁あって婚約した。 そんな二人にアリオスと同じように才能を見込まれて貴族家の養子になったというマリアンナの存在が加わり、一見仲良く過ごす彼らだが次第に貴族たちの慣習や矜持に翻弄される。 我慢すれば済む、それは本当に? 貴族らしくある、そればかりに目を向けていない? 不器用な二人と、そんな二人を振り回す周囲の人々が織りなすなんでもない日常。 ※カクヨム・小説家になろう・Talesにも載せています

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

処理中です...