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第三章 寝言の強制力とその真実
私の大切な妻だ‼
しおりを挟む「さぁ!! 挨拶はここまでにして、今宵は存分に楽しんでくれ!!」
陛下の宣言で、パーティは始まった。
優美なる音楽が音楽隊によって奏でられ始め、これからいよいよ人々がそれぞれの楽しみに動きだす。
国王陛下も玉座に座り、これで私もお役御免かとほっと胸をなでおろしたその時だった。
「セレン!!」
会場に響き渡ったのは、私が大好きな人の焦ったような声。
「!! シリウス!?」
前に進み出たのは、眉間に皺をぐぐっと寄せたうちの夫(仮)。
え、何?
何でそんな人を殺しそうな顔をしているの? この人。
戸惑う私たちをよそに、シリウスはずいずいとこちらに足を進め、そして私とトマス、王太子殿下の前で足を止めた。
「殿下、どういうつもりですか? セレンを勝手にパーティに連れ出したうえ、別の男のパートナーにするだなんて」
「…………へ?」
勝手に?
え、シリウスの了承は得ているって言ってなかった?
ちらりと殿下を見上げると、殿下は悪びれることなくにっこりと笑った。
「シリウスに言ったら、絶対に却下するだろうと思ってね。君たち喧嘩しているみたいだったし、ちょうどいいかなって」
「なっ!? シリウスの許可、取っていなかったんですか!?」
「ははは、うん、ごめんごめん」
全く気にするそぶりもなく形だけの謝罪の言葉を繰り出す殿下に、どっと全身の力が抜けていく。
「とにかく、うちのセレンは返してもらいます」
そうはっきりと言い放ったシリウスに強く手を引かれると、私は彼の腕の中へとすっぽりと納まってしまった。
久しぶりに感じるシリウスのぬくもり。
柑橘系の匂い。
硬い胸板の感触。
それらが全部心地良く感じて、私はシリウスの全部を取り入れるかのように大きく息を吸い込んだ。
「トマス」
「は、はい」
「君の研究のおかげで、色々なものが紐解かれるだろう。感謝する。我がカルバン公爵家も、君の研究に敬意を表し、この保護法に最大限の助力をさせていただくことを誓おう。これからの研究にも期待している」
「は、はいっ!! ありがとうございます!!」
淡々とそう言ったシリウスの表情からは、彼の心の奥まで見ることができない。
だけど、少なくとも良い感情だけでないことはわかる。
それからシリウスは、会場の人々へとその鋭い視線を向けた。
「この場を借りて、皆様にご報告させていただく!! 私は、セレンシア・ピエラを妻に迎えました。これは私の幼い頃からの悲願であり、彼女こそが、私が長年求め、恋焦がれ続けた唯一の存在です。いろいろと邪推する者、セレンを貶めるような発言を繰り返す者がいるが、それは私とセレンだけでなく、このカルバン公爵家とピエラ伯爵家への侮辱ととらえます。それをお忘れなきよう。もし私の大切な妻を傷つけるものがいるのならば──私は民を守るための剣を抜いてしまうかもしれませんので、ご承知ください。それでは、私はセレンと二人で帰らせていただきますので、これにて失礼」
それだけ一気にまくし立てるようにシリウスが言うと、私の身体がふわりと浮遊し、途端にシリウスの顔が近づいた。
お……お姫様抱っこ……!!
ざわめきの中を、愛する人に抱きかかえられたまま進んでいく。
するど大きなため息とともに、美しく着飾った大輪の花が背後で動いた。
「まったく……!! ならば、私がトマス様の付き添いをさせていただきましょう。セレンシア様、カルバン公爵令息様、このお代は高くてよ?」
そう声を上げたのは、メイリー様だった。
シリウスはそれに足を止めて振り返ると、
「感謝する。この礼は後日必ず」
そう言って、再び足を進めた。
私、あんなに怒っていたのに。
あんなに悲しんでいたのに。
今はただ、シリウスのぬくもりが愛おしい。
これまで公の場でも、シリウスは私に対してあんな風に言ってくれたことはなかった。
いつだってシリウスは、私の傍には居ても、素っ気ない態度だった。
嫌いなら傍に居なかったら良いのに。
何度もそう思った。
それなのにシリウスは、私の傍に居続けた。
ねぇシリウス。
私は、さっきの言葉を信じてもいい?
心からの言葉だって。
本当に私を想ってくれているって、信じてもいいの?
混乱する頭の中、私はシリウスのぬくもりを感じながら、会場を後にするのだった。
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