みなしご こばと

こせ きっか

文字の大きさ
1 / 1

みなしごこばと

しおりを挟む
   ぎふの山あいに、小さな村がありました。村のはずれの小高いところに古びたお社があって、大きなケヤキが一本そびえておりました。
   このお社の屋根うらで、二羽のハトの子が生まれました。
   ある日、おかあさんバトは、この二羽をつれて下の畑まで出かけました。きょうは、子どもたちに空をとぶれんしゅうをさせようと思ったのです。
   ポウポウ、ポッポポウ。おかあさんバトは、こう一声なくと、さっと巣からとびたちました。二羽の子バトも、そのあとを追いました。
   下の畑につくと、おかあさんバトは畑の竹垣にとまって、ふわっと中空へまいあがりました。子バトたちもそれを見て、ふわっと上にとびたちました。
   ところが、そのときやにわに一陣の山風がふいたので、子バトは二羽とも、ふらふらっと畑の土にまいおちてしまいました。
   エノキの枝にとまったおかあさんバトは、しきりにポウポウと子バトによびかけます。すると、気をとりなおしたのか、二羽の子バトが中空めがけてまいあがりました。
   ようやくのこと、おかあさんバトのとまっているそばの枝にたどりつくと、すぐに、おかあさんバトはさらに上空へまいあがり、この木の上をぐるぐるとせんかいしはじめました。クッククウ、クルッククウ。二羽の子バトもすぐにおかあさんバトのまねをして、ぐるぐるとまわりました。
   そのようすを見て、安心したのか、おかあさんバトは、お社の大ケヤキ目掛けて羽ばたきました。子バトたちも、負けじと、けんめいに羽をうごかしましたが、そこへまた、むじょうの山風が子バト目掛けておそいかかりましたから、たまらず、二羽の子バトは下へ落ちていきました。
   そんなことも知らず、おかあさんバトはお社を指してとんでいってしまいました。

   子バトたちはどうなったでしょう。
   子バトが落ちたところは、ちょうど農家の庭先でした。農家をぐるっとめぐって、八重垣がつくられ、その八重垣のやぶの中に子バトは落ちたので、さいわい、けがはありませんでした。二羽の子バトは、その八重垣の中にかくれるようにすわりこんで、おかあさんバトの帰りをまちました。
   ところがそのころ、おかあさんバトはとんでもない目にあっていたのです。そうなんです。おかあさんバトは、子バトが自分 についてきたものと思いこんでいたので、ひっしに子バトをよびましたが、へんじがありません。おかあさんバトは、それでも、木の上、木の下、屋根の上、屋根の下と、子バトをさがしまわりましたが、子バトのすがたはありません。なおもさがしているまに、山の向こうに日は落ちて、あたりはくらくなってきます。
   おかあさんバトは、よほど気がどうてんしていたのでしょう。日ごろ、あれほど、あぶないから行ってはいけないと子バトに言いきかせていた、お社のうら手の森の方角へ、みずから身をはこんで行ったのです。そして、そこに待ちかまえるキツネにくわれてしまったのです。
   そんなことも知らず、二羽の子バトはひたすらおかあさんバトを待ちつづけました。二度も空から落ちて、自信をなくしてしまったうえに、あたりがこんなにくらくなってしまっては、子バトはとぶことさえできません。じっと、やぶの中でおかあさんバトを待ちつづけました。

   ようやくのこと、長い夜が明けました。
  チュン、チュン、チュク、チュン。
「けさも、いい天気だ。どれ、おちぼでもさがしに行こか。」
と、スズメのチュン太が、なやからとびだしたとき、どこかでかすかに、ポウ、ポウとなく、よわよわしいハトの声がしました。
「はれれっ、木の上じゃなく、やぶの中でハトがうめいでいるぞい。」
   チュン太はふしぎに思って、声のするほうへ行ってみました。すると、なんてことでしょう。二羽の子バトがやぶの中で、いかにも心ぼそげに親をよんでるじゃありませんか。
「おい、おい。きみたち、そんなところで、かくれんぼかい。」
   チュン太は、子バトに話しかけました。
   ところが、子バトは返事をしません。そうなんです。スズメはスズメ語、ハトはハト語を話すので、つうじないのです。
   そんなばかな、ハトもスズメも同じ鳥じゃないかと、きみたちは思うかも知れません。しかし、これはほんとの話なんです。同じ地の中にいたって、オケラとミミズは話がつうじない。コオロギとトノサマバッタだって、カワニナとタニシだって話がつうじないのです。これは、神さまがきめたことだから、どうしようもないじじつなのです。
   チュン太は、よわりきってしまいました。だって、こんなところにいつまでもぐずぐずしていたら、いまに、キツネやイタチにくわれてしまうと思ったからです。
   チュン太は、自分のおなかがすいてることもわすれて、いそいで、ねぐらにひきかえしました。
「ねえちゃん、ねえちゃん。」
   チュン太は、まだ、ねどこでゆめを見ていた、あねのスズ子をおこしました。
   話をきいたスズ子も、とっさの思案はうかびません。おかあさんスズメにそうだんしました。
「そうかい。そしたら、いい考えがあるさね。」
    さすがは、おかあさんスズメ。ちえがちがいます。
「この家の、坊のハトぶえな、あれをこっそりかりうけて、そのふえで、やぶの中から子バトをよびこむんだ。」
「ふうん、そいつはいい。ところで、そのふえは、だれがとってくるんだい。おかあちゃん。」
「そいつは、そうさね。ボロニャンにたのむしかないさね。」

   ボロニャン。このネコのすごさは、近在で知らないものとてない。どれほどすごいかと言うと、まず、何年生きてきたのかだれも知らない。ヒトのことばばかりか、ほかの生きもの、たとえばイヌだろうが魚だろうが、鳥だろうが、毛虫だろうが、なんでもわかる。だけど、そのふうていはボロくて、みんなからボロニャンとよばれている、気のいいチョーのうりょくネコなのである。(ドラえもんではありません。)
   チュン太とスズ子の話をきいたボロニャンは、「わかった。」と一声だけ言いました。
   もちろん、スズメ語です。ただ、スズメのようなかわいい声ではありません。だから、そう。ボロニャンが子バトにハト語でよびかけてもダメなのは、そういうわけなんです。どうしても、ハトぶえがなければだめなんです。

「ポッポウ、ポッポポウ。」
   屋根の上でふく、ボロニャンのハトぶえにさそわれて、二羽の子バトは、空を見上げました。
「あっ、おかあちゃんだ。おかあちゃんが、ぼくたちをよんでいる。」
   二羽の子バトは、さっと、やぶからとびたちました。
「おかあちゃん、おかあちゃん、どこにいるの。」
   そうですね。おかあさんバトは、もうこの世のものではなかったんですね。でも、だいじょうぶ。とぶことさえできれば、この子バトは生きていけるんです。
   さあ、みんなで、この二羽の子バトのしあわせを、いのりましょう。
                        (おしまい)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...