令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介

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最終回 さらば、セイラシア

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子供とは、これほどに愛おしいものなのか。
ブルムフルト王国を皮切りに、俺は俺の子供を生んでくれた女性たちの元を訪ねた。
シスター、村娘、未亡人、冒険者の女たち、ギルドの女性職員、貴族や王族の子女も。
我ながら無節操と思うけれど多くの女性と交わってきた。
念のため言うけれど治療の代価として女体を要求したことは一度もないぞ。
無理やりというのも絶対にない。

武と魔法、闘気術に秀で、魔力や闘気を豊富に有する男の子種により生まれる子供は障害もなく、頑丈で夭折もしない健康体、かつ父親の魔力か闘気を継承して生まれる可能性が大ということをセイラシアの女性たちは本能的に知っている。だから俺に対して何の情が無くても抱かれることを望むのだ。
俺は女性が好きだし、若い体なのだから毎晩女性を抱きたいと思うので来る者は拒まずだった。つい最近まで素人童貞だった俺は上手い断り方も知らないからね。

いくつかの村と町を経て、東大陸で最後に滞在したコムギ村に行った。盗賊団『破壊槌』を打ち破ったのも、つい昨日のようだ。
村の未亡人すべてと交わった俺、全員が子供を生んでいた。地域全体で子供を育てるという意識があるセイラシアという世界。俺が訪れた時は本当に村人全員で俺の子供を育てていた。
俺が抱いた未亡人たちは母親となり本当に嬉しそうに我が子を抱いていた。俺まで幸せな気持ちになっていく。なんて可愛いのだろう。シスターたちが生んだ子供たちにも思ったけれど、自分の子供とはこれほどに可愛らしいものか。愛おしいものかと思う。


南大陸へと移動して、同じく俺の子供たちに会いに行った。サウスレッド王国を始めに、大陸各地にある町や村、そして魔大陸へと出発したディアラバ王国、俺の子供たちは神殿や地域の人々に愛され、育てられていた。
何というか…父親の俺の出番が全くないほどに。ホッとするやら悲しいやら。

俺の子供たち、すべてに会ってきた。みんな愛おしい。
だけど、俺がいるべき世界はもうセイラシアじゃない。令和日本と決めている。
結局、俺はこの世界で異端な存在だ。
しかし、多くの女性たちと交わり種を残せた。それで十分だ。令和日本に戻ったら、もうゲートを消してしまい、セイラシアは戻らない

だけど、セイラシアを去る前にやらなければならないことがある。
魔王アグリッサは言った。『人間の国に侵攻するとしても、それはトシの死後。たかだか五十年なのだから』

「俺がもうセイラシアに存在しないと分かれば明日にでも侵攻を開始するかもしれないし、セイラシアで俺が天寿を全うしたとしても孫の代に侵攻を受ける…」
なあ、アグリッサ…。俺には君の言う通り英雄願望などない。世界のために魔王を倒すという義侠心もありはしない。まったく話したこともないというのに、よくそこまで一人の人間の性根を見破れるものだ。
「だけどな…。俺は父親なんだ。子や孫を守るためなら…戦う!」

俺は魔大陸へと飛んでいった。数日かけて魔大陸の陸影を捉えた。スキル『地図』を使うと魔大陸のほぼ中央に大きな城があるのが分かった。あれがアグリッサ居城のエビルパレスなのだろう。
のっけから彼女に襲いかかるつもりはない。彼女に侵略の意図があるのか確かめてからだ。本当に俺の死後に侵攻開始をするつもりなら…討つしかない。

飛行可能な魔物が俺の前に立ちふさがりだした。
「あれはドラゴンか…。初めて見た…」
プテラノドンのような恐竜、魔物化した巨大な鷹が襲い掛かってくる。
「アグリッサと話し合いがしたいだけだが…そうも言っていられないか」

「通せ」

魔王アグリッサの声だった。魔物たちが動きを止めて道を開けた。姿かたちが見えず思念だけ飛ばしただけだろうに俺の頭と腹にも響く威厳に溢れる声だった。

結局俺は何の妨害も受けずに魔王アグリッサの居城であるエビルパレスに到着した。
そのまま城に入るも門番は完全に俺を無視、魔王様が『通せ』と言った以上は勝手に入れということか。

長い廊下を歩く。本当に魔物が襲ってこない。何十もの魔物と単身で戦う覚悟だったのに。
魔王の間に着いた。重厚な扉を開くと、部屋の奥の玉座にアグリッサがいた。護衛はいない。一人だけだ。
「何用か」
「単刀直入に訊ねる。俺はもうこのセイラシアから去って元の世界に帰る。君は以前に侵攻を開始するなら俺の死後だと言っていた。俺が消えたら侵攻を開始するのか?」
返答によっては戦闘開始だが、アグリッサは呆れるようにため息をつき
「阿呆か、おぬしは」
「え?」
「たとえいま私が侵攻はしないと言っても、おぬしはそれを手放しで信じられるのか」
「…確かに裏を取れることじゃない。約定を交わしたとしても俺はこの世界にいないのだから…君の言葉を信じるしかないのが現状だ」
「また侵攻を開始するとしても、いつになるか分からん。こっちにも色々と都合もある」
「……」

「だが、おぬしは面白いスキルを身に付けておるのう」
「スキル?」
「『閨房』だ。魔族でそのスキルを持つ者はおらぬ。『孕め』と念じて射精すれば、たとえ不妊の女でも確実に妊娠する奇跡のスキル」
「確かに今まで『孕め』と念じて胎内に射精した女性は全員妊娠した。しかしこれは人間の女性の話だが」
「魔族の女にも有効だ。ましておぬしの闘気と魔力は桁外れの量、一日に何十人の女と交わっても涼しい顔をしているであろう。そして生まれる子供は頑丈であることが保証されておる。魔族は人間より圧倒的に繁殖力が劣る。ここまで言えば分かるであろうが、私を含め、魔族と魔人の女たちに子種を授けよ。肌を合わせた男の頼みなら聞いてやりたくもなる。人間側が魔大陸に攻めて来ぬ限り戦わぬ。追い返しはするが、こちらから侵攻はしない。これでどうか?」
「…俺が一方的に得していないか?話が上手すぎるぞ」
「そうか?ならば私はよほどの取引上手のようだ。私の方こそ一方的に得をしていると思っておる」
「俺はセイラシアの全人種の女性を抱いたけれど、生まれる子供は母親の人種、それは魔族も同じなのか?」
そう、俺はセイラシアの全人種の女性と性行為をしている。同じ黄色を始め、黒人、白人、茶色と、とにかく全人種だ。
だが地球と異なるのはハーフが存在せず必ず母親の人種になる。理由は今も分からないしセイラシアでは問題にもなっていない。女体の神秘ということで俺は納得している。
「その通りだ。魔人を抱いたことは?」
「ない。魔人とは?」
「サキュバス、アルラウネ、アマゾネス、ハーピーなどだ」
令和日本のラノベなら『亜人』と呼ばれている人型の魔物ということか。
「魔族と魔人の未亡人、その他おぬしの種を望む者を相手にせよ。しばらく帰れぬが、よいか」
「…分かった。ではアグリッサ、君から」
「ふむ、では浴室に案内しよう」
(シゲさん…。アンタの娘を抱くことになっちゃったよ…)

実年齢を訊くのが恐ろしいが、おそらくは俺のひい婆さんより長く生きているんだろうな。
しかし肢体の何たる美しさか。抱いたことのない薄い水色の肌、最初は勃起するかも心配だったけれど杞憂だった。
濃密な前戯をすると、さっきまでの威厳が欠片も無くなり歓喜の叫びをあげた。貫くと下から抱き着いてきた。抜けない、いや抜かれると嫌だから抱き着いてきたのか。
激しく腰を使うとアグリッサは絶頂に達し、同時に俺も『孕め』と念じて射精した。
というか、アグリッサ滅茶苦茶名器なんだけれど。これ男を狂わせる蜜壺、まさに傾国級だよ。
なんで今までこれで処女だったのかな。
「足らぬ、もっとだ、もっと私を貫いてくれ」
「当たり前だ。一発で済むものか」


さらに恐ろしい事実を知る。魔族の女は妊娠してから平均三ヶ月で子供を生み、魔人の女は二ヶ月で生む。セイラシアの人間の女と同じく出産のリスク皆無という恵まれた体、何人でも子供は欲しがるし、仲間意識は人間より高いので生まれた子供は種族全員で育てるという気持ちもある。
サキュバスを始め、魔人たちとのセックスも最高だった。本当に俺一人が一方的に得をしている感じだ。いいのか、これと思うものの俺の子種を求める魔族と魔人の女はひっきりなしに城内に設けられた俺の寝室へとやってくるのだ。

気が付けば五年、俺は魔大陸で種馬生活を送り続け、アグリッサは十人以上俺の子供を生んだ。我ながら、よく堕落しなかったと思う。酒は飲まなかったし、魔族の武人たちと手合わせをして鍛錬にも励んだからだな。
ちなみに俺の闘気『万病治癒』は魔族や魔人にも効いた。ずいぶんと感謝されたよ。
相容れない人間と魔族だが…俺は魔族の歴史始まって以来、魔族の救世主となった人間となったのだ。これを皮切りに融和の道を互いに歩んでくれたらよいが。

魔王の間、玉座でアグリッサが先日生んだ我が子を愛しそうに抱いていた。もう十人以上生んでいるというのに。
「可愛いか」
「そりゃあもう、食べちゃいたいくらいだ」
「初対面の時には想像もしていなかったな。君のそんな顔は」
「母親になったからのう。トシよ」
「ん?」
傍らにいた乳母に赤子を預けたアグリッサ、俺に
「短命な人間に五年もの時間を使わせたこと、すまなく思う。もう明日から自由にいたせ。他の魔族と魔人の女たちも了承しておる。おぬしは私たちに多くの子供を与えてくれたうえ、病に倒れた同胞たちも治してくれた。心より誓おう、おぬしがこのセイラシアを去ったあと、けして人間の国に侵略はせぬと」
アグリッサは俺に書簡を渡した。不戦の誓いを記したものだ。人間に攻め込まれた場合は迎撃するが、人間の国々に魔族からは侵攻しないと。魔力が込められた『魔書』と呼ばれる紙に記された誓いを違えればアグリッサは死ぬことになる。魔王軍主なる幹部も連名している。
「アグリッサ…」
「父のゼインに感謝せねばなるまい…。父がトシをセイラシアに連れてきたおかげで魔族と魔人に多くの子供が得られたのだから…」
「……」
「東と南の大陸には、おぬしの子供がたくさんいるそうだな。それゆえ…長じたおぬしの息子たちがこの魔大陸に寄せて来ないよう祈るばかりだ。それに至れば記した通り戦うしかないからのう…」
「そうだな…。俺もそれを願うしかない」
「明日に発つがよい。だから今宵、伽をせよ」
「分かった」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

翌朝、俺はアグリッサを始め、魔族と魔人の女たちに見送られて魔大陸から飛び立った。
五年…。俺は改めて東大陸と南大陸を周り、俺の子供たちを遠くから見つめた。多くの女性から子種を求められるという男として理想的なことだが、その代償として父親になることは出来ない。夫にもなれない。
かつて肌を合わせた女性たちが立派なお母さんになっていて、子供たちは元気いっぱい。それを見られただけで十分だ。もう会うこともないけれど健やかに成長してほしい。そして君たちを生んだお母さんを大切に、と思う。

ブルムフルト王国王都に立ち寄り、ハイゼル教の教皇と国王様に謁見した。
魔王アグリッサを始め、多くの魔族と魔人の女たちと交わり、子を成したのは伏せた。
アグリッサが発給した書簡はそんなことを話す必要もないほどに効果絶大なものだ。
魔王自身と幹部たちが自分の命をもって不戦の誓いを立てていること。この書簡を持ち帰っただけでもセイラシアの歴史に残るほどの偉大な功績だそうだ。
魔族は東西南北すべての大陸にある国家に不戦を約束。
『人間が魔大陸に寄せない限り攻撃はしない。魔族から侵略はしない』
教皇と国王様は魔族の不戦の誓いをセイラシア全体に通達することを約束してくれた。俺はこの貢献と徳行により僧正に僧階が上がった。セイラシアの歴史上で最年少の僧正だ。

さらに俺はまだ訪れていなかった北大陸と西大陸へと渡り、大自然の美観を巡った。
背中に『ハイゼル教信徒諸国漫遊中』の幟を立てて、のんびりと。
冠雪した大山脈、地平線まで広がる花園、透き通る湖、大河、清流、大瀑布、海、大樹、地球でも海外に行ったことのない俺はセイラシア各地にある絶景の数々を見て回った。
そして立ち寄った町や国では人々の病と怪我を僧正として治し、その地の男たちと酒を酌み交わし、美女を愛でる。子種が欲しいと言われれば応じた。
セイラシアの東西南北すべての大陸に俺の子供がいるな。

さらに五年経ち、魔大陸にいた時を合わせれば、俺は何だかんだとセイラシアに十年も滞在した。
これで終わりだ。俺の異世界冒険記は。
始まりの地である草原に転移で戻ってきた。ゲートの魔法陣を書き換える。これからゲートをくぐったら、もうセイラシアとの行き来は出来ないように。
もう戻るつもりはない。令和日本で再び二十一歳の篠永和樹として俺は生きていく。
異世界、時間が経過しないという条件があるにしても、俺がセイラシアで女性たちを抱いたのは浮気…。でも、これで終わりだ。俺はこのあとの人生、香澄だけを愛する。
元々俺はシゲさんに出会えなければ素人童貞のまま孤独死したんだ。若返ったうえ、美人の嫁さんがいる、それがどれだけ幸せなことか。もうハーレムなんて必要ない。

ゲートをくぐった。振り向いて物置の扉を『魔王ゼイン』と言って開けても、そこは普通の物置、工具や洗車用品が置いてあるだけ。安心するやら、少し残念やら。
セイラシアで十年以上過ごした俺は三十か三十一歳になっていたけれど二十一歳の体に戻っていた。日付はセイラシアに向かった時のままだ。

「ええと、確か香澄は仕事で…今日は都内に泊りだったよな」
十年、時差ボケしそうな長い時間ではあるが、ゲートをくぐり再び二十一歳になると肉体だけではなく記憶と感覚も元に戻るので問題なし。異世界セイラシアで過ごした十年間の経験が俺に宿るだけだ。
「明日はステプリのコミュ収録か…。さて、歯ァ磨いて寝るとしますか」

スマホを見れば、明日は俺も都内に行くので『現地で合流して食事とエッチをしよう』と香澄からLINEが届いていた。好きですからね、俺のお嫁さんは俺とのエッチが。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

翌朝、朝食を済ませると俺は出勤だ。バス停まで歩いていく。三島から東京への通勤はしんどい時もあるけれど、やはり富士山と駿河湾に送られながら向かうのは何物にも代えがたいな。
三島駅に着いて新幹線で東京へ。コミュのセリフはすでに渡されている。セイラシアで十年過ごしているうちに忘れてしまったが、読み返すと『言語理解』『芝居』のスキルで全く問題はない。
タブレットPCの音楽アプリを起動させて楽曲づくり。すぐに勘を取り戻す。なんというか新幹線の中が一番はかどるんだよな…。

東京駅に着いて、香澄と合流、早々にラブホテルへ行ってエッチしました。
我が愛妻のロリ巨乳たまりません。
セイラシアの女性たちも素晴らしいけれど、やはり令和日本で俺のお嫁さんになってくれた香澄は一番愛おしいな。

情事後、遅めのランチを香澄と食べていると
「和樹、私と同じダンスチームのKEIとMIOを知っているよね」
「ん、そりゃあアイレボのライブで二度も共演すれば顔と名前は覚えるよ。話したことないけど」
どうして、いちいちローマ字の芸名にするのかと思うけれど、女には色々とあるのだろう。
しかし美味いな、ハンバーグランチ、ご飯大盛で良かったよ。
「今まで言っていなくてごめん、地下アイドル時代の私に嫌がらせされたと慰謝料請求してきたの、この二人なの」
「えっ、そらビックリだ。ダンスチームであんなに仲良くしているのに?」
「うん、ようやく彼女たちへの慰謝料を完済した時、二人は私の部屋に来て全額を返してきた。『やっぱり、これ受け取れない』って。それどころか嬢になるまで追い詰めてごめんなさいとわんわん泣いてね」
「ほう…。中々できることじゃないぞ、それ」
「何を今さらと思ったけれど、出会った時は円陣組んで『絶対にラクシュミー33の正規メンバーになろう!』と誓ったこともあったから許したの。それに…私も言い過ぎたことは否めないもの。お互い様ってことで」
「若い時は色々あるからな。そうして一度仲がこじれたからこそ、より強い絆にもなったと言えるんじゃないか」
「私もそう思う。それで和解してから一緒にダンスやるようになり、今の事務所に三人で拾われて今に至るってわけ」

「ふむ、それで俺に香澄を含めた、その三人ユニットの曲を作って欲しいと」
「……」
「どうした?」
「…アンタ、エスパーか何か?」
「いや、普通分かるだろう。この話の流れなら」
「そんなもん?」
「そんなもんだよ」
「お願いしていい?」
「『歌ってみた』『踊ってみた』どっちで動画配信やるんだ?」
「両方に決まっているじゃない。私たち今はダンサーだけど元はアイドルグループなんだもの。歌って踊るわ」
どうやら篠永和樹としても嫁の夢のため奔走することになりそうだ。
「分かった。近いうちKEIさんとMIOさんにも会って歌のコンセプトについて話し合いたいと伝えといてくれ」
「OK!あ、もちろん演奏もお願いね」
「いいよ。ああ、那由多プロには俺から報告するから香澄も自分の事務所に報告忘れるなよ」
「うん、ありがとう和樹。大好きだよ」


<エピローグ>

元地下アイドルの三人組ユニット『TRY△ANGLE』は俺の楽曲を歌って踊り、瞬く間に動画配信サイト『アイパイプ』を経て大人気ユニットとなり、さらにユズリィとリナチも加わり『QUINTET☆STAR』を結成、ネットだけではなく大きな会場でライブを開催するまでに至る。かつて香澄たちの上位にいた『ラクシュミー33』の正規グループさえ圧倒するほどのトップスターへと。
叶えてやれなかった梨穂の夢、何だかそれを香澄が叶えてくれたようで嬉しかった。

『QUINTET☆STAR』は活動期間三年を経て解散、互いがそれぞれの道へと歩んでいった。香澄は歌手とダンサーからすっぱりと身を引いて専業主婦へと。
俺もこのころになると声優だけじゃなくラジオで何本か外国語講座の番組を持ち、音楽家の仕事も合わさると何かと忙しかった。だけど香澄の支えで仕事に集中できる。料理は上手だし、ベッドでは俺を蕩けさせてくれる。俺にはもったいないほどのお嫁さんだよ。

そしてついに…

オギャア、オギャア

「香澄!よく頑張ったな!」
「はぁ…はぁ…」
香澄は妊娠し、そして俺の娘を出産してくれた。
セイラシアと異なり、こちらでは出産は大変だ。俺は声の仕事を自宅収録で済ませ、他の仕事も減らしてもらい香澄に寄り添った。
妊娠から出産の間、嫁をないがしろにしようものなら一生その仕打ちを忘れず、老後は孤独死間違いなしだからな。家事全般はもちろん、産婦人科への送迎、悪阻の時は背中をさするなど懸命に尽くしたよ。セイラシアでは父親でありながら父親になれなかった俺、単純に父親になれることが嬉しかったんだ。

「元気な女の子ですよ」
看護師が俺に赤ちゃんを渡してくれた。香澄が生んでくれた娘を抱いた、その時だった。
俺は大粒の涙を流して、赤子を抱いたまま膝から崩れ落ちた。
「か、和樹…。それほどまでに喜んでくれて…」
香澄も一緒になって泣いてくれた。
そりゃ嬉しいさ。やっと父親になれるんだ…。本当に嬉しくてたまらない。
だけど、ごめん香澄…。いま俺が流している歓喜の涙の本当の意味は君に言えない。
抱いた瞬間に分かったんだ。
ああ、そうか…。君は俺の娘として生まれ変わってくれたんだ。
ありがとう、ありがとう…!また会える日が来るなんて思わなかったよ…。
(梨穂…!)
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