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秋 睡蓮

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3日前

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 目的地にと定めたショッピングモール
着いてみればソコは意外にも人が溢れていた
大勢で賑わうそこを見ていると、まるで日常の中に自分達が居る様な
そんな気に、なってしまう
「何か見るか?」
様々あるテナントを見回しながら問うてみれば
これと言って決めてはいなかったのか彼女は悩み始める
暫く呻くように悩んだ後
取り敢えず端から順番にと自分の腕を引いてきた
雑貨屋、本屋、CDショップにアパレル店
様々見て回るが、彼女は何を買う事もしなった
全てはもうすぐ必要なくなるからか
考えないようにしているつもりなのに
どうしても悪い事ばかり考えてしまう頭が歯痒くて仕方がない
表情をわずかに歪め、奥歯を噛み締めていると
突然彼女の脚がぴたりと止まる
繋いでいた手が引かれ、弾みで自分も脚を止めてみれば
ソコは宝石店
店頭に飾られていたエンゲージリングを眺めていた
そういえば彼女に指輪など送った事がない事に今更に気づき
やはり欲しい物なのだろうかと
自分は店員を呼びそれを見せてもらうことに
試着してみればそれは偶然にも自分達の指に丁度で
購入することを、決めた
行き成りのそれに彼女は驚いた様だったが
左手の薬指につけてやれば、嬉しそうに顔を綻ばせてくれた
後もう少しで終わってしまうから
そんな切っ掛けでこんなモノを買いたくはなった
だが、もう今更どうすることも自分には出来ない
「……早く、買ってやればよかったな」
互いの左手で控えめに光るリングを見やりながら徐に呟けば
彼女はゆるゆると首を湯子へ振り
そんな事ない、嬉しい
満面の笑みを浮かべてくれていた
その笑顔にいつも、助けられる
想いを表現することが余り得意ではない自分
不器用なのだろうその気持ちをいつも汲んでくれた
もっとわがままを言って、駄々を捏ねてくれてもいいのに
「……なんだからな」
最後なのだから、とははっきりとは口に出来なかった
言ってしまえば今、この瞬間に全てが消えてしまいそうで
そうならない様にと
自分は喉の奥に嫌な酸味を感じながら
彼女に縋る様にその身体を抱きしめていた……
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