僕と精霊のトラブルライフと様々な出会いの物語。

ソラガミ

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【1】きっかけは最初の街から。

21)やってしまいました。

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 お風呂を上がったら夕飯がテーブルに並べられていた。食事をしがてら自分の作ったポーションを見てもらう。



「うーん、こいつは店では売れないねぇ」


 ああ、出来が悪かったのか……と肩を落としたが、どうやら逆だったようだ。

「なに落ち込んでるの!逆よ、逆。どう作ったかはわからないが、通常のポーションにしては効能が高すぎるのさ。ハイポーションの上のエクスポーションに引けを取らないレベルだよ。効能てんこもりじゃないの!こりゃ騎士団に喜ばれるよ!」


 ハルから鑑定結果を聞いて驚いた。
【加護のハイポーション+:精霊と妖精の協力のもと慈しむ者の手で作られたポーション。回復量+50%の恩恵と加護により疲労回復と浄化、魔力の回復を促す。更にしばらくの間自己回復力の向上。ハーブの癒し効果で正気を失った者にも有効】





 予想以上に高評価かつ高効能だった。いや、高効能すぎて通常のものとはかけ離れすぎてしまったけども。



「ハチミツが余分にあればねぇ、更に色々と出来たんだけど……」



 戸棚から取り出したハチミツと加護のハイポーション+を混ぜ合わせる。明るく透明感のある黄緑色がキラキラと輝いてみえる。



「さ、1つ飲んでみな。今のアルくんには効果テキメンだと思うよ」



 ゴクリ。一口入れて飲み込む。苦味はなく、口当たりも喉越しもスッキリしていて回復薬ポーションなのにとても美味しい。ハーブの爽やかさとハチミツの甘さがじわりと身体中に染み込むような気がする。それどころかモヤがかっていた思考がクリアに晴れていくような……



「ふふ、アルくんは真面目だからねぇ、余計な事を考えすぎなのよ」




 ポンポン。頭に軽く手を置かれる。



「シンプルに考えてごらん。初めて作ったポーションはどうだい?大変だったかい?楽しかったかい?」



 それはもちろん、未知の世界で見様見真似でやってみて、イレギュラーもあって大変だったけど。




「セラフィも水の妖精も手伝ってくれて。不安だったけど楽しかったです」
「うんうん、楽しく思えたなら良かったよ。何事も楽しく出来るのが一番さ。その方が成功率もぐんと上がるのからね」



 一言ごとにゆっくりと頭を撫でられる。じわりじわりと言葉を染み込こませていくように。



「今日作ったポーションが美味しく出来たなら、その経験はいつかきっと役に立つ。旅先ででも薬草とハーブとかハチミツを見つけたらまたやってごらん。食事に混ぜてもいいかもしれないね!」



 経験は力だ。失敗も成功も、そこから学んで次へのステップに繋がる。必ずしも良い方向に行くとは限らないし、何かが掴めるとも限らない。けれど、それは今後の自分にとって大きな1ページになる。



「それにお店に並んでいるのが最高品ではないのよ。供給するのには常に安定した効力、品質でなければならないからね、その維持が大変さ。でもアルくんがもし冒険者としてあちこち旅したり騎士団みたいな組織に専属で作るとかするのなら、お店と同じようなのを目指してはかえってダメよ。スキルの恩恵もあるんだから最高クオリティのオリジナルアイテムを作っちゃいなさい!」


 ガツンと胸を張って言い切るハルの背中にドドーン!と効果音が見える。


「それ、薬師であり店主でもあるハルさんが言っていいんですか」
「ふふふ、私はそんじょそこらの道具屋とは一味違うわよ。ギルド流通用、自分のお店用、更には仲のいい人達にあげる用ときちんと作り分けてるのよ」


 ササッと並べられたポーション瓶が3種類。同じよう見えても蓋のラベルの色が違う。ギルドへ納品するのポーション、店頭に並んでいるハルさん特製のポーション+、それにこのラベルの瓶は……!



「これ、ハルさんに貰ったのと同じラベル!」

 ギルドマスターにあげてしまったけれど、この色には見覚えがある。そうか、だからあんなに重傷だったギルドマスターも飲んですぐに動けるようになったのか。


「そういうことさ。だから今日アルくんが作ったポーションはキミが大切だと思った人達に使うといい。もちろんアルくん自身にもね。20本は騎士団に納品されるけど、残りは全部アルくんの自由にするといい」



 20本を別の木箱に移し、『騎士団納品分』と書いた貼り札をつける。残りの17本は魔法収納ポーチへ。





「さて、そろそろいい頃合だね。瓶詰めしようか」
「はい!張り切ってやりますよ!」
「ふふふ、元気が出たならよかったよ」



 さすがに特大鍋3個分のポーションは濾すのも瓶詰めするのも時間が掛かってしまった。多すぎて終わりはいつになるかと思うほどに。でもそれすらも楽しく思えて、全てに蓋をして木箱に詰め終えた時の達成感は今までにない程気持ちのいいものだった。




「うーん、あれだけ取ってきてもらった薬草もあっという間に半分は使っちゃったねぇ。また時間があったら採取を頼んでいいかい?森も安全とわかったらハチミツも頼みたいし。アルくんの薬草は良質だからね」
「……っ!はい、もちろん!僕で役に立つなら喜んで!」





 いままでずっとモヤモヤしていた心の奥底に、今日はほんのちょっとだけ光が見えた気がした。



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