僕と精霊のトラブルライフと様々な出会いの物語。

ソラガミ

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【1】きっかけは最初の街から。

23)ギルドマスター。

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 カウンターの奥に数部屋あったが、その中でも最奥の階段を上がってすぐの部屋がギルドマスターの部屋の様だ。中は広く、書棚もいくつか設置されている。机の上もそれなりに大きいはずなのだが、乱雑に散らばった書類が天板の色を覆い隠してしまっている。




「ほれ、ちとここに座っとれ」


 ボフンとアリオットが置かれた場所は応接セットの一つであろうふかふかなソファの上。3人は余裕で座れる程の大きさで、記事は触り心地の滑らかな上質な革。座面はしっかりとした硬さを備えているが、背もたれが程よい柔らかさで身体にフィットする。


 そんな高級そうなソファの上で1人、妙な緊張感で落ち着かないのでギルドマスターを目で追うことにする。「どこだったかなぁ……」と呟きつつ机の中や棚の中を一通り探し、結局目的の物はなかった様でサッと部屋を出ていった。ぽかーんとしていると再び扉がガチャりと開く。ギルドマスターと更に2人、うち女性がトレーを、男性は箱を持って部屋に入ってきた。

 トレーと箱がテーブルの上に置かれ、目の前にギルドマスターが座る。ほかの2人は後に控えて立ったままだ。

「っと、自己紹介してなかったな!」
「え、オーベルさんまだ自己紹介してなかったの!?」

 後ろの男性が目を見開き、女性も信じらんないと口に手を当てている。


「ったく仕方ねぇだろ、とにかく大変だったんだからな!っと、お前らに構ってる場合じゃなかった」



 切り替えるように「コホン」と咳払いし、アリオットへ向き直る。


「俺はオーベル。オーベル・ラインディス。トスリフの冒険者用ギルド、ここのマスターだ」

 スッと出された右手。逞しく洗練された筋肉と厳つい手のひら。幾千もの窮地を乗り越えて来た証だろう。



「僕はアリオット・エルティスです。15歳で王都グランスタの学生ですが、今は校外自主課題の期間中なので、ハルさんの道具屋でお世話になっています」


 アリオットも右手を差し出す。比べ物にならないほど華奢で細い。ガシッと掴まれると折れてしまうのではと思うに差がある。


「んで、後ろにいるのが……」
「サブマスターのカナン・ウォルクス!このツンツンヘアーが目印な!武闘なら負けないぜっ!」
 男性の方は本人の申告通り金髪のツンツンヘアーが特徴的だ。フットワークが軽いのだろう、腰には戦闘時に装備するのであろうナックルが備わっている。


「同じく、サブマスターのノエル・ブレイズです。何かありましたら遠慮なく申し付けて下さい」
 女性の方は水色のショートボブ。分厚い書物を片手に「事務的な処理ならお任せを」とメガネがキラリと光る。納品関係はこちらにお願いした方がスムーズかな、と3人を見比べて思ってしまったのは内緒だ。

 自己紹介を終えると、オーベルが立ち上がる。すると3人は深々と頭を下げた。



「この度は俺達を救ってくれたこと誠に感謝する。ギルドを代表してお礼を申し上げる!」
「我々だけでは手に負えず、数人は助からないだろうと、情けないことに諦めてかけていました」
「私も負傷者側で、この様に立つ事もままならないだろうと覚悟を決めていたのです」


 三者三様に思い思いの言葉を綴る。後悔、反省、覚悟。言葉の重みもさながら、それ以上の冒険者達の生命をたくさん背負っていた。



「中には冒険者としての人生を諦める者もいた。やっとの思いでクエストを達成したのに、最後の最後でって悔やんでも悔やみきれないヤツらばかりだった。この街に着くまでの間、何人からこの話を聞いたことか……!」



 拳をギュッと握りしめ、その時の情景を思い出しているのだろう。後ろの2人も同様だ。



「治癒師・回復師は皆同じクエストの参加者だ。既に魔力切れで動くのがやっとな感じでな。やっとの思いでここギルドに辿り着いたが都合よく回復師が居るわけもねぇ。薬でなんとか凌ぐしかないと腹を括ってた」



 そうか、その時に丁度よく僕が居合わせたんだ。
 あの時、ギルドに駆け込んでくる人達は皆必死だった。その中でもとびきりだったのはギルドマスターであるオーベルだった。



「ボウズがくれた回復薬ポーションはマジで効いた。あれはハル姐の特製だろ。活力が戻ったと思ったら次はあの魔法だ。ありゃ何だったんだ?」

「言い難いのですが、あれは僕の魔法ではないです。精霊が一緒にいてくれたから出来たんです。僕だけの力ではないんです」



 静観していたノエルが「精霊魔法?」と呟く。しばらく考え込んだ後に口を開いた。


「失礼、ギルドカードを拝見してもよろしいですか?もちろん守秘義務は守ります。秘匿内容も口外しません。マスター、結界をお願いします」


 ほらよ、と指を鳴らすと部屋全体が結界に包まれた。これも遮音の魔法だろうか。リュシオン殿下が張ったのと似た様な感じがする。



「これです。イマイチわからないスキルもあって……」


 アリオットからギルドカードを受け取ると、机の上にあった魔道具に差し込む。ヴヴヴっとしばらく音が鳴っていたが、止まったと思ったら何枚かの書類が出てきた。


「どうだノエル」
「これは珍しいですね……」





 オーベルとノエルが書類を見ながらあーだこーだと話し合っている。それを見かねたカナンがサッと動いた。



「あー、ちょっと長そうだから、お茶でもしててね!」

 カナンがティーポットに茶葉を入れ、お茶の準備をし始める。2人がこの部屋に入ってきたときに持ち込んでたのは紅茶と洋菓子のティーセットだった。コポコポとカップに紅茶が注がれる。


「砂糖とミルクはいる?」
「じゃあお砂糖だけ」
「おっけー!そうそう、このチーズケーキ美味しいんだ。オレの超オススメ!」



 箱からケーキを取り出し、サッと小皿へ盛り付けるとアリオットへと差し出した。
 黄金色に輝いた表面はしっかりと焼き上げられているが、中はフワフワのスフレの様だ。食感の差といい口溶けもさることながら口の中に広がるチーズの風味と爽やかな甘味がなんとも言えない!



「わぁ!紅茶もケーキも美味しいです!」
「やったね!喜んで貰えて嬉しいよ」


 準備したかいがあった!とガッツポーズ。どうやら甘い物に目がないカナンによるチョイスだったらしい。




「おかわりあるから言ってね!」



 カナンの気さくな雰囲気が先程までの重苦しさから解放させてくれた。この人、もしかしなくても空気クラッシャーだろうか。



「ありがとう!」と告げてまた一口、ケーキを口の中に頬張った。




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