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【1】きっかけは最初の街から。
24)一方その頃、騎士団にて。
しおりを挟むふんふんふふふーん。
鼻歌を歌いながら魔法陣を展開して召喚獣を呼び出す。今日は癒し系の筆頭スライムと雪の様なモフモフの尻尾がキュートでキラキラした鋭い瞳がクールなアイシクルフォックス!技能的なところでゴーレムでも良かったんだが、アイシクルフォックスは呼ぶと俺の肩に乗ってくれるんだ!ふふふ!可愛いだろ!スライムもぷにぷに感がたまらないね!俺の後ろをペタンペタンついてきてくれるんだ!
兎にも角にも今はとーーーーっても癒されたい気分だ。なんと言っても……
「なんで俺が副団長と任務なんすか」
「はっはー、そこにお前がいたからさ!ザック!!」
そう、ここは王都騎士団。蒼氷の騎士とか呼ばれている馬鹿力副団長に幸か不幸か捕まったからなのである!……あ、どう考えても幸はないな。運悪すぎか。
「トスリフの道具屋にポーションの空き瓶を届けるだけの予定だったんだが、ギルドで動いていた例の問題が昨日終わって帰還してきたらしくてな。団長からギルドの話と森の様子を見てこいと」
「えー、それなら俺じゃなくてもいいじゃないっすか」
「ところがだね、多種多様な召喚による戦術と探索スキルをキミに期待してるんだぜ、ザック」
うわー、この人悪い顔したわー。すっげー巻き込む気満々じゃないっすかー。
「悪ぃなー、俺にとっても予定外だったもんでなー!しかも数日滞在だー!驚きだぜー!」
「うっわ軽っ!それに団長命令と副団長からの任命じゃ俺に拒否権ないじゃないっすかー!」
がくりと頭を垂れ、これは諦めざるを得ない事を察知した。こうなったこの人は引き摺ってでも連れ回す人だ。アイシクルフォックスがてしてしと頭を撫でてくれる。ありがとう、慰めてくれてるのね……!
「で、トスリフっすよね。何で行くんです?馬?それとも馬車使います?」
「うーん、馬で行ってギルドや宿屋に預けてもいいんだが……」
普通でつまらないしなー、と呟いたその言葉から全力で嫌な予感がしたのでとりあえず聞かなかったことにした。
仕方ないので時間を決めて準備をする事に。同じ隊のカイルとレストンにも伝えておかないとな。
支給されている鞄に必要そうな道具を詰める。もちろんこの鞄も魔法収納だ。魔法、特に召喚主体であるから体力回復薬よりも魔力回復薬の方が重要だ。
数日とか言ってたし、野営用の準備もいるのか??空き瓶も大量に入れないといけないし……
様々な不安を拭いきれぬまま、集合地点へ。厩じゃない時点で馬で行かないのはわかってた。が、今目の前にいるそこそこの巨躯、ゴツゴツとした綺麗な黒い鱗、長い尻尾に大きな翼と鋭い爪。
「は?ちょっと副団長?これは俗に言うドラゴンってやつでは??」
「ああ、立派だろ!この前、西の山岳で暴れていたヤツだったんだが、何だかんだで色々と仲良くなってな!」
何だかんだで端折りすぎです副団長。仲良くの後に(物理)ってつくやつでしょ!団員は知ってますよ!!
ドラゴンの方もグルルルルと呻くものの、この人に逆らえない様で心做しかしょぼくれている。その気持ち、すげーわかるよ。
「とりあえずトスリフとその先の森まではこいつが乗せてくれる。帰りは馬車でも何でもいいしな!」
ええ、知ってます。『何でもいい』って言ってそこらの魔物を従えて乗って帰るの知ってます。平原には乗れるくらいのサイズの魔物はあんまりいないけど、たまにワイバーンとか飛んでいるもんね。この人容赦なく石ころで撃ち落とすけど。
ふとドラゴンと目が合う。サイズはそんなに大きくはないのでまだ若いのだろう。
「キミもあの人に巻き込まれて大変だなー」
「グルル」
低い唸り声は聞く人が聞けば恐れ慄くだろう。召喚術師の俺にとっては慣れ親しんだものなのでさして気にはしないが。
「ちょっとの間だけどよろしくね」
「グルルル!」
手を伸ばせば頭を擦り寄せてくる。
あれ、このドラゴン頭いいし素直で可愛いぞ???
ふと背後から妙な威圧感と共にコツコツと足音が響く。頭の上から地面へ押し付けられる様な感覚、これは式典等の時に受けるのと同じ、逆らうことを許さない王族特有の常時発動型スキル『王者の風格』。
スキルの効果だろう。身体が勝手にそのお方へ向きを変え、片膝を付き頭を垂れる。
昨日もリュシオン殿下から受けていたが、この方のはそれの比ではない。何せ隣のドラゴンすら頭を伏せているのだから。
「街中がドラゴン種の目撃情報で騒がしいと思ったら……やはりお前だったかジーク」
頭を抱えてこちらに向かって来たのはこの国の第一王子、ヴィクトール・オメグ・カルティタニア殿下である。長髪ゴールデンブロンドの弟君とは真逆の、短髪のプラチナブロンドと切れ長の青い瞳が涼やかで眩しい……が威圧感が半端なく怖い。
「お!ヴィク!聞きつけてわざわざこんな所までやってきたのか?」
「毎回毎回この手の騒ぎを抑える側の身にもなれ」
ちょっと待て。何故この人普通に平然と立っていられるの??今この場で立ってるの、殿下と副団長だけなんすけど。殿下のお付の人も俺と同じく跪いているのに!しかもその言葉遣いでいいんすか!?相手は王族っすよね!?
そんなザックの心情も露知らず、2人の会話は進んでいく。
「この間は西だっただろう。今回は何処へ?」
「南の、トスリフの先の森だ。ギルドで請け負ってたシルバーウルフの件が終結したらしいから現場確認と調査だな。例の教団も関わってるんじゃないかって予測も兼ねてだ」
え、副団長それ聞いてないす。『王者の風格』のせいで未だに姿勢も崩せず声も発せられないが、心の中でツッコミが冴え渡る。
例の教団と聞いたらうちの隊長の『あの件』に繋がるじゃないっすか。くっそ、あいつらマジで許さねぇ。俄然やる気が出てきた。こうなったらドラゴンでだろうがキマイラでだろうが、乗り込んでがっつり調べてやろうじゃないか!!
「そうか、お前なら安心できるがくれぐれも森は破壊するなよ。特に奥地な」
「んじゃ、力の制御はしっかりよろしく頼むぜ王子様」
「俺らの心労を増やすなよ馬鹿力」
2人はお互いを鼓舞するかの様に拳同士をコツンとぶつけ合う。ニヤリと笑うとこちらを振り向いた。
「ザック、何してんの?乗らないのか??」
「……!!…………っ!」
「あ、すまん。俺のせいだ。解くの忘れてた」
「ぷはぁっ!!!」
金縛りに近い状態からようやく身体の自由が戻った。短時間とはいえど同じ姿勢だったのだ、油切れの機械の様に身体がギチギチと軋む感じがする。式典でもここまで苦しいことはなかったなぁ、なんて考えながら肩を回す。ドラゴンも解放されて首を解している。お前も大変だったなぁ。
ふと背後に人の気配を感じ、振り返るとヴィクトール殿下が目の前にいらっしゃるではないか!!油断した状態でのゼロ距離殿下は正直言って心臓に悪い。「ひっ」と口から出そうになった小さな悲鳴を飲み込んだ俺を誰か褒めてくれ。
「先程まですまなかったな。色々と面倒だろうがジークを頼む。これでも私の親友でな、居ないと静かだが退屈なのだ。故に、双方揃って無事に帰還すること。よいな?」
「もももちろん、心得ております!」
胸に腕を掲げて騎士団流の敬礼をする。まさか殿下から激励をいただけるとは思ってもみなかったのだ。
しかしジークレスト副団長とヴィクトール殿下が親友とは。そういえばツェリディア隊長もリュシオン殿下と親しかったよなぁ。……あれ?
……うん。考えるのやめよう。自己防衛は大事だ。思考放棄もたまには必要さ。俺は何も気づいてない気づいてない。
複雑な心境のままヴィクトール殿下に見送られつつ、騎士2人を乗せたドラゴンは騎士団拠点から飛び立った。
あ、ドラゴン騒動の鎮圧は殿下のお力でよろしくお願いしますっす!
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