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【1】きっかけは最初の街から。
25)スキルと精霊魔法。
しおりを挟むモグモグ。
「お次はこっちのベリータルトどう?甘酸っぱいけど美味いよー。あ、紅茶のおかわり入れとくね」
「あ、ありがとうございます」
あれからカナンからひたすら餌付けされている気がする。が、オススメすることもあって本気で美味しい。またこの人が煎れてくれる紅茶が驚く位に絶品なのだ。
ベリータルトもツヤツヤキラキラと宝石の様に輝いていて、眺めているだけでも幸せだ。セラフィもベリータルトに興味津々。
「オレ、いつか『甘味洋菓子大好き男子』の同盟を作りたいんだよねー。ガチムチ冒険者がケーキ屋や喫茶店で可愛いケーキとかゴージャスなパフェを注文するの恥ずかしいって声が多いからさー。味方がたくさんいれば怖くも恥ずかしくもないだろー?」
「名案ですね!そこにカナンさんの紅茶があれば最高だと思います!」
「え!マジ!?嬉しいこと言ってくれるねぇー!」
いえーい、と意気投合したところでオーベルとノエルの話し合いは終わったようだ。
「ギルドカード、ありがとうございます。情報更新もしておきました」
ノエルからカードを受け取り、記載内容を確認する。少し記述が増えている気がする。が、名称のみしか記載がないので詳細がわからない。
「昨日の魔法は『精霊魔法』の一種でしょう。発動に至るまでの確実な条件はまだ未解明ですが、昨日の魔法の様子からいくつか関連性の高いと思われるスキルや例を挙げます」
テーブルに魔道具で印刷した書類数枚が並べられる。ギルドカードの内容よりも詳しく記述されてはいるが、スキル詳細は一言二言くらいしか記載が無い。
そこでノエルがクイッとメガネを上げ直し、持っていた分厚い書物の表紙に手を当てる。
「失礼、スキル『智恵の伝書』を発動します。暫しご清聴願います」
宣告すると分厚い書物がパラパラと開かれる。提示された項目は精霊。
「まず、精霊と契約していることはもちろんですが、貴方の特筆すべき点は『木精霊王の加護』。これは何処かで木属性の精霊王と接触していなければこの加護はつきません」
ツェリディアとクエストを終えた後は『木精霊の加護』だった筈だ。それで契約をしたが為に『木精霊の契約者』になった事まではアリオットも覚えている。てっきり加護が昇華して契約者と名称を変えたのだと思っていた。それがいつの間にか『精霊王』からの加護になっているとは……。
「それと契約レベルです。『木精霊の契約者』、スキルレベルは3。【木精霊からの基本契約】でレベル1、【精霊に名付け】でレベル2。更に【コミュニケーション力の成長】か【契約者が精霊に名乗る】とレベルが3となります。もし両方済んでいれば4の筈です」
段階を踏んで契約レベルが上がっていたのも知らなかった。最初はただジェスチャー、ホントに身振り手振りだった。『セラフィ』と名前をつけたあたりから考えてることが伝わり出して、いつの間にか話ができるようになっていた。
……そういえば名付けをした後に見た夢。緑豊かな森林の、あの時に聞こえていた声の主は……
「精霊魔法の件も考察しますと、アリオットさんの契約精霊は他の妖精への呼びかけや自らの精霊王への助力を求めるなど深いコミュニケーションを取った、と考えられます。つまり、契約レベル3は【コミュニケーション力の成長】によるもの。アリオットさん、後ででいいので名乗り……精霊に名前を教えてあげてあげて下さい。それだけで貴方の精霊は更に強力な協力者となり得るはずです」
メガネをキラリと光らせてずずいっと迫ってきたので思わず身を引いてしまった。迫力、凄いです。
だが、言われてみれば確かに自分の名前を教えてなかった。ずっとマスターと呼んでくれていたから気にもしてなかった。
「あと『慈しむ者』でしょうか。自然に対して慈悲深い者に与えられ、回復に関する恩恵を受けられます。主に回復力や回復量の向上、回復アイテム生産時や使用時の効果・効能アップなどが一例ですね」
回復量の向上に関してはフューリからも聞いていたので納得だったが、生産時にもそれが適用されてしまうとは思っていなかった。それを知っていて騎士団副団長は失敗でもいいと依頼をしてきたのか。
「そしてこのスキルであまり知られていないのが野生の動物や妖精の様な尊い存在などが寄ってきやすい、ということです。妖精に関しては見える見えないに関係なく、魔法発動の際近くに同属性の妖精がいると自動的に効力が上がります」
精霊と契約したことで妖精を認識しやすくなってはいるが全てが見える訳では無い、とこれもツェリディアが説明していた。姿を見せなかったり、認識できない妖精も多いのだ、と。
「精霊魔法は我々人間だけでは使用できません。複数の精霊・妖精の協力があり、尚且つ何を成したいのかが精霊にきちんと通じる事でやっと発動します。つまり、『木精霊の契約者Lv3』で契約している木精霊がアリオットさんの助けを求める声に反応し、『慈しむ者』で契約者に寄ってきた数多の妖精へ協力を呼びかけを。精霊王には『木精霊王の加護』を通じて契約者への助力・救済を求め、回復重視と治癒効果も含めた魔法が発動。更にアリオットさんの『慈しむ者』により回復効果アップ。範囲に関しても精霊王や妖精といった協力者による魔力供給などの要因で広がったと思われます。以上」
怒涛の説明を終えるとパタン、と書物が閉じる。頃合を見計らっていた様で、カナンが砂糖多めの紅茶を差し出す。ゴクリと一口飲み、深呼吸。落ち着いたところで再び口を開いた。
「つまり、貴方の力も非常に重要な鍵だったということです。だから胸を張ってください。貴方は我々の恩人です。精霊の協力があったからだとしても、そこに貴方がいなければ成せなかった。それは間違いありません」
だからありがとう、と。ぎゅっと握られた手はあたたかく、微かに震えていた。
「……すみません、『智恵の伝書』スキルは解析能力の向上が主でして……口調も固く、怒涛の説明になってしまった事お詫び致します。今回の件は決して口外しませんので御安心下さい」
私からは以上です、とテーブル上を軽く片付けると再び後ろへ下がった。
運が良かった、の一言で片付けるにはあまりにも惜しい。
「様々な要因が色んな経緯を経て偶然集まったからみんな助かったんだ」
とオーベルも告げる。
「れっきとしたお前さんの力さ、ボウズ。だから泣くなよ」
ガシガシと大きく逞しい手のひらが容赦なく頭を掻き回す。豪快だけど優しいこの人の想いに、堪えていた涙が再び溢れ出してしまった。
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