僕と精霊のトラブルライフと様々な出会いの物語。

ソラガミ

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【1】きっかけは最初の街から。

30)出発の時。

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 突然始まった目の回るような空の旅が終わり、無事に地上へと降り立つ。
地に着いた途端にやってくる安心感。人間は地上で暮らすべきなのだ。この安心感は何と表現したら良いものか。アリオットはプルプルと震えながら無事に生還できていることを噛み締める。
 とりあえずこんな所で立ってる場合じゃない。用事を済ませたのであろうジークレストとザックの元へと向かう。



「ほら、ちゃんと聴こえてたろ!コイツは本当に凄いヤツなんだって!」
「はいはい、アル君もおかえりー……って何それ!!」





 当然注目の的は口に咥えられたオーク系魔物モンスターだ。ドラゴンはペイっとジークレストへ向けて放り投げる。ザックは「ひぃっ」と小さな悲鳴を上げたが、ジークレストは軽々と受け取り、地に置いた。




「おおー、オークだけどデカイな。隊長リーダー級?いや装備がゴツイとから将軍ジェネラル級か?どれどれ」
「アル君、これマジどうしたの……」
「ここに帰る途中で喧嘩を売られたので仕留めてやった、と言ってるみたいです……あとお土産だとも……」
(おみやげー!)



 聞いたザックは「へ、へぇ」と相槌を打ちながら顔を引き攣らせている。



 ジークレストが鑑識眼で調べた結果、将軍ジェネラル級のオークと判明。ただし、頭に『ハイ』がつく。通常ならば軍隊を率いているはずの存在が何故一人で平原にいたのだろうか。謎が残るが、とにかくこれをどうにかしなければ。



「驚いたけど、とにかくコイツが街に来なくてよかった」
「確かに。他に軍隊がいないといいんすけど。とりあえず結界張ります?それともギルド持ち込みます?」


 結界を張らないと異臭やら魔素など周囲に影響を与えるだけでなく、他の魔物を呼び寄せてしまう可能性が出てきてしまう。

「ふむ。このままザクセンの所に預けてしまおう、その方が早い。ザック、悪いがアル君とここで待っててくれ」
「あいさー!了解っす」



 ジークレストは「よいしょ」と片手で軽々しく持ち上げるとスタスタとギルドへと向かう。ちなみに引き摺ってはいない。『大将軍ハイジェネラル』と分類されるオークだ。人間よりも数倍の体躯で重さもそれ相応の筈なのに、クッションでも持ち上げるかの様に微塵も感じさせない。完全に持ち上げて運んでいる。



 

「ホントすげーよな、あの人。あんなの絶対持てないもん」
「何であんな簡単に持ち上がるんですかね……」

 ちなみにザックなら召喚獣を呼び出して運んでもらうそうだ。仲間がいるって心強い。

 ふとザックがこちらを見ている。見ているのが丁度肩のあたりで、現在はセラフィが座っている。




「さっきから気になってたんすけど、その肩の子は何すか??」
『はーい!せらふぃ!です!』

 手を上げて名を名乗る。いつもの頭に響くような念話ではなく、他にも聞こえるようにと声に出した感じだ。ただ、通常ならば精霊みたいな存在は特殊な人でなければ見えないし、声を聞くともなれば尚更だ。



「ザックさんも精霊が見える人なんですか!?」
「残念ながら精霊も妖精も見たことないんすよ。でもその子『セラフィ』って言ってたっすね」
「更に声まで聞こえてるじゃないですか!!」

『ふふふ、ますたーおどろいた!ぱわーあっぷしたせらふぃ!ますたーがゆるしたひとは、せらふぃがみえるのです!』




 えっへん!
 どうやらアリオットが名前を教えたことによる恩恵の様だった。要はアリオットが気を許した存在には姿を見せたり話もできるということ。もちろん任意で姿を消す事も問題なく可能だ。
 これならば森での調査や活動がやりやすくなるかもしれない。ただでさえ木精霊セラフィにとって森など入ってしまえば自らの手足に近い感覚だろう。何とも心強い。



「ま、マジっすか。この子がホントに木精霊っすか!!!」



 今度はザックのテンションが上がり、興味津々にセラフィを見る。
 うおー!うおおおー!と頻りに騒いでいるザックの背後、頭上から拳が振り落とされた。



「おいザック、傍から見るとヤバい人だったぞ。頭、大丈夫か?」
「副団長のおかげでかち割れそうっすよ……!」



 昼間なのにチカチカと星が見えたと本人は語る。



「解体を頼んできた。森から戻ったら受け取ろうな!」
「グルル」


 大将軍級ハイジェネラルクラスって何の素材が手に入るのだろう。戻ってくるのがちょっと楽しみだ。




 はてさて。
 森に向かう前に簡単な話し合いをする。お互いの目的についてだ。もちろん、アリオットも森の奥地とセラフィの種の件を伝える。セラフィが目視可能となったので説明の信憑性が上がったのは幸いした。



「つまりハチミツを採取しつつ、奥地で木精霊が示す場所に行きたい、ということだね?」
「はい、その通りです。何があるのかはわかりませんが、その場所へ早く行かなければならないそうです」
『たすけなきゃ!たいへんなの!』




 アリオットとセラフィの話を聞きジークレストとザックはふむ、と思案する。何処まで話して良いものかと迷っていたが、森での活動と木精霊の相性を考えるとほぼ全て話しておいた方が良さそうだと判断した。さすがに例の教団に関しては伏せておくとして、此度の目的を簡単に説明する。



「我々騎士団はトスリフ南方の森の調査。奥地の方でとある魔道具……呪具と言っても差し支えがない物が使われた形跡があるらしい」
「先日のシルバーウルフの群れ問題もそれが関わっている可能性がある、ということらしいっす。探索しながらになるので森での野営もあるっすよ」
「野営!?」




 野営の件は聞いてなかった。一度道具屋に戻って準備したいところだ。


「その時の見張りとかはこちらで受け持つから安心してくれ。とりあえずアル君も木精霊も我々から離れず、森で何か見つけたらすぐに教えて欲しい。君達の力も頼りにしている」
『ますたー!せらふぃがんばる!』
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
『あい!おねがいします!』


 何が起きるのかはわからない森でしばらくお世話になるのだ。アリオットは深々と頭を下げ、それを見たセラフィも真似するのであった。









 道具屋に戻ると既にハルが道具を一式準備してくれていた。どうやらドラゴンと空中散歩をしている間にジークレスト達は空き瓶を預けに行っていたらしく、事情は説明済だった。何が必要になるのか把握していた様で、野営用にランタン、寝袋、魔除けの香炉などもある。更にハチミツ採取後にすぐ調合できるようにと簡易調合セットと『はじめての人の調合指南書』。ハチミツを持ち帰るための空き瓶も数本。それと食料も欠かせない。


 魔法収納インベントリのポーチがあって良かった!指南書が地味に大きくて重いのだ。



「アル君これ持って行きな。龍仙花で作った匂袋ね。浄化の力もあるからね、身に付けていくといい」

 受け取ってすぐ腰のベルトに装着する。紐に括られた白い刺繍の入った布袋からフワリといい香りがする。セラフィがクンクンと気にしている。そのうちしがみつきそうだ。





「気をつけて行っておいで。くれぐれも無理はしない事。ジーク君もザック君も、アル君の事頼んだよ!」
「もちろん!我々がきちんと守ります!」


 騎士団の誇りにかけて、とビシッと敬礼をする。普段はおちゃらけていても決める時は決める。どちらの姿も知っているハルはフフッと笑っていた。



「ハルさん、色々ありがとうございます!行ってきます!」
『いってきまーす』







 はたして森の奥地では何が起きていたのか、そして何が待ち受けているのか。




 舞台は森へと移行する。



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