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【1】きっかけは最初の街から。
EX01)黒竜さんの暇つぶし。
しおりを挟む馬鹿力と『アリオット』という精霊使いの小僧、あともう一人の使い魔使いを森に送り届け、黒いドラゴンは暇を持て余していた。
「街に行かなければ呼ぶまで自由にしてていい」と言われたものの、住処の山岳へ帰るのもつまらないし(どうせまた呼ばれるから)、下手に人のいる所へ近寄れば冒険者達から狙われる。この辺りではどうにも落ち着ける場所がない。だだっ広い平原を中心に空を飛び回るが、いい加減疲れてきた。
(森で動くには我の身体は大きすぎる。何故あの様な見通しの悪い所へ向かうのだっ!!)
プンスコプンスコ。
ただでさえ最近妙な気配をあちらこちらやたらと感じている。住処の山岳と同じく、何か黒く渦巻くモノが。この森の奥からも、だ。
我と同じ位に強い馬鹿力が一緒だから問題はないだろう、とは思う。それにしても何故か不安は尽きない。
ふーむ。
(そういえば小僧と空の散歩を楽しんでいた時に喧嘩を売ってきたあの豚め。やたらと派手な格好をしておったが、不粋にも程がある!)
しかしあの時、あの豚は一体だけだった。周りには何もいない。確かあの種の者は群れを成す事を好む。群れからはぐれたのか、それとも突然変異なのか。もしかしたら残党がそこらにいるやもしれない。
(ふむ、あの森から戻ってくる頃にはいくらあの馬鹿力であろうと疲弊していよう。ならばその帰路の安全を我が確保してやるのも良いかもしれん)
我ながら名案ではないか!と閃いたドラゴンは周囲の気配に神経を集中させる。平原には見える限りそれらしき存在は確認できない。
(あの小僧も頑張ってるしな。労うのも必要だろう。褒美として先程の様に土産を持たすのも良いな!たくさんあれば喜ぶだろう!)
荷物持ちは馬鹿力、小僧の喜ぶ姿が目に浮かぶ!と上機嫌で空を舞う。
(フハハハハ!我の餌食になりたくなくばすぐさま退くがよいわ!!!)
けたたましい咆哮に周囲の空気が震え上がる。これに興味を示すのは縄張り意識の強い者か、反抗心の強い者、そして己の強さを誇る者だろう。中には愚かな者もいるだろうが。何れにせよ、向かってくるならば全て屠るまでの事。
(さぁ!我に挑むのは誰ぞ!?我が友の平穏の為に、我はここに力を示そうぞ!!!!!)
まず現れたのはワイバーンの群れだった。自らよりも小さいと言えど、こやつらはすばしっこくて小賢しい。だが、似たような竜種ではあるものの力量の差は歴然だ。
ブォン!!!!
羽ばたきひとつでワイバーンらはバランスを崩し、地面に落ちたり吹き飛んだり、中には風の刃で切り刻まれる個体も存在した。そそくさと撤退され、ワイバーン戦はあっけなく終わった。
(む、もう終わりか。骨の無いヤツらよ)
続けて現れたのは合成獣だった。個体差はあるが、獅子と山羊と蛇の頭を持つ、呪いに近い存在の魔物。あろうことかこの個体は翼を持ち合わせており、ワイバーン戦を終えた直後の隙を狙って突進してきたのだ。狂気を滲ませたキメラの複数の目がドラゴンを捉える。
(ぬっ!戦闘後の隙を狙うとは考えたものよ!)
尻尾を鞭の様に振るい、薙ぎ払う。がキメラの翼を掠めただけで決定打には程遠い。進路が変わった為に直撃は避けられたが、くるりと翻し、牙と爪を立ててこちらへと向かってくる。
(しつこいわっ!)
グォォォォオオオオオ!!!!
ギシャァァァアアアア!!!!
再び咆哮が響き渡る。負けじとドラゴンも胸を張り、翼を広げ、爪を立てて待ち構える。
ドラゴンの手がキメラの獅子の頭を捉え、爪をしっかりと食い込ませる。蛇の頭は毒を持つ。こちらも厄介なのでもう片方の手で掴み、引きちぎる。山羊の頭は魔法が主体だ。火の玉を放って来たが、ドラゴンの火炎耐性は高く大したダメージにもならない。
獅子の頭を掴んだまま空高く舞う。雲と同じ位の高さまでくると、真っ逆さまに急降下し、キメラを地面へと叩きつけた。大地は抉れ、中心のキメラはその後動くことはなかった。
(ふぅ、手こずらせおって。しかし何故この様なヤツがこの地にいるのだ?まぁいい)
叩きつける寸前に目的のオーク部隊を見つけたのだ。こやつらの相手をしている場合ではない。
(フハハハハ!この様な場所にいたのか豚共よ!我が友の為に大人しく滅べ!)
「プギャッ!?」
「プギィィイ!!!」
喧嘩を売られたのだ、オーク達も血を滾らせて武器を構え始める。この辺りにいるのは普通のオークの様だ。わらわらと群れを成し、数で攻めるタイプ。大体部隊長級か司令官級がいて、指示を出しているはず。リーダーが潰れれば部下も混乱する。まずはそちらを見つけてすぐに潰さねば。
(派手なヤツがおらんな……)
来る者全て薙ぎ払う。尻尾を振ればブォンと風がうねり、爪で裂けば地面も同じく抉れる。
(こう数がいると面倒だなッ!)
スーッと息を深く吸い込む。口元から漏れる熱気、次の瞬間灼熱の炎が吐き出される。炎は渦を巻き、柱となってオークらを囲む。「プギャー!」「プギィィ!」と騒いでいたが、そのうちすっかり大人しくなった。
(ああ、そこに居たのか。見つけたぞ)
森の入口、木陰からこちらを伺う視線が一つ。ここにいる通常のオークとは違う、司令官級だ。
このまま向かってもいいが、森の中へ逃れられたら追える手段がない。一度上空へ飛び、真上から襲撃しようかと考えた。が、司令官オークの背後に迫る別の魔物の姿を見かけた。司令官オークが気づく様子はない。むしろこちらを見たまま今後の策を考えているのだろう。
はっきり言って偶然にも目視していなければ背後の存在に気づかなかった。それ程にその魔物の気配が薄いのだ。
気配を消した背後の魔物はスっと右手を構えると何かのスキルだろう、刃物の形を成して首元をスーッと静かに払う。ヤツの目的は達したのだろう、そのまま森の奥へと姿を消した。
少し間を置いて司令官オークの首が地面に落ち、身体もばさりと地に伏した。
音も立てず、ただ静かに事を成したあやつは何者だろうか。
司令官の首は取られてしまったが、当初の目的はクリアした。しかしこのままでは土産が各地に点在してしまっていて、渡すにも日が経てば腐り落ちてしまう。
(むぅ、仕方ない)
とりあえず数の多いオークを倒した場所へ最初に仕留めたワイバーン数体とキメラ、更に自らの手柄ではないが司令官オークを集める。むんっ!と念を込めるとその一帯に立ち入り出来ないようにと結界を張る。これで獲物を横取りされたりはしない。
(さて、適任者を呼ばねばな)
とりあえずオークを一体咥えて先程の街へ向かう。「街に行くな」の言いつけ?土産がダメになるのは今の我には困る、ということで迷うことなく飛び立つ。ギルドが何とかと話していたからあの周辺ならば問題はないだろう。
使い魔使いや小僧と待っていた所へ降り立ち、馬鹿力達が出入りしていた建物のドアを尻尾の先てそーっとノックする。
さっき馬鹿力が将軍オークをここへ運んでいたのを我は見ていたからな!
扉が開いて男が出てきたと思ったらすぐさま閉められる。む、先程も同じような事を見た覚えが。
しばらくすると馬鹿力と一緒にいた別の男と狼の獣人が出てきた。なかなかに落ち着いているこやつらなら大丈夫だろう。
咥えていたワイバーンをペイっと置く。狼の獣人は意図を理解したのだろう、なかなかに賢いではないか。
ついでに慌てふためく男の方を背中に乗せ、先程の結界を張った所まで連れていく。
「グルッ」
「ああ、これお前さんが仕留めたのか!?んで俺にギルドまで運べって言ってんだな」
ふふふ、わかっているではないか!結界を解除すると、男は魔法収納を使い、仕留めた魔物を全てしまい込む。
「やはりオークの残党がいやがったのか……」
一人考え込む男を再び背中に無理矢理乗せ、先程の街まて送っておいてやった。あとはあいつらがいいようにしてくれるだろう。
ふふふ、何と清々しい気分だろうか!
以前の我ならこんな事は一切しなかったのだ。馬鹿力と小僧に感謝するが良いわ!
こうして再び平原に向かい、獲物を見つけ仕留めてはギルドへ運ぶ、をジークレスト達が帰ってくるまでこの黒いドラゴンは続けていたのであった。
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