僕と精霊のトラブルライフと様々な出会いの物語。

ソラガミ

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【2】ざわめく森は何を知る。

42)女帝降臨。

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 カリスマと言うのだろうか。圧倒的な存在感と美しさは思わず目を奪われる。そして辺りにフワリと漂う仄かに甘い香り、恐らくフェロモンの一種なのだろう。両脇に控えている従者達も暗殺蜂アサシンビーもこの女帝蜂エンプレスビーから放たれるフェロモンによって命令、付き従っている。
 ところでこのフェロモンは人間にも効果があるのだろうか。一緒に謁見の間へ入ったジークレストには何も影響は無いようだ。それもそのはず。ジークレストは『鋼の精神』というスキルを持っており、精神異常状態にならない。つまり、身体的異常の毒や麻痺等は受けてしまうが、精神的異常とされる混乱、魅了、恐怖、傀儡などは全く効果が無いのだ。
 一方のアリオットは木精霊の契約者、ならびに木精霊王の加護のおかげで戦闘蜂コンバットビーのフェロモンの効果は受けない。草花と生きる彼らは木属性の眷属。だからこそ世界樹の護り手としてこの地にいる。
 唯一検証可能そうなザックは現在外で戦闘中だ。呼ぶわけにもいかない。

 色々と考えてしまったが相手は女帝様だ。とりあえず頭を下げる。



『そうかしこまらないでくださいませ、木精霊の選びし方』


 透き通るようなソプラノボイスが頭の中に優しく響く。そして女帝蜂エンプレスビーが椅子から立ち上がり、こちらへ一礼する。


『妾は女帝蜂エンプレスビー、この世界樹の護り手を任されし戦闘蜂コンバットビー一族の長にございます』

 頭を上げた後に女帝蜂エンプレスビーの身体がヨロリとぐらついた。アリオットも異常にハッと気づいて身体が動いたが、それよりも早く従者達が動いていた。従者達に支えられながら椅子へと再び腰掛ける。



『……お見苦しいところを申し訳ございません。皆様も森の様子をご覧になられたかとは思いますが、現在この世界樹と周囲の森は南方からのオーク達に侵攻されつつあります』



 従者の1人がサッと地図を広げる。世界樹を中心とした図面、森の北側は平原地帯とトスリフの街、そして王都グランスタ、南側には同じく平原地帯と少しの高野、更にその先には岩盤地帯が描かれている。



『森には世界樹による結界がございました。それは穢れや悪しき者を入れない結界。そして周囲の土地に緑の恩恵を与える世界樹の加護。我々は加護の恩恵により一年中たくさんの花が咲き誇る高野でミツを集めては森へ持ち帰り、貯蔵をしながら生活をしておりました。ところが……』



 従者が地図の岩盤地帯を指さす。女帝蜂エンプレスビーがフェロモンで指示を出しているのだろう。


『ある日、一人の兵士蜂ソルジャービーが岩盤地帯で不審な魔物の集団を目撃いたしました。更にそれに追われる様に、本来岩盤地帯よりも南に住まうシルバーウルフ達が高野を超えて平原まで来ていたと言うのです』



 従者が黒い駒、灰色の駒、黄色い駒を地図上に置く。黒い駒は岩盤地帯、灰色の駒は森から南側の平原、黄色い駒は世界樹の上だ。


『シルバーウルフ達も他の地の護り手だったと記憶しています。故に彼らは穢れや悪しき者とは判断されないのでこの森へ逃げ込んできたのでしょう。この世界樹の結界が彼らも守ってくれる筈でした』



 灰色の駒が森へ、黒い駒が高野に移動する。
 そこまで聞いてハッとした事がある。ジークレストも同じ様子だが、アイコンタクトで「このまま女帝蜂エンプレスビーの話を聞こう」となり、じっと駒の流れや状況を整理しながら聞く。



『高野まで来た魔物の集団、これがオークの軍団でした。軍団の筆頭は元帥マーシャルオーク、部下に将軍ジェネラル級や司令官コマンダー級など、様々なオークの部隊がいると偵察に動いたそこの暗殺蜂アサシンビーが報告しています。更にあろうことか、彼らが陣取った高野の花畑は瘴気にあてられたかのように黒く変色までしておりました』



 黒い駒は更に南側の森の入口まで差し掛かる。灰色の駒は森を北上した後に地図上から取り除かれた。



『そして森の入口、結界が彼の者達の侵入を拒む筈でした。部隊の先頭、将軍ジェネラル級のオークが持っていた黒い短刀が南側の結界を切り裂いたのです。外から複数箇所刻まれてしまい、大軍が押し寄せて来ました』


 そして黒い駒が森へと侵入する。


『そこからはオーク達が次から次へと雪崩込むように森へと侵入してきました。一部のオークが瘴気を纏っており、呪詛の力で森を穢し始めたのです。我々も無我夢中でした。日に日に侵食され、清らかな場所はほんの僅かとなってしまったのです』



 黒く澱んだ空気、採取できないハチミツ、森の中を蔓延るオーク達。様々なピースがひとつに繋がっていく。



『そして、オークが持つ黒い短刀は世界樹の生命線をも切り刻んでいきました。全てではなかったのが幸いですが、加護もこの周囲のみ、力も本来の1割に満たないのが現状です。そんな中、我々が戦闘出来るのは加護の効くこの周囲のみ。森の守護者たる我らも力が足りず、嘆かわしく思うも現状維持で精一杯。木精霊様の助けを待つしかありませんでした』



 オーク達の侵攻が予測された時点で女帝蜂エンプレスビー達は助けを求めていた。それを聞いたのがセラフィだったということだ。もしかしたら木精霊王も聞いていて、解決の鍵として魔除けや浄化の効果がある『種』をドロップさせたのかもしれない。そしてさっき作った浄化のお香。全てここで使う為にもたらされたのではないだろうか。



『オーク達は森を侵攻し、北側の一部結界も破いてしまった様です。そちらは南側に比べて穴は小さいのですが……』
「なるほど、あの大将軍ハイジェネラルオークは結界を切ったヤツだったのか。単体で居たのは北側の結界をいち早く破る為、と」
「そうか!だから他の仲間は見当たらなかったんですね!」


 女帝蜂エンプレスビーもまさか既に遭遇していたとは思わなかった様だ。


「そいつに関しては北の平原で討伐済です。短刀の所持は不明ですが、見つけたら入手経路を調べねば」

 現在、大将軍ハイジェネラルオークはトスリフのギルドに預けたままだ。ザクセンが解体してギルドの魔法収納箱大インベントリにしまっているはず。所持品も全てそこに納められている筈だ。それなら持ち出されて悪用される可能性は低い。



『他にも北側で妙な動きをしていたオークが居たようです。暗殺蜂アサシンビーによると北の平原で黒いドラゴンがオークの軍団を仕留めていたとか……あの平原にドラゴンがいるなどにわかに信じ難いのですが』



 あ。



 アリオットとジークレストは思わず目を逸らした。が、逆にいい状況を作り出していたようだ。自由にしてていいとは伝えたが、オーク退治をしているとは予想外だった。恐らく、トスリフや王都グランスタへの影響は出ていないだろう。(ただしトスリフのギルドは除く)




 コホンと咳払いしたジークレストが気を取り直す。


「とりあえず世界樹が敵の手に落ちていないだけまだ挽回の余地はあると思われます。やらなければならない事は大きく3つかと。問題はその3つをどう実行するか、でしょうね」



 一同はジークレストの発案にじっと耳を傾けた。


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