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【2】ざわめく森は何を知る。
41)森の護り手。
しおりを挟む世界樹の周囲には様々な蜂型魔物が戦闘していた。
通常種・片手剣と盾を装備している兵士蜂、槍を持って突撃しているのは槍兵蜂、遠方攻撃は弓兵蜂、双剣を装備して強襲をかけているのは強襲蜂だ。
これらを総称して戦闘蜂と呼ばれている。縄張り意識が非常に強く、無闇に近寄ればすぐさま攻撃されてしまう。中には毒を用いた攻撃もあり、敵対した際は数も多いので苦戦は必須だ。ただし、普段は花畑からハチミツを作り出したり、植物を育てる手助けをするなど温厚な一面もある。
「酷いな……」
あちらこちらに負傷した戦闘蜂や打ち倒されたオークが見受けられる。可能であれば回復してあげたいが、暗殺蜂には案内したい場所があるようだ。
「副団長ーっ!」
「ザック!」
「ザックさん!!」
振り返ると召喚したのであろう三つ首の犬型の獣に跨ったザックがオーク達を蹴散らしながらやってきた。
「そいつはケルベロス……!?お前そんなの呼べたのか!?」
「秘蔵っ子のうちの一体っすよ!この辺りの敵も任せてくださいっす!」
黒炎を纏いながらダンっと構えるケルベロス。闇より深い黒い毛に、鋭く光るような金色の瞳は敵を捉え、ただひたすらに威圧する。
「へへっ!変異体だろうが何だろうがかかって来るっす!地獄の炎は熱さよりも痛みの方が強いっすよ!」
ケルベロスの背から降り、剣を構える。今回は戦闘蜂も味方である。数は多いが先程よりは幾分かマシだろう。
「すまん!頼んだ!」
「もちろんっす!そっちはよろしくっすよ!」
再び前を見据えて暗殺蜂についていく。暗殺蜂のスキルの一つだろうか。オーク達の索敵に引っかからないようにしてくれている様だ。
やがて案内されたのは世界樹の幹の裏側だった。ブーンと暗殺蜂が飛んで行った先、少し上の方の太い枝を伝った幹の部分に人が一人通れる位の穴がぽっかりと空いている。よじ登れば届きそうだが、木登りは苦手だ。
困っていたところにシュルシュルと蔦が伸びてくる。こういった事をしてくれるのは一人しか思い浮かばない。
『ますたー!』
「セラフィ!ここにいたの!?」
『だまってはなれてごめん!でもさきにはなしをしておきたかったの!』
時刻は既に夕刻、日が暮れてしまってはセラフィが眠くなって動けない。その前にこの戦闘蜂達に話を通してくれているようだった。暗殺蜂に誘導され、蔦を登り、世界樹の幹の穴へと入る。
『このはち、みんなまもりて!せかいじゅとこのもりをまもってる!でもあるとき、せかいじゅのけっかいがきれた』
穴に入る時には少し屈まなければならなかったが、中は割りと広く普通に立っていられるほどだ。通路は緩やかな下り坂になっており、世界樹の内部から地下へと続いているようだった。
『おーくがたくさんやってきた。おーくじゃないのもやってきた。けっかいきれたところから、くろいもやもやがでてきて、おーくがきょうぼうになった』
セラフィの説明を聞きながら奥へと進んでいく。地下部分に差し掛かると内部はひんやりとしていた。幹部分はシンプルな通路だったのが地下になった途端に分岐が多くなった。そして一際大きい扉の前へ案内された。
『もりをまもってるじょていばち、なかにいるの。ますたー、じょていばちを、みんなをたすけてあげて!』
暗殺蜂が重たい大きな扉を開く。
蜂蜜色の壁面、床には赤い絨毯と色とりどりの小さな花で飾られ、ヒカリゴケで明るく照らされた広い部屋。奥の椅子には一際大きく美しい容姿の蜂型魔物が鎮座していた。透き通るような羽は虹色、首元の純白のファーが高貴な身分であることを窺わせる。
暗殺蜂はすぐさま膝を着き頭を垂れる。
この者が世界樹と森の護り手、戦闘蜂達のトップであり司令塔。女帝蜂であった。
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