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【2】ざわめく森は何を知る。
61)お勉強会です。
しおりを挟む客室。
待機時間を利用してドリアードとアングレウスにそれぞれの魔法を指南してもらう。『合成や二属性以上を同時に扱うなら魔力それぞれに色や形をつけて感じるとわかり易い』と言われ、最初は「??」状態だったが、なんとなくコツをつかんでみれば「なるほど」と想定以上にストンと飲み込めた。
例えば属性付与の場合。
木属性で作った蔦や蔓に聖属性を粉の様なイメージで振りかければ、即席の聖属性武器が出来上がる。もちろん普通の剣や斧、杖等でも同じだ。ぐるっとコーティングでも良いのだろうが『イメージ力を高めるんだな』と言われてしまった。粉を振り掛けるのなら形を問わずに使えるぞ、と言いたかったらしい。悔しいからこの辺りはこっそり特訓しよう。
糸状に伸ばしたそれぞれの属性を三つ編みの様に絡めたり、棒状の先端に別の属性を丸めてつけてみたり、とコントロール中心ではあったがやってみると面白い。イメージ1つでここまで自在になるとは予想外だった。
まぁアングレウスにとってもここまであれこれ出来るとは思ってもなかった様子だが。
『じゃあ次の課題は私からね。この枝の折れてしまった苗木に魔力を通してこの枝と繋げてみて』
ポンッとドリアードが取り出した苗木は80cm位はある、大きめの鉢に植えられている普通の植木。ただ、話の通り幹の根元からポッキリと折れてしまって痛々しい。
そっと幹に手を当てて魔力の流れを探る。コポコポと幹を通る水の音、サワサワと静かな呼吸の音、そして途中で途切れてしまっている繊維が見えた。ただし、それは一箇所ではなかった。「あれ?」と思いつつまずは枝から。折れた部分に枝を当てると繊維の一つ一つを丁寧に伸ばし、絡めるように紡いでいく。次第に僅かではあったが水の流れが枝の先まで通ったので、中を繋ぐのは上手くいった様だ。手を離せば枝は幹にきちんとくっついていた。
更に同じように魔力で繊維を感じ取りながら先端まで通りきらない部分を探り当てる。場所は残り2つ。どちらも根元だ。土の中なので手は添えられない。さて、どうするか。イメージだ。途切れた根から先の部分をイメージ、そしてそれを魔力で紡ぎ出す。養分をたくさん吸えるように、一本ではなくあちこちに枝分かれさせながらゆっくりと確実に紡いでいく。伸ばした魔力の一部が途切れた根に触れた。あとはこれを繋げれば良さそうだ。
静観していたアングレウスも『ほう!』と感嘆の声を零す。
『ふふ!よく出来ました!根の方もよく見つけたわね!おかげでこの子も大喜びよ』
全てを繋ぎ終えて目を開けると葉っぱだけだったはずの木に淡いピンクの小さな花がたくさん咲いていた。蕾すらなかったのに、だ。しかも葉の色も先程と比べれば明るく若々しい。魔力を通した事によって木の細胞が活性化したのだと言う。ここまで早急に変わるなんで誰も予想できるか!!
『さて、次は上級応用編。この子も治せる?さっきより難題よ』
次に出されたのは30cm位の小さなもみの木の様だ。ところが葉の色は紫、更に纏っている空気が重たい。負のオーラ、これは穢れに汚染されている。触れようとするとチリッと指先に熱が走る。この痛みは知っている。昨日、同じ痛みを受けたのだから。
まずは手を覆うモノをイメージしよう。そう、手袋だ。聖属性で薄く両手を覆ってから幹に触れる。イメージ通りに纏えた様で、さっきの熱や痛みはかなり和らいだ。こちらに侵攻してくる分も感じられない。
次は中を通る水も呼吸も汚染されているのが問題だ。何をイメージしよう。水の中をキラキラと煌めく粒子?太陽の様なホッとする暖かさと光?細ければ全体に行き渡るだろうか。
「あ、そうだ!」
注射だ。ワクチンをイメージしよう。穢れや汚染をウイルスだと思って、流れる水や呼吸は血管だと思って、そこにプスっと聖属性を注入したら何とかなりそうかもしれない。
『ふふふ、なるほどね。そう考えたのね』
『発想としては悪くは無いが、もっと別のイメージもあっただろうに……!』
2人して笑いを堪えている為に声が震えている。失礼な!これでも真剣である。
ムッとしながら木の中に充満する穢れを聖属性のワクチン隊(イメージです)が駆逐する様に駆け巡らせる。木の枝、葉の先、根元、繊維1つ1つに聖属性の魔力を走らせる。もちろん魔力で途切れた部分を繋ぎ合わせるのも忘れない。しかし今ひとつ決定打に欠けている。最後のひと振りに、もう一つ何かイメージが欲しい。
『ピュリフィケーション、だ』
見兼ねたアングレウスが聞き慣れない言葉を放った。
「ぴゅあふぃ……?」
『ピュリフィケーション、つまり浄化だ。全てを祓うと思って言葉にすると良い』
先端にまで追い込んだこの穢れを追払う。否、全て光で霧散させるのだ。
「清め!祓え!霧散せよ!『浄化』!!」
木の内側から光が溢れ出し、黒い靄がファサーっと散っていった。紫がかっていた葉の色はすっかり深緑に戻っており、先程の木と同じく活き活きとしている。
「ふぅ、やった……かな?」
『バッチリね!お疲れ様!』
『上出来だ。言の葉こそイメージの結晶。だからこそ人は皆詠唱し、言葉でイメージし、名前をもって魔法を放つ。イメージが固まれば詠唱も不要だがな』
よくやった、と頭を撫でられる。まさか精霊王に頭を撫でられるとは思ってもみなかったが、力を認めてもらえた様でとても嬉しかった。
『あらー、アングレウスったらアリオットくんお気に入り??』
『なっ!優秀な教え子だと思っただけだ!……とにかく!さっきの感覚、どちらも覚えておくようにな。それが今後重要だからな』
プイッとそっぽを向いてしまったが、ドリアードが仄かに赤くなっている耳を指さしている。『珍しいデレよ、デレ!』なんて耳打ちしてくるから笑いを堪えるのに必死だった。
「ありがとうございました!」
『……続きはまた後程だ』
アングレウス様、口元も緩んでますよ、とは思ったがこれはさすがに黙っておくことにした。
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