僕と精霊のトラブルライフと様々な出会いの物語。

ソラガミ

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【2】ざわめく森は何を知る。

62)大精霊の願い。

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 時を同じくして客室。
 奥でアリオットと精霊王2人による勉強会をしている最中の事である。
 ザックは目の前に正座、否、土下座している大精霊に正直戸惑っていた。



「えーっと、まぁあれは俺の実力不足もあるっすし」
『いや、謝罪せずにはいられないのだ!それにあの反射神経と順応力の高さに感服した!姿を見せぬままにあの様な攻撃、本当に……本当に申し訳なかった!!』



 ゴツンと大精霊の額が床に勢いよく当たる音が響く。


『従魔にも悪い事をした……。可能であればあの者にもきちんと謝りたい』
「スラリーなら回復したらまた喚ぶっすよ。それにすぐ回復するっすから、気にしないでほしいっす」



 一向に頭を上げようとしない大精霊にどうしたものかと。そういえば精霊王のアングレウスが話を聞いてやってほしいとか言っていたなぁと思い出す。その話を切り出せばこの土下座モードは解除されるのでは、と考えた。


「謝罪の件は受け入れたっすよ。で、何か俺に話があるとか何とかって」
『そうなのだ!どうか、どうか我の願いを貴殿に聞き入れていただきたいのだ!』


 バッと頭を上げたので土下座は解除されたのだが、次は胸の内に何かしらの熱意を秘めた眼差しがザックを容赦なく貫いた。少したじろぎながらも話を聞くが、引く気はなさそうだ。寧ろこちらが引いた分を押して来る。


『どうか我と契約して欲しいのだ!全力で貴殿に協力……否!仕えさせていただきたい!あの様な無礼の後に図々しい願いであるのは重々承知している。しかしもし僅かでも可能性があるのであれば、貴殿に従事させてほしいのだ!』


 この通り!と再び頭が地面に埋まるかのように土下座してしまった。


「わ!わ!とりあえず頭を上げるっす!顔を見れないとまともに話し合いも出来ないっすよ」
『でも我は本気なのだ。貴殿に仕えられないのなら妖精として一からやり直す腹積もりだ』



 大精霊に至るまでその努力も道程も大変だっただろうに、それを全て捨ててやり直すと言う。覚悟はそれほどまでに強かった。

 基本的にザックが召喚用の魔獣や魔物などと契約する時は「来る者拒まず去るもの追わず」のスタンスだ。何事も一期一会、縁があって色々と繋がると考えているからだ。だから別に大精霊との契約を拒むつもりはなかった。
それでも聞ける事、主張等は聞いておきたい。大精霊なので召喚とは異なるがどういう場面で活躍するのか、どういう場合は不利となるのかきちんと把握する為だ。


「もし俺と契約したらどんな事ができるっす?メリット、デメリットをきちんと確認しておきたいっすし」
『あ、ああ。まず聖属性の魔法は当然であるから省くとして、我には観察眼がある。他にも長期間の単独行動が可能であるのでな、別の者にしばらく協力したり、離れていても念話で状況を報告する事も容易い。精霊と異なり距離に制限はないし周りの環境にも影響を受けにくい。魔法も攻撃だろうと守備であろうと任せて欲しい。浄化も得意なのである!もちろん、契約者にも呪属性耐性が得られる』


 精霊は周囲の環境が自分と相性の良い場合なら単独行動もさほど制限を受けない。が、契約者から離れれば離れる程に魔力供給等の力が弱まる為、力が上手く発揮出来ない等の影響が出てくる。セラフィの場合は森の様に周りが同じ属性で囲まれているから単独行動が可能だったのであり、これが街や洞窟、ダンジョンになるとこうは動くことが出来ない。ただし、大精霊クラスになればその制限はなくなる、ということだ。もちろん、不利な環境もあるので無理無茶は出来ない。



『デメリット……弱点は存じているとは思うが呪属性。相対する属性であるからな、耐性が出来るとは言えどもあまりに強いと防ぎきれないのだ。それと我の性格だろうか……。あの木精霊みたいな可愛げが我には無いからなぁ』


 最後のはもはや苦笑いだ。それでも自分の弱い部分を把握しているのはある意味強みでもある。そこをどう対処するかが掴みやすいからだ。不足な部分は補えばいい。



「ちなみに他の人からの見え方とかどうなるんすかね??契約者にしか見えないとか、契約者と認めた者だけが見えるとか、姿形とかっす」
『その辺は調整可能である。見せたくなければ姿は消せるし、見せる事も可能である。まぁ精霊眼持ちには見えてしまうが。大きさや姿は……こんな感じか??』



 クルッと回転したと思ったら小さな金色の獅子になる。ちょっと猫っぽいと思ったのは内緒だ。更にクルッと回転すれば30cm位の金色の鳥に。


『手頃な感じだとこの辺りだろうか。色は属性の影響故に変えられないのだが』

 そして元の姿に戻る。擬態よりも元の姿の方が楽なのだろう。必要な時だけお願いするし、無理をさせるつもりもない。




「はは、充分っすよ!教えてくれてありがとうっす」




 まるで大精霊相手に面接をしているような感じだ。おかげで気持ちも強みも伝わってきた。きちんと大精霊と向き直り、手を差し伸べる。


「俺はザック。ザック・ゼクシス。王都騎士団、第三部隊所属の召喚士っす。今後ともよろしくっす!」


 ニカッと笑って自らを名乗ると大精霊の目が大きく見開いた。


『良いのか?貴殿を怪我させた我と契約してくれるのか??』
「だから、それは俺の力不足が問題なんす!それに断ったら妖精からやり直しちゃうんすよね?勿体ないっす!聖属性の協力者なんて本気で少ないっすし、俺としては歓迎っすよ」



 認めてもらえた事が余程嬉しかったらしい。堪えきれずにポタリポタリと涙が溢れ出す。ゴシゴシと拭うと跪き、ザックへと宣誓する。



『我は聖属性の大精霊!我はこれより貴殿、ザック・ゼクシスを主として今後お仕えする者なり!我が力は主の為に!』


 言葉は力となって己を奮起させる。先程までの不安そうな表情は完全に吹っ切れ、清々しい程にクリアだ。これなら彼の力を存分に発揮できるだろう。



『主、願わくば名前を賜りたい。我々は精霊王以外に名前は無いのだ』
「へぇー、そうなんすね。んー、どうするっすかねぇ~」



 期待を込めたキラキラとした視線が突き刺さる。なかなかのプレッシャーである。
 名前、名前。さて何にしようか。聖なる、眩しい、光、金色、イメージが固まらない。



「んじゃ、セインティス。略称でセインっすかね」
『!!!!セインティス!セインティスだな!ありがとう主!凄く嬉しいのだ!これから主の為に我は励むのだ!!』




 主と呼ぶよりマスターの方がカッコイイのか??と悩みつつも歓喜する聖属性の大精霊セインティスがとっても眩しいなぁーと思いながらザックの意識はフワッと軽く遠のいた。




*****



『わー!わー!!アングレウス様!!アングレウス様ーーーっ!主が、マスターがーーーーっ!!』
『!?落ち、落ち着け大精霊の!契約による一時的魔力の欠乏だ!名前つけてもらえたのだろう??こら、頭を揺らすでない!落ち着け』
『うわぁーーーん!我はまたやってしまったのかーーっ!我はダメな大精霊だーーっ!!』


 取り乱す大精霊と、その大精霊に頭をゆっさゆっさと揺らされている精霊王の今の威厳はどちらもゼロだ。それと何となく既視感のあるようなないようなこのやり取り。

『ふふ、あの子セラフィも喋れなかったけど、あんな感じだったわよ』
「あ、納得です……」



 とりあえず床に倒れているザックをベッドに動かす時も『さぁこれもコントロールのお勉強よ!』と上手く使われていたのは内緒である。
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