僕と精霊のトラブルライフと様々な出会いの物語。

ソラガミ

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【2】ざわめく森は何を知る。

EX03-5)黒竜さんとお肉お代わり。

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『あ、おじちゃん!』
『チビ助、またお前は勝手に……否、それどころではなかったな。黒き竜よ、この子が世話になった。まずは感謝を』
『構わん。我が誘ったのだ』


 一度ブレスを止め、相手の方へ向き直る。
 月光に照らされて白銀色に輝く毛並み、きりっとした顔と鋭い黄金の眼。まさしく銀狼シルバーウルフである。この小さな個体とこのリーダーらしい大きな個体は血縁なのだろう、尻尾に同じ一筋の黒い線が模様として入っている。


『黒き竜よ、ここが其方の住処と知らず踏み荒らして申し訳無い。ただ我々も事情がある故、去るまでに暫し時間を戴きたい』
『その事は気にしなくていい。我も馬鹿力から事情を聞いている。お主らと話がしたくてな、何もない席ではつまらんだろう?というわけで肉を用意したのだ!』



 決して誘き寄せる為ではないのだぞ!これも交渉材料の一つなのだ!
 ん?しれっと目的をすり替えている?ふん、気のせいだ!


 後ろに控えていた若いシルバーウルフ達の中には恐らく一戦を覚悟していたのも多かったのだろう。警戒したままではあるが、仲間内で顔を見合わせている。


『話?気高き黒き竜が我らと?』
『そう、一種の交渉みたいなものだな。まぁ肉はまだ別の所にたくさんあるのでな、全て食べてもらえるとありがたい』
『おじちゃん!みてみて!竜のおじちゃんが焼いたお肉、すっごい美味しいの!』



 竜のおじちゃん……我、そんなに年をとっていただろうか。
 ショックを受けているドラゴンを横目に、相変わらずもぐもぐと食べている小さな個体――チビ助が周囲の緊張感を解いていく。



『コホン。とりあえず仲間をここに集めておくがいい。肉を運ぶのに最低2往復せねばならんのでな』


 チビ助の頭を軽く撫でてやるとくすぐったい、と身を捩っていた。若いシルバーウルフ達は一斉に厳戒態勢になったが、大きな個体が制した事でピタリと威嚇を止めた。統率はしっかりと成されているらしい。


 とりあえず肉の元へ戻ろう。翼を広げ、豪風を巻き上げて空へ舞う。
 次の肉はどうしたものか。チビ助に好評だったのが思いの外嬉しかった。今度は最初に叩き落としたヤツを丸々持っていくことにしよう。スライスしたヤツもいくつか抱えられるだろうか。


 巨猪を丸々抱えて空を飛ぶのには少し苦労した。さほどの距離ではないのだが、半分とちょっと体積が増えるだけでこんなにもバランスがとりにくいとは!戦闘でもないのに筋力上昇のスキルを使うとは思いもしなかった。
 戻る頃にはシルバーウルフの数も倍以上に増えており、誰しもが巨大猪肉の大きさに驚愕していた。


『うわぁ!大きい!』
『これ、本当に食べられるの?』
『な!こんなに大きな獲物を捕らえたと!?我々の為に!?』
『何が目的なんだ!?俺らにできる事なんざもう……』



 シルバーウルフ達から出てくる言葉はただ「信じられない」と揃って言うばかりである。



『細切れの方がよいか?それともこのまま食べるか?』
『子供達にはあちらの切れている方を、大人達にはこのままで構わない。そこまで其方に手を煩わせるわけにはいかぬ』
『……怪我してるやつらもいるんだろう?程々の大きさに切り刻んでおくから、持って行ってやるといい』
『そうか……其方の爪は何よりも鋭いのだったな。ではお言葉に甘えさせてもらおう』



 スパパパッと切り刻み、そこそこの大きさに切り揃えるとすかさず炎のブレスを掛ける。小さくしたから火の通りが早いようだ。なるほど、次はこうした方がより早く大量に焼けそうだ。外側がこんがりとジューシーに、漂う香りとしたたる脂が食欲をそそる。丸々と噛り付いていた大人達がそれに気づいて一斉にこちらを向いた。



『うまそう……』
『いい香り……』
『あれも肉……?』
『じゅるり……』

『あー……後でちゃんと焼いてやるから待っててくれ』



 皆揃って『やったぁ!』だの『よっしゃぁ!』だのと大騒ぎである。獲物を見つけた肉食獣はとても視線が鋭い。もはや凶器の類である。
 そんな中、大きな個体が焼き上がった肉をいくつか負傷者達に届けるようにと指示を出す。若い者達が焼けた肉を咥え、驚きに目を見開くとプルプルと首を横に振り始めた。

『リーダー!これを咥えながら走るとか酷すぎです!無理です!耐えられないです!』
『じゅわって甘い!これ到着する頃には半分に減ってると思う!』
『やばいよリーダー、だって口の中でとろけるんだもん!』
『……お前達……』



 大きな個体が呆れ顔で若いシルバーウルフ達を見やった。すでに肉の虜である。
 どうやら先にこいつらの腹を満たしてやってからでないと無事に肉が運ばれない様だ。


『むう、身内の恥を晒してしまってすまない』
『気にするなと言っている。この森には小さい動物しかいないからな、腹空かせてたのだろう?』

 予想は当たっていたようだ。これだけの群れである。この森の小動物では食料が足りるわけがない。大方採れた獲物や果物等は負傷者や子供達を優先に渡していたのだろう。住処を追われ、巻き込まれ、それでも尚チャンスを逃さぬようにと生き続ける。なんとも辛抱強い種族だろう、とつくづく思う。


『お前達は我にとって客人の様なものよ。とりあえず今は腹を満たせ。後でお前達の住処を取り戻せるように』
『……いま、なんと……??』
『……残りを取ってくる。お前もそろそろ何か口に入れておくがいい』


 まさか、と驚愕の表情を抑えられない大きな個体を背に、再び暗い空へと飛び立った。

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