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【2】ざわめく森は何を知る。
EX03-6)黒竜さんと交渉。
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残りの肉を抱えて持ってくるとまだまだ食べたりない若者数頭が『待ってましたー!』とはしゃぎ始めた。遠慮も警戒心もなくなり、ある意味良かったと思う。
大きくスライスし、軽く炙る程度にブレスを掛ける。そこそこの火力で放ったのが良かったのか、意図せず周りはこんがり、中には脂たっぷりとなかなかの仕上がりになっていた。
『すまない。でもこんなに楽しそうな同族を見るのは久しぶりだ』
『そうか。なかなか大変だったと聞いた』
新たに焼いた肉を大きな個体へ渡す。最初は遠慮気味だったが、もぐもぐと咀嚼し始めるとやはり肉食、好みである肉の味には抗えない様で次々に平らげていった。
その間に満腹になった若者達に今度こそ負傷者の所へ届ける様に、と大きめの肉を渡す。
『これなんか味違う?』
『……それ以上食うなよ』
食いしん坊が多いのも大変そうだ。
『はっ!そうだ!黒き竜よ!先程の言葉は誠か!?』
ついつい肉に夢中になって噛り付いていたが為に大事な事がすっ飛んでいたらしい。チビ助と同じように口の周りが脂で茶色くなっている。白銀色の毛やシルバーウルフ独特の威厳が台無しである。
『おう。我の友が南方の森の先からやってきた豚共を何とか退治しようと計画している。あいつらは持ち込んではならない物を持っていた。更に狂気を持つ者もいる。まずは森を取り返す、そして奥の本陣を攻め落とすという』
『狂気、か。我々の仲間も何体かがその狂気に飲み込まれた。そいつらは人間共に倒されたが……救える方法は無かったんだろうな』
救えなかった悔しさが今も滲み出ている。荒野から追われ続け、気が付けばこんな僻地にまで追いやられてしまった。仕方なかったと頭の中で言い聞かせてもモヤモヤは晴れない。
『お前はこの群れの長なのだろう?抱えるモノも背負うモノも多いだろうが、前をしっかり見据えねばならん』
若者たちのお腹は満たされた様で、ようやく催促の嵐から解放された。お待ちかねのお肉にガブリと噛り付く。うむ、なかなかの美味さ。生で食べるよりも脂がのって甘く感じる。
『その友とは同じく竜なのか?』
『グハハ!残念ながらこのあたりの竜は我のみよ。友とは我が心を許した人間でな、あやつは一人単純な馬鹿力で我を捻じ伏せた実力者。話もわかる面白いヤツよ』
人間だったのが意外だった様だ。ましてや単騎でこの竜を倒す程の実力。にわかに信じられないといった視線でじっと見ている。
『そやつがな、お前らを元の故郷に戻したいそうだ。あの不思議な森を通過してきただろう?豚共を追い払い、浄化したりと時間は掛かるだろうが此処に引きこもっているより良い話だと思うがな』
リーダーである大きな個体はじっと黙って考え込んでいる。負傷者の数、戦力、子供達。人間からの提案を信じて良いのか、しかしこの黒い竜が従う程の実力者。そしてあの日からずっと気掛かりだった事。
『……ここまでしてもらっていてすまないのだが、我の願いを一つ聞いてもらえるだろうか』
長い沈黙を破って重たい口が開かれる。
『その森に……わが子がまだ残っていると思うのだ。あそこのチビ助より少し大きいのだが……ずっと気掛かりで仕方なくてな』
彼がリーダーである以上、個人よりも群れの事を考えなければならない。探しに行きたかったが、ここまで負傷者が多く、他者の縄張りに踏み込んでいる為にそう簡単に身動きも取れない。誰かに相談できる状態でもなかった。
『構わん。その位あやつは簡単に引き受ける。もちろん我も協力するがな!』
『いいのか?』
『長たるお前とではなく、これは我とお前の個人的な約束だ。お前の息子だろう?きっと上手く生き延びているだろうさ』
『すまない……!我々が戦力になるかはわからない、が前向きに検討する。約束する!皆の総意も聞かねばならんのでな、返事は明日の夜、この場所でも良いだろうか』
今まで暗く陰を帯びていた彼の眼が見違えるほどに輝いていた。前を見られる様になっただけでも今日は重畳だ。
『ああ。良い返事を期待している』
『何から何まですまない!ありがとう!』
彼の息子の特徴は、彼と同じく尻尾に黒い線が一筋入っているという。このリーダーである大きな個体の血縁者はどうやら同じ特徴が出るらしい。故に地元では彼の事を『黒銀』と呼んでいたそうだ。
アオーーンと彼が一つ雄たけびを上げると今まで満腹でゴロゴロとしていた若者たちが一斉に身を整え背筋を伸ばして注目する。どうやら彼らの拠点へ戻るらしい。残った肉も皆で運んでいくという。あれなら拠点に残っている者達もしっかり食べられるだろう。
さて、空が明るくなってきてしまった。久しぶりの住居で我も軽く休むとしよう。
(……名前か。あやつも我に何か呼び名をつけてくれないだろうか……)
伝わってそうで伝わってない彼の希望がジークレストに通じる日はいつになるのだろう。
この後、数時間だけ寝るつもりだったのが昼前まで寝てしまい、慌てて友に報告しに向かうのである。
*********
そして74話目に続く。
大きくスライスし、軽く炙る程度にブレスを掛ける。そこそこの火力で放ったのが良かったのか、意図せず周りはこんがり、中には脂たっぷりとなかなかの仕上がりになっていた。
『すまない。でもこんなに楽しそうな同族を見るのは久しぶりだ』
『そうか。なかなか大変だったと聞いた』
新たに焼いた肉を大きな個体へ渡す。最初は遠慮気味だったが、もぐもぐと咀嚼し始めるとやはり肉食、好みである肉の味には抗えない様で次々に平らげていった。
その間に満腹になった若者達に今度こそ負傷者の所へ届ける様に、と大きめの肉を渡す。
『これなんか味違う?』
『……それ以上食うなよ』
食いしん坊が多いのも大変そうだ。
『はっ!そうだ!黒き竜よ!先程の言葉は誠か!?』
ついつい肉に夢中になって噛り付いていたが為に大事な事がすっ飛んでいたらしい。チビ助と同じように口の周りが脂で茶色くなっている。白銀色の毛やシルバーウルフ独特の威厳が台無しである。
『おう。我の友が南方の森の先からやってきた豚共を何とか退治しようと計画している。あいつらは持ち込んではならない物を持っていた。更に狂気を持つ者もいる。まずは森を取り返す、そして奥の本陣を攻め落とすという』
『狂気、か。我々の仲間も何体かがその狂気に飲み込まれた。そいつらは人間共に倒されたが……救える方法は無かったんだろうな』
救えなかった悔しさが今も滲み出ている。荒野から追われ続け、気が付けばこんな僻地にまで追いやられてしまった。仕方なかったと頭の中で言い聞かせてもモヤモヤは晴れない。
『お前はこの群れの長なのだろう?抱えるモノも背負うモノも多いだろうが、前をしっかり見据えねばならん』
若者たちのお腹は満たされた様で、ようやく催促の嵐から解放された。お待ちかねのお肉にガブリと噛り付く。うむ、なかなかの美味さ。生で食べるよりも脂がのって甘く感じる。
『その友とは同じく竜なのか?』
『グハハ!残念ながらこのあたりの竜は我のみよ。友とは我が心を許した人間でな、あやつは一人単純な馬鹿力で我を捻じ伏せた実力者。話もわかる面白いヤツよ』
人間だったのが意外だった様だ。ましてや単騎でこの竜を倒す程の実力。にわかに信じられないといった視線でじっと見ている。
『そやつがな、お前らを元の故郷に戻したいそうだ。あの不思議な森を通過してきただろう?豚共を追い払い、浄化したりと時間は掛かるだろうが此処に引きこもっているより良い話だと思うがな』
リーダーである大きな個体はじっと黙って考え込んでいる。負傷者の数、戦力、子供達。人間からの提案を信じて良いのか、しかしこの黒い竜が従う程の実力者。そしてあの日からずっと気掛かりだった事。
『……ここまでしてもらっていてすまないのだが、我の願いを一つ聞いてもらえるだろうか』
長い沈黙を破って重たい口が開かれる。
『その森に……わが子がまだ残っていると思うのだ。あそこのチビ助より少し大きいのだが……ずっと気掛かりで仕方なくてな』
彼がリーダーである以上、個人よりも群れの事を考えなければならない。探しに行きたかったが、ここまで負傷者が多く、他者の縄張りに踏み込んでいる為にそう簡単に身動きも取れない。誰かに相談できる状態でもなかった。
『構わん。その位あやつは簡単に引き受ける。もちろん我も協力するがな!』
『いいのか?』
『長たるお前とではなく、これは我とお前の個人的な約束だ。お前の息子だろう?きっと上手く生き延びているだろうさ』
『すまない……!我々が戦力になるかはわからない、が前向きに検討する。約束する!皆の総意も聞かねばならんのでな、返事は明日の夜、この場所でも良いだろうか』
今まで暗く陰を帯びていた彼の眼が見違えるほどに輝いていた。前を見られる様になっただけでも今日は重畳だ。
『ああ。良い返事を期待している』
『何から何まですまない!ありがとう!』
彼の息子の特徴は、彼と同じく尻尾に黒い線が一筋入っているという。このリーダーである大きな個体の血縁者はどうやら同じ特徴が出るらしい。故に地元では彼の事を『黒銀』と呼んでいたそうだ。
アオーーンと彼が一つ雄たけびを上げると今まで満腹でゴロゴロとしていた若者たちが一斉に身を整え背筋を伸ばして注目する。どうやら彼らの拠点へ戻るらしい。残った肉も皆で運んでいくという。あれなら拠点に残っている者達もしっかり食べられるだろう。
さて、空が明るくなってきてしまった。久しぶりの住居で我も軽く休むとしよう。
(……名前か。あやつも我に何か呼び名をつけてくれないだろうか……)
伝わってそうで伝わってない彼の希望がジークレストに通じる日はいつになるのだろう。
この後、数時間だけ寝るつもりだったのが昼前まで寝てしまい、慌てて友に報告しに向かうのである。
*********
そして74話目に続く。
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