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学園編
8 お説教の後、自己紹介だよ
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迷わずたどり着いた学園長室の立派な扉の前に立つと、一度大きく深呼吸をする。
これから始まる、難易度の高い試練に耐えてみせる、と腹を括った。
そう、それは。
決して言ってはいけない『あのお方』の名前を言わないこと。
(絶対にダンブル○アとは呼ばない……!)
そう固く心に刻むと、覚悟を決めてドアをノックした。
応答を待って学園長室に入ると、やはり、というか。
あの映画で見た校長室と雰囲気がよく似ていた。
真正面に見える立派なアンティークの机の席にアルパス学園長は座っていた。
机の上に両肘を置き、白髪の長く伸びた三つ編みに編まれた顎髭を、祈る様に組んだ両手の上に乗せてこちらを睨む様に見つめていた。
(くっ!! やっぱりどこをどう見ても、もはやダンブル○ア校長にしか見えない!!)
愕然としているソレイユをよそに、アルパス学園長はゆっくりと声を発した。
「もっとこちらに来なさい」
「……はい」
(くうぅっ……! よく聞くと声まで似ている気がする!!……けど絶対、ダンブル○アとは、呼、ば、な、い……!!)
ソレイユは固く拳を握りしめ、机に近づくと軽く礼をした。
「……さて。君はソレイユ君と言ったか。入学式の後、ロアという生徒を殴った様だが。何か申し開きはあるかね?」
「ありません。でも、ロアという生徒は他の生徒を侮辱し、言葉の暴力を振るっていました。私も言葉の暴力を受けました。自分の心を守る為の、立派な正当防衛です。自分がやった事に後悔はしていません」
「……しかし。なにも物理的に殴ることはなかろう?」
「正確には、胸ぐらを掴まれそうになった為、正当防衛で仕方なくはたいただけです。それにロアも生徒を突き飛ばしていました。立派な暴力です」
「ロア君の事は本人が目を覚まし次第聴取する。今は君の行動について苦言を申しているのだ。話によれば、君は自ら平民だと公言したそうではないか。自ら個人を特定出来る内容を語るとは何事か?」
「私は別に平民だと公表した訳ではありません。平民を差別する発言に対して『平民を蔑ろにするな!』っとロアに苦言を申しただけです」
「全く。さっきから減らず口ばかり叩きおって……。入学初日からこんな面倒事を起こされたのは開校以来初めての事。その自覚は、あるのかね?」
「えっと、ごめんなさい?」
「何故疑問形で謝るのだ!? ……オッホン。まあ、兎に角。今後この様な騒動を起こさぬよう、自身を戒むことだ。今回は大目に見るが、また問題を起こす様であれば退学も辞さない。……良いな?」
「!! はい! これからは気を付けます! この度はご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした!!」
ここは穏便に済ませなくてはならない。
誠心誠意を込めて、前世の知識を活かした『適度に深く、長いお辞儀』をしてみせた。
その礼儀正しさが功を奏したのか、完全なるお辞儀を見たアルパス学園長の態度がやや軟化した。
「……ふむ。それなりに反省はしておる様だな。分かれば宜しい。……だが。後日必ず反省文は提出するように。では、教室に戻ってよし」
「はい! それでは失礼します! アルバス学園長!!」
「儂の名は、アルパスだ」
ケアレスミスで更に小言を貰ってしまったが、学園長室から無事脱出出来たソレイユは扉の前で一息吐いた。
「試練は乗り越えた。よし、行こう」
気持ちを切り替えると、授業が始まっているであろう自分の教室に向かうべく、怒られない程度の早足で歩き出した。
ソレイユが去って束の間、別の人物が学園長室の隣の部屋から入ってきた。
アルパスはフードを被った人物に顔を向けて問いかけた。
「……あの者が、歴代最高の攻撃魔法を撃ち出したと。……間違いはないな?」
「はい。一見だけでは大した魔法ではないように見えましたが、間違いありません。数値では測定不能となる程の高出力な魔力でした。それを最小までに濃縮し、高速かつ高威力を生み出す極めて高度な魔法である。との結論に至りました。
ましてや。魔法を通さない物質であるアダマンタイトで作られた的を……。まさか貫通、させるなど。あり得ない、いや、あってはならない筈なのです。
全くもって前代未聞。……彼女は、あらゆる意味で『危険』と言わざるを得ない存在です」
「ふむ。危険、か。……やれやれ、其方はちと懸念しすぎな気がするがのう。……まあしかし。今後、あの者はどのような事をしでかすのか。……ホッホッホッ、……楽しみだのう」
「ハア……楽しみ、ではなく。留意して下さい学園長……」
***
(初っ端から大目玉を食らってしまったけど、気を取り直して急いで S組に辿り着こう!)
授業中で廊下には誰もいない事をいい事に、途中から身体強化して超高速競歩で向かった。
(安心して下さい、早歩きです。走ってませんよ!)
迷う事なく最短ルートで到着すると、S組の教室の扉を勢いよく開けた。
「遅れてすみません!」
すると一斉に皆の視線がソレイユに向けられる。
先生にしてはかなり若い、男性の美形教師が教壇に立っていた。
白い髪に緑の瞳で身長の高い、大層モテそうなこの人が多分担任の先生なのだろう。
「貴女がソレイユさんですね。私は担任のレグルスです。貴女の席は中央の一番後ろの席です。とりあえず座りなさい」
「はい!」
一番後ろだラッキーと思いながら、ソレイユは小走りに階段を上がって自分の席に座った。
アンティーク調のウォールデコレーションの窓が趣を醸し出す、劇場の様な階段教室だ。
講義室よりは若干狭いが、生徒の人数に対してはかなり広い。
そのせいか生徒が座る座席の間に空き机を挟んでいるので、前後左右の生徒との間隔が結構空いている。そして一人で使うには広すぎる長机。随分と贅沢な環境だ。
「ソレイユさん、机の中に学園の施設利用についての書類が入っているはずです。既に内容の説明は済ませたので、今のうちに内容を確認しておいて下さい。質問があれば、終礼後にお願いします」
「はい!」
言われた通り机の中を探って書類を取り出すと、速読で確認していく。
「さて、まだ一人揃っていませんが、今から一人ずつ自己紹介をお願いしましょうか」
(良かった。今から自己紹介なんだ。このクラスは一番上位。クラスメイトの八人のうち、数人は絶対に私の知る人物達のはず。第一印象で、誰が誰なのか分かるかな?)
「まずはそちら、一番手前のヴェヌスさんから。自己紹介は簡単でよいですが、名前と得意魔法は必ず伝えて下さい」
「はーい」
小麦色の髪のだいぶ小柄な美青年。見た目はほぼ美少年なヴェヌスは、立ち上がって満面の笑顔で皆の方を振り向いた。瞳の色は黄色だ。
「初めましてー。僕の名前はヴェヌスだよ。えーと、土魔法を使うのが得意かな? 学園に通うのずっと楽しみしてたんだ! 皆んな、仲良くしてねー?」
(何だか小動物な感じでちょっと可愛いかも……。末っ子の弟って感じ。……うーん。流石にこの子は公爵の誰かではない気がするなー)
「ありがとうございます。では隣のセレーネさん、お願いします」
「はい」
女性では珍しいショートヘアで、色は銀髪の少女が立ち上がりゆっくりと振り向いた。瞳の色は水色の美少女だ。
「皆さん初めまして。セレーネと申します。得意魔法は土魔法です。一年間宜しくお願いします」
綺麗な礼をして着席した。
「わー! 僕と同じで土魔法得意なんだー。お隣同士、仲良くしてねー?」
「……こちらこそ、宜しくお願いします」
(ちょっとサバサバした、クールビューティーな感じ。もしかしたらエカテリーナ様かな?)
「ありがとうございます。次、ステイルさん。お願いします」
ステイルと呼ばれた生徒は黒に近い深緑色の髪。立ち上がるとかなりの高身長だ。
皆の方を振り向いて一通り女子生徒を眺めると、紫の瞳を細めて妖艶に微笑んだ。
「初めまして、可愛いレディ達。僕の名前はステイル。得意魔法は水。素敵なレディ達と一年間共に出来るなんて、最高の気分だ。これから一年、どうぞ宜しく。遅れて来たそこの仔猫ちゃんも。な?」
最後にソレイユを見ると、軽くウインクを飛ばした。男子生徒をまるっと無視した自己紹介で着席した。
(……すけこましナンパ野郎か? って言いたくなる……。美青年だけど、絶対違うでしょ。 ……あれ? も、もしかして公爵の三人の内、誰かは成績ごまかしてS組に居ない可能性も、やっぱりある……?)
「……ありがとうございます。ではステイルさんの後ろの席のアナスタシアさん、お願いします」
「分かりましたわ」
顔のサイドに伸びたラベンダー色の綺麗な縦ロールを手のひらで払うと、優雅に立ち上がった。
十五歳の女子にしてはかなり背が高い。美少女というより美女だ。
「私の名はアナスタシア。得意魔法は火です。これから一年、宜しくお願い致しますわ」
前を向いたまま、ロンタイを少しつまんで簡易なカーテシーをしてから着席した。
(……あの縦ロール。どう見てもカトリーヌ様だろう……)
「さて、次は私ですね」
アナスタシアのひと席空けて左の席に座っている新入生徒代表だったナハトが、レグルス先生が呼ぶ前に立ち上がった。
ソレイユから見て、ひと席空けて真ん前の席だ。青い髪がさらりと揺れるのがよく見えた。
「皆様初めまして。私の名はナハト、と申します。得意とする魔法は風魔法です。皆様におかれましては、S組にて就学される優秀な方々ばかり。直ぐには追い抜かれぬよう、精一杯学業に励む所存でございます。どうぞ宜しくお願い致します」
四方八方の生徒に礼儀よく礼をしていく。ソレイユも例外なく礼を受けた。ソレイユも軽く頭を下げた。
(ナハト君、代表挨拶の時も思ったけど。凄く丁寧、と言うか随分と畏まった挨拶だな。……公爵の中でだと誰だろう。近いとしたら、ウィリアム様……?)
「ありがとうございます。では隣のミモザさん、お願いします」
「はい」
セミロングのストレートで若草色の髪の美少女が立ち上がった。横に体を向けると、黄色の瞳をやや細め、皆に向かって優しそうな微笑みを浮かべた。
「皆さん、初めまして。私の名はミモザと申します。得意魔法は水魔法です。一年間どうぞ宜しくお願いしますね」
丁寧に一礼をして着席した。
(この美少女は……カタリナ様、かも?)
「ありがとうございます。では、ミモザさんの後ろの席のレテアさん。お願いします」
「は、はいっ……!」
ソレイユの隣の席に座っていた、ふわふわ柔らかそうな長い金髪に緑色の瞳の美少女は慌てたように立ち上がった。
緊張しているのか、手が少し震えているのが見えた。
(う、プルプル震えてるの小動物みたいで可愛い! 何だか思わず守りたくなる様な、庇護欲を感じるな、この子)
「み、皆さん初めまして。私の名前はレテアと申します。得意魔法は風魔法です。仲良くしていただけると、嬉しいです。どうぞよろしくお願い、いたします!」
恥ずかしいのか顔が少し赤くなりながらも、きちんと一礼して着席した。
(庇護欲を感じさせるけど、節度もありそうで好感が持てる。……あ……。もしかしたらこの子……ヒロイン、なのかもしれない……。私とは正反対の、可憐系、ヒロイン……)
「はい、ありがとうございました。では、次にソレイユさん。お願いします」
「……」
「ソレイユさん?」
「あ、はい! すみません、私の番ですね!」
ソレイユは慌てて立ち上がった。
これから始まる、難易度の高い試練に耐えてみせる、と腹を括った。
そう、それは。
決して言ってはいけない『あのお方』の名前を言わないこと。
(絶対にダンブル○アとは呼ばない……!)
そう固く心に刻むと、覚悟を決めてドアをノックした。
応答を待って学園長室に入ると、やはり、というか。
あの映画で見た校長室と雰囲気がよく似ていた。
真正面に見える立派なアンティークの机の席にアルパス学園長は座っていた。
机の上に両肘を置き、白髪の長く伸びた三つ編みに編まれた顎髭を、祈る様に組んだ両手の上に乗せてこちらを睨む様に見つめていた。
(くっ!! やっぱりどこをどう見ても、もはやダンブル○ア校長にしか見えない!!)
愕然としているソレイユをよそに、アルパス学園長はゆっくりと声を発した。
「もっとこちらに来なさい」
「……はい」
(くうぅっ……! よく聞くと声まで似ている気がする!!……けど絶対、ダンブル○アとは、呼、ば、な、い……!!)
ソレイユは固く拳を握りしめ、机に近づくと軽く礼をした。
「……さて。君はソレイユ君と言ったか。入学式の後、ロアという生徒を殴った様だが。何か申し開きはあるかね?」
「ありません。でも、ロアという生徒は他の生徒を侮辱し、言葉の暴力を振るっていました。私も言葉の暴力を受けました。自分の心を守る為の、立派な正当防衛です。自分がやった事に後悔はしていません」
「……しかし。なにも物理的に殴ることはなかろう?」
「正確には、胸ぐらを掴まれそうになった為、正当防衛で仕方なくはたいただけです。それにロアも生徒を突き飛ばしていました。立派な暴力です」
「ロア君の事は本人が目を覚まし次第聴取する。今は君の行動について苦言を申しているのだ。話によれば、君は自ら平民だと公言したそうではないか。自ら個人を特定出来る内容を語るとは何事か?」
「私は別に平民だと公表した訳ではありません。平民を差別する発言に対して『平民を蔑ろにするな!』っとロアに苦言を申しただけです」
「全く。さっきから減らず口ばかり叩きおって……。入学初日からこんな面倒事を起こされたのは開校以来初めての事。その自覚は、あるのかね?」
「えっと、ごめんなさい?」
「何故疑問形で謝るのだ!? ……オッホン。まあ、兎に角。今後この様な騒動を起こさぬよう、自身を戒むことだ。今回は大目に見るが、また問題を起こす様であれば退学も辞さない。……良いな?」
「!! はい! これからは気を付けます! この度はご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした!!」
ここは穏便に済ませなくてはならない。
誠心誠意を込めて、前世の知識を活かした『適度に深く、長いお辞儀』をしてみせた。
その礼儀正しさが功を奏したのか、完全なるお辞儀を見たアルパス学園長の態度がやや軟化した。
「……ふむ。それなりに反省はしておる様だな。分かれば宜しい。……だが。後日必ず反省文は提出するように。では、教室に戻ってよし」
「はい! それでは失礼します! アルバス学園長!!」
「儂の名は、アルパスだ」
ケアレスミスで更に小言を貰ってしまったが、学園長室から無事脱出出来たソレイユは扉の前で一息吐いた。
「試練は乗り越えた。よし、行こう」
気持ちを切り替えると、授業が始まっているであろう自分の教室に向かうべく、怒られない程度の早足で歩き出した。
ソレイユが去って束の間、別の人物が学園長室の隣の部屋から入ってきた。
アルパスはフードを被った人物に顔を向けて問いかけた。
「……あの者が、歴代最高の攻撃魔法を撃ち出したと。……間違いはないな?」
「はい。一見だけでは大した魔法ではないように見えましたが、間違いありません。数値では測定不能となる程の高出力な魔力でした。それを最小までに濃縮し、高速かつ高威力を生み出す極めて高度な魔法である。との結論に至りました。
ましてや。魔法を通さない物質であるアダマンタイトで作られた的を……。まさか貫通、させるなど。あり得ない、いや、あってはならない筈なのです。
全くもって前代未聞。……彼女は、あらゆる意味で『危険』と言わざるを得ない存在です」
「ふむ。危険、か。……やれやれ、其方はちと懸念しすぎな気がするがのう。……まあしかし。今後、あの者はどのような事をしでかすのか。……ホッホッホッ、……楽しみだのう」
「ハア……楽しみ、ではなく。留意して下さい学園長……」
***
(初っ端から大目玉を食らってしまったけど、気を取り直して急いで S組に辿り着こう!)
授業中で廊下には誰もいない事をいい事に、途中から身体強化して超高速競歩で向かった。
(安心して下さい、早歩きです。走ってませんよ!)
迷う事なく最短ルートで到着すると、S組の教室の扉を勢いよく開けた。
「遅れてすみません!」
すると一斉に皆の視線がソレイユに向けられる。
先生にしてはかなり若い、男性の美形教師が教壇に立っていた。
白い髪に緑の瞳で身長の高い、大層モテそうなこの人が多分担任の先生なのだろう。
「貴女がソレイユさんですね。私は担任のレグルスです。貴女の席は中央の一番後ろの席です。とりあえず座りなさい」
「はい!」
一番後ろだラッキーと思いながら、ソレイユは小走りに階段を上がって自分の席に座った。
アンティーク調のウォールデコレーションの窓が趣を醸し出す、劇場の様な階段教室だ。
講義室よりは若干狭いが、生徒の人数に対してはかなり広い。
そのせいか生徒が座る座席の間に空き机を挟んでいるので、前後左右の生徒との間隔が結構空いている。そして一人で使うには広すぎる長机。随分と贅沢な環境だ。
「ソレイユさん、机の中に学園の施設利用についての書類が入っているはずです。既に内容の説明は済ませたので、今のうちに内容を確認しておいて下さい。質問があれば、終礼後にお願いします」
「はい!」
言われた通り机の中を探って書類を取り出すと、速読で確認していく。
「さて、まだ一人揃っていませんが、今から一人ずつ自己紹介をお願いしましょうか」
(良かった。今から自己紹介なんだ。このクラスは一番上位。クラスメイトの八人のうち、数人は絶対に私の知る人物達のはず。第一印象で、誰が誰なのか分かるかな?)
「まずはそちら、一番手前のヴェヌスさんから。自己紹介は簡単でよいですが、名前と得意魔法は必ず伝えて下さい」
「はーい」
小麦色の髪のだいぶ小柄な美青年。見た目はほぼ美少年なヴェヌスは、立ち上がって満面の笑顔で皆の方を振り向いた。瞳の色は黄色だ。
「初めましてー。僕の名前はヴェヌスだよ。えーと、土魔法を使うのが得意かな? 学園に通うのずっと楽しみしてたんだ! 皆んな、仲良くしてねー?」
(何だか小動物な感じでちょっと可愛いかも……。末っ子の弟って感じ。……うーん。流石にこの子は公爵の誰かではない気がするなー)
「ありがとうございます。では隣のセレーネさん、お願いします」
「はい」
女性では珍しいショートヘアで、色は銀髪の少女が立ち上がりゆっくりと振り向いた。瞳の色は水色の美少女だ。
「皆さん初めまして。セレーネと申します。得意魔法は土魔法です。一年間宜しくお願いします」
綺麗な礼をして着席した。
「わー! 僕と同じで土魔法得意なんだー。お隣同士、仲良くしてねー?」
「……こちらこそ、宜しくお願いします」
(ちょっとサバサバした、クールビューティーな感じ。もしかしたらエカテリーナ様かな?)
「ありがとうございます。次、ステイルさん。お願いします」
ステイルと呼ばれた生徒は黒に近い深緑色の髪。立ち上がるとかなりの高身長だ。
皆の方を振り向いて一通り女子生徒を眺めると、紫の瞳を細めて妖艶に微笑んだ。
「初めまして、可愛いレディ達。僕の名前はステイル。得意魔法は水。素敵なレディ達と一年間共に出来るなんて、最高の気分だ。これから一年、どうぞ宜しく。遅れて来たそこの仔猫ちゃんも。な?」
最後にソレイユを見ると、軽くウインクを飛ばした。男子生徒をまるっと無視した自己紹介で着席した。
(……すけこましナンパ野郎か? って言いたくなる……。美青年だけど、絶対違うでしょ。 ……あれ? も、もしかして公爵の三人の内、誰かは成績ごまかしてS組に居ない可能性も、やっぱりある……?)
「……ありがとうございます。ではステイルさんの後ろの席のアナスタシアさん、お願いします」
「分かりましたわ」
顔のサイドに伸びたラベンダー色の綺麗な縦ロールを手のひらで払うと、優雅に立ち上がった。
十五歳の女子にしてはかなり背が高い。美少女というより美女だ。
「私の名はアナスタシア。得意魔法は火です。これから一年、宜しくお願い致しますわ」
前を向いたまま、ロンタイを少しつまんで簡易なカーテシーをしてから着席した。
(……あの縦ロール。どう見てもカトリーヌ様だろう……)
「さて、次は私ですね」
アナスタシアのひと席空けて左の席に座っている新入生徒代表だったナハトが、レグルス先生が呼ぶ前に立ち上がった。
ソレイユから見て、ひと席空けて真ん前の席だ。青い髪がさらりと揺れるのがよく見えた。
「皆様初めまして。私の名はナハト、と申します。得意とする魔法は風魔法です。皆様におかれましては、S組にて就学される優秀な方々ばかり。直ぐには追い抜かれぬよう、精一杯学業に励む所存でございます。どうぞ宜しくお願い致します」
四方八方の生徒に礼儀よく礼をしていく。ソレイユも例外なく礼を受けた。ソレイユも軽く頭を下げた。
(ナハト君、代表挨拶の時も思ったけど。凄く丁寧、と言うか随分と畏まった挨拶だな。……公爵の中でだと誰だろう。近いとしたら、ウィリアム様……?)
「ありがとうございます。では隣のミモザさん、お願いします」
「はい」
セミロングのストレートで若草色の髪の美少女が立ち上がった。横に体を向けると、黄色の瞳をやや細め、皆に向かって優しそうな微笑みを浮かべた。
「皆さん、初めまして。私の名はミモザと申します。得意魔法は水魔法です。一年間どうぞ宜しくお願いしますね」
丁寧に一礼をして着席した。
(この美少女は……カタリナ様、かも?)
「ありがとうございます。では、ミモザさんの後ろの席のレテアさん。お願いします」
「は、はいっ……!」
ソレイユの隣の席に座っていた、ふわふわ柔らかそうな長い金髪に緑色の瞳の美少女は慌てたように立ち上がった。
緊張しているのか、手が少し震えているのが見えた。
(う、プルプル震えてるの小動物みたいで可愛い! 何だか思わず守りたくなる様な、庇護欲を感じるな、この子)
「み、皆さん初めまして。私の名前はレテアと申します。得意魔法は風魔法です。仲良くしていただけると、嬉しいです。どうぞよろしくお願い、いたします!」
恥ずかしいのか顔が少し赤くなりながらも、きちんと一礼して着席した。
(庇護欲を感じさせるけど、節度もありそうで好感が持てる。……あ……。もしかしたらこの子……ヒロイン、なのかもしれない……。私とは正反対の、可憐系、ヒロイン……)
「はい、ありがとうございました。では、次にソレイユさん。お願いします」
「……」
「ソレイユさん?」
「あ、はい! すみません、私の番ですね!」
ソレイユは慌てて立ち上がった。
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