レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆

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学園編

9 第二印象も最悪だよ

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「皆さん初めまして! 私はソレイユと言います。得意属性は水……」

 ソレイユが自己紹介の途中、突然教室の扉が勢いよく開いた。

 少し驚いて開かれた扉を見ると、心底機嫌の悪そうなロアが入って来た。

 顔の腫れは治っており、乾かしてもらったのか髪も濡れてなかった。


(げぇ!! ロア?! あ、ああっ! そう言えばクラス表に名前があった! 忘れてた!!)



「貴方がロア君ですね? 私は担任のレグルスです。現在クラスの生徒全員に、自己紹介をしてもらっていたところです。ほぼ終わってしまいましたが、今はソレイユさんの自己紹介の途中なので、ソレイユさんの次に、自己紹介をお願い出来ますか? 名前と得意属性を伝えるだけで構いません」

 レグルスは、ソレイユの時と同様に淡々とロアに話しかけた。

「……ロアだ。得意属性は闇だ。……これでいいだろ先生」

 ソレイユの自己紹介を待たずに即答したロアに、ソレイユは軽くキレた。

「ちょっと! 今私の自己紹介をしていた途中なのよ? 少しくらい待てないわけ? ロアさんって随分と気が短いんですねー!」
「……あ? あ、ああっ!? お前! さっきの暴力女!!」
「あのー? 人を指差すのやめてもらえます? それに暴力女だなんて随分ですね? いきなり何なんですか貴方? これって立派な名誉毀損ですよ?」
「五月蝿い!! さっきと言い今と言い、俺を散々馬鹿にしやがって……! アイツを拘束せよ! 緊縛の影シャドウバインド!!」

 叫ぶや否やいきなり闇魔法を唱えてきた。
 ロアの影が魔法の光を帯びると影が立体に黒い触手のように伸び、影の先端が手のひらの形に変形してソレイユめがけて襲いかかってきた。

 突然のロアの攻撃にレテアは悲鳴を上げ、他の生徒も驚きの声を上げながら闇魔法から身を避ける。教室内は一瞬にして混乱状態となった。

 しかしソレイユは伸びてきた触手のような影を、魔力をまとわせた右手で臆する事なく思いっきり掴んだ。

「ふんっ!」

 掛け声と共にそのまま握り潰した。すると触手は魔力の粒子に変わり、いとも簡単に消滅した。

「な、何?!」
「あー攻撃してきたー! 怖~い! 怖くて仕方がないのでー、正当防衛行使しまーす!」

 棒読みでそう言うと、人差し指をロアに向け魔法を行使した。

水鉄砲ウォーターガン!!」

 指から勢いよく水鉄砲が発射され、ロアの顔面に直撃した。

 もちろん、威力は超手加減している。ロアは後方に吹っ飛んで、黒板に頭を強打しただけで済んだ。
 教室が水浸しにならないよう、直撃と同時に魔法を瞬時に消滅させた。

 黒板にしこたま後頭部を強打したロアは、倒れ込んで強打した後頭部を押さえて悶絶一歩手前で唸っている。


「えーと、皆さん。今のでお分かりの通り、私の得意属性は水です。一年間、どうぞ宜しくお願いします!」

 ソレイユは笑顔で言い切ると、自分の席に着席した。

 それと同時に痛みが落ち着いたのかロアは頭から手を離すと、殺意に満ちた目でソレイユを睨みつけた。

「お、お前……! 絶対に、許さない!!」

 そう意気込んで再び闇魔法を行使しようとするが、レグルスがそうさせなかった。


「彼の者を拘束せよ。光の鎖ライト・チェーン


 レグルスの手のひらの魔法陣から、文字通り光り輝く鎖が飛び出し、ロアの身体にグルグルと巻き付き完全に拘束した。

「な、くそっ!」

 身動きが取れなくなったロアは、鎖で簀巻きになった状態で再び床へと倒れた。


(凄い。お母様以外の人の光魔法、初めて見た。レグルス先生の得意属性は光属性なんだ……)


「ロア君、教室内での魔法は校則で原則禁止されています。無闇に使わないように。それからソレイユさん。先程の攻撃は正当防衛という事で今回は大目に見ますが、次回からは気を付けて下さい」
「はい、以後気を付けます!」
「よろしい。ではロア君、君はどうですか? 講話が終わるまでそうしていますか? それとも大人しく自分の席に着席しますか?」

 ロアは悔しそうに歯を噛み締めていたが、しばらくして諦めたように目を閉じた。

「……分かった。これ以上教室で魔法は使わない。自分の席に座るから、拘束を解いてくれ先生」
「分かりました」

 レグルスはあっさりと魔法を解除して、光の鎖を消滅させた。

 解放されたロアは上半身を起こした。

「ではロア君、自分の席に着いてください。席は一番後ろの、ソレイユさんの隣の席です。机の中に学園の施設利用についての書類が入っているはずです。既に内容の説明は済ませたので、今のうちに内容を確認しておいて下さい。質問があれば、終礼後にお願いします」

 先程ソレイユに説明した同じ内容を、淡々とロアに伝えた。

 ソレイユの隣と聞いてロアは思いっきり顔をゆがませたが、何も言わずに立ち上がった。
 少しふらつきながら階段を上がると、ソレイユを見る事なく自分の席に着席した。

「さて、これでSクラス生徒全員が揃いました。これから一年間学業を共に過ごす仲間です。仲たがいも程々に、いずれ協力し合える間柄になれるよう願っています」

 レグルスの言葉が終わると同時に、チャイムが鳴り響いた。

「チャイムが鳴りましたので、本日の入学式は以上となります。このまま寮へと移動してもらいますので、忘れ物のないように気を付けて下さい。学園見学は明日執り行います。教材等の受け渡しも明日となります。
 今日は初日で疲れたでしょうから、ゆっくり休んで下さい。明日の予定は先ほどの書類の中に記載されているので、確認しておいて下さい。ソレイユさん、ロア君。何か質問はありますか?」
「私は大丈夫です!」

「……」

 ロアは無言で応えた。

「はい。ではまた、明日お会いしましょう。皆さん、本日はお疲れ様でした」

 レグルス先生は爽やかな笑みを浮かべて、教室を後にした。


(レグルス先生、何とも淡々とした爽やかイケメンだったな……)


 レグルス先生が去った直後にロアは無言で立ち上がると、ソレイユをギロリと一睨みしてから足早に階段を降りて教室を出て行った。

(何、あの態度! マジでムカつく!! ロア、マジウザイ。ロア、マジクソヤロウ。ロアマジウザイロアマジクソヤロウロアマジウザイロアマジクソヤロウ……)呪呪呪……

 険悪な態度のロアに邪念を送っているソレイユの一つ前の席に座っていたナハトも教室から出て行った。
 他の生徒は、まだ帰る様子はない。

(あーもうっ! モブっぽく学園生活送りたかったのに全てメチャクチャになったじゃん!! ロア本気ウザイ! ロア本気糞野郎ーー!!)

 ストレスの溜まったソレイユは今日のところはさっさと帰ろうと席から勢いよく立ち上がった。
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