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幼少期編
5 お父様はイケメンなんです
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案内されて到着したのは重厚で立派な扉の前。
立派な扉だが客間の扉の様な華やかさはない。どうやら執務室か書斎のようだ。
初めての場所にちょっと興奮しているレティシアに気付くことなく、シンリーは扉をノックした。
「失礼致します。レティシアお嬢様をお連れ致しました」
「入れ」
低音のハスキーボイスが部屋の中から聞こえた。その声を聞いてレティシアはシンリーが扉を開けると同時に中へ小走りに入った。
部屋の中は落ち着いた雰囲気のザ・書斎な場所だった。窓がなく壁一面に本棚が並んでいる。
中央にソファーとテーブルがあり、その奥にはどこぞの社長が使いそうな重厚で立派な机があった。
レティシアの父、レオナルドは中央のソファーに座ってこちらを見ていた。
その後ろには執事のセバスが佇んでいる。
セバスはグレーの長い髪を一つ括りにして、紺の目に片眼鏡を掛けた60歳位のとてもダンディーな執事さん。レオナルドの子供の頃からの爺やさんだ。レティシアを優しい眼差しで見ている。
「おかえりなたい! おとーたま!」
「ああ。ただいま、レティ」
レティシアの父である、レオナルド・アームストロング公爵。
柔らかいダークグリーンの髪にレティシアの右眼と同じエメラルドグリーンの瞳。百九十センチはありそうな高身長。高位な貴族の服が良く似合う美丈夫だ。
レティシアは笑顔をいっぱいにして父に駆け寄った。
レオナルドはソファーから立ち上がりレティシアの方に近寄ると、脚にしがみ付いたレティシアを優しく抱き上げた。
「誕生日おめでとう、レティ。プレゼントは気に入ってくれたか?」
「うんっ! かわいいネックリェシュあいがと! みてみて、にあう?」
抱っこされながらネックレスを指差して、早速着けてますよーと言いたげにアピールした。
「ああ、とても良く似合う」
いつもは鋭い眼光を放っている瞳が優しく細められる。いつも忙しいだろうに、レティシアを邪険に扱う事なく常に大切に扱ってくれる。レティシアはそんな父親が大好きだ。
(はい、最高の微笑み頂きましたー! 乙女ゲームのスチルの様なお顔をいつも間近に見られて、大変至福でございますっ!!)
父親に対する子供の心境とはかなり違う気もするが、気の所為にしておこう。
「おとーたま、おかーたまは?」
「その事なのだが。ああ、待てシンリー」
退室しようとしていたシンリーを呼び止めた。
「君も聞いてくれて良い。結婚前からルシータの専属侍女をしていた君なら、知っておくべき話だ。……先日、ルシータの妹君が亡くなった」
「ルシア様が……」
シンリーは僅かに目を見開いた。
「ああ。その件でルシータは実家の辺境伯家に今も滞在中だ」
「……おかーたまの、いもーと?」
(お母様に兄弟が居るって言ってたかな?)
「おかーたまにいもーといたの?」
「兄と妹の三人兄妹だ。……まだ幼いレティには理解が難しいと思うが、ルシータの妹君はレティが生まれるずっと前に市井に下った方だ。なのでラシュリアータ辺境伯から除名されている」
(市井に下るって、確か平民になったって意味だよね……。という事はひょっとして)
「へいみんのひととけっこんしたかりゃ?」
その言葉にレオナルドは目を見張ってレティシアを見た。
「……三歳なのに分かるのか。聡明な子だとは思っていたが、これ程までとは。……流石シータの子だ」
(しまった。今のは三歳らしくなかったかな……)
嬉しそうなレオナルドを見て、やってしまったと冷や汗が出た。それにしてもお父様。お母様の名前を愛称で呼んじゃってますよ、と内心突っ込んだ。
「ルシータと妹君は昔から仲が良かったと聞いている。病弱な妹君を心配し、最初は市井に下る事に反対だったが、頑なに相手を想う妹君に、いつしか応援する側になったと。そして辺境伯に勘当される形で平民となった妹君とは、内密に交流を続けていたらしい。
レティを身籠もってからは手紙のやり取りだけになっていたが、最近その手紙が全く届かない事に不審を抱いたルシータが会いに行ったそうだ。
その時には既に妹君の夫は事故で帰らぬ人となり、その心労でか妹君は病に伏せた状態で、もう手の施しようのない状態だったらしい」
「……びょーきでなくなたの?」
「ああ。妹君は病の事を黙っていたらしい。もっと気にかけていればと、ルシータは自分を責めていたよ」
レオナルドはレティシアをソファーに座らせると、やや厳しい眼差しで隣に座った。
「それでだ、ここからが本題となる。実は妹君には一人、子供がいた。今は七歳だそうだ」
「こども……」
何やら途方もなく嫌な予感がする。
立派な扉だが客間の扉の様な華やかさはない。どうやら執務室か書斎のようだ。
初めての場所にちょっと興奮しているレティシアに気付くことなく、シンリーは扉をノックした。
「失礼致します。レティシアお嬢様をお連れ致しました」
「入れ」
低音のハスキーボイスが部屋の中から聞こえた。その声を聞いてレティシアはシンリーが扉を開けると同時に中へ小走りに入った。
部屋の中は落ち着いた雰囲気のザ・書斎な場所だった。窓がなく壁一面に本棚が並んでいる。
中央にソファーとテーブルがあり、その奥にはどこぞの社長が使いそうな重厚で立派な机があった。
レティシアの父、レオナルドは中央のソファーに座ってこちらを見ていた。
その後ろには執事のセバスが佇んでいる。
セバスはグレーの長い髪を一つ括りにして、紺の目に片眼鏡を掛けた60歳位のとてもダンディーな執事さん。レオナルドの子供の頃からの爺やさんだ。レティシアを優しい眼差しで見ている。
「おかえりなたい! おとーたま!」
「ああ。ただいま、レティ」
レティシアの父である、レオナルド・アームストロング公爵。
柔らかいダークグリーンの髪にレティシアの右眼と同じエメラルドグリーンの瞳。百九十センチはありそうな高身長。高位な貴族の服が良く似合う美丈夫だ。
レティシアは笑顔をいっぱいにして父に駆け寄った。
レオナルドはソファーから立ち上がりレティシアの方に近寄ると、脚にしがみ付いたレティシアを優しく抱き上げた。
「誕生日おめでとう、レティ。プレゼントは気に入ってくれたか?」
「うんっ! かわいいネックリェシュあいがと! みてみて、にあう?」
抱っこされながらネックレスを指差して、早速着けてますよーと言いたげにアピールした。
「ああ、とても良く似合う」
いつもは鋭い眼光を放っている瞳が優しく細められる。いつも忙しいだろうに、レティシアを邪険に扱う事なく常に大切に扱ってくれる。レティシアはそんな父親が大好きだ。
(はい、最高の微笑み頂きましたー! 乙女ゲームのスチルの様なお顔をいつも間近に見られて、大変至福でございますっ!!)
父親に対する子供の心境とはかなり違う気もするが、気の所為にしておこう。
「おとーたま、おかーたまは?」
「その事なのだが。ああ、待てシンリー」
退室しようとしていたシンリーを呼び止めた。
「君も聞いてくれて良い。結婚前からルシータの専属侍女をしていた君なら、知っておくべき話だ。……先日、ルシータの妹君が亡くなった」
「ルシア様が……」
シンリーは僅かに目を見開いた。
「ああ。その件でルシータは実家の辺境伯家に今も滞在中だ」
「……おかーたまの、いもーと?」
(お母様に兄弟が居るって言ってたかな?)
「おかーたまにいもーといたの?」
「兄と妹の三人兄妹だ。……まだ幼いレティには理解が難しいと思うが、ルシータの妹君はレティが生まれるずっと前に市井に下った方だ。なのでラシュリアータ辺境伯から除名されている」
(市井に下るって、確か平民になったって意味だよね……。という事はひょっとして)
「へいみんのひととけっこんしたかりゃ?」
その言葉にレオナルドは目を見張ってレティシアを見た。
「……三歳なのに分かるのか。聡明な子だとは思っていたが、これ程までとは。……流石シータの子だ」
(しまった。今のは三歳らしくなかったかな……)
嬉しそうなレオナルドを見て、やってしまったと冷や汗が出た。それにしてもお父様。お母様の名前を愛称で呼んじゃってますよ、と内心突っ込んだ。
「ルシータと妹君は昔から仲が良かったと聞いている。病弱な妹君を心配し、最初は市井に下る事に反対だったが、頑なに相手を想う妹君に、いつしか応援する側になったと。そして辺境伯に勘当される形で平民となった妹君とは、内密に交流を続けていたらしい。
レティを身籠もってからは手紙のやり取りだけになっていたが、最近その手紙が全く届かない事に不審を抱いたルシータが会いに行ったそうだ。
その時には既に妹君の夫は事故で帰らぬ人となり、その心労でか妹君は病に伏せた状態で、もう手の施しようのない状態だったらしい」
「……びょーきでなくなたの?」
「ああ。妹君は病の事を黙っていたらしい。もっと気にかけていればと、ルシータは自分を責めていたよ」
レオナルドはレティシアをソファーに座らせると、やや厳しい眼差しで隣に座った。
「それでだ、ここからが本題となる。実は妹君には一人、子供がいた。今は七歳だそうだ」
「こども……」
何やら途方もなく嫌な予感がする。
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