レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆

文字の大きさ
21 / 63
幼少期編

21 四大公爵全員集合!なんですか?

しおりを挟む
 これまたカッコ良く成長した、物静かなデュオに案内され、お馴染みとなった執務室へと通された。
 ユリウスはデュオを下がらせると、自ら扉をノックして、応答を受けて中へと入った。
 レティシアと手を繋ぎながら。

「義父様、お呼びでしょうか?」
「ああ、待っていた。早くこちらに座りなさい」

 相変わらずの美丈夫のレオナルドが、向かいのソファーに座るよう促す。
 しかし、何やらいつもと違う様子に、若干の訝しさを感じながらもユリウスと共にソファーに座った。

「……それで義父様。僕達にお話とは?」
「うむ……。……他の公爵共が、面倒事を寄越してきた。まずはソレを見せた方が早いか」

 忌々しそうにレオナルドは、セバスに何か視線を送る。

 セバスはレオナルドの執務机に置いてあった、見るからに豪華な書状を持ってきてテーブルへと置いた。
 その書状には、四つある公爵家が共同で使用する、特別な刻印が使われていた。この刻印を使う書状は、全ての公爵が同じ内容を確認しているというもの。

「……拝見します」

 ユリウスは書状を手に取ると、レティシアにも見える様に広げて読んでいる。

 レティシアも、行儀が悪いが横から内容を確認した。長々しい内容を要約するとこうだ。

「一週間後、次期後継者十歳の魔力測定完了の祝儀をやるから来いってこと……?」

 ユリウスも読み終えたのか、書状を握りしめている。……書状がしわくちゃになってますよ。

「やはりこう来たか……!」
「え? 兄様、どう言う事?」
「レティシアをお披露目しろと言う事だ」

 憤慨しているユリウスの代わりに、レオナルドが説明してくれる様だ。

「公爵の次期後継者である子が十歳になると、他の次期後継者と顔合わせさせる古い風習がある。だが魔術学園が創設されてからは、この風習が行われる事は無くなったが。……今年は、他の公爵家にもちょうど十歳になる子が二人もいる。公爵家の後継者が、同じ歳で三人揃うのは珍しい。その為、一つ上の次期後継者の子も交えて、次期後継者同士の交流会を催す事とする、などと……! 三つの公爵が同意したのなら、こちらは従うしか無い。一つ上の次期後継者も参加するとなると……アイツらは、結託して内々に話を進めてたとしか思えん……!」

(……落ち着いてお父様、魔力漏れてますよ。……まあ成程。つまり、箱入り娘の私が心配という事ですね!)

「大丈夫ですお父様。心配なさらずとも、見事にお淑やかな公爵令嬢を演じて…ご披露して見せますよ? 次期後継者として、アームストロング公爵家の名を汚す様な事は致しません」

 淑女の様に演じてみせる。どや!

「レティ……。そうじゃない。奴らはお前を一目見たく…いや。あわよくば、お前を手に入れたがっている。喉から手が出る程、欲しがっているのだ。祝儀中、どんな手を使ってくるか分からん。それが一番心配なのだ」

 レオナルドは疲れた様に、額に手を当てた。

「シータがいれば安心だったのだが、身重の身体だ。一緒には連れて行けない。どちらも心配だが、アイツらは私がシータのそばを離れないと見越して、今回の話を寄越したのだろう。姑息な奴らだ」
「義父様、勿論僕が一緒に行きます。レティシアのそばを離れず、守りきって見せます。義母様に稽古も付けてもらっていますので。……れます」
「……ユリウス、頼まれてくれるか」
「はい。命に換えても」

 ……一週間後、戦に赴くんですか?

 殺伐とした空気の中、突然扉のノックが鳴った。そしてレオナルドが応答する前に、勢いよく扉が開かれた。

「失礼致しまーす! 祝儀に向けてドレスを誂えますのでー、レティシア様をお連れ致しまーす!!」

 ターコイズブルーの髪の色をお下げ結びにした、元気なメイドが入室してきた。
 レティシアはそのメイドの名を呼んだ。

「シシリー」
「……シシリーさん。扉をノックし忘れるランディよりは、マシですが、旦那様の応答を待たずに扉を開けるメイドがありますか!! ……シンリーさんに、後で報告しておきます」
「ああっっ! 姉さんに告げ口するのだけは、ご勘弁下さい! セバス様ー!!」

 そう、この子はシンリーの年の離れた妹さん。年は確か十七歳。

 シンリーは、身重のルシータの専属メイドに戻った為、最近レティシアの新しい専属メイドとなったのだ。冷静沈着なシンリーと同じグレーの瞳だが、性格は正反対の、垢抜けた陽気な子だ。

「丁度いい、レティシア。私達はこれから、大事な話をしなくてはならない。シシリーと行きなさい。服は喪服でも見繕っておけばよい」

(それは着たくないです、お父様……)

「レティは、何も心配しなくて大丈夫だからね」

 反論する暇も無く、シシリーと共に執務室から追い出された。……ものすごく疎外感を感じる。

「さ、行きましょーか、レティシアお嬢様!」
「うん……そだねー……行こっか……」



 連れて来られた場所は、衣装部屋の隣にある、広いフィッティングルーム。大抵ここでドレスの寸法を測る。普通なら仕立て屋を呼んで採寸するのだが、今日はいない。
 誂えるとシンリーは言ってたが、今回は時間が無いので、ここにある従来のドレスを使うのだろう。


「レティ!!」

 突然、隣の衣装部屋から、お腹を大きくしたルシータが入ってきた。

 いつもの男装ではなく、白いドレス姿はまさに貴婦人そのもの。後ろには、ドレスを持ったシンリーが控えている。

 レティシアはびっくりしながらも、ルシータに近寄った。

「おっお母様! なぜこんな所に! もういつ産まれるかわからないのだから、安静にしてないと駄目でしょう!?」
「ハハハ! 何、二人目なのだから、そんなに心配いらない! 寝たきりより、動いた方が良いしな! そんな事より、祝儀に着ていくドレスを見繕っておいた! 少し、手直しすれば問題無いだろう!」

 お腹に響かない様、やや声のトーンは小さめだが、いつもの元気で美しい母だった。

「お母様、私の為に……ありがとう。私このドレス着て、頑張って公爵令嬢演じてくるね!」
「ああ! 可愛い素のレティを知っているのは、私達だけで十分だ! 思う存分、高貴ぶって近寄らせない様に頑張れ! おっと、それから。一週間後の戦いに向けて、レティに餞別だ!」

(……あれ? やっぱり戦なんですか……? 私、初陣?)

 ルシータは手に持っていた、綺麗な扇子をレティシアに向かって差し出した。

「レティ、身体強化魔法は使えるな? 強化してから、その扇を手に持つと良い!」
「? 分かった。……けどどうして? ただの扇子だよねっ? ってうわっ!!」

 受け取ったと同時に、手の平に乗せた扇子の物凄い重みに、手の平が下がる。慌てて、身体強化の威力を上げた。

「何、このものすんごく重い扇子……」
「私が昔結婚する前、ドレスを着ねばならなかった時に、使っていた武器ものだ! 小さいが魔法石が埋め込んである! 以前あげたネックレスより威力は劣るが、十分使えるぞ! レティ用に扇面の絵柄は変えておいた!」

 早速広げてみると、美しいストロングカレイドの花が描かれていた。扇子の要と呼ばれる部分に、確かに小さな黄色い魔法石が埋め込んであった。

「これで剣を受け止める事も出来る! 叩きつけて良し、わざと足に落としてやっても良い!」

(いや、それ絶対足の指折れます。……それにしても。やはり公爵同士の戦争が…始まるのですね、お母様……)

 変な方向に解釈したレティシアは、重たい扇子を握りしめた。

「お母様! 戦いとうじつに向けて、この武器せんすを完全に扱える様に、特訓致します! ご教授頂けますか、お母様!!」
「勿論だ! この一週間で、私の持てる全ての技を伝授しようではないか!」

 ルシータとレティシアは頷き合った。



 そして、祝儀の日を迎えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編) 王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編) 平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

処理中です...