レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆

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幼少期編

32 啖呵を切った後の爆弾発言なんです

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「愛妾の子だとかルシータ夫人の連れ子ではないのかだとか……全くどれもコレも下らない噂ばかり! さぞかし迷惑しているだろうが、まあ気にしない事だな!」

 マクシミアンに連れられてライト家の銅像がある部屋を通り、ホールに戻ろうとマクシミアンが扉を開けた瞬間、大声で笑うアトラスの声が聞こえた。

 目をやるとソファーにユリウスしか居ないのに驚いた。
 何故レオナルドが居ないのかは分からないが、アトラスに一方的に言い罵られているユリウスを目の当たりにしてレティシアはキレた。

(……こいつ、ムカつくマジむかつく超ムカツク!! 心優しいユリウス兄様になんて事を……! 今ここで言う台詞じゃないだろ!! 許すまじこのイカれじじい!!)

 マクシミアンのエスコートから離れて、レティシアは気付かれない程度の早足でユリウスの元へ急いだ。

「……ただいま戻りました、皆様。私の父が見当たりませんが、どうしたのでしょう?」

 ユリウスに目配せすると、ユリウスは「問題ない」と言いたげにレティシアに微笑んだ。

「実はね、つい先ほど火急の連絡が届いたんだ。義母様が産気を催した様なんだ」
「! お母様が。だから、お父様が居ないのですね」
「そう。レティシアが戻ったらすぐに帰る様に。と念押しをしてね」

 そう言ったユリウスにアトラスは焦った様に立ち上がった。

「いやいや、レオナルドが帰ったのだから、君達まで帰る必要もないだろう? レティシア嬢、息子と話をしてどうだった? そう言えばアルバートの手の手当をしてくれたと聞いた。感謝するよ」

 帰らせまいと先延ばしを図っているのは重々承知しているが、あえてレティシアはその言葉に答えた。

「いえ、当然の事をしたまでです。それにアルバート様と楽しい時間を過ごさせていただきました」
「そうかそうか! で、どうだろう! アルバートはレティシア嬢の事を気に入った様子!  是非息子との婚約を……」
「アトラス! 何を抜け駆けしようとしているのです!? レティシアちゃん、ウィリアムもレティシアちゃんはとても博識で、話が弾んで仲良くなれたと申してましたよ? 是非ウィリアムと婚約したら良いと思うのだけれど!」
「二人共黙れ、マクシミアンの様子だとレティシア嬢を気に入ったようだ。マクシミアンと婚約するのが妥当だ」

 予想通りの展開に内心鼻で笑いながらも、一切おくびにも出さずニッコリと笑顔を見せた。

「婚約ですか、そうですね、私のお父様とお母様はそれはもう相思相愛です。私はそんな両親に育てられましたものですから、結婚に憧れはございますよ? 将来、両親の様にお互いを思い遣り支え合える……そんな素敵な間柄で居られる方がいらっしゃれば。と、いつもそう思っております」

「おおっそうかそうか! ならば」
「ですので、例えば政略結婚など……。そんなくだらない・・・・・ものは、到底受け容れる事は出来ません。私は、私のお相手とは年月をかけて見定めたいと思っております。この場でお答えするのは憚れますわ」

 公爵の親達は一瞬息を呑んだ。

「……レティシア嬢は幼いながらに、しっかりとしたお嬢さんのようだ」

「私も、兄も母が心配です。私共もこれにて失礼したいと存じます。とても有意義な時間をありがとうございました。それでは皆様、ご機嫌よう」

(テメーらの相手なんかこれ以上してられっか!)

 有無を言わさない様に優雅なカーテシーを披露した。
 すかさずユリウスは立ち上がると、公爵に向けて敬礼した。

「私もとても有意義な時間を過ごせました。とてもお話を聞けました。ありがとうございました」

 ユリウスはレティシアの横に付くと手を差し出した。レティシアが素早く手を乗せると、ユリウスは公爵達に微笑んだ。

「では、失礼致します」
「レティシア、待ってくれ」

 歩み出したレティシア達を引き止める声を上げたアルバートは、ソファーから立ち上がり、少し早足でレティシアの前に立った。

「レティシア、今日は本当に楽しかった。先程言った様に、いつか私の屋敷に遊びに来て欲しい。それでさ、出会えた記念にこれを」

 従者に目配せすると、ディスティニーの従者が、棘を丁寧に処置した美しい一本の赤い薔薇を手に持ってきた。アルバートは薔薇を受け取るとレティシアに差し出した。

「私は……オレは、レティシアと婚約したいと思っている。それを、どうか覚えておいて欲しい」

(へ)

 呆然としている間に、気が付けば薔薇を受け取っていた。

「レティシア、私も挨拶を」

 いつの間にかウィリアムも、レティシアのそばに立っていた。

「レティシア、とても有意義な時間をありがとう。私も先ほど言ったけど、いつか私の屋敷に遊びに来て下さい。また一緒に有意義な時間を過ごしましょう。それから、もレティシアとの婚約を望みます。覚えておいてね、レティシア」

(え)

「レティシア」

 マクシミアンも、レティシアに近づいて来ていた。

「今日は……会えて良かった。また会えると嬉しい。……俺もレティシアとの婚約を望む。……それだけだ」

(は)

 三人の突然の告白に頭が真っ白になった。
 ユリウスの指先に力が入ったのが指先を通して伝わって、我に返った。

「……失礼致します」

 何とかそれだけ返事を返すと、ユリウスに少し強引に引っ張られる様に歩き出した。

(……どういう事ーー?!)
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