レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆

文字の大きさ
47 / 63
幼少期編

47 再び限界突破なんです

しおりを挟む
 デザートに作ったフルーツグラタンは好評だった。特にユリウスは、感動した様に噛み締めて食べていた。

 楽しい昼食後、早速自室で鍛錬着に着替えたレティシアは、模擬戦を行う室内鍛錬場へと向かった。

 レオナルドとルシータは、忙しい為欠席だ。その代わり、ルドルフは観覧するので、録画出来る魔導具で試合を撮影するようシンリーに指示していた。

 鍛錬場の入口近くで軽く柔軟運動をしていると、鍛錬着のユリウスがルドルフを抱っこした状態でデュオとシンリーを引き連れて到着した。

「お待たせ」
「おまたせー」
「二人共、すっかり仲良しさんだね」
「そうだね。ルディと僕は仲良しだね」
「うん! にーにとボク、なかよし!」

 楽しそうに笑い合う。麗しい兄弟の尊い姿に、思わず昇天しそうだ。

「じゃあレティ、そろそろ始めようか。ルディは危ないから、観覧席で見ててね」
「はーい」
「……ハッ、はいっ」

 ルドルフは地面に下ろされると、シンリーとデュオと共に観覧席へ向かって行った。

「兄様、魔法の使用は禁止にするとして。得物……じゃない、武器は木刀で良い?」
「万が一、木刀がレティに当たったらと思うと怖くて上手く振るえないから。今回は木刀ではなくて、だいぶ前に義母様がここで編み出した『ライトセイバー』で戦うのはどうかな?」
「ラ、ライトセイバー!? って兄様、ライトセイバーを、というか魔力を具現化出来るの!?」
「うん、だいぶ苦労したけどね。ライトセイバーだと、僕より魔力の高いレティは当たっても痛くないだろうし。どうかな?」
「わ、わかった。じゃあライトセイバーで」

 ユリウスと共に鍛錬場の中央まで歩くと、間隔を開けて向かい合った。

 ユリウスは右手の手の平に魔力を集め、剣を握るように握り拳を胸の前に向ける。レティシアも同じように拳を胸の前に向けた。

 ユリウスの拳から魔力が立ち上がり、水色と緑色の美しい斑模様のライトセイバーが姿を現した。

 レティシアも剣をイメージして魔力を放出した。
 しかしレティシアの魔力は無色透明。

 ほぼ目視出来ない、暗殺し放題のライトセイバーが出来上がった。

(だめだこりゃ。ちゃんと見えるように調整しないと)

 以前見たルシータのライトセイバーと同じように、光属性を纏わせてみる。すると白く輝くライトセイバーに変化した。

「わー! にーにとねーねのアレ、カッコいいー! ボクもつかいたい!!」
「ルドルフ様、見学中はお静かに」
「う……ごめん」
「コホン、……ルドルフ様が十歳になられたら、奥様かお二人に教えてもらいましょう?」
「うん!」

 観覧席でルドルフのはしゃぐ声と、やんわり諫めるシンリーの声が聞こえた。やはりルドルフも男の子。ライトセイバーがいたくお気に召したらしい。

 ルドルフにも扱えるように、ライトセイバーに更に細工を施してみる。
 色がルドルフの髪の色に似た緑色に変わると、レティシアはおもむろに剣身を掴んだ。

 そのままクニュっと折り曲げてみる。そしてパッと手を離すと、ビヨーンと元に戻った。

「うん、これだけ柔軟性を持たせれば怪我の心配も無いし、ルルーの専用おもちゃとしても使えそう!」
「……やっぱり、レティの魔法には感服するよ。僕はそこまでライトセイバーに形態付与出来ないから。人体に触れると消滅するようにだけ、調整しておくよ」
「うん、分かった。こちらも同じ条件にするね」

 ライトセイバーを光属性に戻すと、人に触れたら自動消滅するように付与し直した。

「……じゃあ、兄様。勝負だよ!!」
「先手は譲るよ。かかっておいで」

 ユリウスはゆっくりとライトセイバーを構える。

 公言通り、鍛錬を相当積んでいるようだ。まるで隙がない。
 しかも凄く様になっていて、思わず拝みたくなる程カッコいい。

(……いかん。油断すると一瞬で負けそう。私は体力がないから長期戦に持ち込まれると不利だし。ここは気合いを入れて、最初から全力で行くよ!)

 レティシアは煩悩を封印すると、身体強化魔法を身に纏って一番得意な型でライトセイバーを構えた。
 ゆっくりと腰を落とした瞬間にユリウスに向かって走り出した。

 そのまま霞の構えで、高速の横薙ぎに一文字斬りを放つ。
 ユリウスが剣身で受けたので、反動をつけてレティシアは右回転し、今度は反対側から勢いを付けて回転斬りを繰り出す。
 しかし、それもユリウスは下段から弾き返す様に受け止めた。

 その後何度も得意の高速攻撃を繰り出すが難なく受けられて、お返しのカウンター攻撃が来るので避けるのに必死だ。

(ユリウス兄様つえぇっ! やっぱり兄様は凄く……尊い!!)

 少し煩悩が漏れてしまったので、一旦ユリウスから距離を開けた。

「レティ、思っていた以上に強くて驚いたよ。凄く頑張ったんだね」
「ありがとう。兄様も凄く強いね。学園で頑張っているんだね。でも、私……負けないよ!」
「僕も、負けるつもりは無いよ。でも、このままだと、長期戦になりそうだし……次の攻撃で終わらせるよ」

 ユリウスが下段にライトセイバーを構えたので、レティシアは受け流してカウンターで仕留めようと正面に構えた。

 ユリウスは一気に距離を詰め、流れる様な速さで斜めにライトセイバーを振るう。

(よしっ! 予想通り!!)

 狙い通りの角度で斬り込んできたチャンスを見逃さないように、力強い攻撃をギリギリまで引き込んで弾いた。
 お互いの顔が自然と近付く。

 真剣な眼差しのユリウスと一瞬、目が合って。

「レティシア、愛してる」
「にゃ゛?!」

 ボンっと顔を赤らめたレティシアは、動揺を隠し切れずカウンターの軌道がズレた。
 急にヘッポコになった一撃をユリウスは難なく避けると、ポンっとレティシアの頭にライトセイバーを当てた。
 すると、ユリウスのライトセイバーは、光の粒子となって消滅した。

「はい、僕の勝ち」
「~~!! ズルい兄様ーー!!」

 レティシアのライトセイバーも消滅させると、勢いよくユリウスに食ってかかった。

「れっきとした戦術だよ? 心理戦も鍛えなきゃね、レティ?」

 爽やかな笑顔で返された。

「ぅ゛……」

(た、確かにそうだけど……。今のは……は流石に反則じゃない!?)

「ねーねー! にーにー!」

 ルドルフが興奮した様に目を輝かせて駆け寄ってきた。

「にーに、ねーね、すごくカッコよかった! ねーねまけちゃったね」
「う、うん。……負けちゃった」

 内心、不完全燃焼を禁じ得ない気分だったが。ルドルフの手前だ。素直に負けを認める事にした。

「ちょっーーと不満だけど、負けは負けだし。兄様のお願い事を叶えてあげる! さあ! 何でも言って頂戴!!」
「ありがとう。じゃあ僕の願いを、伝えるね」

 そう言うとユリウスは、レティシアの手を掴んで軽く手前に引いた。
 引き寄せられたレティシアはそのまま、すっぽりと強く抱きしめられた。

 突然の事で驚くレティシアの耳元で、ユリウスは囁いた。

「レティ。来年の年末年始、多分帰れないと思う。だから今、直接伝えておきたいんだ」

 一呼吸、間を置いてからユリウスは言葉を紡いだ。

「……レティが学園を卒業するまでに、好きな人が居なければ。……僕を兄ではなく、一人の男として、見てほしい」

「……え……?」

「これが僕の叶えて欲しい事。ね、約束だよ?」

 チュッと、左頬から音が聞こえた。

「さて、勝負もついたし。そろそろ学園に戻らないと。世話しないけど、ここで別れようか。じゃあね二人共。行ってきます」
「にーに、いってらしゃーい!」
「ルディ。レティのこと、僕の代わりに守ってあげてくれるかな?」
「うん! まかせて!!」

 笑顔で見送るルドルフに対し、レティシアは今何が起こったか理解が追い付かず、硬直したまま何も言えなかった。

 固まったまま動けないレティシアを後目に、ユリウスは爽やかな微笑みで手を振ると出口に向かって歩き出した。
 デュオを引き連れ立ち去るユリウスの姿を、呆然と見送る事しか出来なかった。

 そして姿が見えなくなったと同時に、レティシアは顔が熱くなるのを感じながら、萎んだ風船の様にその場にへたり込んだ。

 ユリウスの唇が触れた左頬を、震える左手で包んだ。

「ねーね、どうしたの? だいじょうぶ?」

(ねーね、限界突破キャパオーバーですぅ……)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編) 王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編) 平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

処理中です...