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フラッシュ・バック
動かない身体
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モールへと続く国道。時速45キロの道をノロノロと行く車。
対向車が居ないと後続車は次々とその車を抜いていく。
「せんせ…あの車…何かおかしい。」
それには小鳥遊も気が付いていた。アメリカでは、80歳でも普通に運転している。ノロノロ運転も結構多い。車が無いと生活が成り立たないからだ。しかし前方の車の運転手は,老人では無いようだった。
「携帯電話でも掛けているんですかね?それとも故障?」
小鳥遊は数台先にあり、どんどん追い越されていく銀色のセダンを眺めていた。
その車を追い越す時に、クラクションを鳴らしたり、窓を開けてわざわざ何かを叫ぶ人達もいた。
冬がそのセダンを追い越す番になり、追い越そうとウィンカーを出した時に突然車は止まった。
「わっ…。Are you OK?」
冬は慌ててブレーキを掛け、思わず小鳥遊の身体を右手で庇うように抑えた。
「僕は大丈夫ですよ。」
小鳥遊が静かに冬に答えた丁度その時、車から40-50代の男性がよろよろと出て来て道路に倒れ込んだ。
…あっ!
冬はハザードを出し車を路肩に止め、エンジンを切った。後部座席の2人の小学生ぐらいの子供が道路へと飛び出してきた。
―――バタンッ
助手席のドアが閉まる音に冬はハッとした。小鳥遊は車から降り対向車や追い越して行く車に注意しながら、その男性の元へと向かっていた。
―――突然のフラッシュバック。
エリックと小鳥遊が重なった。
…あの時と…おんな…じ。
小鳥遊が道路にしゃがみ込み、男性に話しかけるのを見た瞬間、冬は頭が真っ白になり、糊付けされたように体が竦み、お尻がシートに張り付き、身動きが取れなかった。
…怖い。
心臓の鼓動が耳の傍で早鐘のように聞こえ,手足が一気に冷たくなった。
そして目の前がクラクラしだした。まるで嵐の日に小さな小舟に乗っているようだった。
…嫌だ。
小鳥遊が何か指示すると、子供達は、道路の脇へ歩き出し、安全な路肩で不安そうに男性を見ていた。
…やめて。
手足の感覚は麻痺し、それと共に意識はあの時の光景を強制的に、鮮明に冬の目の前にアップロードを始めた。
…見たくない。
叫んだつもりでも喉は乾き、声は出なかった。
自分で息をしているのかも判らないぐらいに意識と感覚が体から引き剥がされていく…。
あの日の景色が冬の目の前には広がっており、同じように冬が運転をしていた。
煙があがる車から、よろよろと出てきて、倒れこんだ男性。対向車がハンドルを誤り、反対車線に飛び出し、突っ込んできたようだ。
今、目の前であったばかりの事故に冬は呆然としてた。
「トーコは、救急車を呼んで!ここで待ってて!」
―――バタン。
車から降りて、男性に近寄るエリック。
後方にはかなりの渋滞が出来ていた。冬は911をコールした。
対向車が来ていることも知らず、待っている冬や数台の車を追い越そうとした車。
対向車を避けようとハンドルをきった先には、エリックが…。
鈍い音がすると,冬のフロントガラスに血が飛び散り、涙のように垂れていく血液の、その向こうには、車の間に挟まれて、驚いた顔をして冬を見つめるエリックの姿があった。
誰かが叫んだ…と思ったらそれは自分の声だった。
(大丈夫ですか?もしもし…)
携帯が冬の手から滑り落ちた。
「エリック!!エリック!!」
冬は夢中で駆け寄った。
OH MY GOD! OH MY GOD!!
車から降りて来た人々が、その光景を見て口々に叫んだ。
対向車も追い越しを掛けた車の運転手も、車の中で気を失っていた。人々はその二人の救出に向かい、野次馬はエリックの周りを取り囲んでいた。
すぐに救急車と特殊救助隊の消防車の音が聞こえて来た。
「トー…コ…僕は…大丈…夫…だか…ら。」
エリックは、丁度胸の下辺りを車の間に挟まれていた。冬に微笑んでいたが口元からは、血液がたらたらと零れ続けた。
「あんた。もうしゃべらない方が良い!すぐに救急車が来るから!それまで頑張るんだよ!」
野次馬が声を掛けて来た。
「心配…しないで…もう…痛く…無い…から。トーコ…あいして…る。」
エリックは譫言のように話し続けた。自分のことよりも、取り乱す冬を落ち着けようとしていた。
「諦めちゃ駄目!エリック!エリック!!」
冬の顔を見つめているものの、その視線は冬の後ろのその先を見ているようだった。
「背骨を…やられた…みたい…。僕は…ラッキーだよ…もう…痛く無いんだ…もの…トーコ…心配しない…で。大丈夫…だから。」
「あなたをもうすぐ助けに来てくれる!諦めちゃ駄目よ!」
取り乱す冬を到着したばかりの警察官が抱えるようにして、その場から引き剥がした。
そこで冬の意識は引き延ばされる様に、あの時から離れ、いつの間にか、この世界へと戻って来ていた。
小鳥遊が冬に向かって何かを叫んでいた。
…先生が…何?何を言ってるの?
ほんの数秒…長くても数分のことだったと思う。フラッシュバックで、引き千切れていた〝正常”な意識が再び冬の中で集まり始めた。
…聞こえない…聞こえないよ。
突然、車の大きなクラクションが冬の後ろでなった…瞬間。
「月性さん!!!早く!!」
小鳥遊が大声で何度も冬を呼んでいるのが聞こえた。
苗字で呼ばれハッとし、鍵を付けたまま車をその場に置き、慌てて小鳥遊の元へと向かった。
「心臓発作のようです」
体が大きな男性は、意識が無かった。
「道路から端に移動させましょう。」
すぐに後続車からも数人大人達が出て来て手伝った。静かに道路脇に寝かせると、小鳥遊は心臓マッサージを始めながら、人垣が出来始めた周りを見回した。
「そこの青いシャツのあなた。救急要請し、ここまで来るのにどの位時間がかかるか聞いてください。」
小鳥遊は野次馬の中から手伝う意思がありそうな人を指差していった。
「そこの電気技術師のようなあなた、近くの店にAEDがあったら借りて来てください。」
汚れたつなぎを着ている男性を指差すと,男性はえっ?俺?と言いながらキョロキョロと周りを見渡した。
「そこのあなた…そうです。あなたです。」
赤い服の女性のあなたは、私達がする事を時間を追ってメモして下さい。ええ。処置の経過をメモしてください。自分の言葉で良いんで…その都度言いますから…簡単にで結構です。」
小鳥遊は心臓マッサージをしながら、周囲にテキパキと指示を出していた。
「代わります。」
冬は心臓マッサージを変わると、●ージーズの “Stayin’ Ali●e”を口ずさんでいた。ア●パンマ●・マーチもちゃんと歌うと100回/分になるから…覚えておくと良いわよと以前、後輩看護師に説明していたのを小鳥遊は、冬の横顔を見ながら思い出していた。
「あんたたちの車を移動させてくる。」
国道は見物人で渋滞が始まっていた。
「救急車20分ぐらい掛かるって!」
青いシャツの男性が携帯を片手に小鳥遊と冬に向かって大声で叫んだ。
「seriously?」「Oh、God!」
周りの野次馬からは、諦めとも受け取れるようなため息が漏れた。
日本では10分で来る救急車も、アメリカでは、場所によってかなりの時間が掛かった。
「頑張るしか無いですね。」
小鳥遊は冬に話しかけたが、何も答えず冬はマッサージを続けた。
その横顔は、汗で髪が顔に張り付き紅潮していた。小鳥遊が良く知る病棟での冬の凛とした顔そのものだった。
もみあげから顎の先に伝い落ちる汗がキラキラと光っていた。車のクラクションの音、騒ぐ野次馬。その中でも冬は、気を散らすことも無くただマッサージを続けていた。
1.2.3.4.5,1.2.3.4.5,..
「ダディー。」
子供たちが心配そうに見ていた。
「ねえ あなたたちいくつ?」
冬が子供の声にハッとし、優しく聞いた。
「僕はデビット10歳,この子は妹のカーラで今年から小学生だよ。」
「お父さんは何か病気を持っていたかな?薬は?」
今度は小鳥遊が子供達に聞いた。
「うーん…ノウソッチュウ…の薬を飲んでた。」
冬の額から汗が止めどなく流れ落ちていた。
「薬の名前なんて分からないよね?心臓の薬は?」
デビットは 横たわる父親を凝視しながら答えた。大人たちの緊迫した様子に震えていた。
「わかんない。」
ズボンの両方のポケットに親指をひっかけるようにしながらデビッドは答えた。
「お父さん倒れる前に何か言ってなかった?頭や胸が痛いとか…」
小鳥遊はふたりの子供の顔を交互に見ながら聞いた。暫く沈黙があり、妹のカーラが小さな声で言った。
「ダディは運転してたら、急にここが苦しいって言ったの。」
カーラは自分の胸をゆびで指さした。
「そっか…教えてくれてありがとう。お父さんを助けるのにとっても助かるよ。」
小鳥遊は、少し微笑んだような気がした。カーラは,小鳥遊の表情を見てほっとしたようだった。
「僕は、お医者をしているけれど、お父さんは心臓発作を起こしたのかも知れないね。この人は看護師さん。心配ないよ。僕たちは救急車が来るまで君たちと一緒にここに居るから。」
小鳥遊は優しく笑った。デビットの顔に張り付いていた緊張が少し溶けた。
「君たちにも手伝って貰いたいことがあるんだけれど…。」
ふたりとも緊張していたが、使命感に燃えた面持ちで頷いた。
「お父さんの携帯電話はどこにあるか判る?あと免許証とか身元が判るものはあるかな?」
多分ポケットの中…と、デビットは父親のズボンのポケットを探り、携帯電話を取り出した。
「それで、お母さんに電話掛けられる?」
「お母さん…死んじゃったの。」
カーラが兄のデビットの服の端を握ったまま答え、冬と小鳥遊は目を合わせた。
…片親…なのか。
「そっか…じゃあ、おばあちゃんとかおじいちゃんや、お父さんのお友達でもいいや…その人に電話を掛けられるかな?」
小鳥遊は人口呼吸の間にデビットに聞いた。冬は小鳥遊が、子供達に余り緊張を与えない様、抑揚を抑え優しくゆっくりと話しかけている事に気が付いた。
「うーん…ちょっと分んないや。」
デビットはスボンのポケットに手を突っ込んだまま父親から目を離さずに答えた。
「待って私が調べてあげる。」
野次馬の一人だった中年の女性が進み出て、デビットに何か聞きながら電話をしていた。一人残されたカーラは、冬と小鳥遊を食い入るように見つめていた。
「その子の名前はなんていうの?」
冬は,カーラが抱いている大きな人形を見て聞いた。
「ミミ。」
冬は人形に向かって話しかけた。それは、女の子に人気がある18インチもある大きなサイズの人形で、目の色も髪の色もカーラにそっくりだった。
「Hi.ミミ。こんにちは。ミミはカーラと一緒でとっても可愛いわね。スカートもお揃いなのかしら?良く似合ってるわ。」
冬の背中に汗が伝った。
「…この子とってもシャイなの…だから、知らない人にはお話しないの。」
小鳥遊は黙って冬の話を聞いていた。
「そう。困ったわねぇ…恥ずかしがり屋なのね…どうしましょうか…。」
冬は手を休めず,カーラと話していたので息が切れた。
「そう…だ!カーラが…ミミに伝えてくれる?トーコと…このおじさんがミミのお友達に…なりたいって…言ってるって。」
冬は微笑んでいた。
子供やせん妄などがある患者と自然に付き合うことができるのは一種の才能だと小鳥遊は感じている。テクニックとしては学べるが、実践では教科書に載っていないような沢山の応用が必要だ。冬はそれが自然に出来た。
カーラは冬に笑みを浮かべた。
「うん。良いわ…ちょっと待ってね。」
カーラは人形に耳打ちをした。本当に内緒話をしているようだった。小鳥遊はこの様な状況にも関わらずその可愛らしさに思わず笑みを浮かべてしまった。
「…“良いわよ”ですって。」
カーラの表情から冬への警戒が解けたように見えた。
「あら嬉しいわ。」
冬は全身汗びっしょりだった。通りがかりの人々が携帯やスマホを冬達に掲げるように向けた。沢山の車が路肩に止まったり、一時停止して、冬達の様子を見ていくので、国道の渋滞はますます酷くなった。
「Hey!ちょっと あなたたち!!見世物じゃ無いわ!!手伝えないなら救急車の邪魔になるから車どかしなさいよ!!」
冬が野次馬に向けて大声で怒鳴り散らした。
…これだ…冬の堂々とした物言い。
小鳥遊はそのドスのある声を久しぶりに聞いて,身体中に鳥肌が立つのを感じた。
電気技師がAEDを抱えて戻って来た。小鳥遊が父親のシャツのボタンを外している間も冬はマッサージを休まず続けていた。
「あのね…今お父さんに機械をつけて、胸の状態を見るからね。ピーって大きな音がするかも知れないけど心配しないで大丈夫よ。」
説明している間に小鳥遊が準備した。
AEDが適応しますので今すぐ使用してくださいと機械的な声がし,チャージ音が鳴った。
「じゃあ…みんな離れて。」
遠くから救急車の音が聞こえた。
…良かった。
冬はホッとした。筋肉が疲労で突っ張り腕がギシギシとした。
「救急車が来たからお父さんを病院へ連れて行って詳しく調べてくれるからね。」
小鳥遊が言った。
「これ君たちの車のカギ。あとこの人のも。」
電気技師の男性が持って来てくれた。ありがとう…冬はにっこりほほ笑んだ。誰もが救急車が来てホッとした表情を浮かべた。
救急隊員が降りて来た。
「交代します!」
隊員が冬と変わった。処置が終わるまで、小鳥遊と救急隊員は、蘇生を続けていた。
「月性さん。僕はこの人に付いて行きます。携帯持ってますから、大丈夫です。」
そう言って子供たちと小鳥遊は救急車に乗った。周りにいた人達は,それを静かに見送った。汗びっしょりの冬に,皆がそれぞれに声を掛けた。
「疲れただろ?俺のおごりだ。ビールじゃ無くて済まないな。」
誰かが笑いながら冷えたペットボトルの水を冬に手渡した。
「…ありがとう。」
乗って来た車を探すと、あっちだよと電気技師の男性が、指をさした。
手伝ってくれた人達と固いハグを交わし、お互いを称え合って、冬は足早に去った。
冬は緊張が溶けぐったりした。モールへ行く元気はもう無く、家に戻りゆっくりと風呂に浸かりたかった。暫くして小鳥遊から電話があり、タクシーに乗って家に帰る途中だと言った。
冬の細い腕には既に筋肉痛の痛みが出ていた。
家に戻り、ジャグジーにゆっくりと入っていると、小鳥遊が戻った。
「どうでした?」
「救急隊が付けた心電図でST上昇T波も高かったから、急性心筋梗塞だと思います。」
「それでお父さんは?」
「意識を取り戻していましたが、2-3日入院になりそうだと言ってました。」
「良かった…。」
「子供たちも親戚の人がすぐに来てくれました。」
「そうですか。」
冬はホッとした。
「病院恋しくなったんじゃ無いですか?」
小鳥遊も服を脱ぎ、一緒に浸かった。
「いえ…出来ることなら先生とこうして何もせず過ごしていたいです。」
湯船の中で筋肉痛の冬は自分の手をゆっくり揉むと、僕が揉んであげましょうと言いながら、大きな手でゆっくりとマッサージをし始めたが、すぐに冬の胸元に手が伸びてきて乳房を愛撫し始めた。
「胸より腕をお願いしたいんですけれど?」
笑っていうと小鳥遊は、冬を抱き寄せた。
「ところでトーコさん…あの時僕の事をおじさんって言ってましたよね。」
冬は小鳥遊の胸に寄り掛かった。
…え? ああ…あの時か…確かに言っちゃったかも知れない。
小鳥遊は冬の両方の乳房を揉みだした。
「そうでした?」
…とりあえず…とぼけておこう…。
「ええ…それも2回も。」
…変なことばっかり覚えてるんだな。
冬は笑って誤魔化した。
「Dr.Erosの方が良かったでしたかね?」
「それはあなたと家に居る時の僕でしょう?仕事をしている時はちがいますから。」
小鳥遊は笑った。
「そう言えば…小峠先生は看護師さん達に禿って蔭で呼ばれていましたが、僕のあだ名はあるんでしょうか?」
…禿…ばれてたのか。何気に聞いていないようで看護師の話を聞いてるんだな。気を付けよう。あ…今回の旅行もそれでばれた?
「“熟女キラー“?とか何の面白みも無い“イチョー“とか"タカナッシーですかね。」
胸の先端を摘まみゆっくりと転がし始めると,冬の下半身はすぐに疼きそれに答えた。
「熟女限定ですか?それに何の面白みも無いって…酷い。」
小鳥遊は少し寂しそうに言った。
「あら♪熟女キラーだなんてとっても素敵な称号だと思いますよ。酢いも甘いも経験し百戦錬磨の熟女達からの支持票ですからね。」
冬は小鳥遊の太ももに触れていた。
「そんな人達から支持を得るなんて凄い事よ?麻酔科の今泉先生みたいな、ただ若くてカッコ良くて、チャラいからってだけで若い看護師達がキャーキャー言われてるのとは違いますからね。」
小鳥遊は、渋くて知的でとても素敵だった…けれど、若い看護師達もあわよくば妻の座を狙っているのだから、若い医者の方が良いに決まってる。
…Dr.Erosの全盛期は過ぎたって訳だ。
冬はほくそ笑んだ。
「僕もちやほやされてみたいです。」
…今でも充分ちやほやされていると思うけど…もしかしてDr.Erosの癖に自覚が無いのか?
「先生には妻子持ちラベルが付いてますからね。そこをお忘れなきように。私が先生をちやほやするだけじゃ…足りない?」
冬が甘えてもたれ掛かると、小鳥遊は満面の笑みを浮かべた。
「僕は、それで充分です。」
冬の首筋にキスをして、抱きしめた。
「あの時…車から出て行くのがちょっと怖かったの。」
…エリックのことか。
「でも…先生が私を呼んでくれたから、我に返ったの…ありがとう。」
冬は振り返り小鳥遊の頬にキスをした。
「それに…あの時の先生とってもカッコ良くて…欲情しちゃった。」
その言葉に、背中に当たっていた小鳥遊が、ムクムクと反応したので冬は可笑しかった。
「甘えん坊でエッチな先生とじゃなくって、病院で働いている時のようなキリッとしてて素敵な先生とエッチしたい。」
「病院でするのは、あなたに禁止されたじゃないですか。」
…そーゆー意味じゃないんだ…けど…。
「今は,どちらの先生でも良いから…いっぱい愛して欲しいの…。」
冬のその目は小鳥遊を欲する様に潤んでいた。
「では…夜までしっかり愛し合い…ましょ…う。」
冬は小鳥遊が言い終わらないうちに、向かい合わせに跨ると唇を貪っていた。
冬は小鳥遊の唇を激しく求めた。舌先で小鳥遊を探し粘膜を情熱的なまでに愛撫を続けた。
「トーコ…さん?」
冬はいつもとは少し違って見えた。
「なぁに?」
潤んだ瞳の冬に見つめられるだけで、小鳥遊の股間は痛いほどに膨張した。
「今日のあなた…いつもと少し違いますね。」
冬は小鳥遊の首に優しくキスをしていたかと思うと、急に噛みついた。
「イタッ。」
まるでそれは、お互いの存在を確認する行為のように、度々続けられた。
「せんせ…あの時…私動けなかったの。怖くて…もしも先生が、エリックの様に死んでしまったらと思ったら怖かったの。」
冬の手は、湯の中の小鳥遊にそっと触れて、ゆっくりと動いていた。
「トーコさん。」
「また置いて行かれる気がしたの。」
冬の顔は苦痛の表情で歪んでいた。
「もしも…もしも…そんなことがあったら…わたし…。」
小鳥遊の指も静かに冬の下腹部へと伸びた。そこは水の中でもぬるぬるとしていて、愛液が流れ出てきていることが判った。
「怖がらなくても大丈夫です。僕は…あなたの傍に…ずっと…います。」
小鳥遊の指を求めて、冬の腰は柔らかく動き始めた。
「良いの…傍に居なくても…誰のものになってしまっても…いいの…だけど…。」
冬は泣いているように見えた。濡れた茶色の髪は首から胸元へと張りつき、白い肌を際立たせ、とても艶めかしかった。
「トーコ…大丈夫…僕は…どこにもいかない…。」
冬の中の指は3本に増えていて、恥じらいも無く快楽を求め、冬は甘い声を囁き始めた。
「そんなこと…わか…らない。明日のことなんて…失う時は…あっという間…だから。」
小鳥遊の耳を音を立てて優しく吸った。
「…ああ。トーコ。」
自慰行為をしているようで、水の中のお互いの下腹部を見つめていた。
「今…この瞬間の…わたしを愛して?ガク…あなたであたしをいっぱいに満たして…欲しいの。」
大きく膨張したそれは、冬の親指の腹で鈴口をくるくると刺激をされながら、小さな指で作った輪の中を上下していた。
「この…ガクのおちん●んでトーコの中を掻きまわして?気持ちよくして欲しいの。」
冬のいやらしい言葉を聞き、表面を這う血管が益々怒張しはじめた。
+:-:+:-:+:-:+:🐈⬛-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+
小鳥遊は、激しく愛しあった後、疲れて寝ている冬の横で本を読んでいた。
…今日は部屋で何か適当に作ってたべよう。
小鳥遊は冬の無邪気な寝顔を見て考えていた。冬から欲情していると言われて、つい興奮してしまった。
突然、家電が鳴った。
小鳥遊は冬を起こさない様に慌てて受話器を取った。
「はい…。」
「ガク?あなたテレビ見てる?C●N付けてみて。」
言われるがままに部屋のテレビを付けた。
誰かが撮った動画。
昼間のあの出来事が映し出された。
心臓マッサージをしながら、子供を落ち着かせようとしている冬がいた。
ズームアウトすると小鳥遊も一緒に映し出された。
「月性さん起きて下さい。まずいことになりました。」
冬は急に名字で呼ばれすぐに目を覚ました。
≪…「その子の名前はなんていうの?」
…「ミミ。」
…「Hi.ミミ。」
…「…でもこの子とってもシャイなの。」
…「そう。じゃあカーラが伝えてくれる?トーコとこのおじさんがミミとお友達になりたいって。」
…「うん。良いわ…良いわよって言ってるわ。」
…「あら嬉しいわ。」≫
テレビの画面を見ながら
「Oh my goodness.」
冬はそう呟いた。
「ほら!聞きました?おじさんって言ってますって…。」
…いやいやいやいや…気にしてるのはそこじゃなーい!
「先生…まさか連絡先とか…。」
冬は画面にくぎ付けになっていた。
「いいえ…親戚が来たらすぐ帰ってきましたから。」
≪…的確な救命措置を男性にとったのは、日本人と思われるカップルで、女性はトーコと名乗ったそうです。…男性が救急車に乗った後、女性はその場を立ち去り、医者だと言った男性は、子供達と一緒に搬送先の病院まで付いて行き、優しく子供たちに声を掛け続け、病院で家族がお礼を言おうとした時には、既にいなかったそうです。…家族はこのふたりを探して…。≫
「ジェスには…シラを切りとおすしかないわ…でないと大変なことになっちゃう。」
冬はベットの上で独り言のように呟いた。ジェスのことだ誰彼構わず、嬉しそうに話してしまうにちがいない。
「それで上手く行けば良いんですけれど…。」
小鳥遊もテレビを観ながら言った。
―――その日の夜。
ジェスとジェフは帰って来た。ジェスは興奮していた。
「あのニュース…私すぐに分かっちゃったわ!あなたたちでしょう?もうびっくりしちゃった。」
「え…?何の事?」
冬はとぼけた。
「ガクあなたトーコに言わなかったの?」
「え…ええ。」
ジェスは夕方のニュースでやったから、明日の新聞と朝のニュースでもう一度やるわよと言いつつテレビを付けた。
「家族がこのふたりを探しているんですって。」
ジェフは黙ってその様子を見ていた。
「似ているように見えるけど…私達じゃないわ。だってずっとガクと私は家にいたもの。」
「どうして隠す必要があるのよ?良いことをしたって言うのに!」
ジェスは興奮していた。
「隠してなんかいないわ。だって私達じゃ無いんですもの…。」
「だって…トーコって言ってるじゃないの!」
ジェフは口を挟んだ。
「ジェス。トーコは、自分じゃないって言ってるんだ。もうその話はよさないか…。」
ジェフはそっとジェスの肩を押した。
(だって…)
未だに納得していないジェスをキッチンへと連れて行った。
ビデオの静止画と思われる写真が、翌日の朝刊の一面を飾った。
帰国まであと1日。
ジェフが私達の部屋にやって来た。
「君たちは良いことをしたのにも関わらず、どうして隠すんだい?」
ジェフは私の目をじっと見つめ冬の答えを待っていた。
「ガクと来ている事も付き合ってることも、誰も知らないの。C●Nって日本でも流れるのよ。これがバレたら、私はどこかの病棟へ飛ばされるかも知れない。色々事情があるの…私達だとしたらの話だけど。」
ジェフは考え込んだ。
「判った。」
静かに部屋を出て行った。
…疲れた
「明日は帰国ですし、今晩はゆっくり休みましょう。」
小鳥遊は静かに言った。
朝起きてニュースを見ると、ジェスの言った通り、繰り返し放送されていた。
画像が少し悪いのが救いだった。冬は改めて画面をじっくりと見た。冬は名前を名乗ってしまったが、顔はそれほど鮮明では無いし、二人とも私服なので上手くすれば日本で放送されても分らないかも知れないと冬は思った。
ジェスは冬の顔をチラチラ見るだけで何も言わなかった。
…ジェフに何か言われたんだろうな。
「どうぞトーコをこれからもお願いします。」
別れ際にジェフは小鳥遊と握手、ハグをした。
「はい。お世話になりました。」
「またねジェスとジェフ。本当にありがとう。」
二人はレンタカーに乗り込んだ。玄関から見送るジェスが言った。
「トーコは、もう…ここには来ないかも知れないわね。だってガクがいるんだもの。」
ジェフは涙を貯めているジェスの肩をそっと抱き寄せた。
「それで良いんだよ…トーコは、やっと歩き出した…これで良かったんだ。」
二人は冬が運転する車が門を過ぎてそれが閉まるまで見送った。
+:-:+:-:+:-:🐈⬛+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+
…長くて短い休暇だった。
二人は、深夜に小鳥遊のマンションについたが、小鳥遊は翌日から仕事だった。冬はもう一日休みがあるので、荷解きや明日の朝食などを準備してからベットに入った。
小鳥遊を送り出した後、掃除や洗濯をして疲れ、ベットで少し横になろうと冬は休んだ。夕方、冬が風呂に入って居ると、小鳥遊が病院から帰ってきた。
「トーコさん…事件です!」
小鳥遊が風呂場に入って来た。
…姉さん…事件です…的なやつか
「先生。後でお話聞きますから、寒いからそこ閉めて頂けませんか?」
小鳥遊は風呂場の中に入り、扉を閉め自分のスーツを当たり前のように脱ぎ始めた。
…あーあ…もう こりゃ お約束だな。
冬は苦笑した。
「あのアメリカでの事件…あなただったと病院にばれてました。」
シャワーを出しながら小鳥遊は言った。
「でも…先生は?」
「僕はセーフです。あそこで名前を言っちゃったのがまずかったかも知れませんね。」
大使館の出国記録を調べればトウコなんてすぐ判りますもんね…と小鳥遊が言いながら湯船に入った。
「え?大使館ってそういう情報簡単に漏らしたりするの?」
…知らなかった。
「ええ…犯罪などでは無いですし、アメリカ政府から要請があれば教えるんじゃないでしょうか?」
小鳥遊はその大きな体を洗い始めた。
「でも…あれは先生が助けたようなもので…私は何も…。」
…あの時凍り付いてしまって、先生に呼ばれなければ動けなかった。
「町の市長からお礼状が届いているそうです。」
小鳥遊はにこにこ笑っていた。
「えーっ。まだ一昨日のことなのに?」
小鳥遊はゆっくりと湯船に入って来て、当たり前のように冬を膝に乗せた。
「もう貴女じゃ無かったとは言えないです。」
「でも先生のことは?どうなるの?」
冬は小鳥遊のことが心配だった。
「僕はラッキーなことにばれて居ませんでした。画像悪かったですしね。」
「でも…どうしよう…誰だったか聞かれたらどう答えれば良いんだろう?」
…絶対にそれだけはバレてはいけない。
冬は焦っていた。
「国籍不明のアジア人で良いんじゃないですかね?私達日本語で話して無いですし…」
小鳥遊は心配する冬の頬を撫でた。
「でもそれじゃあ…。」
「僕は良いんです…もう何度も何度も動画を観ちゃいました。あの時の真剣で優しい冬さんのまなざしを思い出すと…したくなりました。」
小鳥遊の手が、冬の下半身へとそろりそろりと伸びてきた。
…やっぱり…そこかーーーい!
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+
対向車が居ないと後続車は次々とその車を抜いていく。
「せんせ…あの車…何かおかしい。」
それには小鳥遊も気が付いていた。アメリカでは、80歳でも普通に運転している。ノロノロ運転も結構多い。車が無いと生活が成り立たないからだ。しかし前方の車の運転手は,老人では無いようだった。
「携帯電話でも掛けているんですかね?それとも故障?」
小鳥遊は数台先にあり、どんどん追い越されていく銀色のセダンを眺めていた。
その車を追い越す時に、クラクションを鳴らしたり、窓を開けてわざわざ何かを叫ぶ人達もいた。
冬がそのセダンを追い越す番になり、追い越そうとウィンカーを出した時に突然車は止まった。
「わっ…。Are you OK?」
冬は慌ててブレーキを掛け、思わず小鳥遊の身体を右手で庇うように抑えた。
「僕は大丈夫ですよ。」
小鳥遊が静かに冬に答えた丁度その時、車から40-50代の男性がよろよろと出て来て道路に倒れ込んだ。
…あっ!
冬はハザードを出し車を路肩に止め、エンジンを切った。後部座席の2人の小学生ぐらいの子供が道路へと飛び出してきた。
―――バタンッ
助手席のドアが閉まる音に冬はハッとした。小鳥遊は車から降り対向車や追い越して行く車に注意しながら、その男性の元へと向かっていた。
―――突然のフラッシュバック。
エリックと小鳥遊が重なった。
…あの時と…おんな…じ。
小鳥遊が道路にしゃがみ込み、男性に話しかけるのを見た瞬間、冬は頭が真っ白になり、糊付けされたように体が竦み、お尻がシートに張り付き、身動きが取れなかった。
…怖い。
心臓の鼓動が耳の傍で早鐘のように聞こえ,手足が一気に冷たくなった。
そして目の前がクラクラしだした。まるで嵐の日に小さな小舟に乗っているようだった。
…嫌だ。
小鳥遊が何か指示すると、子供達は、道路の脇へ歩き出し、安全な路肩で不安そうに男性を見ていた。
…やめて。
手足の感覚は麻痺し、それと共に意識はあの時の光景を強制的に、鮮明に冬の目の前にアップロードを始めた。
…見たくない。
叫んだつもりでも喉は乾き、声は出なかった。
自分で息をしているのかも判らないぐらいに意識と感覚が体から引き剥がされていく…。
あの日の景色が冬の目の前には広がっており、同じように冬が運転をしていた。
煙があがる車から、よろよろと出てきて、倒れこんだ男性。対向車がハンドルを誤り、反対車線に飛び出し、突っ込んできたようだ。
今、目の前であったばかりの事故に冬は呆然としてた。
「トーコは、救急車を呼んで!ここで待ってて!」
―――バタン。
車から降りて、男性に近寄るエリック。
後方にはかなりの渋滞が出来ていた。冬は911をコールした。
対向車が来ていることも知らず、待っている冬や数台の車を追い越そうとした車。
対向車を避けようとハンドルをきった先には、エリックが…。
鈍い音がすると,冬のフロントガラスに血が飛び散り、涙のように垂れていく血液の、その向こうには、車の間に挟まれて、驚いた顔をして冬を見つめるエリックの姿があった。
誰かが叫んだ…と思ったらそれは自分の声だった。
(大丈夫ですか?もしもし…)
携帯が冬の手から滑り落ちた。
「エリック!!エリック!!」
冬は夢中で駆け寄った。
OH MY GOD! OH MY GOD!!
車から降りて来た人々が、その光景を見て口々に叫んだ。
対向車も追い越しを掛けた車の運転手も、車の中で気を失っていた。人々はその二人の救出に向かい、野次馬はエリックの周りを取り囲んでいた。
すぐに救急車と特殊救助隊の消防車の音が聞こえて来た。
「トー…コ…僕は…大丈…夫…だか…ら。」
エリックは、丁度胸の下辺りを車の間に挟まれていた。冬に微笑んでいたが口元からは、血液がたらたらと零れ続けた。
「あんた。もうしゃべらない方が良い!すぐに救急車が来るから!それまで頑張るんだよ!」
野次馬が声を掛けて来た。
「心配…しないで…もう…痛く…無い…から。トーコ…あいして…る。」
エリックは譫言のように話し続けた。自分のことよりも、取り乱す冬を落ち着けようとしていた。
「諦めちゃ駄目!エリック!エリック!!」
冬の顔を見つめているものの、その視線は冬の後ろのその先を見ているようだった。
「背骨を…やられた…みたい…。僕は…ラッキーだよ…もう…痛く無いんだ…もの…トーコ…心配しない…で。大丈夫…だから。」
「あなたをもうすぐ助けに来てくれる!諦めちゃ駄目よ!」
取り乱す冬を到着したばかりの警察官が抱えるようにして、その場から引き剥がした。
そこで冬の意識は引き延ばされる様に、あの時から離れ、いつの間にか、この世界へと戻って来ていた。
小鳥遊が冬に向かって何かを叫んでいた。
…先生が…何?何を言ってるの?
ほんの数秒…長くても数分のことだったと思う。フラッシュバックで、引き千切れていた〝正常”な意識が再び冬の中で集まり始めた。
…聞こえない…聞こえないよ。
突然、車の大きなクラクションが冬の後ろでなった…瞬間。
「月性さん!!!早く!!」
小鳥遊が大声で何度も冬を呼んでいるのが聞こえた。
苗字で呼ばれハッとし、鍵を付けたまま車をその場に置き、慌てて小鳥遊の元へと向かった。
「心臓発作のようです」
体が大きな男性は、意識が無かった。
「道路から端に移動させましょう。」
すぐに後続車からも数人大人達が出て来て手伝った。静かに道路脇に寝かせると、小鳥遊は心臓マッサージを始めながら、人垣が出来始めた周りを見回した。
「そこの青いシャツのあなた。救急要請し、ここまで来るのにどの位時間がかかるか聞いてください。」
小鳥遊は野次馬の中から手伝う意思がありそうな人を指差していった。
「そこの電気技術師のようなあなた、近くの店にAEDがあったら借りて来てください。」
汚れたつなぎを着ている男性を指差すと,男性はえっ?俺?と言いながらキョロキョロと周りを見渡した。
「そこのあなた…そうです。あなたです。」
赤い服の女性のあなたは、私達がする事を時間を追ってメモして下さい。ええ。処置の経過をメモしてください。自分の言葉で良いんで…その都度言いますから…簡単にで結構です。」
小鳥遊は心臓マッサージをしながら、周囲にテキパキと指示を出していた。
「代わります。」
冬は心臓マッサージを変わると、●ージーズの “Stayin’ Ali●e”を口ずさんでいた。ア●パンマ●・マーチもちゃんと歌うと100回/分になるから…覚えておくと良いわよと以前、後輩看護師に説明していたのを小鳥遊は、冬の横顔を見ながら思い出していた。
「あんたたちの車を移動させてくる。」
国道は見物人で渋滞が始まっていた。
「救急車20分ぐらい掛かるって!」
青いシャツの男性が携帯を片手に小鳥遊と冬に向かって大声で叫んだ。
「seriously?」「Oh、God!」
周りの野次馬からは、諦めとも受け取れるようなため息が漏れた。
日本では10分で来る救急車も、アメリカでは、場所によってかなりの時間が掛かった。
「頑張るしか無いですね。」
小鳥遊は冬に話しかけたが、何も答えず冬はマッサージを続けた。
その横顔は、汗で髪が顔に張り付き紅潮していた。小鳥遊が良く知る病棟での冬の凛とした顔そのものだった。
もみあげから顎の先に伝い落ちる汗がキラキラと光っていた。車のクラクションの音、騒ぐ野次馬。その中でも冬は、気を散らすことも無くただマッサージを続けていた。
1.2.3.4.5,1.2.3.4.5,..
「ダディー。」
子供たちが心配そうに見ていた。
「ねえ あなたたちいくつ?」
冬が子供の声にハッとし、優しく聞いた。
「僕はデビット10歳,この子は妹のカーラで今年から小学生だよ。」
「お父さんは何か病気を持っていたかな?薬は?」
今度は小鳥遊が子供達に聞いた。
「うーん…ノウソッチュウ…の薬を飲んでた。」
冬の額から汗が止めどなく流れ落ちていた。
「薬の名前なんて分からないよね?心臓の薬は?」
デビットは 横たわる父親を凝視しながら答えた。大人たちの緊迫した様子に震えていた。
「わかんない。」
ズボンの両方のポケットに親指をひっかけるようにしながらデビッドは答えた。
「お父さん倒れる前に何か言ってなかった?頭や胸が痛いとか…」
小鳥遊はふたりの子供の顔を交互に見ながら聞いた。暫く沈黙があり、妹のカーラが小さな声で言った。
「ダディは運転してたら、急にここが苦しいって言ったの。」
カーラは自分の胸をゆびで指さした。
「そっか…教えてくれてありがとう。お父さんを助けるのにとっても助かるよ。」
小鳥遊は、少し微笑んだような気がした。カーラは,小鳥遊の表情を見てほっとしたようだった。
「僕は、お医者をしているけれど、お父さんは心臓発作を起こしたのかも知れないね。この人は看護師さん。心配ないよ。僕たちは救急車が来るまで君たちと一緒にここに居るから。」
小鳥遊は優しく笑った。デビットの顔に張り付いていた緊張が少し溶けた。
「君たちにも手伝って貰いたいことがあるんだけれど…。」
ふたりとも緊張していたが、使命感に燃えた面持ちで頷いた。
「お父さんの携帯電話はどこにあるか判る?あと免許証とか身元が判るものはあるかな?」
多分ポケットの中…と、デビットは父親のズボンのポケットを探り、携帯電話を取り出した。
「それで、お母さんに電話掛けられる?」
「お母さん…死んじゃったの。」
カーラが兄のデビットの服の端を握ったまま答え、冬と小鳥遊は目を合わせた。
…片親…なのか。
「そっか…じゃあ、おばあちゃんとかおじいちゃんや、お父さんのお友達でもいいや…その人に電話を掛けられるかな?」
小鳥遊は人口呼吸の間にデビットに聞いた。冬は小鳥遊が、子供達に余り緊張を与えない様、抑揚を抑え優しくゆっくりと話しかけている事に気が付いた。
「うーん…ちょっと分んないや。」
デビットはスボンのポケットに手を突っ込んだまま父親から目を離さずに答えた。
「待って私が調べてあげる。」
野次馬の一人だった中年の女性が進み出て、デビットに何か聞きながら電話をしていた。一人残されたカーラは、冬と小鳥遊を食い入るように見つめていた。
「その子の名前はなんていうの?」
冬は,カーラが抱いている大きな人形を見て聞いた。
「ミミ。」
冬は人形に向かって話しかけた。それは、女の子に人気がある18インチもある大きなサイズの人形で、目の色も髪の色もカーラにそっくりだった。
「Hi.ミミ。こんにちは。ミミはカーラと一緒でとっても可愛いわね。スカートもお揃いなのかしら?良く似合ってるわ。」
冬の背中に汗が伝った。
「…この子とってもシャイなの…だから、知らない人にはお話しないの。」
小鳥遊は黙って冬の話を聞いていた。
「そう。困ったわねぇ…恥ずかしがり屋なのね…どうしましょうか…。」
冬は手を休めず,カーラと話していたので息が切れた。
「そう…だ!カーラが…ミミに伝えてくれる?トーコと…このおじさんがミミのお友達に…なりたいって…言ってるって。」
冬は微笑んでいた。
子供やせん妄などがある患者と自然に付き合うことができるのは一種の才能だと小鳥遊は感じている。テクニックとしては学べるが、実践では教科書に載っていないような沢山の応用が必要だ。冬はそれが自然に出来た。
カーラは冬に笑みを浮かべた。
「うん。良いわ…ちょっと待ってね。」
カーラは人形に耳打ちをした。本当に内緒話をしているようだった。小鳥遊はこの様な状況にも関わらずその可愛らしさに思わず笑みを浮かべてしまった。
「…“良いわよ”ですって。」
カーラの表情から冬への警戒が解けたように見えた。
「あら嬉しいわ。」
冬は全身汗びっしょりだった。通りがかりの人々が携帯やスマホを冬達に掲げるように向けた。沢山の車が路肩に止まったり、一時停止して、冬達の様子を見ていくので、国道の渋滞はますます酷くなった。
「Hey!ちょっと あなたたち!!見世物じゃ無いわ!!手伝えないなら救急車の邪魔になるから車どかしなさいよ!!」
冬が野次馬に向けて大声で怒鳴り散らした。
…これだ…冬の堂々とした物言い。
小鳥遊はそのドスのある声を久しぶりに聞いて,身体中に鳥肌が立つのを感じた。
電気技師がAEDを抱えて戻って来た。小鳥遊が父親のシャツのボタンを外している間も冬はマッサージを休まず続けていた。
「あのね…今お父さんに機械をつけて、胸の状態を見るからね。ピーって大きな音がするかも知れないけど心配しないで大丈夫よ。」
説明している間に小鳥遊が準備した。
AEDが適応しますので今すぐ使用してくださいと機械的な声がし,チャージ音が鳴った。
「じゃあ…みんな離れて。」
遠くから救急車の音が聞こえた。
…良かった。
冬はホッとした。筋肉が疲労で突っ張り腕がギシギシとした。
「救急車が来たからお父さんを病院へ連れて行って詳しく調べてくれるからね。」
小鳥遊が言った。
「これ君たちの車のカギ。あとこの人のも。」
電気技師の男性が持って来てくれた。ありがとう…冬はにっこりほほ笑んだ。誰もが救急車が来てホッとした表情を浮かべた。
救急隊員が降りて来た。
「交代します!」
隊員が冬と変わった。処置が終わるまで、小鳥遊と救急隊員は、蘇生を続けていた。
「月性さん。僕はこの人に付いて行きます。携帯持ってますから、大丈夫です。」
そう言って子供たちと小鳥遊は救急車に乗った。周りにいた人達は,それを静かに見送った。汗びっしょりの冬に,皆がそれぞれに声を掛けた。
「疲れただろ?俺のおごりだ。ビールじゃ無くて済まないな。」
誰かが笑いながら冷えたペットボトルの水を冬に手渡した。
「…ありがとう。」
乗って来た車を探すと、あっちだよと電気技師の男性が、指をさした。
手伝ってくれた人達と固いハグを交わし、お互いを称え合って、冬は足早に去った。
冬は緊張が溶けぐったりした。モールへ行く元気はもう無く、家に戻りゆっくりと風呂に浸かりたかった。暫くして小鳥遊から電話があり、タクシーに乗って家に帰る途中だと言った。
冬の細い腕には既に筋肉痛の痛みが出ていた。
家に戻り、ジャグジーにゆっくりと入っていると、小鳥遊が戻った。
「どうでした?」
「救急隊が付けた心電図でST上昇T波も高かったから、急性心筋梗塞だと思います。」
「それでお父さんは?」
「意識を取り戻していましたが、2-3日入院になりそうだと言ってました。」
「良かった…。」
「子供たちも親戚の人がすぐに来てくれました。」
「そうですか。」
冬はホッとした。
「病院恋しくなったんじゃ無いですか?」
小鳥遊も服を脱ぎ、一緒に浸かった。
「いえ…出来ることなら先生とこうして何もせず過ごしていたいです。」
湯船の中で筋肉痛の冬は自分の手をゆっくり揉むと、僕が揉んであげましょうと言いながら、大きな手でゆっくりとマッサージをし始めたが、すぐに冬の胸元に手が伸びてきて乳房を愛撫し始めた。
「胸より腕をお願いしたいんですけれど?」
笑っていうと小鳥遊は、冬を抱き寄せた。
「ところでトーコさん…あの時僕の事をおじさんって言ってましたよね。」
冬は小鳥遊の胸に寄り掛かった。
…え? ああ…あの時か…確かに言っちゃったかも知れない。
小鳥遊は冬の両方の乳房を揉みだした。
「そうでした?」
…とりあえず…とぼけておこう…。
「ええ…それも2回も。」
…変なことばっかり覚えてるんだな。
冬は笑って誤魔化した。
「Dr.Erosの方が良かったでしたかね?」
「それはあなたと家に居る時の僕でしょう?仕事をしている時はちがいますから。」
小鳥遊は笑った。
「そう言えば…小峠先生は看護師さん達に禿って蔭で呼ばれていましたが、僕のあだ名はあるんでしょうか?」
…禿…ばれてたのか。何気に聞いていないようで看護師の話を聞いてるんだな。気を付けよう。あ…今回の旅行もそれでばれた?
「“熟女キラー“?とか何の面白みも無い“イチョー“とか"タカナッシーですかね。」
胸の先端を摘まみゆっくりと転がし始めると,冬の下半身はすぐに疼きそれに答えた。
「熟女限定ですか?それに何の面白みも無いって…酷い。」
小鳥遊は少し寂しそうに言った。
「あら♪熟女キラーだなんてとっても素敵な称号だと思いますよ。酢いも甘いも経験し百戦錬磨の熟女達からの支持票ですからね。」
冬は小鳥遊の太ももに触れていた。
「そんな人達から支持を得るなんて凄い事よ?麻酔科の今泉先生みたいな、ただ若くてカッコ良くて、チャラいからってだけで若い看護師達がキャーキャー言われてるのとは違いますからね。」
小鳥遊は、渋くて知的でとても素敵だった…けれど、若い看護師達もあわよくば妻の座を狙っているのだから、若い医者の方が良いに決まってる。
…Dr.Erosの全盛期は過ぎたって訳だ。
冬はほくそ笑んだ。
「僕もちやほやされてみたいです。」
…今でも充分ちやほやされていると思うけど…もしかしてDr.Erosの癖に自覚が無いのか?
「先生には妻子持ちラベルが付いてますからね。そこをお忘れなきように。私が先生をちやほやするだけじゃ…足りない?」
冬が甘えてもたれ掛かると、小鳥遊は満面の笑みを浮かべた。
「僕は、それで充分です。」
冬の首筋にキスをして、抱きしめた。
「あの時…車から出て行くのがちょっと怖かったの。」
…エリックのことか。
「でも…先生が私を呼んでくれたから、我に返ったの…ありがとう。」
冬は振り返り小鳥遊の頬にキスをした。
「それに…あの時の先生とってもカッコ良くて…欲情しちゃった。」
その言葉に、背中に当たっていた小鳥遊が、ムクムクと反応したので冬は可笑しかった。
「甘えん坊でエッチな先生とじゃなくって、病院で働いている時のようなキリッとしてて素敵な先生とエッチしたい。」
「病院でするのは、あなたに禁止されたじゃないですか。」
…そーゆー意味じゃないんだ…けど…。
「今は,どちらの先生でも良いから…いっぱい愛して欲しいの…。」
冬のその目は小鳥遊を欲する様に潤んでいた。
「では…夜までしっかり愛し合い…ましょ…う。」
冬は小鳥遊が言い終わらないうちに、向かい合わせに跨ると唇を貪っていた。
冬は小鳥遊の唇を激しく求めた。舌先で小鳥遊を探し粘膜を情熱的なまでに愛撫を続けた。
「トーコ…さん?」
冬はいつもとは少し違って見えた。
「なぁに?」
潤んだ瞳の冬に見つめられるだけで、小鳥遊の股間は痛いほどに膨張した。
「今日のあなた…いつもと少し違いますね。」
冬は小鳥遊の首に優しくキスをしていたかと思うと、急に噛みついた。
「イタッ。」
まるでそれは、お互いの存在を確認する行為のように、度々続けられた。
「せんせ…あの時…私動けなかったの。怖くて…もしも先生が、エリックの様に死んでしまったらと思ったら怖かったの。」
冬の手は、湯の中の小鳥遊にそっと触れて、ゆっくりと動いていた。
「トーコさん。」
「また置いて行かれる気がしたの。」
冬の顔は苦痛の表情で歪んでいた。
「もしも…もしも…そんなことがあったら…わたし…。」
小鳥遊の指も静かに冬の下腹部へと伸びた。そこは水の中でもぬるぬるとしていて、愛液が流れ出てきていることが判った。
「怖がらなくても大丈夫です。僕は…あなたの傍に…ずっと…います。」
小鳥遊の指を求めて、冬の腰は柔らかく動き始めた。
「良いの…傍に居なくても…誰のものになってしまっても…いいの…だけど…。」
冬は泣いているように見えた。濡れた茶色の髪は首から胸元へと張りつき、白い肌を際立たせ、とても艶めかしかった。
「トーコ…大丈夫…僕は…どこにもいかない…。」
冬の中の指は3本に増えていて、恥じらいも無く快楽を求め、冬は甘い声を囁き始めた。
「そんなこと…わか…らない。明日のことなんて…失う時は…あっという間…だから。」
小鳥遊の耳を音を立てて優しく吸った。
「…ああ。トーコ。」
自慰行為をしているようで、水の中のお互いの下腹部を見つめていた。
「今…この瞬間の…わたしを愛して?ガク…あなたであたしをいっぱいに満たして…欲しいの。」
大きく膨張したそれは、冬の親指の腹で鈴口をくるくると刺激をされながら、小さな指で作った輪の中を上下していた。
「この…ガクのおちん●んでトーコの中を掻きまわして?気持ちよくして欲しいの。」
冬のいやらしい言葉を聞き、表面を這う血管が益々怒張しはじめた。
+:-:+:-:+:-:+:🐈⬛-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+
小鳥遊は、激しく愛しあった後、疲れて寝ている冬の横で本を読んでいた。
…今日は部屋で何か適当に作ってたべよう。
小鳥遊は冬の無邪気な寝顔を見て考えていた。冬から欲情していると言われて、つい興奮してしまった。
突然、家電が鳴った。
小鳥遊は冬を起こさない様に慌てて受話器を取った。
「はい…。」
「ガク?あなたテレビ見てる?C●N付けてみて。」
言われるがままに部屋のテレビを付けた。
誰かが撮った動画。
昼間のあの出来事が映し出された。
心臓マッサージをしながら、子供を落ち着かせようとしている冬がいた。
ズームアウトすると小鳥遊も一緒に映し出された。
「月性さん起きて下さい。まずいことになりました。」
冬は急に名字で呼ばれすぐに目を覚ました。
≪…「その子の名前はなんていうの?」
…「ミミ。」
…「Hi.ミミ。」
…「…でもこの子とってもシャイなの。」
…「そう。じゃあカーラが伝えてくれる?トーコとこのおじさんがミミとお友達になりたいって。」
…「うん。良いわ…良いわよって言ってるわ。」
…「あら嬉しいわ。」≫
テレビの画面を見ながら
「Oh my goodness.」
冬はそう呟いた。
「ほら!聞きました?おじさんって言ってますって…。」
…いやいやいやいや…気にしてるのはそこじゃなーい!
「先生…まさか連絡先とか…。」
冬は画面にくぎ付けになっていた。
「いいえ…親戚が来たらすぐ帰ってきましたから。」
≪…的確な救命措置を男性にとったのは、日本人と思われるカップルで、女性はトーコと名乗ったそうです。…男性が救急車に乗った後、女性はその場を立ち去り、医者だと言った男性は、子供達と一緒に搬送先の病院まで付いて行き、優しく子供たちに声を掛け続け、病院で家族がお礼を言おうとした時には、既にいなかったそうです。…家族はこのふたりを探して…。≫
「ジェスには…シラを切りとおすしかないわ…でないと大変なことになっちゃう。」
冬はベットの上で独り言のように呟いた。ジェスのことだ誰彼構わず、嬉しそうに話してしまうにちがいない。
「それで上手く行けば良いんですけれど…。」
小鳥遊もテレビを観ながら言った。
―――その日の夜。
ジェスとジェフは帰って来た。ジェスは興奮していた。
「あのニュース…私すぐに分かっちゃったわ!あなたたちでしょう?もうびっくりしちゃった。」
「え…?何の事?」
冬はとぼけた。
「ガクあなたトーコに言わなかったの?」
「え…ええ。」
ジェスは夕方のニュースでやったから、明日の新聞と朝のニュースでもう一度やるわよと言いつつテレビを付けた。
「家族がこのふたりを探しているんですって。」
ジェフは黙ってその様子を見ていた。
「似ているように見えるけど…私達じゃないわ。だってずっとガクと私は家にいたもの。」
「どうして隠す必要があるのよ?良いことをしたって言うのに!」
ジェスは興奮していた。
「隠してなんかいないわ。だって私達じゃ無いんですもの…。」
「だって…トーコって言ってるじゃないの!」
ジェフは口を挟んだ。
「ジェス。トーコは、自分じゃないって言ってるんだ。もうその話はよさないか…。」
ジェフはそっとジェスの肩を押した。
(だって…)
未だに納得していないジェスをキッチンへと連れて行った。
ビデオの静止画と思われる写真が、翌日の朝刊の一面を飾った。
帰国まであと1日。
ジェフが私達の部屋にやって来た。
「君たちは良いことをしたのにも関わらず、どうして隠すんだい?」
ジェフは私の目をじっと見つめ冬の答えを待っていた。
「ガクと来ている事も付き合ってることも、誰も知らないの。C●Nって日本でも流れるのよ。これがバレたら、私はどこかの病棟へ飛ばされるかも知れない。色々事情があるの…私達だとしたらの話だけど。」
ジェフは考え込んだ。
「判った。」
静かに部屋を出て行った。
…疲れた
「明日は帰国ですし、今晩はゆっくり休みましょう。」
小鳥遊は静かに言った。
朝起きてニュースを見ると、ジェスの言った通り、繰り返し放送されていた。
画像が少し悪いのが救いだった。冬は改めて画面をじっくりと見た。冬は名前を名乗ってしまったが、顔はそれほど鮮明では無いし、二人とも私服なので上手くすれば日本で放送されても分らないかも知れないと冬は思った。
ジェスは冬の顔をチラチラ見るだけで何も言わなかった。
…ジェフに何か言われたんだろうな。
「どうぞトーコをこれからもお願いします。」
別れ際にジェフは小鳥遊と握手、ハグをした。
「はい。お世話になりました。」
「またねジェスとジェフ。本当にありがとう。」
二人はレンタカーに乗り込んだ。玄関から見送るジェスが言った。
「トーコは、もう…ここには来ないかも知れないわね。だってガクがいるんだもの。」
ジェフは涙を貯めているジェスの肩をそっと抱き寄せた。
「それで良いんだよ…トーコは、やっと歩き出した…これで良かったんだ。」
二人は冬が運転する車が門を過ぎてそれが閉まるまで見送った。
+:-:+:-:+:-:🐈⬛+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+
…長くて短い休暇だった。
二人は、深夜に小鳥遊のマンションについたが、小鳥遊は翌日から仕事だった。冬はもう一日休みがあるので、荷解きや明日の朝食などを準備してからベットに入った。
小鳥遊を送り出した後、掃除や洗濯をして疲れ、ベットで少し横になろうと冬は休んだ。夕方、冬が風呂に入って居ると、小鳥遊が病院から帰ってきた。
「トーコさん…事件です!」
小鳥遊が風呂場に入って来た。
…姉さん…事件です…的なやつか
「先生。後でお話聞きますから、寒いからそこ閉めて頂けませんか?」
小鳥遊は風呂場の中に入り、扉を閉め自分のスーツを当たり前のように脱ぎ始めた。
…あーあ…もう こりゃ お約束だな。
冬は苦笑した。
「あのアメリカでの事件…あなただったと病院にばれてました。」
シャワーを出しながら小鳥遊は言った。
「でも…先生は?」
「僕はセーフです。あそこで名前を言っちゃったのがまずかったかも知れませんね。」
大使館の出国記録を調べればトウコなんてすぐ判りますもんね…と小鳥遊が言いながら湯船に入った。
「え?大使館ってそういう情報簡単に漏らしたりするの?」
…知らなかった。
「ええ…犯罪などでは無いですし、アメリカ政府から要請があれば教えるんじゃないでしょうか?」
小鳥遊はその大きな体を洗い始めた。
「でも…あれは先生が助けたようなもので…私は何も…。」
…あの時凍り付いてしまって、先生に呼ばれなければ動けなかった。
「町の市長からお礼状が届いているそうです。」
小鳥遊はにこにこ笑っていた。
「えーっ。まだ一昨日のことなのに?」
小鳥遊はゆっくりと湯船に入って来て、当たり前のように冬を膝に乗せた。
「もう貴女じゃ無かったとは言えないです。」
「でも先生のことは?どうなるの?」
冬は小鳥遊のことが心配だった。
「僕はラッキーなことにばれて居ませんでした。画像悪かったですしね。」
「でも…どうしよう…誰だったか聞かれたらどう答えれば良いんだろう?」
…絶対にそれだけはバレてはいけない。
冬は焦っていた。
「国籍不明のアジア人で良いんじゃないですかね?私達日本語で話して無いですし…」
小鳥遊は心配する冬の頬を撫でた。
「でもそれじゃあ…。」
「僕は良いんです…もう何度も何度も動画を観ちゃいました。あの時の真剣で優しい冬さんのまなざしを思い出すと…したくなりました。」
小鳥遊の手が、冬の下半身へとそろりそろりと伸びてきた。
…やっぱり…そこかーーーい!
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+
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