小鳥遊医局長の結婚

月胜 冬

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贖罪

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「僕は反対です。」

小鳥遊たかなしはベッドでこんな話をするとうこに苛立ち、不機嫌になった。

「あなたひとりの身体じゃ無いんですよ?もう少し落ち着いてからでも良いじゃないですか。」

つわりも良くなり折角ゆっくり過ごせそうなのにと小鳥遊は腹立たしさを隠さなかった。

「私だってたまには気分転換したいんです。これじゃあまるで…。」

冬は長い入院と、単調な生活に飽き飽きしていた。

「まるで?」

小鳥遊が挑発的に聞いた。

「家政婦兼、ご都合セックスだけの為に私は居る気分になるの。」

冬の悪意のある物言いに小鳥遊はますますムキになった。

「自分を貶めるような、可愛く無い言い方ですね。結婚生活というものは、単調なものです。急変患者もいませんし、エキサイティングな出来事なんて無いんです。」

…家に殆ど居ない癖に。

冬もあからさまにムッとした。

小鳥遊は今泉の出張同行したいと言う冬を止めたかった。

自分の手元に置いておきたかった。今泉に対する嫉妬があるのもよく分かっていた。

判っているつもりでもつい我儘を言ってしまう自分にも腹が立った。

「その間、母があなたのご飯を作ってくれることになってますし、不便は無いと思うんですけれど。」

冬も小鳥遊が焼きもちを焼いていることは重々承知だった。小鳥遊とも旅行などに行きたかったが、長期休みは夏以外取れなかった。

かずさんは、僕の奥さんではありません。」

小鳥遊はより一層不機嫌になった。

「私は普通の奥さんにはなれません。それを承知の上で結婚したと思ってました。」

…やれやれ。

冬も反論したもののこうなるとお手上げで、この話をやめるしかなかった。

…でも絶対に行くから!

「今日は、静さんのところで寝なくて良いんですか?」

小鳥遊はさっさと首まで毛布を掛け,
冬に背を向けながら言った。

「…わかった! しずさんの所で寝て良いのね?」

冬は小鳥遊にも聞こえるように大きなため息をひとつついた。

…今日の変態エロ…全然可愛くない。

「…。」

…無視ですか…そーですか。
そんな拗ねなくてもいいのに。

しずさんの所へ行ってきます。」

冬は広いベットの上を四つ這いで、背中を向けてふてくされている小鳥遊の傍に寄った。

「…but, still love you.おやすみなさい…ガクさん。」

…チュッ。

冬は、毛布から少し出ている小鳥遊の頭にキスをし、ベッドから降りようとした。

…きゃっ。

突然小鳥遊の大きな手が冬に伸びて来て、
抱き寄せた。

「…意地悪言ってごめんなさい。」

小鳥遊はボソッと呟いた。

「やっぱり…行かないで…一緒に寝て。」

小鳥遊は、冬の胸に顔を埋め冬の胸の感触を確かめるように押し付けた。

「今夜は…しなくて良いの?」

冬は小鳥遊の耳元で囁いた。

「…する…よ?」

…何故に疑問形。

「いいですよ?」

冬は笑いを必死に堪えながら
小鳥遊をきつく抱きしめた。

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沖縄の出張に合わせ、今泉は1週間の休みを取った。

羽田から沖縄への約3時間の旅。

着いて1日目はシンポジウムとセミナーで丸一日潰れてしまうが、2日目は午前中で終わり、その後ふたりでゆったり過ごす事になっていた。

久しぶりのふたりの旅行で今泉ははしゃいでいた。

「嬉しいなぁ♪ガクさん駄目っていうかと思ったけど。」

…いやいやかなり愚図ってましたよ。

「本当に。久しぶり♪私とっても楽しみにしていたの。」

お揃いの指輪をしていつも手を繋いでいるふたりは新婚夫婦のようだった。

「今日はホテルでゆっくり休んで、明日は僕は一日中だから、トウコさんは、市内観光でもホテルのプールでも好きなことをして過ごすと良いよ♪」

エアポートへ着くと、そのままタクシーに乗り、ホテルにチェックインをした。

高級リゾートホテルは、市内からも交通の便も良く、ホテル内のレストランも充実しているので、独りでも楽しめそうだった。

酷いつわりも収まり、冬は食事も摂れるようになってきた。夜は今泉の希望でホテル内のステーキ専門店へ行った。

「子供が生まれたら、なかなか二人で旅行も出来ないかも知れないし、短いけど新婚旅行みたい。」

冬が笑った。

「そうだ。出産の時は無痛分娩にしたいんだけど、担当はしずさんにリクエスト出来るのかな?」

「多分大丈夫だと思う。トウコさんさえ良ければ、立ち会いたいなぁ。」

「うん。」

「ガクさんは、絶対立ち会うって言いそうな気がする。」

今泉が笑った。

「ところで…産前休暇…取れそうだよ。」

…え?

「麻酔科医局長に事情を話したんだ。」

…マジで?

「ガクさんが産前を取らないなら大丈夫だって。」

…麻酔科医局長…話が分かる人なのかな。

「色々詮索されなかった?」

「うん…それは大丈夫だったよ。彼も色々あるから…。」

今泉が微笑んだ。

…彼?色々…余り詮索しない方が良いのかな。

「そう。良かった。」


「学会が終わったら、スパのあるとこに移動してゆっくりしようね。」

冬は今泉の眩しい微笑みに酔ってしまっていた。色白の中性的な整った顔立ちはどんなに眺めて居ても飽きなかった。

「どうしたのボーっとして?」

今泉の細く温かい指が、冬のリングに触れた。

「…早く…二人だけになりたい。」

冬が今泉の顔をじっと見つめた。テーブルの上のキャンドルがゆらゆらと揺れていた。

丁度夕食時のレストランは混みあって居て、食器の振れう音や、客の話声で溢れていた。

…したいの?

今泉の口元が動いた。

「ううん。静さんが…そうなら。」

冬が小さな声で答えた。

「僕は…いつもだよ。」

今泉は嬉しそうに笑った。

…えっ?

「出来ないのと、したくないのは違うから。トウコさんと一緒に居る時はいつもしたいよ。」

吸い込まれそうな微笑みに、冬は目を伏せた。

「ごめん…いつも。」

…そうだ。最近はいつもガクさんと寝ている気がする。

「気にしないで!ガクさんの方が色々深刻でしょう?」

…深刻。確かに。

「でも…静さんも、もっと我儘言って欲しいの。」

その点、小鳥遊は理不尽なことでも自分の考えをはっきりと冬に言う。

「じゃぁ…早速だけど…お願い。」

今泉は微笑んでいたが、少し酒に酔ったように潤んだ切れ長の瞳は、笑って居なかった。

「今は…僕だけの…奥さんになってくれる?」

…そんなこと言われたら…キュン死する。

「うん。」

冬は、席を立ち今泉の手を取った。

…今は静さんと私だけの時間。

日ごろから今泉は、
小鳥遊に気を使っている事を痛い程感じた。

ホテルのレストランを出て、海辺を散歩した。

暑すぎず寒すぎない浜辺には、カップルが数組、ふたりと同じように散歩をしていた。

「ずっと付けてくれているんだね。」

今泉は冬の胸元の、ダイヤモンドのネックレスを見て嬉しそうに言った。

「お守りなの。それにとっても気に入っているの。」

冬は胸元のネックレスにそっと触れた。

「名前が犠牲者リストに載った時のことを思い出しただけで、僕は今でも胸が苦しくなるよ。」

とうこをきつく抱きしめた。

…静さん。心配させて本当にごめんなさい。

いつもの優しい顔が険しくなった。

「心配性なのは分ってる。でも僕は…恋人を亡くしたことがあるんだ。」

…えっ?

今泉は突然自分の過去を話し出した。

「いつか結婚したいと思ってたんだ。僕は勉強で忙しく、彼女をかまってあげることが出来なかった。会えなくても待っててくれると信じていた。1ヶ月…会えなくて、彼女のアパートへ行ったら、引き払った後だった。」

冬はドキドキしながら聞いていた。

「実家へ行くと…彼女が自殺していたことを知らされた。妊娠していたんだ。そのことを誰にも相談できず、思い悩んでいたらしい。彼女は僕に捨てられたと思ったんだ。」

冬はしっかりと今泉を抱きしめた。

「僕が…きちんと彼女と話す時間を持っていれば、あんなことにはならなかったんだ。」

「あなたは彼女を裏切ったわけでは無いわ。」

今泉は泣いていた。

「今まで誰にも言えなかった。
友人にも、誰にも…。」

冬は何も言わず、ゆっくりと今泉の背中を撫でていた。

「私に…話してくれてありがとう。」

今泉の整った顔は、悲しみで歪んでいたが、そっと冬と離れ、ゆっくりと歩き出した。

「僕は子供が出来なくても仕方が無い…これは贖罪なんだと思った。その覚悟も出来てた。」

カップルが波打ち際で靴を脱ぎ、波と戯れていた。

「でも僕はトーコさんに一目ぼれしちゃったんだ。トウコさんのことを知れば知る程どんどん好きになった。あなたが、初めて僕の家に泊まった時に、欲情してた。心からあなたの身体も愛したいと思った。」

…酔っぱらって、静さんの部屋に泊まった時だ。

「僕の事を好きだと言ってくれた時、決めたんだ。あなたが僕を必要としなくなるまで、寄り添おうと。」

繋いでいる指先で冬の甲の上の関節を優しく撫でた。

「僕は…とっても幸せだよ。」

いつもの今泉の優しい笑顔になっていた。冬はこんな無邪気な笑顔の下に辛い過去があるとは思ってもいなかった。

「さぁ。ホテルに帰って、エッチしよう♪」

今泉は冬の手を引っ張りながら言った。

「ちょっと…最近、静さんも、何だかガクさんみたいになってる気がする…。」

冬は砂に足を取られながら歩いた。

「僕はガクさんと同じくらいエッチだよ?知らなかった?」

ホテルの部屋へもどる途中も何度もキスを交わした。冬は下半身が熱くなるのを感じた。

「ねえ静さん…私ガクさんと籍は入れたけど、静さんも愛してるし,私にはあなたが必要なの。どんな事があってもそれだけは忘れないで。」

部屋に戻り、狭いバスルームで二人でシャワーを浴びた。

「ホントは…籍なんて入れなくても良かった。」

冬は今泉に見つめられているのに気が付いて慌てて言った。

「ほら…だって籍なんか入れたって、別れちゃうときは別れちゃうし、そんなものなんて無くたって…私の気持ちは変わらないから。」

今泉は暫く考えていた。

「トウコさんや僕はそうでも…ガクさんは…それだけじゃ不安なんだよ。」

今泉はほんの少し出て来た冬の下腹部に触れた。

「少しお腹出て来たね。」

その手は温かく優しかった。
冬は今泉の手の上に自分の手を添えて笑った。

「この子たちは幸せね。素敵なお父さんがふたりも居て。」

「…強くて優しいお母さんもいるからね。」

ふたりはお互いの身体をタオルで拭き合った。

「今日はこの間みたいに、エッチなトウコさんを一杯見たいなぁ。」

…この間の3Pのことを言ってるんだ。

冬は思い出しただけでも恥ずかしかった。

「ねぇ…ちょっとだけ…口でして?」

今泉はベッドの端に腰掛けた。冬は頷いて、今泉の前に静かに跪いた。

今泉のそれは臍にくっつく程にしっかりと大きく膨張していた。小鳥遊の様に大きすぎず、丁度愛撫しやすい大きさのそれは、石鹸の香りがした。冬が口に含むと、ぴくぴくと動いた。

「トウコさん…僕の顔を見て…して欲しいな。」

上目づかいに今泉を見上げる冬の頬は、
それを深く咥え込むたびに膨れた。

冬の唾液でいやらしい音が増した、

「…わざと音だしてるでしょ?」

今泉は微笑んだ。

「いやだった?」

冬は硬く締まったそれを手でゆっくりとしごきながら、聞いた。今泉の全てが今は愛おしかった。

「ううん。いやらしくて…好き♪」

「そう…良かった。」

冬は丁寧に今泉を愛撫した。

「でも…もう挿れたいかも…。」

今泉は床から抱き上げるように冬を立たせた。上にそろそろと這いあがって来る冬とキスをしながら今泉はベッドの中央に移動した。

「トウコさんの好きな騎乗位が良いかな。その方がゆっくり楽しめるから」

今泉の上を静かに跨いた。

「静さんの好きなコトするって言ったでしょう?静さんは何をしたい?」

冬は鎖骨から下へと唇を這わせた。今泉のきめ細やかな肌に鳥肌が立つのがわかった。

「ホントに何でも良いの?」

…改めて確認されちゃうと少し怖いな。


「う…ん。」

「ひとりエッチしているところが見たい♪」

冬は慌てた。

「えっ…。」

「だめ?」

今泉は上目遣いで残念そうだった。

「ここ何年もしてない…から。」

「へぇ~そうなの?」

今泉はびっくりしたように言った。

「うん…だって常時ムラムラしている人が傍にいるから。留学中もひとりエッチしている暇が無かった…の。夜は疲れてすぐ寝ちゃてたし。」

普段は今泉も小鳥遊も、冬が絶頂を迎えるまで丁寧に愛してくれたので欲求不満になることも無かった。

今泉は笑った。

「でも…ねぇ…お願い♪」

…3Pより恥ずかしい。最後にしたのは…そうだ。小鳥遊に初めてキスされた時だ。

冬はベットの上に横になった。

「あ…ちょっと待ってて…。」

…もしや…録画するとか言い出すんじゃないでしょうね。

今泉は自分の荷物の中をごそごぞと漁った。

「はい♪これ使う?」

今泉はPT理学療法士から以前プレゼントされたバイブレーターを冬に手渡した。嫌だ要らないわよと冬が笑った。

…手荷物検査でよく引っかからなかったね。

「ねぇ…静さん最近ガクさんに感化されてない?」

「ううん。だから言ったでしょ?僕もホントはエッチだって。ガクさんと話してて、性癖が似ていることも判ったし。」

…え?…そうなんですか。
マジで…エロ増殖してる。

「エッチな気分になれるように、静さんが、お手伝いしてくれたら見せてあげる。」

今泉の唇が冬に触れた。その細く長い指で、冬の乳首を軽く摘まんだ。

妊娠してから、とても敏感になっていた。冬の小さな右手は、自分の下腹部に触れた。いつも小鳥遊と今泉に愛されているその場所は、既に湿っていた。今泉は冬の足元に回り、内腿にキスをした。

少しチクチクとした痛みを感じたので今泉が、キスマークを付けているのが判った。

冬は花弁の中の蕾を指で転がした。今泉がその様子を見ていた。冬はふたりに愛されていることを想像した。

「気持ちいい?」

今泉が聞いたので、冬は正直に答えた。

「ううん。余り…静さんにして貰った方が気持ちがいい…。静さんとしたい。」


「わかった。じゃあ僕がしてあげる。」

今泉は少し嬉しそうだった。

細い指が、蕾の上を何度も撫でた。それだけで、冬は腰が動きそうになるのを必死に堪えた。すぐにトロトロと甘い蜜が流れ出し、今泉がその長い舌で優しくそれを舐めた。温かい冬の中に今泉の3本の指が入ると、冬はため息をついた。

「…もう気持ちよくなっちゃった?」

今泉の指は、冬の一番感じる場所をゆっくりと愛撫した。

「…うん。」

今泉は冬にねっとりとしたキスをし始めると、指も激しく動きだした。

「あ…嫌…。」

「嫌なの?でもココは、違うみたいだよ。」

今泉は耳元で囁いた。

「…すぐに気持ちよく…なっちゃうから…嫌なの。」

「せっかく綺麗にしてあげたのに、また濡れてきちゃったよ?」

今泉の囁きは、快感へと変換され、甘い喜びになった。

…うぅ…はぁ…はぁ。

「僕はエッチなトウコさんが見たいから、まだいかせないよ。」

冬が感じ始めると、今泉の指の動きが柔らいた。

「静さん…あんまり…虐めないで。」

「可愛いから虐めたくなっちゃうんだ。」

そういうと、再び指が蠢いた。

「こんないやらしい音がしているよ。」

冬の腰が波打ち始めた。

「お願い…静さんが欲しい…。」

身もだえる冬を愛おしそうに眺めていた。

「今日はお願いされてもまだ駄目♪」

今泉のディープ・キスは,冬の体の隅々の先端部の感覚を研ぎ澄ますようだった。舌に同調して指が滑らかに動くたびに腰がヒクヒクといやらしく波打った。

「指で…イッて?」

今泉は怪しく笑った。今泉の中指と人差指が淵から浅い中へと優しく動いた。

快感はすぐに蕾に伝わると膨らみ始めた。それを親指が受け止め,プリンの表面に触れるかのようにソフトな刺激を与えた。

「いや…静さんが…欲しいぃぁ…ああ…いやぁ…。」

乳首は快感にプルプルと震えた。今泉の長い舌はそれを見逃さず,クリームを掬い取るように舐め挙げた。

冬の体はビクンビクンと何度か弓なりになった後で,バターの様にベッドの上で融けた。

「とっても綺麗だよ…。」


冬の皮膚はピンク色に染まり胸は心臓の早い動きを僅かに伝えていた。

「静さんの…意地悪。」

体が,愛撫から解放されると冬の手は繊細に,いやらしく今泉を包み込んだ。冬は今泉の硬いそれを握りゆっくりとスライドさせ始めた。

ゆっくり体を起こして微笑んだ。

「今度は,トウコが静さんをいっぱい気持ちよくしてあげる。」

形の良い亀頭冠は、イギリス軍の防寒帽のようで、シャフトは大きすぎず冬の口にぴったりだった。

縫線を舌でゆっくりと辿り、小ぶりの果実を優しく口に含んだ。優しく舌の上で転がしながら,シャフトをスライドさせると今泉はため息をついた。

先端に小さな滴が光っていた。

「静さんも…気持ちが良いのね。」

冬はその滴を舌先に浸した。

「トウコさん…口で…お願い。僕のを…。」

透明な液体は,細く糸を引いた。冬は意地悪く笑い,冬の舌は再び縫線を辿り果実へと戻った。

冬は小さな手で亀頭冠を包みながら,頸までを集中的に指関節で愛撫した。

今泉の下半身はピクピクと刺激に反応した。透明な液が再び滴となって出始めた。

「気持ちが良いのね。手でイこうね。」

見せつけるように動かし続けると、今泉の息が荒くなった。冬の背中を撫でていた手が時々止まり,体に力が入るのが判った。

「しゃぶって…それか…挿れたい。」

冬は何も言わず微笑みながら続けた。

「あぁ…そんなことしたら…僕が先にいっちゃ…うに決まってる。僕の好きなコトさ…せてくれるってトウコさん…いっ…たじゃない。」

今泉が喘ぎながら切なく言った。

冬はベットの上に静かに横になって微笑んだ。

「もう遅いよ…僕…イキたいもん。」

そう言うと今泉は、冬の足を自分の肩に乗せ屈曲位にさせた。

「あ…いや…この体位駄目…すぐいっちゃ…あぁ。」

今泉は躊躇いなく、冬に突き挿した。

「お腹が大きくなったら出来なくなっちゃうから♪」

冬の下腹部が熱くなり、快感がすぐにうねりだした。

「こんなことされたら…静さんより…先にいっちゃう。」

「大丈夫♪すぐいっても、その後何度も出来るよ。」

今泉の柔軟性のある腰は、深い場所を保ったまま、何度も突いた。

「そう…いう…こと…じゃなく…って。あぁ…。」

今泉は冬の、腰をしっかりと抑えた。

「先に…トウコさん…先にイッて。」

冬の体は熱を持ち始め、今泉の動きに合わせて、甘く喘いだ。

「…もっと…啼いて…。」

大きな波に攫われるその前に冬は、最後の呼吸を吐き出すかのように囁いた。

「ぅう…愛して…る。」

長いオーガズムは冬の体を包み込み、その体に気だるさと眠気を注入した。体中の力が一気に抜けていく。

「あっ…。」

今泉も小さく声をあげると、何度か腰が痙攣を起こし、大きなため息をついた。

「トウコさん…ずるいよ。いっぱいするって言ったのに…。」

今泉は、優しい微笑みを浮かべて言い、無邪気に眠る冬を抱きかかえる様にして眠った。

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朝目が覚め時計を見ると7時だった。今泉は隣でスヤスヤと眠っている。

起こさない様にそっと体を起こすと、今泉の手が伸びて来た。

「まだ僕の傍にいて…。」

冬は再び毛布に潜った。今泉は、しっかりと起きていたが冬を離さなかった。

「静さん。シャワー浴びて、下のレストランへ食事をしにいきましょう?」

「うん♪」

二人は一緒にシャワーを浴び、手早く洋服に着替えた。

今泉が冬の髪の毛を乾かしてくれている間に、冬は化粧を済ませた。今泉は冬の髪をとても綺麗に乾かした。

「僕、トウコさんの髪すき♪」

淡いピンクのジャケットに、フワフワとしたフレアスカートは、今泉が好きな、少し甘めのフェミニンなスタイル。

レストランはビュッフェ形式で、数十種類の中から好きなものが選べた。ふたりとも、同じようなものを選んで席についた。

周りには、スーツを着たビジネスマンに混じって、学会の参加者と思われるパンフレットを持った人も居た。

「麻酔科の学会なんて来たこと無いから楽しみ♪」

冬は一緒に聴講できると聞いて嬉しかった。

…ずっと 静さんの隣に居られる♪

「医者オンリーのことが多いけど、最近はオペナースなんかも参加していることがあるよ。」

冬はそれを聞いてドキッとした。

「ああ…大丈夫。うちの病院からは、僕以外誰も来ていないから。」

今泉は笑った。
食後に今泉はケーキ、
冬はフルーツを食べていた。

「子供が生まれたらこんなにゆっくりご飯も食べられないんだろうね。」

子供の話になると、小鳥遊もだが、今泉も顔が緩みっぱなしになった。

「僕も居るし春さんも来るんだったら、大丈夫じゃない?」

今泉は大きく切ったマロン・ケーキを食べながら言った。

冬は大丈夫だと言ったが、春は張り切って、長期の休みを取っていた。個人事業のようなものなので、休みたい放題よと笑った。

「あれっ?トーコ…?だよね。」

振り返ると、眼鏡を掛け、きっちりとしたビジネススーツを着た、小鳥遊よりも少し若そうな、爽やかな男性が立っていた。

同じテーブルには部下らしき、ふたりがこちらを見ていた。

栄一郎えいいちろうさん…。」

今泉は、冬が名前で呼ぶところを見ると、この男が、冬の元カレだとすぐに分った。

冬は自分たちの座るテーブルのあいた椅子に栄一郎を座らせた。

「静さん。こちらは薬剤師の石動 栄一郎さん。栄一郎さんこちらは、夫の今泉です。」

石動はあからさまに驚いた顔をし、今泉に名刺を渡した。

その名刺には、

●●製薬 ●●営業部長 石動 栄一郎いしどう えいいちろう

と書かれていた。

「今日は麻酔科学会の協賛できたんだけど、トーコは何で居るの?」

栄一郎の口元から零れる真っ白で歯並びの良い歯は、アメリカ人のようだと今泉は思った。

「僕の学会についてきて貰ったんです。」

今泉はいつもの人懐っこい笑顔を浮かべた。

「ドクターでしたか。」

栄一郎は同じような笑顔を浮かべた。

「もし良ければ、旦那さんもご一緒に後でお茶でもしませんか?」

今泉は冬が答えるのを待っていた。

「お誘いありがとう。でも…遠慮しておくわ。」

冬はよそ行き笑顔で答えた。

「どこの病院で働いているの?」

栄一郎は冬の顔しか見ていなかった。

「今は、専業主婦よ。」

そして冬は今泉の顔を見ながら微笑んでいた。

「仕事一筋だった君が専業主婦ねぇ。意外だなぁ。」

今泉がケーキを食べ終わったのを見届けてから、冬は静かに栄一郎に言った。

「じゃあ…私達はこれで失礼するわ。」

ゆっくりと立ち上がる冬に合わせ、栄一郎も立ち上がった。

今泉が差し出した手を取った。冬は、栄一郎の視線が背中に刺さるのを感じながら、レストランを後にした。

学会が始まるまで1時間ほどあった。ふたりは一度、部屋へ戻った。

ドアを閉めた途端に今泉は冬の唇を貪りながら、冬の手を引いた。ベッドは冬によって綺麗にベッド・メークされていた。

今泉が乱暴にブランケットを捲ると、そこには、確かに昨夜二人が愛しあったことを物語る、皺だらけのシーツと小さな染みが残っていたが、冬をゆっくりと押し倒した。

「静さん?」

今泉は冬のブラウスのボタンをひとつずつ外した。冬の甘く優しい香りが今泉の鼻をくすぐった。ベージュのブラによって作られた綺麗な谷間に顔を埋めた。

「暫くこのままでいさせて…。」

冬は何も言わず、今泉の柔らかな髪に優しく触れていた。

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冬はいつの間にか眠ってしまったらしい。
今泉は、部屋に居なかった。

冬に気を使って、自分ひとりで行ったらしい。時計を見ると、お昼近かった。

慌てて身だしなみを整えると、ホテル内にある会場へと向かった。入り口には協賛の製薬会社が新薬などの紹介、演者やパネリスト達が著書や雑誌なを販売していた。

数社ある製薬会社のブースの中に、栄一郎が居るのが見えた。冬が会場へ入ろうとすると、栄一郎が寄って来た。

「トーコ。少し話をさせてくれないか?」

栄一郎は小さな声で話しかけたが、冬は周りを気にしていた。

「君が突然居なくなってしまって、本当に驚いたよ。」

冬は、今泉に見られたりしたらまた心配させてしまうと思った。

「俺はずっと君を探していたんだよ。」

栄一郎は、昔と変わらない優しい笑顔を見せた。

「でも…あの時あなたは…。」

冬は栄一郎の指に結婚指輪が無いことに気が付いていた。

「離婚したよ。子供がひとり…妻が育ててる。」

栄一郎が動くたびに、懐かしい柑橘系の香りがした。

「あの時のことは…本当に済まないと思ってる。」

昔のように真っすぐな瞳で冬を見据えた。目じりと口元にはあの時には無かった皺があった。

「君を裏切り、傷つけた。」

栄一郎の部下が、ブースからこちらの様子を見ていた。

「もう昔のことだわ…気にしないで。」

冬が微笑んだ。

「言い訳するつもりは無いけれど、俺は君を本当に…。」

冬は栄一郎の言葉を遮った。

「言ったでしょう?今は良い思い出になっているって。」

昼休憩に入ったらしい、会場から人がパラパラと出て来た。

「君は幸せかい?」

「ええ…とっても。私には二人の夫が居るの。3人で一緒に暮らしてるわ。」

栄一郎の眼が大きく見開かれ、声を出して笑った。

「オープンマリッジ?君らしいね。」

サバサバとして飾らず、突拍子も無いことをしていつも驚かせる冬が好きだった。

「うん。そう言われると思った。でもオープンではないわ。愛してるのは二人だけだから。」

「それにしても良くその条件を男が呑んだね。」

ふたりの男が、同時に冬を愛し、手放したくないと思う気持ちは痛い程に分った。

それほど魅力的なことを冬自身は気が付いていないことが、栄一郎には可笑しかった。

「色々あったけど…それでも納得してくれたの…多分。」

「多分?」

栄一郎は聞き返した。

「うん…籍を入れた夫は…本当は,嫌だった…今も。けど、もしもそれが呑めないんだったら別れるしか無いと私が言ったから…。」

何故久しぶりにあった栄一郎にこんなことを話して居るのか冬は良く分からなかった。

「普通は…そうだろうね。」

栄一郎なら小鳥遊の気持ちが判るかも知れないと冬は何となく思った。

「でも…嫌なら,別れれば良いのよ。」

「それが出来ないほど,君の事を愛しているからじゃないのかな?」

思っていた通り,冬は何も気が付いていないのかも知れない。と栄一郎は、笑った。

「君は男性より男性らしいね。それも相変わらずだ。」

栄一郎の眼鏡の奥の目は温かかった。

「もっと…甘えたり、頼ったりしても良いんじゃないかな。」

「今でも十分甘えているわよ。」


冬は会場から吐き出される人々の中に今泉を探しながら苦笑した。

「今夜…レセプションがあるんだ。参加者は全員招待されていると思うんだけど、君も来るのかい?」

今泉が出て来て冬に気が付いて微笑んだので冬は手を振った。

入り口近くで、数人の看護師と思われる女性軍団が、今泉をチラチラと見ていたが、冬に気が付くとあからさまに残念な顔をした。

…やっぱり素敵よね♪

冬は心の中で思った。

「判らないわ…主人が参加するなら同伴すると思うけど。じゃあね。」

冬は振り向きもせず、今泉の元へと早足で歩きだした。

今泉は栄一郎をちらりとみると、軽く会釈をして冬と手を繋いで歩き出した。

「静さん…ごめんなさい。私寝ちゃったみたいで…起こしてくれれば良かったのに。」

「大丈夫?」

…栄一郎のことを気にしてるんだ。

「夜、製薬会社が主催するレセプションがあるらしいので、それに誘われたの。静さんは行くの?」

…きっと綺麗なコンパニオンがくるだろう。

「そう言えばそんなお知らせあったなぁ。一緒に来る?」

「うん。心配だから。」

「心配?」

今泉は不思議そうな顔をした。

「綺麗なお姉さん達に、静さんが誘惑されたりしたら嫌だから。」

今泉はおかしそうに笑った。

「そんなことを心配してるの?大丈夫だよ。」

「だってさっきも、女の子達があなたのことをチラチラと見ていたわ。」

今泉は冬の肩を抱いた。

「子供が出来て嫉妬深くなっちゃったのかも…ごめんね。静さんはそんなことしないって分かっているけれど。」

冬の目を伏せたその姿に今泉は愛おしさが込み上げてきた。

「…お昼は何を食べたい?」

冬の頭に優しくキスをした。

「静さん。」

今泉は声を出して笑った。

「それは、昨日も今朝も食べたでしょ?トウコさんも、ガクさんに感化されてるよ。」

「冗談よ…一度言ってみたかっただけ。お昼は静さんの好きなものを食べようよ。」

「沖縄ソーキそば♪さっき隣に座ってた人から、この界隈で美味しいお店があるって聞いたんだ。」

「その人って女性でしょう?」

「あれ…なんで分ったの?」

今泉は不思議そうだった。

「ほらね。静さんは自分が思っている以上に魅力的なのよ。だから心配なのっ。」

今泉の腕を強く冬は掴んで笑った。

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レセプションは、ホテルの一番大きな会場で行われていた。

「おい…今泉じゃないか。」

冬と静かに話をしていると、突然声を掛けられた。振り返ると、小太りの男性が立っていた。

「あ…富樫先生。お久しぶりです。」

今泉はにこやかに笑って挨拶をした。どうやら大学の恩師ならしい。

今泉は、冬を自分の妻として紹介した。懐かしそうに話をするふたりの邪魔にならないように、壁沿いに置かれている椅子に座っていた。

小鳥遊からメールが入っていた。

(寂しいので早く帰って来て下さい。)

たったの一行だったが、小鳥遊らしいと微笑んだ。まだ病院から帰って来てない時間だ。お土産を買って帰ることをメールした。

…あとで電話をしよう。

反対されたのに、
来てしまった後ろめたさも少しあった。

スマホが突然鳴り、見慣れない番号だったが、思わず出てしまった。

「番号…今も変わらないんだね。」

栄一郎の声だった。会場を見回してみると、柱の陰でこちらを見て微笑みながら電話を掛ける姿が見えた。

冬は苦笑した。

「お仕事しなくて良いんですか?」

「うん。始まっちゃえば大丈夫だから。
それに俺は監督係だからね。」

…なら猶更油売ってる暇なんかないじゃない。

今泉は富樫と話しながら、冬を見ていた。

「俺の中では…まだ終わっていない。」

優しく甘い胸の痛み…を冬は感じた。

「あの時、本当に君だけを愛していたんだ。」

栄一郎がこちらに向かって来るのが分った。

「…でもあなたには奥様がいらっしゃった。」

冬は今泉に知られない様にゆっくりと距離を保ちながら、ロビーへと出た。

「何も知らなかったとは言え、奥様を傷つけてしまった。」

今泉は二人の様子を見ていた。冬がいつになく厳しい表情をしているのに対し、栄一郎は、情熱的な瞳で冬を見つめていた。

「本当にすまない…俺が優柔不断だったんだ。」

電話ではなく直接冬の後ろから声が聞こえた。寂し気に栄一郎は言った。

「そうね…とっても。」

冬は観念し振り返って栄一郎を見た。

「あなたを赦すわ。だからもう忘れて下さい。」

ロビーから会場へ戻ろうとする冬の腕を太く日に焼けた手が掴んで抱きしめた。

煙草の匂いと,柑橘系の爽やかな懐かしい香り。甘い想い出に痺れて動けなかった。

…私だって愛してた。

「長い間君を探した。どうして俺の前から突然消えた?」

栄一郎の声は悲しみに満ちていた。

「俺に説明する機会も与えてくれずに…。」

冬は胸の疼きを感じた。

「不倫なんて許される事じゃ無いから。知ってたら付き合ったりしなかった。」

栄一郎の妻から電話があり、既婚者だと知らされた。冬は酷い仕打ちだと思ったが、妻には、もう二度と会わないからと約束をし、それを守った。

「君が人妻になっていたなんて。」

栄一郎は冬を強く抱きしめた。

…く…苦しい。栄一郎さん。

「そのぐらいで良いでしょう?妻の話し相手をして下さってありがとう。」

冬が振り返ると、いつの間にか今泉が腕を組んで立っていた。

「静さん…。」

栄一郎の手が緩み、冬はすぐにそれから逃れた。

「さようなら栄一郎さん。もうお会いすることもないと思うわ。」

冬は静かに微笑んだ。

「さぁ。部屋に帰りましょう。」

冬は振り返りもせずに、今泉の元へ歩き、いつものように手を繋いでロビーを後にした。今泉は何も聞かなかった。

「心配かけてごめんなさい。」

「信じているから大丈夫。だけど、トウコさんは良くても、ふたりっきりは危ないね。」

今泉は優しく微笑んだ。

「軽率でした。」

冬は素直に謝った。

「さぁ…もう部屋に帰りましょう。」


「…エッチしたい。」

今泉は後ろから冬に抱きつき、うなじにキスをし始めた。アルコールの香りがした。

「お酒入ってるんですから、今日はお薬飲めませんよ。」

「飲まなくても…出来そう♪」

…やれやれ。

「…ほら僕チン 半勃起♪」

…やっぱ変態エロが感染してる。

冬の手を自分の股間へ持っていった。今まで内服しなければ、どんなにエッチなことをしても、全く反応無しだったそこは、触れると少し硬くなっていた。

「今日はゆっくり寝ましょう。いつでも出来るんだから…。」

暫くすると今泉の寝息が聞こえて来た。
携帯を見ると、小鳥遊から着信があった。

電話を掛けると、まだ起きていて、早く帰って来て欲しいと煩かった。

「あなた達が居ないと部屋が広くって。僕も行きたかったです。」

…次回の出張の時には無理やり連れて行かれそうだな。

「お土産は要りませんから早く帰って来て下さい。」

…判ったから。一回いえば判るから。

「そうだ♪静さんとあなたがエッチしている時に電話して来てください。テレフォンセックスも楽しそうな気がするんで。」

…また始まった。仕事以外は全てエロか。

冬はため息をついた。


「静さんに聞いてみます。今日は酔っぱらって寝ちゃってるんでまた明日以降ですね。」

「今からトーコさんとテレフォンセックスしたいです。」

…沢山撮ったビデオはどうした?

「ひとりエッチは気持ちが良くないから嫌。昨日もやってみせてと言われたんですが、駄目でしたから。」

「えっ。あなた達はそんな楽しそうなことを僕が居ない間にしているんですね。酷いです。」

…おいコラ…人の話を聞いてたか?

「そうだ。僕の部屋にブランコつけたんです。」

「ガクさん気が早すぎますよ。それに付けるんだったら子供部屋でしょう?」

「大人のブランコです。」

…変態エロひとりで何をやってるの?

「そんなのつけたら、お母さんがあなたの部屋の掃除をしに来た時に困るでしょう?」

「そう言われると思ったので着脱可能なアメリカ製♪」

…あの時か?!変態エロ…あの時に買ったのか?

「ガクさん…お忘れの様ですから言っておきますけれど、妊婦なんですよ?」

「ええ。なので控えめにしてるつもりですけれど。」

…あーあ。家に帰るの嫌になってきた。このまま静さんと沖縄で静かに余生を過ごしたい。


+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+

オーシャン・ビューのこじんまりとしたホテルには、コテージが何棟かあった。今泉が予約した部屋は、ふたりでは広すぎる程大きかった。

「静さんとっても素敵な所ね。」

ポーチには、藤製の椅子とテーブルのセットがあり、そこからは青々とした海が見えた。

「やっと本当のバケーションだ♪」

今泉はネクタイを緩め、ラフな格好に着替えた。

「トウコさんがゆっくり休めるようにホテルにしたけれど、今度子供が生まれたら、皆でコテージを借りて夏は過ごそう♪」

キングサイズのベッドにふたりで横たわった。

「ガクさんが選んだ特注ベッドの方が大きいね。」

今泉はベッドの上を叩きながら笑った。
夕方には水着で浜辺へふたりで降りた。

水がまだ冷たかったが、
浜辺に転がると、じりじりと熱かった。冬は日焼け止めをたっぷりと塗り、今泉の隣に寝転がった。

「ほら…お腹少し出て来てる♪」

言われてみれば下腹部が、出て居るようにも見えたが、少し太った?ぐらいにしか見えなかった。

「もう今度こそビキニは駄目ね。」

冬は笑った。他愛も無い話をしていると、あっという間に時間が過ぎた。

食事の支度も何も心配せず仕事のことも忘れた。冬は、“何もしないことを楽しむ”…ことを今泉に教えられたような気がした。

「トウコさんには、子供たちのお母さんである前に、いつもまでも僕の奥さんで居て欲しいな。」

今泉は冬の下腹部にそっと手を当てて微笑んだ。

「静さんのご両親にはどのように説明するの?」

沖縄から直接今泉の実家へ行き挨拶をする予定だった。

「父親は複雑な感じだったけど、母は、以前トウコさんとあったことがあるし、喜んでいたよ。」

…複雑な心境。それが普通の人の考え方だ。

冬は、猛反対されなかったことを少し驚いた。

「姉さんは、あらそう…って感じだった。」

今泉にはそっくりな姉が居ると言っていた。この顔で、女性ならかなりの美人だ。

緊張するが、会うのが楽しみだった。



+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+


今泉との楽しい時間はあっという間に過ぎたが、ゆったりと過ごしたせいか疲れは全く無かった。

沖縄から羽田、そこから今泉の実家がある山梨へ行く予定だった飛行機に乗り離陸して30分もしないうちに、ビジネスクラスの最前列が騒がしくなった。

「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」

今泉は直ぐに席を立った。

…ちょっと見て来る。トウコさんはここで待ってて。

「手伝いが必要だったら言って。」

「うん。」

客室乗務員が何人か集まって来ており毛布などで周りから見えない様に取り付けていた。

5分もしないうちに客室乗務員が冬のことを呼びにきた。

「旦那様がお呼びです。お手伝いが必要だそうです。」

冬は席を立ち今泉の元へと向かった。大柄の女性が毛布を敷いた床の上に寝かされていた。今泉が通路に出て来て、周りに聞こえない様に小さな声で冬に言った。

「お産です。経産婦の36週ちょっと超えたところ。5分間隔で陣痛が来てて、子宮口もほぼ全開大…っぽい。」

「マジで?」

ルートだけは確保し、産科の医者が搭乗していないか確認して貰ったが、医者は今泉ひとりだけだったようだ。

冬はこんな時、7割の医者は、申し出ないと聞いたことがあった。医療ミスで裁判沙汰になるのを恐れてだ。

「マジです。国内線だからアンビューバックとか、血圧計にパルスオキシメーターぐらいしかなかった。提携病院に連絡をして貰ってる途中。飛行機が引き返したところで,もう生まれちゃうと思うんだ。」

…そんな状態でよく飛行機乗ったね。

冬は半ば呆れながら聞いていた。今泉と話して居る間に破水がおこった。慌ててタオルを敷き詰めた。

「まだいきんじゃ駄目よ。どのくらいかちょっと見ましょう。」

冬は夫婦に安心するように声を掛けながら、内診をした。

「妻は日本語話せません。」

夫は心配そうに妻の手を掴んでいた。

「旦那さんは日本語か英語判りますか?」

冬がゆっくりと聞いた。

「日本語少し…英語の方がわかる。」

「わかったわ…英語で説明するから、判らなかったら何度でも聞いて下さいね。奥様には、心配要らないからと伝えて。不安だろうから私達があなたに説明することは伝えてあげて下さいね。」

冬は汗をびっしょりかいて痛がる妻を見て、呼吸法をジェスチャーで伝えた。

「…全開大で児頭が降りて来てる。」

今泉と冬は場所を代わった。

「頑張ったわね…あと1時間もしないでベビーに会えるわよ。」

英語でゆっくりと夫に説明すると、不安な顔をしながらも、嬉しそうに笑った。

「旦那さん奥さんの頭側に座って膝枕をして少し頭の方を挙げてくれる?」

いつになく今泉が真剣な顔をして考え込んでいた。

「…ってことは減速期か?」

今泉の独り言だった。突然、息苦しさと手足が痺れると妊婦が言い出した。


冬は慌ててパルスオキシメーターを付けた。

「あ…99-100%…ハイパーベンチかな?旦那さん今まで奥さんパニック障害とか、前回の出産のときに、同じようなことが無かったかしら?」

「あ…抗不安薬飲んでるって言ってた。」

今泉が慌てて言った。

「紙袋持って来ましょうか?」

キャビンアテンダントが聞いた。

「いいえ。必要無いです。」

冬は、静かに言った。

「奥さん…ゆっくり息を吸ったら2-3秒止めてみましょうか?過換気症候群だと思うわ。息を吐くことに集中して。怖いだろうけど、大丈夫一緒についてますからね。陣痛が来てて大変だと思うけれど私の真似をしてみて?」

冬は妻に、ふーっと息を吐いて、息を止め、軽く吸い、ふーっと息を吐いて見せた。提携病院と電話が繋がり産科医と今泉は会話をしながら介助をしていた。妻の呼吸も10分程で落ち着いていた。

「多分30-40分ぐらいで生まれちゃうね。」

冬は囁いた。
多めに毛布やタオルを持って来て貰った。
その間にも児頭が見え隠れし始めた。

「ええ排臨が始まりました。…恥骨方向に圧迫…はい。」

今泉は電話を客室乗務員に持たせたまま、会陰の保護の為に、白く細い指と手をしっかりと添えている。発露…児頭が、出たままになると今泉の顔にも緊張が走った。

…専門外は、私も怖い。

医者の今泉は、自分よりももっと怖いだろうと冬は感じたが、それでも母親と赤ちゃんを助ける為に名乗りを上げた事を尊敬した。

「後ろ頭結節…はい…。」

冬も妊婦の足側に回り、今泉からの指示を聞きながら介助をした。

「お母さんもういきむのやめてね…。」

夫が中国語ですぐに妻に伝えた。

ゆっくりと児頭が回転しながら排出され、赤ちゃんの赤黒い顔をガーゼで拭った。今泉の細い綺麗な指が児頭を押えた。

「頸部の巻絡…は、無いようです。」

冬も今泉も汗をかいていた。

「トウコさん後は、肩甲と体幹…。」

ゆっくりと片方ずつの肩が出て来る。
両方出てきたところで今泉は赤ちゃんの脇の下に手を入れそっと抱え弧を描くように娩出させた。顔を拭うと、大きな声で啼き出した。

「はい…生まれましたよ。元気な男の子です。時間は?」

「14:26です。」

赤ちゃんの誕生したことを告げると拍手が起こった。その後もへその緒を切ったり、胎盤や赤ちゃんの状態を確認したりで、あっと言う間に時間が過ぎていき、着陸準備となりようやく自分たちの席に戻れた。

「救急車が待機してるって。僕は申し送りをするんで、先に家に帰ってて下さい。」

と今泉は言ったが、冬は一緒に残った。

抱き合って喜ぶ…どころか、冬も今泉もどっと疲れて、暫くの間、ぐったりしていた。

病院以外での急変も怖いが、専門分野外だと、医者も看護師も怖い。

話す気力が出てきたのは、飛行機を降り、担当医師に報告し、書類などの記入を全て終えてからだった。

「トウコさんのお産の時までに勉強しておこうと思います。」

今泉は清々しい笑顔を見せた。

電車を乗り継ぎ、タクシーに乗り込み、今泉の実家につくまでの20分程の間、ふたりで爆睡してしまい運転手に起こされた。

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