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潜伏調査
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冬の歓迎会が開かれた。ひとりひとりに声を掛けながら、お酒を注いで回ったり冬はここでも率先して動いていた。
「もう…月性さんは、自分の歓迎会なのに。」
師長が呆れて動き回る冬を眺めていた。
「あの人は、動いていないと駄目なんですよ。」
小鳥遊は、時々小峠と目が合うのを気にしながらも、静かに冬を見守っていた。
冬はひっそりと話をしていても、いつの間にか看護師が集まって来て、冬の話を聞いていた。
アメリカの病棟のことや看護大学などの話を聞かれるたびに説明していた。
小峠にも失礼のない程度にお酒を注いていたが、榎木か友田がいつの間にか傍に来ていて、冬を見事にブロックしているのを見て、小鳥遊は可笑しくて仕方が無かった。
「ちょっと小峠先生は、なんでトーコばっかり気にするの?」
榎木がべったりと小峠の傍に張り付いていた。
「そんなこと無いですよ。」
小峠は静かに笑っていた。
「じゃぁ、今度ご飯御馳走して♪」
小峠は少々びっくりしたようだった。
「うん…別に良いですけれど。」
戸惑いながらも何となく返事をしてしまった。
「やったー♪みんな聞いた?今度小峠先生があたしたちにご飯御馳走してくれるって言うから、小峠先生の当直の時が、超楽しみになって来ましたよ。」
友田がわざと大きな声で皆に聞こえるように言ったので、看護師達から歓声が上がった。
これには冬も思わず噴き出した。
…頼もしい同僚達だ。
小峠は、小鳥遊の眼を盗んでは、冬に話しかけてきた。
「月性ちゃんには色々聞きたいことがあってさぁ。」
流石に触ってくるようなことは無いと思っていたが、微妙なスペースがふたりの間にはあった。
「何か怖い…何ですか?聞きたいことって。」
…どーせ禄でも無いことだ。
「何で、僕じゃ無かったの?」
…禿…お前の家では未だに銅鏡を使ってるのか?自分の顔をよく見なさいね?
高橋の周りで歓声が上がったので、皆の視線が一斉に注がれた。どうせ男性看護師といやらしい話をして盛り上がっているに違いない。
「なんでって…最初から好きじゃありませんでしたし…。」
小峠はとても驚いた顔をしたが、冬は静かに言葉を続けた。皆が高橋のエロ話に聞き耳を立てているので丁度良かった。
「それに…一番最初の時だって、私ウーロン茶しか飲んで無かったんですよ?知ってました?」
小峠の顔が凍り付いた。
「薬で眠らせてレイプするような人と付き合いますかね?」
周りには人が誰も居なかった。小鳥遊がじっとこちらを見ていた。
「本当は後輩を狙っているふりをして、私を連れて帰りたかったことも知ってます。」
…お前なんて…真綿で首を絞めるようにじわじわと虐めてやる。
小峠は少し震えているように見えた。
「そんなの…証拠が無いじゃない。」
…そうだ。証拠なんて何も無い。
冬は小峠が何人もの看護師に以前から同じ手口を使っていると確信していた。
…何も言わずにじっと見つめてるだけで良い。禿が自分で勘違いするまで。
冬が何も答えずに、ほんの微かに笑って見せると、小峠が息を飲んだ。
「あなたの正体を知っている私が居る以上、少なくともここの看護師と問題を起こしたりしたら…。」
それ以上のことは何も言わなくても、
小峠がだいぶ動揺しているのが判った。
…今夜はこれぐらいにしておいてやろうじゃないか。
「ぼ…僕は…君のことが…本当に…好きだったんだ。」
声を押し殺し、絞り出すように言った。
…黙れ。犯罪者!
冬は小峠の言葉を無視した。
「このことは、小鳥遊先生も知りませんし、誰も知らないんです。」
師長と小鳥遊が、こちらを見ながら何かを話しているのが見えた。
…やばい…時間が無い。もうひと押し。
「小鳥遊が見てます。普通にしてて下さい…でないとバレますよ?」
小鳥遊がゆっくりと重い腰をあげたのが見えた。
多分ふたりで長く話しているので心配になったのだろうと冬は思った。冬は小さな声で早口でしゃべった。
「いい?病棟では普通に接して欲しいの。私も小鳥遊を刺激したくないし、あなただって他病棟で色々あるんでしょう?」
小峠も何も答えずただ俯いていた。
冬は自分の事よりも、真面目でどんな部下にでも親切に根気よく指導をする小鳥遊を陥れた、小峠が絶対に許せなかった。
「この件では、まだ話したりないので、そのうちどこかふたりであいましょう。」
…駄目だ。時間切れ。
すぐそこまで小鳥遊が来ていたので、
冬は静かに小峠に言った。
「まぁ…小峠先生も飲み過ぎちゃったんですね。私に愚痴るなんて…もっと若い子と絡んだ方が楽しいんじゃないですか。」
冬は小峠のグラスにビールを注いだ。
「小峠先生大丈夫ですか?」
小鳥遊がやって来てふたりに声を掛けた。
「あ…ほら、トイレも開いたみたいですよ。」
男性がトイレから出てくるのが見えて、
冬は小峠を促した。
「うん…じゃぁちょっと行ってくるよ。」
小峠が素直に席を立ちトイレに入ったのを見届けていた。
「大丈夫ですか?また何かありましたか?」
冬はゆっくりと席を立つと、自分のグラスを持った。
「いいえ…。最近の病院のゴシップを聞き出そうと思って…お陰で色々判ったわ。馬鹿と禿は使いようね。」
誰にも聞こえないように小さな声で囁いて笑った。
「あなたはまたそんなこと言って…。」
小鳥遊は声を出して笑った。
「自分だってそう思ってるから笑うんでしょう?」
ゆっくり師長の元へ戻ると、師長も大丈夫だった?と心配そうに冬に声を掛けた。
「ええ。今日はガクさんも居るし、ちょっと飲んじゃお♪」
にっこりと笑みを浮かべ、妙に機嫌が良い冬を小鳥遊は観察するように静かに見ていた。
🐈⬛♬*.:*¸¸
冬と薬剤部の部長石動との良からぬ噂が流れていた。小鳥遊も知るところとなるぐらいだから、病棟中の誰もが知っていることだろう。
「月性さんと薬剤部の石動さんの噂。ご存知ですか?」
師長がとうとう小鳥遊に聞いた。
「ええ…そのようですね。」
ナースステーションは、丁度昼の見回り時間で看護師達は出払っていた。
「月性さんに限ってそんなことは無いと思いますし、先生にお伝えして良いかどうか分かりませんけれど…実は二人は当直の時に逢引しているという噂もあるんです。」
小鳥遊は腕を組んで眉間に皺を寄せて考え込んだ。
「本人に確認するしか無いでしょうね。」
では…お願いしますね。と師長は言って去っていった。
小鳥遊は、ナースステーションで動き回る冬の背中をじっと眺めていた。
言われてみれば思い当たる節は、沢山あった。
家でもPCを見つめたまま、ゴソゴソと何かをしているようだった。
「トーコさん。最近持ち帰りの仕事が多いようですが、大丈夫ですか?」
毎日数時間程しか寝ていないように思えた。
「仕事じゃないの。看護研究でちょっと…。」
小鳥遊が来ると決まってPCを閉じてしまう。PCにも携帯にもロックが掛かっている為、全く何をしているのか分からないのも疑わしかった。極めつけは、冬が春を呼んだことだった。
「あの子、物凄く疲れてるみたいね?」
どんなに大変でも自分で春を呼び寄せたことは今までに一度だって無かった。
久しぶりに小鳥遊が早く家に帰って来た日だった。
「あらおかえりなさい。今日は早かったんですね。」
春がキッチンから顔を出した。
「あれ?トーコさんは?」
「トーコなら最近ずっと残業でガクさんが帰ってくる少し前に家に戻って来るのよ。」
小鳥遊が家に帰って来るのが20時前後なので、管理者になってほぼ17時あがりの筈の冬が、毎日残業をしているのもおかしな話だった。
しかも、今日は緊急入院もあったが、18時にはお疲れさまと言って病棟を離れてた。時々早く帰って来ることがあっても、ぐっすり寝てしまっていて、夜の営みですら激減していた。
休みの日も朝から居ないことが多いと春から言われ初めて気がついた。
🐈⬛♬*.:*¸¸
「この間はどうもありがとう。ミズキとっても喜んでいたよ。」
栄一郎は、わざわざ冬にお礼を言いに休み明けに病棟にやって来た。冬は約束通り、石動の娘とお買い物デートをしていた。
ナースステーションのカウンター近くのPCで検査データーを確認していた小鳥遊が聞いているのが判った。
「そうそれは良かったわ。」
冬は逆に小鳥遊に聞かれていた方が良いと思った。
「でもね…ミズキちゃんにはバレてたわよ。あたしのこと心配してお父さんが頼んだんでしょって。」
冬は笑った。
「あ…ばれてたんだ。」
栄一郎は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「そうよ。」
「トーコが忙しいのは判るんだけど、これ渡せって言われたんだ。」
栄一郎が出したのは、ミズキのメアドと電話番号だった。
「また今度デートして欲しいって。女同士のデートでとっても楽しかったみたい。」
若者らしい可愛らしい文字だった。
「あらそう良かった。でも良いの?不良看護師の私とミズキちゃんを遊ばせたりして。」
冬が意地悪く笑った。
「大丈夫…今までトーコに振り回されて大抵のことには慣れてるから。」
栄一郎は静かに笑った。
「あ…それから…どう?少しは判った?」
冬は小鳥遊から見えないところに移動して静かに話をした。
小峠の事だ。小鳥遊から貰った5年分の当直表を栄一郎に渡してあった。
「トーコの言った通りだったよ。脳外のPCや医局からなのに、外科医局長のIDで入力したものが出てきたんだよ。」
冬は少し考えて居た。
「ここまで来たら、処方箋と照らし合わせてみよう。」
栄一郎は呆れた。
「正気かよ?5年分だよ?どれだけ時間が掛かるか判らないよ?」
「でも、それをする為にあなたは雇われたんでしょう?給料分はきっちり仕事しなさいよ。」
冬は声を出して笑った。
「人使い荒すぎ…君の部下達もそうやってこき使ってるんだろ?俺は同情するよ。」
栄一郎も笑った。
「トーコさん僕は、白黒はっきりつけないと気が済まない性分なので、はっきりと聞きます。」
小鳥遊は、冬をリビングにへ呼んだ。春は、子供達を連れて公園へと散歩に出かけていた。ふたりで示しを合わせているのは歴然だった。
「あなたは、薬剤師の石動さんとどのようなご関係ですか?」
一週間前程、同僚にあなた達噂になってるわよ。小鳥遊先生の耳に入らないうちに何とかしなさいよと言われたばかりだった。
「どのような関係って?友人ですけど。どうしてですか?」
冬は小鳥遊を真っすぐに見つめた。
「病院で噂になっているそうです。」
こんな時の小鳥遊は、面倒だった。
「ああ…それなら同僚から聞きました。ガクさんの耳に入らないうちにどうにかしなさいよって。」
小鳥遊は目を大きく見開いた。
看護師達は冬の味方なのだと改めて感じた。
「それで、ガクさんの聞きたいこととは何でしょう?」
連日寝不足で働いている冬は、休みの日ぐらい寝て居たかった。
ただ、今泉が戻って来る頃までに何とかしておきたかった。
「あなたは、石動さんと不倫をしているんですか?」
…ホントに直球じゃないか。
冬は大きなため息をついた。
「では、逆にお聞きしますけど、ガクさんはどう思いますか?」
…面倒臭い…面倒くさい。
頭があまり自分でも働いていないような気がしていた。
「僕は信じたくありませんでしたが…。」
そういって小鳥遊は写真を見せた。喫茶店で、冬と石動、そして一人のスーツを着た男性が同じテーブルに座っていた。
「信じられない‼︎ ガクさん探偵なんて雇ったの?」
スーツの男性の胸元には弁護士バッチがついていた。
「自分で調べたくても、あいにく僕には時間がありませんでしたので。」
兎に角ここ数カ月、頑張って来たのは他でもない小鳥遊の為だったが、今はまだはっきりとしたことは言えなかった。こんなくだらないことで、時間を使うのならまだまだ調べなければいけないことは沢山あった。
「で…石動さんのお宅へ行く写真だとか、ラブホテルやビジネスホテルに一緒に入る写真でも撮れましたか?」
冬は意地悪く言った。しかし、小鳥遊もまた、浮気をしている可能性があるのにも関わらず、尻尾を全く出さない冬にしびれを切らしており、やっと落ち着いて生活が出来るようになったと思ったのに、嫉妬でおかしくなってしまいそうだった。
「撮れる訳無いわよね…だって浮気なんてしていないんですもの。馬鹿らしい。」
冬の言葉は刺々しく、そんな暇があるのなら仕事に時間を費やしなさいよと小鳥遊に言っているように聞こえた。
一方、冬は全く信用されていないことに腹立たしさが募った。
「ここ数カ月、あなたは病院から帰って来るととても疲れていましたし、ほぼ定時で仕事は上がっているのに、何故帰宅が20時頃なんでしょうか?」
「浮気はしてません。今言えることはただそれだけです。もし心配でしたら石動さんにも確認したら如何ですか?」
このような時の冬は、頑として何も言わないことは、小峠の傷害事件の時のことで、はっきりしていた。
「ええ…勿論そうするつもりです。」
日に日にやつれていく冬を見ていると、何か小峠の時よりも大きなことが起きていることは明らかだった。
冬が隠さなければならない深刻なことで思いつくのは、やはり自分との関係解消では無いかと思っていた。
「呆れた…。そんなに信用が出来ないの?」
「信用していない訳ではありません。けれど、その理由を僕は知りたいんです。少なくとも僕たちは夫婦です。」
…そうだ内縁関係だとしても夫婦だ。
「ええ。でもその“内縁の妻”が、今はその理由を言えないと言ってるんです。」
今、小鳥遊に派手に動かれては困る。それだけは、阻止しなければいけないと冬は思った。
「あなたは、どうしていつもそう何でも隠したがるんでしょう?」
…ただいまぁ。
春と子供達が帰って来てしまった。
「ガクさんが心配するような浮気とか、不倫とかそういった類のものでは無いことは確かです。」
「ジュース!ジュース飲む。」
ごめんなさいねと春は、ふたりに謝った。お父さんとお母さんは大事な話をしているから、飲んだらお部屋でちょっと遊びましょうね。と春は小さな声で子供達に言い聞かせていた。
「ガクさんこそ、何で私を信じてくれないんですか?」
「そういう問題では無くて、実際に病院で噂になっていることが問題なんです。」
「私は、夫に信じて貰えれば、誰に何と言われようが平気です。ガクさんは体裁を気にしているだけじゃない。探偵を頼む前に、私に直接聞いたら良いじゃない?」
冬の口調が厳しくなった。
「それは、あなたは帰ってきたら、自室に籠り、その後はすぐに寝てしまうからじゃないですか。」
夕食を食べず,風呂に入ってベッドへ行くこともしばしばだった。
「そんなの言い訳だわっ!結局自分が、浮気をしたことがあるから、他人もするんじゃ無いか心配なんでしょう?」
冬のイライラが爆発した。
「そんなことではありません。」
「自分がしたからって、人もしてるなんて思わないでよ。私はガクさんとは違…。」
――― パシ――――ンッ。
冬の白い頬に大きくて真っ赤な手形がついた。叩いた方も叩かれた方も驚いた顔をしていた。
瞬きをしない大きく見開かれた冬の眼から大粒の涙が、溢れ出した。
春も子供達息を飲んで、それを眺めていた。
「いいわ…。私、出ていく。」
まぁトーコ!春が慌てた。
子供達は冬に掛け寄って来た。
「お母さん、ほっぺ痛いね。」「お父さん。ごめんなさい…は?」
子供達は冬の膝によじ登り、赤く腫れている頬を優しく撫でつつ、ふたりとも、小鳥遊をじっと見ていた。
「いえ…僕が出ていきます!」
小鳥遊は声を荒げ、椅子からすっと立ち上がると、そのまま自室へと向かった。
「ちょ…ちょっと。トーコ止めなくて良いの?」
冬は座ったまま唇を真一文字に結んだまま、
動かなかったので、
春が慌てて追いかけた。
冬の眼からはポタポタと涙が流れ続けていた。
「大丈夫?大丈夫?」「ほっぺにチュッ。」
ふたりの子供は心配して冬から離れようとしなかった。
小鳥遊は荷物を纏めると、止める春にすみませんと一言だけ言い、靴を履き出て行ってしまった。
「トーコ!あなた追いかけなくていいの?ガクさん本当に出て行っちゃったわよ?」
「私は何もやましいことなんてして無いから。」
冬は洗面所へ行き顔を洗い戻って来た。
「もうほっぺ痛いの治ったよ。華ちゃんも夏さんもありがとうね。」
ふたりをそっと抱きしめ微笑みかけた。
「さぁ。お風呂に入ろうね。」
春は気もそぞろに子供達に声を掛けたものの、小鳥遊を気にしていた。
病院とマンションは駅からも近く、ビジネスホテルはすぐに見つかった。部屋は冷房が効き過ぎて、入ると、背筋がぞくぞくした。
頭の隅では、冬はそんなことはしないという気持ちがあったが、大部分を占めていたのは栄一郎への嫉妬だった。
「僕は何をやってるんだ…。」
静かすぎる部屋は落ち着かなかった。以前も似たようなことがあって、冬を傷つけてしまったことを思い出していた。
…これではあの時から全く変わらないじゃないか。
冬の驚いた顔、そして怒り…しかし、何故秘密にするのか、小峠の傷害事件の時だってそうだ。自分に言ってくれれば、手伝うことも出来たのにと思った。
…やはり、冬は浮気なんてしていないのか?
設楽のことや、モデル達のことを蒸し返されて、思わず手を挙げてしまった。小鳥遊は、女性に手を挙げたことなんて(ぶたれたことは何度となくあるが)、今までに一度も無かった。
荷物を片付け終わると冷蔵庫からウィスキーの小瓶を出し飲んだ。冬にはああいったが、流石に栄一郎には確認できないと思った。
明日からどんな顔をして冬と話せば良いのかもわからなかった。携帯を出すと電話を掛けた。
「もしもし静さん?…僕です。後で連絡を下さい。」
疲れて重い体をベッドに横たえると額を手で抑えた。
🐈⬛♬*.:*¸¸
「家に帰らなくて良いのかい?」
栄一郎は、モニターを見ながら冬に聞いた。
「うん。今家に母が来てるから、子供達の面倒は母が見てくれてるの。栄一郎さんこそ家に帰らなくても良いの?ミズキちゃん一人で待ってるんじゃない?」
「うん。きっとのんびりしてると思うよ。小鳥遊先生は?心配しないかい?噂…になってるだろう?」
「うん…栄一郎さんに迷惑掛けてホントにごめんね。でも、どうしても知りたいのよ。」
「僕は男だから大丈夫だけれど、君は奥さんだろ?」
目をしばたたかせた冬は画面から目を離さず作業を続けていた。
「おい…トーコ。」
栄一郎が向き直ると、丸椅子がギシギシと音を立てた。
「あー…うん…大丈夫だよ。」
冬は心ここに在らずで返事をしていた。
「なぁ…全然変わらないな。君が嘘つくときって、瞬きが増えるんだよ。」
痣を隠すために掛けていたマスクだったが、冬は本当に風邪を引いてしまっていた。
「私は平気、ただ栄一郎さんが色々言われているのも知ってるから…本当にごめんね。」
冬は初めて画面から目を離し、キョロキョロ周りを見回し、ティッシュの箱を取った。
「だから、俺のことは良い…って…。」
冬が横を向いて鼻を噛んだ拍子に、
頬の赤い痣がちらりと見てた。
「もう…月性さんは、自分の歓迎会なのに。」
師長が呆れて動き回る冬を眺めていた。
「あの人は、動いていないと駄目なんですよ。」
小鳥遊は、時々小峠と目が合うのを気にしながらも、静かに冬を見守っていた。
冬はひっそりと話をしていても、いつの間にか看護師が集まって来て、冬の話を聞いていた。
アメリカの病棟のことや看護大学などの話を聞かれるたびに説明していた。
小峠にも失礼のない程度にお酒を注いていたが、榎木か友田がいつの間にか傍に来ていて、冬を見事にブロックしているのを見て、小鳥遊は可笑しくて仕方が無かった。
「ちょっと小峠先生は、なんでトーコばっかり気にするの?」
榎木がべったりと小峠の傍に張り付いていた。
「そんなこと無いですよ。」
小峠は静かに笑っていた。
「じゃぁ、今度ご飯御馳走して♪」
小峠は少々びっくりしたようだった。
「うん…別に良いですけれど。」
戸惑いながらも何となく返事をしてしまった。
「やったー♪みんな聞いた?今度小峠先生があたしたちにご飯御馳走してくれるって言うから、小峠先生の当直の時が、超楽しみになって来ましたよ。」
友田がわざと大きな声で皆に聞こえるように言ったので、看護師達から歓声が上がった。
これには冬も思わず噴き出した。
…頼もしい同僚達だ。
小峠は、小鳥遊の眼を盗んでは、冬に話しかけてきた。
「月性ちゃんには色々聞きたいことがあってさぁ。」
流石に触ってくるようなことは無いと思っていたが、微妙なスペースがふたりの間にはあった。
「何か怖い…何ですか?聞きたいことって。」
…どーせ禄でも無いことだ。
「何で、僕じゃ無かったの?」
…禿…お前の家では未だに銅鏡を使ってるのか?自分の顔をよく見なさいね?
高橋の周りで歓声が上がったので、皆の視線が一斉に注がれた。どうせ男性看護師といやらしい話をして盛り上がっているに違いない。
「なんでって…最初から好きじゃありませんでしたし…。」
小峠はとても驚いた顔をしたが、冬は静かに言葉を続けた。皆が高橋のエロ話に聞き耳を立てているので丁度良かった。
「それに…一番最初の時だって、私ウーロン茶しか飲んで無かったんですよ?知ってました?」
小峠の顔が凍り付いた。
「薬で眠らせてレイプするような人と付き合いますかね?」
周りには人が誰も居なかった。小鳥遊がじっとこちらを見ていた。
「本当は後輩を狙っているふりをして、私を連れて帰りたかったことも知ってます。」
…お前なんて…真綿で首を絞めるようにじわじわと虐めてやる。
小峠は少し震えているように見えた。
「そんなの…証拠が無いじゃない。」
…そうだ。証拠なんて何も無い。
冬は小峠が何人もの看護師に以前から同じ手口を使っていると確信していた。
…何も言わずにじっと見つめてるだけで良い。禿が自分で勘違いするまで。
冬が何も答えずに、ほんの微かに笑って見せると、小峠が息を飲んだ。
「あなたの正体を知っている私が居る以上、少なくともここの看護師と問題を起こしたりしたら…。」
それ以上のことは何も言わなくても、
小峠がだいぶ動揺しているのが判った。
…今夜はこれぐらいにしておいてやろうじゃないか。
「ぼ…僕は…君のことが…本当に…好きだったんだ。」
声を押し殺し、絞り出すように言った。
…黙れ。犯罪者!
冬は小峠の言葉を無視した。
「このことは、小鳥遊先生も知りませんし、誰も知らないんです。」
師長と小鳥遊が、こちらを見ながら何かを話しているのが見えた。
…やばい…時間が無い。もうひと押し。
「小鳥遊が見てます。普通にしてて下さい…でないとバレますよ?」
小鳥遊がゆっくりと重い腰をあげたのが見えた。
多分ふたりで長く話しているので心配になったのだろうと冬は思った。冬は小さな声で早口でしゃべった。
「いい?病棟では普通に接して欲しいの。私も小鳥遊を刺激したくないし、あなただって他病棟で色々あるんでしょう?」
小峠も何も答えずただ俯いていた。
冬は自分の事よりも、真面目でどんな部下にでも親切に根気よく指導をする小鳥遊を陥れた、小峠が絶対に許せなかった。
「この件では、まだ話したりないので、そのうちどこかふたりであいましょう。」
…駄目だ。時間切れ。
すぐそこまで小鳥遊が来ていたので、
冬は静かに小峠に言った。
「まぁ…小峠先生も飲み過ぎちゃったんですね。私に愚痴るなんて…もっと若い子と絡んだ方が楽しいんじゃないですか。」
冬は小峠のグラスにビールを注いだ。
「小峠先生大丈夫ですか?」
小鳥遊がやって来てふたりに声を掛けた。
「あ…ほら、トイレも開いたみたいですよ。」
男性がトイレから出てくるのが見えて、
冬は小峠を促した。
「うん…じゃぁちょっと行ってくるよ。」
小峠が素直に席を立ちトイレに入ったのを見届けていた。
「大丈夫ですか?また何かありましたか?」
冬はゆっくりと席を立つと、自分のグラスを持った。
「いいえ…。最近の病院のゴシップを聞き出そうと思って…お陰で色々判ったわ。馬鹿と禿は使いようね。」
誰にも聞こえないように小さな声で囁いて笑った。
「あなたはまたそんなこと言って…。」
小鳥遊は声を出して笑った。
「自分だってそう思ってるから笑うんでしょう?」
ゆっくり師長の元へ戻ると、師長も大丈夫だった?と心配そうに冬に声を掛けた。
「ええ。今日はガクさんも居るし、ちょっと飲んじゃお♪」
にっこりと笑みを浮かべ、妙に機嫌が良い冬を小鳥遊は観察するように静かに見ていた。
🐈⬛♬*.:*¸¸
冬と薬剤部の部長石動との良からぬ噂が流れていた。小鳥遊も知るところとなるぐらいだから、病棟中の誰もが知っていることだろう。
「月性さんと薬剤部の石動さんの噂。ご存知ですか?」
師長がとうとう小鳥遊に聞いた。
「ええ…そのようですね。」
ナースステーションは、丁度昼の見回り時間で看護師達は出払っていた。
「月性さんに限ってそんなことは無いと思いますし、先生にお伝えして良いかどうか分かりませんけれど…実は二人は当直の時に逢引しているという噂もあるんです。」
小鳥遊は腕を組んで眉間に皺を寄せて考え込んだ。
「本人に確認するしか無いでしょうね。」
では…お願いしますね。と師長は言って去っていった。
小鳥遊は、ナースステーションで動き回る冬の背中をじっと眺めていた。
言われてみれば思い当たる節は、沢山あった。
家でもPCを見つめたまま、ゴソゴソと何かをしているようだった。
「トーコさん。最近持ち帰りの仕事が多いようですが、大丈夫ですか?」
毎日数時間程しか寝ていないように思えた。
「仕事じゃないの。看護研究でちょっと…。」
小鳥遊が来ると決まってPCを閉じてしまう。PCにも携帯にもロックが掛かっている為、全く何をしているのか分からないのも疑わしかった。極めつけは、冬が春を呼んだことだった。
「あの子、物凄く疲れてるみたいね?」
どんなに大変でも自分で春を呼び寄せたことは今までに一度だって無かった。
久しぶりに小鳥遊が早く家に帰って来た日だった。
「あらおかえりなさい。今日は早かったんですね。」
春がキッチンから顔を出した。
「あれ?トーコさんは?」
「トーコなら最近ずっと残業でガクさんが帰ってくる少し前に家に戻って来るのよ。」
小鳥遊が家に帰って来るのが20時前後なので、管理者になってほぼ17時あがりの筈の冬が、毎日残業をしているのもおかしな話だった。
しかも、今日は緊急入院もあったが、18時にはお疲れさまと言って病棟を離れてた。時々早く帰って来ることがあっても、ぐっすり寝てしまっていて、夜の営みですら激減していた。
休みの日も朝から居ないことが多いと春から言われ初めて気がついた。
🐈⬛♬*.:*¸¸
「この間はどうもありがとう。ミズキとっても喜んでいたよ。」
栄一郎は、わざわざ冬にお礼を言いに休み明けに病棟にやって来た。冬は約束通り、石動の娘とお買い物デートをしていた。
ナースステーションのカウンター近くのPCで検査データーを確認していた小鳥遊が聞いているのが判った。
「そうそれは良かったわ。」
冬は逆に小鳥遊に聞かれていた方が良いと思った。
「でもね…ミズキちゃんにはバレてたわよ。あたしのこと心配してお父さんが頼んだんでしょって。」
冬は笑った。
「あ…ばれてたんだ。」
栄一郎は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「そうよ。」
「トーコが忙しいのは判るんだけど、これ渡せって言われたんだ。」
栄一郎が出したのは、ミズキのメアドと電話番号だった。
「また今度デートして欲しいって。女同士のデートでとっても楽しかったみたい。」
若者らしい可愛らしい文字だった。
「あらそう良かった。でも良いの?不良看護師の私とミズキちゃんを遊ばせたりして。」
冬が意地悪く笑った。
「大丈夫…今までトーコに振り回されて大抵のことには慣れてるから。」
栄一郎は静かに笑った。
「あ…それから…どう?少しは判った?」
冬は小鳥遊から見えないところに移動して静かに話をした。
小峠の事だ。小鳥遊から貰った5年分の当直表を栄一郎に渡してあった。
「トーコの言った通りだったよ。脳外のPCや医局からなのに、外科医局長のIDで入力したものが出てきたんだよ。」
冬は少し考えて居た。
「ここまで来たら、処方箋と照らし合わせてみよう。」
栄一郎は呆れた。
「正気かよ?5年分だよ?どれだけ時間が掛かるか判らないよ?」
「でも、それをする為にあなたは雇われたんでしょう?給料分はきっちり仕事しなさいよ。」
冬は声を出して笑った。
「人使い荒すぎ…君の部下達もそうやってこき使ってるんだろ?俺は同情するよ。」
栄一郎も笑った。
「トーコさん僕は、白黒はっきりつけないと気が済まない性分なので、はっきりと聞きます。」
小鳥遊は、冬をリビングにへ呼んだ。春は、子供達を連れて公園へと散歩に出かけていた。ふたりで示しを合わせているのは歴然だった。
「あなたは、薬剤師の石動さんとどのようなご関係ですか?」
一週間前程、同僚にあなた達噂になってるわよ。小鳥遊先生の耳に入らないうちに何とかしなさいよと言われたばかりだった。
「どのような関係って?友人ですけど。どうしてですか?」
冬は小鳥遊を真っすぐに見つめた。
「病院で噂になっているそうです。」
こんな時の小鳥遊は、面倒だった。
「ああ…それなら同僚から聞きました。ガクさんの耳に入らないうちにどうにかしなさいよって。」
小鳥遊は目を大きく見開いた。
看護師達は冬の味方なのだと改めて感じた。
「それで、ガクさんの聞きたいこととは何でしょう?」
連日寝不足で働いている冬は、休みの日ぐらい寝て居たかった。
ただ、今泉が戻って来る頃までに何とかしておきたかった。
「あなたは、石動さんと不倫をしているんですか?」
…ホントに直球じゃないか。
冬は大きなため息をついた。
「では、逆にお聞きしますけど、ガクさんはどう思いますか?」
…面倒臭い…面倒くさい。
頭があまり自分でも働いていないような気がしていた。
「僕は信じたくありませんでしたが…。」
そういって小鳥遊は写真を見せた。喫茶店で、冬と石動、そして一人のスーツを着た男性が同じテーブルに座っていた。
「信じられない‼︎ ガクさん探偵なんて雇ったの?」
スーツの男性の胸元には弁護士バッチがついていた。
「自分で調べたくても、あいにく僕には時間がありませんでしたので。」
兎に角ここ数カ月、頑張って来たのは他でもない小鳥遊の為だったが、今はまだはっきりとしたことは言えなかった。こんなくだらないことで、時間を使うのならまだまだ調べなければいけないことは沢山あった。
「で…石動さんのお宅へ行く写真だとか、ラブホテルやビジネスホテルに一緒に入る写真でも撮れましたか?」
冬は意地悪く言った。しかし、小鳥遊もまた、浮気をしている可能性があるのにも関わらず、尻尾を全く出さない冬にしびれを切らしており、やっと落ち着いて生活が出来るようになったと思ったのに、嫉妬でおかしくなってしまいそうだった。
「撮れる訳無いわよね…だって浮気なんてしていないんですもの。馬鹿らしい。」
冬の言葉は刺々しく、そんな暇があるのなら仕事に時間を費やしなさいよと小鳥遊に言っているように聞こえた。
一方、冬は全く信用されていないことに腹立たしさが募った。
「ここ数カ月、あなたは病院から帰って来るととても疲れていましたし、ほぼ定時で仕事は上がっているのに、何故帰宅が20時頃なんでしょうか?」
「浮気はしてません。今言えることはただそれだけです。もし心配でしたら石動さんにも確認したら如何ですか?」
このような時の冬は、頑として何も言わないことは、小峠の傷害事件の時のことで、はっきりしていた。
「ええ…勿論そうするつもりです。」
日に日にやつれていく冬を見ていると、何か小峠の時よりも大きなことが起きていることは明らかだった。
冬が隠さなければならない深刻なことで思いつくのは、やはり自分との関係解消では無いかと思っていた。
「呆れた…。そんなに信用が出来ないの?」
「信用していない訳ではありません。けれど、その理由を僕は知りたいんです。少なくとも僕たちは夫婦です。」
…そうだ内縁関係だとしても夫婦だ。
「ええ。でもその“内縁の妻”が、今はその理由を言えないと言ってるんです。」
今、小鳥遊に派手に動かれては困る。それだけは、阻止しなければいけないと冬は思った。
「あなたは、どうしていつもそう何でも隠したがるんでしょう?」
…ただいまぁ。
春と子供達が帰って来てしまった。
「ガクさんが心配するような浮気とか、不倫とかそういった類のものでは無いことは確かです。」
「ジュース!ジュース飲む。」
ごめんなさいねと春は、ふたりに謝った。お父さんとお母さんは大事な話をしているから、飲んだらお部屋でちょっと遊びましょうね。と春は小さな声で子供達に言い聞かせていた。
「ガクさんこそ、何で私を信じてくれないんですか?」
「そういう問題では無くて、実際に病院で噂になっていることが問題なんです。」
「私は、夫に信じて貰えれば、誰に何と言われようが平気です。ガクさんは体裁を気にしているだけじゃない。探偵を頼む前に、私に直接聞いたら良いじゃない?」
冬の口調が厳しくなった。
「それは、あなたは帰ってきたら、自室に籠り、その後はすぐに寝てしまうからじゃないですか。」
夕食を食べず,風呂に入ってベッドへ行くこともしばしばだった。
「そんなの言い訳だわっ!結局自分が、浮気をしたことがあるから、他人もするんじゃ無いか心配なんでしょう?」
冬のイライラが爆発した。
「そんなことではありません。」
「自分がしたからって、人もしてるなんて思わないでよ。私はガクさんとは違…。」
――― パシ――――ンッ。
冬の白い頬に大きくて真っ赤な手形がついた。叩いた方も叩かれた方も驚いた顔をしていた。
瞬きをしない大きく見開かれた冬の眼から大粒の涙が、溢れ出した。
春も子供達息を飲んで、それを眺めていた。
「いいわ…。私、出ていく。」
まぁトーコ!春が慌てた。
子供達は冬に掛け寄って来た。
「お母さん、ほっぺ痛いね。」「お父さん。ごめんなさい…は?」
子供達は冬の膝によじ登り、赤く腫れている頬を優しく撫でつつ、ふたりとも、小鳥遊をじっと見ていた。
「いえ…僕が出ていきます!」
小鳥遊は声を荒げ、椅子からすっと立ち上がると、そのまま自室へと向かった。
「ちょ…ちょっと。トーコ止めなくて良いの?」
冬は座ったまま唇を真一文字に結んだまま、
動かなかったので、
春が慌てて追いかけた。
冬の眼からはポタポタと涙が流れ続けていた。
「大丈夫?大丈夫?」「ほっぺにチュッ。」
ふたりの子供は心配して冬から離れようとしなかった。
小鳥遊は荷物を纏めると、止める春にすみませんと一言だけ言い、靴を履き出て行ってしまった。
「トーコ!あなた追いかけなくていいの?ガクさん本当に出て行っちゃったわよ?」
「私は何もやましいことなんてして無いから。」
冬は洗面所へ行き顔を洗い戻って来た。
「もうほっぺ痛いの治ったよ。華ちゃんも夏さんもありがとうね。」
ふたりをそっと抱きしめ微笑みかけた。
「さぁ。お風呂に入ろうね。」
春は気もそぞろに子供達に声を掛けたものの、小鳥遊を気にしていた。
病院とマンションは駅からも近く、ビジネスホテルはすぐに見つかった。部屋は冷房が効き過ぎて、入ると、背筋がぞくぞくした。
頭の隅では、冬はそんなことはしないという気持ちがあったが、大部分を占めていたのは栄一郎への嫉妬だった。
「僕は何をやってるんだ…。」
静かすぎる部屋は落ち着かなかった。以前も似たようなことがあって、冬を傷つけてしまったことを思い出していた。
…これではあの時から全く変わらないじゃないか。
冬の驚いた顔、そして怒り…しかし、何故秘密にするのか、小峠の傷害事件の時だってそうだ。自分に言ってくれれば、手伝うことも出来たのにと思った。
…やはり、冬は浮気なんてしていないのか?
設楽のことや、モデル達のことを蒸し返されて、思わず手を挙げてしまった。小鳥遊は、女性に手を挙げたことなんて(ぶたれたことは何度となくあるが)、今までに一度も無かった。
荷物を片付け終わると冷蔵庫からウィスキーの小瓶を出し飲んだ。冬にはああいったが、流石に栄一郎には確認できないと思った。
明日からどんな顔をして冬と話せば良いのかもわからなかった。携帯を出すと電話を掛けた。
「もしもし静さん?…僕です。後で連絡を下さい。」
疲れて重い体をベッドに横たえると額を手で抑えた。
🐈⬛♬*.:*¸¸
「家に帰らなくて良いのかい?」
栄一郎は、モニターを見ながら冬に聞いた。
「うん。今家に母が来てるから、子供達の面倒は母が見てくれてるの。栄一郎さんこそ家に帰らなくても良いの?ミズキちゃん一人で待ってるんじゃない?」
「うん。きっとのんびりしてると思うよ。小鳥遊先生は?心配しないかい?噂…になってるだろう?」
「うん…栄一郎さんに迷惑掛けてホントにごめんね。でも、どうしても知りたいのよ。」
「僕は男だから大丈夫だけれど、君は奥さんだろ?」
目をしばたたかせた冬は画面から目を離さず作業を続けていた。
「おい…トーコ。」
栄一郎が向き直ると、丸椅子がギシギシと音を立てた。
「あー…うん…大丈夫だよ。」
冬は心ここに在らずで返事をしていた。
「なぁ…全然変わらないな。君が嘘つくときって、瞬きが増えるんだよ。」
痣を隠すために掛けていたマスクだったが、冬は本当に風邪を引いてしまっていた。
「私は平気、ただ栄一郎さんが色々言われているのも知ってるから…本当にごめんね。」
冬は初めて画面から目を離し、キョロキョロ周りを見回し、ティッシュの箱を取った。
「だから、俺のことは良い…って…。」
冬が横を向いて鼻を噛んだ拍子に、
頬の赤い痣がちらりと見てた。
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