次期当主に激重執着される俺

柴原狂

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第1章

第5話 兄として

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 ジークの瞳は、他の人間と異なっている。
幼いころ、本で得た受け売りの知識だが……ジークの持つ琥珀の瞳は、この世界では珍しい『希少種』とされており、探さんとする者もそう少なくないらしい。

 守らなければと思った。
 兄であるおれが、可愛い弟を守るのは当然だ。おれはこれまで──ジークが人の目に留まることが無いよう、細心の注意を払ってきた。王宮から遠い貧困街で暮らし、徹底して弟を外へ出さない。弟の存在を認知しているのはおれだけでいい。アイツの全てを理解し、無償の愛を与えてやれるのはおれしか居ないと──そう思って、ずっと生きていた。
仕事を終えてすぐ。トマトスープの材料を買うべく、大通りにやってくるまでは。


(これは……)


 地面に落ちていた、黒いハンチング帽。風に煽られながらも、それは懸命に地面で静止していた。やけに見慣れた帽子を前に、おれは忽ち表情を変える。

 嫌な予感が背筋をなぞった。呼吸のリズムが乱れていった。
 全速力で駆け出したおれは、只ひたすらに家を目指した。そして──漸くたどり着いた時。もぬけの殻となった『そこ』をみて……おれは盛大に嘔吐した。


「う゛えっ……は、あ」


 弟が……弟がさらわれた。
 あれ程「家から出るな」と言っておいたのに。あれ程大切に育ててきたのに。今、おれの知らないところで弟が『赤の他人』と同じ空間にいると思うと、吐き気がして仕方がない。胃がむかむかして、熱くて、苦しい。


「ジーク……ジークを探さないと」


 おれは口元を手で拭うと、徐ろに外へ向かった。
 誰がおれの弟に手を出したのか、大方見当はついている。『目の価値』を知っている人間など、せいぜい身分の高い者か、本に興味関心があるやつくらいだ。


「待ってろジーク、直ぐにおれが助けてやる。絶対に一人にさせないからな」


 その心中にあるのは、弟を思う純粋な心配か、或いは──執着か。
 家を後にする男の背中は、怒りと嫉妬に満ちていた。





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