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第三章
第6話 おれにしろよ
しおりを挟む映画のあと、俺たちは近くの大型ショッピングモールで、買い物やゲームを楽しんだ。
さすがプロゲーマーと言うべきか──ふたりでゲームセンターに行った時、全てのゲームを意図も簡単にクリアしてしまったキルさんに、俺は驚きが隠せなかった。
そして現在。夕暮れの街を、俺とキルさんは歩いていた。
一日中遊びまくったおかげか、今ではちゃんとキルさんの目を見て話ができるようになっていた! そんな進歩が嬉しくて、俺はとてつもない達成感に包まれていた。
「累。今日はありがとう」
人気のない道に辿り着いた時。キルさんは突然、歩みを止めてそう言った。
「いえ、俺の方こそありがとうございました! 俺、あんまり友達と遊びに行ったことがないので、初めは緊張してたんですけど……めっちゃ楽しかったです!」
気が付けば、素の自分が出てしまっていた。俺はニッと白い顔を見せて笑うと、キルさんに向けて頭を下げる。その時だった。
ピピピッ、と俺のポケットから音が響く。急いでスマホを取り出せば──なんと、ノーキから電話が来ていたのだ。
「あ、すみません。ちょっと……」
俺はキルさんに背を向けると、ノーキの電話に出るべく、着信ボタンに手を伸ばした──はずだった。
「累」
突然キルさんに手首を掴まれてしまい、俺は電話に出られなくなる。
骨ばった指先が、手首をぎゅっと強く掴むので、俺は思わず顔を歪める。
「なッ……どうしたんです、徹さん?!」
「その電話、誰からだ?」
「だれって──」
「ノーキか?」
「え、は……はい」
俺が頷くと同時に、着信音が止まってしまった。キルさんは俺の手首を掴んだまま、さらに顔を近づけていった。
「ノーキなんかやめて、おれにしろよ」
な、にを言ってるんだ……この人は?
一瞬、冗談かもと思ったが、俺を見下ろすキルさんの瞳は、どう考えても本心のようだった。だからこそ、俺は尚更……混乱が隠せない。
「き、急にどうしたんです、徹さ──」
「あんなぽっと出のヤツより、おれの方が累のこと分かってやれる。今日だって楽しかったろ? おれと付き合ってくれるなら、これから一生、累を幸せにするって誓うよ」
やばいこの人……目が本気だ。
その場から逃げようと後退りするも、手首を掴まれているせいで動けない。
「や……やめてください」
「累のことが好きなんだ。ずっと……ずっと前から」
「だ……だれか」
「目ェ逸らすなよ。累の可愛い顔見せて」
「はっ、離してください!!」
逃げないと! 今すぐここから逃げないと……! 本能でそう悟った俺は、掴まれた腕を振り払おうと抵抗する。
「累、マジでそれやめて、興奮すっから」
「助けて、だれk……」
その時、柔らかい感触が唇に触れた。それから俺の視界は、スローモーションのようにゆっくり動き出す。
「愛してる、累」
鋭い瞳で、キルさんが俺を見下ろす。
ノーキ以外の人にキスされたのは初めてだった。俺は絶望と混乱のあまり、声を出すことが出来なくなる。
唖然とする意識の中で、キルさんから視線を逸らしたくて……俺はふと、誰も居ないであろう傍の道に目を向けた。
するとそこには──
「累……?」
スマホを片手に肩で息をする、俺の大切な大切な恋人──ノーキの姿があった。
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