神様は私のダメっぷりを侮っています~終電で異世界転移したけど元の世界に帰りたいので、イケメン獣人達を使って絆そうとするのは止めて下さい~

ひさぎり

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11話

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 ソウマに無理を言って天幕を出た後、高揚している自分を落ち着かせる為にお茶を淹れてみた。
 立ち昇る湯気の向こうで日が沈むのをぼんやりと眺めながら、先程のリンとの事を思い出す。

 最初にリンの泣き顔を見たのはセキロウに帰れないと断言された時だった。
 悲痛な泣き声に流石に同情はしたけど、第五師団が撤退したからには先を急いで欲しい気持ちのほうが勝って二人に声を掛けた。

 二回目は、感極まって号泣した時。
 セキロウに泣き付いてた悲痛な泣き声とは違って、豪快な泣き声にちょっと驚いて、呆気にとられた。

 だけど、悲嘆に暮れる涙じゃなくて良かったと思っちゃったのよね。

 涙で顔がぐちゃぐちゃになるほど感極まった涙は、リンがどれだけ大きな物を失ったかを心底痛感させられたわ。
 それで自分がリンにどうしたいかって気づいてしまったけど、強引に蓋をした。

 三回目も感極まって号泣した時。
 気張れとリンに言ったけど、あれは自分にも言い聞かせた言葉でもあったのよね。
 だって、もう自分がリンにしてあげたい気持ちを誤魔化せないって分かってたから。

 突然、自分が生まれ育った世界から異世界に放り出されてしまったリンを支えたい。
 リンが心から笑えるように側にいて守ってあげたいって思っちゃったのよね。

 私ともあろう者が気持ちが先行してガッついてしまった事は認める。
 だけど、迫ったら目を閉じるとかマジあり得ない!人生史上、最大に自制したわ。
 私じゃなかったから頂かれてるところよ。

 この私がこんな風に異性とのやり取りを思い返すなんてと思った所で、ふと笑いが込み上げた。

 抱き締めてリンを身近に感じ、目尻に口付けただけで気分が高揚する位の自分が、何を思い上がって『この私が』なのかと。

 リンに惚れたら、誰も自分が主導権なんて握れないのに。

 どうしても口元が笑みを作ってしまうのを誤魔化そうと、私はお茶を飲んでやり過ごした。
 リンのお陰で久し振りに干からびた心が潤った感覚に浸っていたら日はすっかり沈んでいた。


 さて、回想に浸るのもここまでね。
 そう思ったのと同時に、部下達が持ち場を離れ、片膝をついて伏した。

「セキロウ様がお戻りになります」
「そうみたいね」

 近くにいたアサギリに返事をした後、程なくして、音もなくセキロウは姿を表した。
 全身から水を滴らせて。

「…足踏み外して池に落ちたみたいになってるけど?」
「俺がそんなヘマをするようになれば、噛み殺してやると顔にかいてあるぞ、ジエ」

 減らず口だけは達者よね。
 まあ、その通りだけどと云う気持ちを口の端だけを吊り上げた笑みに込める。

「リンは?」

 かきあげた前髪から晒された金の目が周囲を探る。

「リンは入浴中よ、もうすぐ出てくるわ」
「そうか」

 そう言って水回りの天幕へと足を向けたセキロウの腕を取る。
 何処に行こうとしてんのよ、全く!

「分かりきってるけど、一応聞いてあげる。どこ行く気なの?」
「風呂場に決まっているだろう」
「ダメに決まってるでしょ!」

 何故そこで怪訝な表情が出来るのか分からないし、圧倒的正論で正義は私にあるの。

「女子が入浴中の風呂場に躊躇いなく乗り込んで行くなんて、変態の所業どころじゃないわよ。最早恐怖でしかないから」
「リンが俺を怖がるのか?あんなに離れたがらなかったのに?」

 思ってもみない事を聞いた風なセキロウの問いに、周囲の雰囲気が微妙な感じになったのは気のせいじゃない。

「それとこれとは話が別なの。
 あのね、リンは云わば素人なの。セキロウが相手にしてきた玄人とは違うのよ?
 リンと関わるなら、もっと女心ってものを学びなさいよ」
「・・・なるほど。場数を踏んだ百戦錬磨のジエの前では弁解の余地もないが、オンナゴコロはリンから学ぼう」
「何よ、その言い方!人を遊び人みたいに言わないで!・・・確かにちょっと自分の性欲ヤバイなって思った時期もあるけど、ちゃんと付き合ってたし・・・」
「し、師団長、もうそれ以上はっ・・・墓穴掘ってますっ」

 ソウマに指摘されて自分は一体何を口走っていたのかと我に返った。
 気まずい沈黙を破ったのは勿論、セキロウ。ゾッとする程、決まりがいい悪い笑みを浮かべて、私に言い放った。

「いつもより余裕がないな、ジエ」

 図星。だけど、図星をつかれた事なんておくびにも出さずに応酬した。

「セキロウが入浴中の風呂場に乗り込んでいこうとするからでしょ。変態行為だって言われなくても自覚してよ、疲れるから」

 不毛な言い合いにもつれ込みそうな気配が濃厚な中、水回りの天幕の戸が開く気配を察知すると、それは一掃された。

「はぁ…お風呂、最高だった…うわっ」

 極楽なお風呂から出てきたら、ジエさんの部下の人達が平伏している状況に驚いてしまった。

「リン」
「あ、セキロウさん、戻ってたんですね。あの、皆どうしたんですか?」

 こちらへ歩いて来るセキロウさんとジエさんを見て、近付きながら尋ねた。

「俺に礼儀をとってるだけだ、ちょうだからな。それより、髪がまだ濡れてる。よく拭かないと直ぐに身体が冷える」

 そう忠告してくれたセキロウさんは、私の肩に掛けてある鞣した皮みたいな不思議な手触りの布を引き抜いて、頭をわしゃわしゃと拭いてくれる。

「セキロウさんって市長?村長?だったんですか?」

 ジエさんの部下の人は耳が良いようで、大半が私の問いを聞いて吹き出した。
 セキロウさんの手も止まりました。

 …え、やらかした?

 ジエさんも笑いながらセキロウさんの手から不思議な手触りの布を引き受けて、何気なく絞ると中々の量の水が絞り出された。

 なにその吸水力。半端なくない?

「そう、セキロウって村長なのよ。で、お風呂、どうだった?さっぱりした?」

 呆然としながら髪に触ると殆ど水気がなかった。

「…あ、え、はい、凄くさっぱりしました。何から何まで揃えて貰って本当にありがとうございます」
「良かった。私もセキロウ連れて入ってくる事にするわ」

 !何っ?一緒に入浴うぅ!?

 うわあ、凄い贅沢な画じゃない?
 異なる美形の入浴風景、ニーズありまくり!ため息しか出…
「断る」

 そうですよね。断固として断る感じが凄く伝わってきます。
 だけどジエさんも望んで混浴を申し出た感じではなかった。

「セキロウ一人だと、鳥の行水の方がまだマシな入浴でしょ?早ければいいってもんじゃないの。
 リンもいる事だし、いい機会だから正しい入浴の仕方を教えてあげる」

 ジエさんの説得に無表情無言を決め込むセキロウさん。

 よっぽど嫌なんだな。ちょっと笑っちゃう。

 それが返事とばかりにジエさんは部下の人へ指示を出した。

「タキとセンカは料理をお願いね。
 ギンナとアサギリでリンの支度を手伝ってあげて。ソウマ、後は頼んだわよ」

 ジエさんの指示で長い黒髪の男の人が顔を上げると、あの水色の目をした人だった。

 ジエさんに遅れて渋々天幕に向かうセキロウさんに私ははっとした。
 まだ言ってない事があったから。

「あの、セキロウさん!」

 呼び止めると、直ぐに目の前に来てくれて、私は恐縮してしまう。
 大した用事ではないけど、でも…なんて、モジモジしてる場合じゃないのに。

「どうした、リン。俺に何か用があるんだろう?」

 いいながら髪を整えてくれる。
 もう、スッと言おう。然り気無くスッと言おう。

「お、ぉお帰りなさい!それだけです、じゃまた」

 然り気無さゼロ、と嘆きの内に素早く踵を返すと、背後から腕を回され、高い体温を感じると同時に、セキロウさんの頬が寄せられる。

「いいな、それ。今後、俺だけに言ってくれないか、リン」
「はい、そこまで。折角お風呂で綺麗になったリンが汚れちゃうでしょ」 

 ジエさんに引き離されてセキロウさんの高い体温は直ぐに離れた。


 …私、





 耳元で舌打ちを聞いたのは初めてです。
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