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大きなお屋敷と広い庭で

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 後日。レオン一家は空き家になったお屋敷へと引っ越した。王子さまがこの日のために、大きな馬車で使者を差し向けてくれたのだ。婚約者エラに多大な協力をしてくれた事への感謝の印として。

「おお、立派なお屋敷だ!」
「まあ、夢のようだわ! あんたたち、この広いお庭をご覧。毎日、思いっきり走り回って遊べるよ」
「わーい!」
「わーい!」
「わーい!」
「アーッブ!」
「わたし、お庭でお昼ごはんを食べてみたいなー」
「庭でピクニックもできるよね? 父さん」
「できるとも。よし! 父さんが庭にレンガを積んでコンロを作ろう」
「そしたら母さんはお肉やらお野菜やらを串に刺して用意するよ」
「じゃあお兄ちゃんがそれを焼いてあげるから、みんなで食べようね」
「うん!」
「やったぁ! 肉だ!」
「おちゃかなは? ねぇおちゃかなは?」
「ンマッ! ンマッ!」
「父さんなら、大きなお魚もふっくらとおいしく焼ける石窯いしがまだって作れるよ。ねえ、あんた」
「ああ、任せてくれ」
「やったー!」
「やったー!」
「やったー!」
「やったー!」
「アッブー!」

 こうしてレオンは少年でありながらお屋敷と領地と領民を持つ男爵になり、それに伴ってレオンの父は準貴族となり少年男爵レオンの後見人となるのだ。引っ越しの済んだレオン父子は、領民たちにあいさつ回りをする。

「こちらは新しい領主のレオンです。私はその後見人でツィマーマンきょうと言います。息子のレオンは平民ですが、近々爵位授与式があるので少年男爵になります」と説明した。
『平民のくせに領主だなんて……』と反感を持つ者などいなかった。それどころか領民たちは、「以前の領主さまは暴力をふるうことはなかったものの、何かというとすぐに怒鳴って脅して言うことを聞かせるような横暴なお方だった。私利私欲まみれで貧しい領民から搾取するばかり。人の心がわからない蛇のように心の冷たいお方だった。だけど新しい領主さまは平民だからこそ、平民の気持ちを理解してくださるだろう」と新しい領主親子を喜んで迎え入れたのだ。
     
 屋敷に引っ越した翌日には、レオン宛てに王子さまからの招待状が届けられた。お城の中庭で開かれるお茶会への招待だ。上質でなめらかな手触りの良い紙には、流れるような美しい文字で、「私と私の婚約者エラ嬢と貴殿の三人で愉しく過ごしましょう」と書かれている。
 懐かしいエラお嬢さん! 最後に会ってからまだ一週間もたってないのに懐かしい。たくさん話したいことがある。まず、「おめでとう」って言いたい。お二人は舞踏会でどんな風に親しくなったのかとか、そんな話も聞きたいなぁ。
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