嘘つき

simonn

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潜入捜査開始

声を聞く時

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「はい?」歯切れの悪い返事が返ってきた。
さらに、相手の顔は先程とは異なり、強ばった表情を浮かべていた。
だろうな。と思ったが、ここで引き下がる訳にもいけなかった。
「お願いします。私をこのデパートで、働かしてください。」
まだ、少し強ばった表情を見せていた店員も思い切ったように言った。
「わかりました。店長に相談します。しかし、いい結果を貰えるとは限りません。
そこのところを御理解願います。」
改めて高橋恭子の顔を見つめ思った。こんな素晴らしい人まで疑わなければならない。という自分の立場を呪いたい衝動に刈られた。
「あの、明日でいいですよね?」
突然言われ何のことか戸惑ったが、直ぐに入社試験であることが分かった。
「あ、はい」
「もしも通った場合ですと、こちらから時刻、並びに必需品等をお伝えしますので
電話番号と住所を記入お願いします。」
祐三は、紙と鉛筆を取り、素早く書いた。
急いだのは、雨の音が激しくなった為であろうか。
家族を探したい為だろうか。それは定かではない。ただ、言えることは祐三の顔には、雨が降りだしそうだということだけである。
休憩室をでる前に店員が、また注意深く明日のことを言ってくる。
あなたは、先生か。と思ったがその台詞は心のなかで留めておいた。
「では、今日は、ありがとうございました。服もありがとうございます。」
祐三は、簡単な礼を言い、早足で休憩室を去った。
しかし、まだ夜は、始まったばかりだった。いや、始まってもいないのだ。
祐三は、入り口に向かい歩いていた。相変わらずまだ、沢山の人が行き交っていた。しかし、さっきよりも少し減ったように感じる。
まあそうだろう。今は手元の腕時計で9時をさしている。
人に酔うことはないが、まだ田舎者には厳しそうだ。
入り口について外を眺めると、漆黒に包まれ静粛だ。
さっきとは、別世界にとんできたような気分だ。
しかし、決して悪いものではない。田舎者には、これが日常なのだから。
そう自分に暗示をかけることで様々なことを忘れようとしたのかもしれない。
だが、そう簡単には、過去は忘れることは出来ない。
帰路で、娘との思い出、妻との思い出をどうしても思い出してしまった。
それは、まるで妻と娘にもう会えないような口ぶりだった自分に呆れた。
ただ、買い物から帰ってきて、友達の家から帰ってきて、遅くなってごめんねという言葉で、この瞬間が終わればいい、それでいいから。帰ってきてくれよ。
祐三は、顔から滲み出た塩辛い雨を落としながら歩くのだった。
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