6 / 8
お誘い ~feat.横峯くん~
しおりを挟む
「ほ、ほほほら、久しぶりに会ったから、積もる話もあるかなって、それでえっとっ、だから、あのっ……変な意味じゃないんだよ!?」
彼のキョトンとした顔。
その無垢な瞳は下心を見透かされているようで、私は猛烈な勢いでまくし立てていた。
「……でも、懇親会は今週末ってメールには書いてあるよ?」
「えっ?」
彼が指さしたディスプレイ。
ログインしたばかりのアカウントには、彼の言葉通り週末の懇親会についてのメールが届いていた。
そういえば、幹事がそんなことを先週言っていた気がする。
「あっ、えと……」
「……?」
「……しょ、小学生の頃の話とかって、他の人はわからないじゃない? だ、だから、ふたりの方が都合がいいかなーって……」
これは、どうだろうか。
さすがに既婚者相手にあざといだろうか。不埒だろうか。
でも、私だって長年思い続けてきたのだ。
チャンスが無くたって、ふたりきりで少し話すくらいのことは許されても――
「あ、じゃあそれ自分も付いていきたいっす」
その声は彼の席の対面から、唐突にやってきた。
「片山さんの昔話とか気になるし、付いていっていいすか?」
「えっと……?」
突然の呼びかけに彼が困惑した声を出した。
「あっ、すみませんいきなり。自分は横峯っていいます。ここには去年新卒で入社して、今週末の懇親会の幹事もやってるんで。これからよろしくお願いします、八口さん」
「はい、よろしくお願いします。横峯さん」
「で、付いていっていいすか? 片山さん」
横峯くんの飲み会好きは誰もが知っている周知の事実だ。
付き合いが良く、トークも軽やかで、平均年齢の高いこの職場では最も可愛がられている人材だ。
だから、横峯くんが私たちふたりの間に入って来るのはとても自然であり、逆に私が彼を排除しようとするのは不自然だ。
昔の話を聞きたいと言っているのだから、聞かせてあげるのが普通だ。
だけど――
「あーっと、んー、どうしようかなー。横峯くんは小学校違うからなー」
ここで堂々と断ってしまったらそれこそ宣言するのと同じことだ。
私は既婚者の彼を狙っているので邪魔しないでくださいと、社内で宣言するのと何が違う。
ここでのベストは、横峯くんが自ら身を引いてくれること。
そして横峯くんは空気の読める人間だ。
お願いだから。
別の日にまた奢ってあげるから。
だから、今日だけは彼とふたりきりに――
「えー、いいじゃないですかー。自分も混ぜてくださいよー」
どうして……どうして今日に限って空気を読んでくれないの……?
どうすれば横峯くんをさりげなく説得できるか。
もしくは諦めて横峯くんも連れていくか。
頭を悩ませていると、彼が遠慮がちに口を開いた。
「えっと、ふたりには申し訳ないんだけど、実は僕まだ引っ越しの片づけが終わっていなくて」
「え?」
「昨日引っ越したばかりなんだ。だからお誘いは嬉しいんだけど、今日はちょっと都合が悪くて」
「あ……ああっ、そうなんだ! それは仕方ないね!」
断られた理由が引っ越しの片づけであったことに私の心は心底安堵していた。
「引っ越しの段ボールって片付けるのめんどくさいすよねー。それじゃあ、今日は自分と片山さんだけで行きます?」
「いやいや、なんでよ。私と横峯くんで食事行く理由ないでしょ」
「ちぇー、残念。お酒飲みたい気分だったんすけどねー」
横峯くんと食事に行く理由がないように、行かない理由もない。
だから、本当は横峯くんが行きたいのなら行ってもいいはずだった。
むしろ、可愛い後輩からの誘いを無下にする方が先輩としては問題がある気がする。
「……」
ただ、彼の目の前で男性とふたりきりになる約束をすることが憚られた。
私は彼と小学校が同じなだけの、6年間クラスが同じだっただけの、ただの同僚のくせに。
「はぁ……」
誰にも聞こえないように、小さく溜息を吐く。
大人になった私は、彼の前で女をアピールしたかっただけなのだ。
その事実が、ずっと片思いを抱いてきた小学生の私に対して申し訳なく思えた。
彼のキョトンとした顔。
その無垢な瞳は下心を見透かされているようで、私は猛烈な勢いでまくし立てていた。
「……でも、懇親会は今週末ってメールには書いてあるよ?」
「えっ?」
彼が指さしたディスプレイ。
ログインしたばかりのアカウントには、彼の言葉通り週末の懇親会についてのメールが届いていた。
そういえば、幹事がそんなことを先週言っていた気がする。
「あっ、えと……」
「……?」
「……しょ、小学生の頃の話とかって、他の人はわからないじゃない? だ、だから、ふたりの方が都合がいいかなーって……」
これは、どうだろうか。
さすがに既婚者相手にあざといだろうか。不埒だろうか。
でも、私だって長年思い続けてきたのだ。
チャンスが無くたって、ふたりきりで少し話すくらいのことは許されても――
「あ、じゃあそれ自分も付いていきたいっす」
その声は彼の席の対面から、唐突にやってきた。
「片山さんの昔話とか気になるし、付いていっていいすか?」
「えっと……?」
突然の呼びかけに彼が困惑した声を出した。
「あっ、すみませんいきなり。自分は横峯っていいます。ここには去年新卒で入社して、今週末の懇親会の幹事もやってるんで。これからよろしくお願いします、八口さん」
「はい、よろしくお願いします。横峯さん」
「で、付いていっていいすか? 片山さん」
横峯くんの飲み会好きは誰もが知っている周知の事実だ。
付き合いが良く、トークも軽やかで、平均年齢の高いこの職場では最も可愛がられている人材だ。
だから、横峯くんが私たちふたりの間に入って来るのはとても自然であり、逆に私が彼を排除しようとするのは不自然だ。
昔の話を聞きたいと言っているのだから、聞かせてあげるのが普通だ。
だけど――
「あーっと、んー、どうしようかなー。横峯くんは小学校違うからなー」
ここで堂々と断ってしまったらそれこそ宣言するのと同じことだ。
私は既婚者の彼を狙っているので邪魔しないでくださいと、社内で宣言するのと何が違う。
ここでのベストは、横峯くんが自ら身を引いてくれること。
そして横峯くんは空気の読める人間だ。
お願いだから。
別の日にまた奢ってあげるから。
だから、今日だけは彼とふたりきりに――
「えー、いいじゃないですかー。自分も混ぜてくださいよー」
どうして……どうして今日に限って空気を読んでくれないの……?
どうすれば横峯くんをさりげなく説得できるか。
もしくは諦めて横峯くんも連れていくか。
頭を悩ませていると、彼が遠慮がちに口を開いた。
「えっと、ふたりには申し訳ないんだけど、実は僕まだ引っ越しの片づけが終わっていなくて」
「え?」
「昨日引っ越したばかりなんだ。だからお誘いは嬉しいんだけど、今日はちょっと都合が悪くて」
「あ……ああっ、そうなんだ! それは仕方ないね!」
断られた理由が引っ越しの片づけであったことに私の心は心底安堵していた。
「引っ越しの段ボールって片付けるのめんどくさいすよねー。それじゃあ、今日は自分と片山さんだけで行きます?」
「いやいや、なんでよ。私と横峯くんで食事行く理由ないでしょ」
「ちぇー、残念。お酒飲みたい気分だったんすけどねー」
横峯くんと食事に行く理由がないように、行かない理由もない。
だから、本当は横峯くんが行きたいのなら行ってもいいはずだった。
むしろ、可愛い後輩からの誘いを無下にする方が先輩としては問題がある気がする。
「……」
ただ、彼の目の前で男性とふたりきりになる約束をすることが憚られた。
私は彼と小学校が同じなだけの、6年間クラスが同じだっただけの、ただの同僚のくせに。
「はぁ……」
誰にも聞こえないように、小さく溜息を吐く。
大人になった私は、彼の前で女をアピールしたかっただけなのだ。
その事実が、ずっと片思いを抱いてきた小学生の私に対して申し訳なく思えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる