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追及偏
話を聞きました
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「あの……昨日の私が店を出る時の様子とかって、教えていただけないでしょうか?」
「そうよね、やっぱり憶えていないわよね。ミドリくん歩くのもやっとな感じだったし、受け答えもふわふわしていたもの」
「うっ……やはり、ご迷惑をおかけしてしまっていたんですね」
「いいのよ気にしなくて。お酒飲ませてるのはこっちなんだし、そんなになるくらいまで楽しんでもらえてたってことでもあるんだから。暴れられたりしない限り、酔ったお客様のお世話も仕事の内よ」
ヨシミの話を聞く限り、意識が朦朧としていたものの暴走したりはしていなかったようだ。
もしも介抱させていた上に暴れたりしていたら目も当てられない。
自身が酒乱ではなかったことを素直に喜ばしく思う。
「昨日の私はツキさんとずっと飲んでいた……んですよね?」
「ええ。ふたりで控室に行ってからは、帰る時までこっちには戻ってこなかったわ。ツキはおつまみを取りに来てたけどね」
「それで……私は一人で帰ったんでしょうか?」
「いいえ、さすがにあの状態で一人で帰らせるわけにもいかなかったから。タクシーを呼んで、テツさんが家まで送るって言ってくれたのよ。慣れてるからって笑ってたけど、それくらいミドリくんを連れ回してるってことよねえ……」
「ええ、まあ……私のことを気にかけてくださっているみたいで、よく飲みに誘ってもらっています」
「気を遣って言葉を選ばなくてもいいのよ? 別にテツさんにチクったりとかしないから」
「いえ、そんなことは……」
「ミドリくんが優しいから甘えてるのね、あの人。ほら、おじさんって若い子と飲むのが好きだから。気分だけでも若くありたいのかしらねえ……」
知り合いだけあって、ヨシミは飯田のことをよく知っているようだ。
もしかしたら、ヨシミも飯田の酒に付き合わされてきた経験があったりするのかもしれない。
しかし、ヨシミの言葉を信じると昨日は飯田に面倒を見てもらいながらタクシーで帰ったことになる。
それでは今朝ホテルで目が覚めたことと、隣でツキが寝ていたことの説明がつかない。
「それじゃあ、私は飯田さんに面倒を見てもらいながら帰ったのでしょうか?」
「そのつもりだったんだけど……ミドリくんが一人で帰れるって言い張ってて……。テツさんに迷惑をかけるわけにはいかないって」
「な、なるほど……」
場面を想像しただけで、いたたまれない気持ちがじゃぶじゃぶと湧いてくる。
記憶が無いのが余計に性質が悪い。
「それでもテツさんが無理やりタクシーに乗せようとしたんだけど……あの子が……」
「ツキさんですか?」
「あら、憶えてたの?」
「いっ、いえ……なんとなくそう思っただけです……」
根拠は無いけれど、ツキとラブホテルに宿泊したことは知られない方がいいような気がした。
もう知っている可能性もあるけれど、自分から口にすることもないだろう。
「ふーん……?」
ヨシミは追及はしてこないが、探るような視線を向けてきている。
全てを知られているわけでもなさそうだが、何も知らないわけでもなさそうだ。
「そ、それで? 私はツキさんと帰ったのですか?」
「ええ、ここまで酔わせてしまったのは私の責任だからって言ってね。夜風に当たってる内に酔いも醒めるだろうから途中まで送るって、ふたりで歩いて行っちゃったわ。あなたたち、昨日だけで随分と仲良くなったのね?」
「……恐縮です」
やはり、ツキに帰宅の面倒を見させてしまったようだ。
ツキは責任感から随伴を買って出てくれたようだけれども、
大の男が泥酔しているのだから帰宅させるだけでも楽であるはずがない。
結局はラブホテルで休憩することになってしまったのだろう。
大方は想像通りだった。
後の細かい事は、当事者であるツキに訊かなければなるまい。
「……ところで、今日はツキさんはいますか?」
「いないけど……もう少ししたら来ると思うわ。うち、割と自由なシフトなのよ」
「なるほど……」
シフトが定まっていない接客業なんて大丈夫なのかと思ってしまうが、
客が少ないから問題ないのかもしれない。
「……ミドリくん、昨日ツキと何かあった?」
その時、空気が変わったのを感じた。
今まではこちらが知るターンだった。
ならば次はヨシミが知るターンだ。
ツキといっしょに飲んで、いっしょに帰った次の日に、ツキに会いに来た男。
そんな男と、店の従業員であるツキとの関係を追及される番が来た。
「そうよね、やっぱり憶えていないわよね。ミドリくん歩くのもやっとな感じだったし、受け答えもふわふわしていたもの」
「うっ……やはり、ご迷惑をおかけしてしまっていたんですね」
「いいのよ気にしなくて。お酒飲ませてるのはこっちなんだし、そんなになるくらいまで楽しんでもらえてたってことでもあるんだから。暴れられたりしない限り、酔ったお客様のお世話も仕事の内よ」
ヨシミの話を聞く限り、意識が朦朧としていたものの暴走したりはしていなかったようだ。
もしも介抱させていた上に暴れたりしていたら目も当てられない。
自身が酒乱ではなかったことを素直に喜ばしく思う。
「昨日の私はツキさんとずっと飲んでいた……んですよね?」
「ええ。ふたりで控室に行ってからは、帰る時までこっちには戻ってこなかったわ。ツキはおつまみを取りに来てたけどね」
「それで……私は一人で帰ったんでしょうか?」
「いいえ、さすがにあの状態で一人で帰らせるわけにもいかなかったから。タクシーを呼んで、テツさんが家まで送るって言ってくれたのよ。慣れてるからって笑ってたけど、それくらいミドリくんを連れ回してるってことよねえ……」
「ええ、まあ……私のことを気にかけてくださっているみたいで、よく飲みに誘ってもらっています」
「気を遣って言葉を選ばなくてもいいのよ? 別にテツさんにチクったりとかしないから」
「いえ、そんなことは……」
「ミドリくんが優しいから甘えてるのね、あの人。ほら、おじさんって若い子と飲むのが好きだから。気分だけでも若くありたいのかしらねえ……」
知り合いだけあって、ヨシミは飯田のことをよく知っているようだ。
もしかしたら、ヨシミも飯田の酒に付き合わされてきた経験があったりするのかもしれない。
しかし、ヨシミの言葉を信じると昨日は飯田に面倒を見てもらいながらタクシーで帰ったことになる。
それでは今朝ホテルで目が覚めたことと、隣でツキが寝ていたことの説明がつかない。
「それじゃあ、私は飯田さんに面倒を見てもらいながら帰ったのでしょうか?」
「そのつもりだったんだけど……ミドリくんが一人で帰れるって言い張ってて……。テツさんに迷惑をかけるわけにはいかないって」
「な、なるほど……」
場面を想像しただけで、いたたまれない気持ちがじゃぶじゃぶと湧いてくる。
記憶が無いのが余計に性質が悪い。
「それでもテツさんが無理やりタクシーに乗せようとしたんだけど……あの子が……」
「ツキさんですか?」
「あら、憶えてたの?」
「いっ、いえ……なんとなくそう思っただけです……」
根拠は無いけれど、ツキとラブホテルに宿泊したことは知られない方がいいような気がした。
もう知っている可能性もあるけれど、自分から口にすることもないだろう。
「ふーん……?」
ヨシミは追及はしてこないが、探るような視線を向けてきている。
全てを知られているわけでもなさそうだが、何も知らないわけでもなさそうだ。
「そ、それで? 私はツキさんと帰ったのですか?」
「ええ、ここまで酔わせてしまったのは私の責任だからって言ってね。夜風に当たってる内に酔いも醒めるだろうから途中まで送るって、ふたりで歩いて行っちゃったわ。あなたたち、昨日だけで随分と仲良くなったのね?」
「……恐縮です」
やはり、ツキに帰宅の面倒を見させてしまったようだ。
ツキは責任感から随伴を買って出てくれたようだけれども、
大の男が泥酔しているのだから帰宅させるだけでも楽であるはずがない。
結局はラブホテルで休憩することになってしまったのだろう。
大方は想像通りだった。
後の細かい事は、当事者であるツキに訊かなければなるまい。
「……ところで、今日はツキさんはいますか?」
「いないけど……もう少ししたら来ると思うわ。うち、割と自由なシフトなのよ」
「なるほど……」
シフトが定まっていない接客業なんて大丈夫なのかと思ってしまうが、
客が少ないから問題ないのかもしれない。
「……ミドリくん、昨日ツキと何かあった?」
その時、空気が変わったのを感じた。
今まではこちらが知るターンだった。
ならば次はヨシミが知るターンだ。
ツキといっしょに飲んで、いっしょに帰った次の日に、ツキに会いに来た男。
そんな男と、店の従業員であるツキとの関係を追及される番が来た。
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