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親睦偏
杞憂でした
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紆余曲折あって、結局は後ろからツキの両脇に手を差し込むことになった。
このやり方だと持ち上げることはできないだろうが、本題はそこじゃない。
持ち上げようとするだけでも、ある程度の体重はわかるはずだ。
「それじゃあ、手を入れるぞ」
「はい……優しくしてくださいね……♡」
ただ脇の下に手を入れるだけの行為に優しくも何もないのだが。
一々突っ込んでいたらいつまで経っても話が進まない。
ツキの言動は無視して、その脇に手を差し込んだ。
「あんっ♡ ……やだ……ついに、アキラさんに胸を触られちゃいました♡」
「……」
「……アキラさん? もしかして本当に興奮しちゃいました?」
「するわけないだろ……」
ツキの両脇に添えられた翠の手。
分厚いパーカー越しでも、指先の感触には硬い物が触れていた。
でこぼことした凹凸。
指先がすっぽりと収まりそうな窪み。
厚い服の生地でも隠しきれていない、浮いたあばら骨だ。
確かにそうだった。
記憶の中のツキの肉体は、あばらが浮いていた。
よく考えれば、ツキは夜の店で働いているのだ。
夜の店というのは、金銭的に困窮している人間が縋る場所というイメージがある。
あの店はツキからすれば天職なのかもしれない。
もしかしたらツキは望んでオカマバーエンジェルで働いているのかもしれない。
しかし、ツキの懐事情が良くない可能性だってある。
子供の頃のツキは同性に惹かれる自身の性を受け入れられていただろうか。
周囲の環境に馴染めていなかったのではないか。
親御さんとの折り合いはついていたのだろうか。
もしもツキが社会に上手く馴染むことが出来ず、
その末に夜の店に流れ着いて、
今も金銭的に困窮していて、
その結末が今のこの身体なのだとしたら。
『でも、そんな人だって心の内では色々悩んだりしてるんですよ。
むしろ、そういう人の方が、心の中はぐちゃぐちゃだったりするかもしれません』
なんか、泣けてきた。
「……」
「アキラさん? どうかされたんですか?」
「いや……何でもない……。もう十分わかったから……」
「え? ちょっと、抱っこしてくれないんですか?」
「抱っこか……。そうだよな、それくらいはしてやるべきなのかもしれない……」
「は? えっ? なんか、もしかしてですけど、私哀れまれてます? 同情の抱っことか一ミリも嬉しくないんですけど?」
「遠慮しなくていい。今日は奢るから、何でも好きな物を食べていいぞ。寿司なんてどうだ?」
「もう今日の食事の話ですか? まあ、アキラさんがそう言ってくださるならご馳走になりますけど……。でも、それだったら私はお寿司は遠慮したいですね」
「生魚は苦手だったか?」
「いえ。単純に、白米はダイエット的に遠慮したいので」
「…………だいえっと?」
「はい。というか、今時デートでお寿司を提案するなんてデリカシーなさすぎですよアキラさん。私は平気ですけど、無理して食事制限してる子にそんなこと言ったら泣かれちゃいますよ?」
「食事制限……」
「ご存知ないですか? 最近は糖質制限っていうのが注目されているんですけど」
「……」
「糖質制限は主に白米とかの主食を制限するんです。でも逆に言えば、白米以外なら食べても構わないので、私は奢ってもらえるならお寿司よりも鉄板焼きでステーキとか食べたいですねー♡ お店のステーキなんて最後に食べたのは一週間前だし、久しぶりに食べたいなって思ってたところなんです♡」
「……」
「鉄板焼きは食べるなら夜がいいですよね。今の内に予約しておきますか? せっかくの初デートなんですし、夜景の綺麗なお店を――」
「ファミレスで十分だろ」
「え? ……それは逆に不十分すぎません?」
このやり方だと持ち上げることはできないだろうが、本題はそこじゃない。
持ち上げようとするだけでも、ある程度の体重はわかるはずだ。
「それじゃあ、手を入れるぞ」
「はい……優しくしてくださいね……♡」
ただ脇の下に手を入れるだけの行為に優しくも何もないのだが。
一々突っ込んでいたらいつまで経っても話が進まない。
ツキの言動は無視して、その脇に手を差し込んだ。
「あんっ♡ ……やだ……ついに、アキラさんに胸を触られちゃいました♡」
「……」
「……アキラさん? もしかして本当に興奮しちゃいました?」
「するわけないだろ……」
ツキの両脇に添えられた翠の手。
分厚いパーカー越しでも、指先の感触には硬い物が触れていた。
でこぼことした凹凸。
指先がすっぽりと収まりそうな窪み。
厚い服の生地でも隠しきれていない、浮いたあばら骨だ。
確かにそうだった。
記憶の中のツキの肉体は、あばらが浮いていた。
よく考えれば、ツキは夜の店で働いているのだ。
夜の店というのは、金銭的に困窮している人間が縋る場所というイメージがある。
あの店はツキからすれば天職なのかもしれない。
もしかしたらツキは望んでオカマバーエンジェルで働いているのかもしれない。
しかし、ツキの懐事情が良くない可能性だってある。
子供の頃のツキは同性に惹かれる自身の性を受け入れられていただろうか。
周囲の環境に馴染めていなかったのではないか。
親御さんとの折り合いはついていたのだろうか。
もしもツキが社会に上手く馴染むことが出来ず、
その末に夜の店に流れ着いて、
今も金銭的に困窮していて、
その結末が今のこの身体なのだとしたら。
『でも、そんな人だって心の内では色々悩んだりしてるんですよ。
むしろ、そういう人の方が、心の中はぐちゃぐちゃだったりするかもしれません』
なんか、泣けてきた。
「……」
「アキラさん? どうかされたんですか?」
「いや……何でもない……。もう十分わかったから……」
「え? ちょっと、抱っこしてくれないんですか?」
「抱っこか……。そうだよな、それくらいはしてやるべきなのかもしれない……」
「は? えっ? なんか、もしかしてですけど、私哀れまれてます? 同情の抱っことか一ミリも嬉しくないんですけど?」
「遠慮しなくていい。今日は奢るから、何でも好きな物を食べていいぞ。寿司なんてどうだ?」
「もう今日の食事の話ですか? まあ、アキラさんがそう言ってくださるならご馳走になりますけど……。でも、それだったら私はお寿司は遠慮したいですね」
「生魚は苦手だったか?」
「いえ。単純に、白米はダイエット的に遠慮したいので」
「…………だいえっと?」
「はい。というか、今時デートでお寿司を提案するなんてデリカシーなさすぎですよアキラさん。私は平気ですけど、無理して食事制限してる子にそんなこと言ったら泣かれちゃいますよ?」
「食事制限……」
「ご存知ないですか? 最近は糖質制限っていうのが注目されているんですけど」
「……」
「糖質制限は主に白米とかの主食を制限するんです。でも逆に言えば、白米以外なら食べても構わないので、私は奢ってもらえるならお寿司よりも鉄板焼きでステーキとか食べたいですねー♡ お店のステーキなんて最後に食べたのは一週間前だし、久しぶりに食べたいなって思ってたところなんです♡」
「……」
「鉄板焼きは食べるなら夜がいいですよね。今の内に予約しておきますか? せっかくの初デートなんですし、夜景の綺麗なお店を――」
「ファミレスで十分だろ」
「え? ……それは逆に不十分すぎません?」
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