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親睦偏
映画を観ました
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そして、映画が始まった。
映画と言えばデートにおける鉄板というイメージがあるが、実際は賛否両論らしい。
まだぎこちない仲であれば喋らなくてもいい時間を稼げて、上映後には感想会という話題を稼げるため適しているという論もあるし。
逆に喋れないので相手との仲を深めることができなくて、互いの趣味を知らなければどちらかにとってはつまらない時間になりやすいという論もある。
では、翠とツキの間ではどうなのかと言うと――
「っ……ひっ……!」
多分、選んだジャンルが悪かった。
明らかに平静ではない荒い吐息と押し込められた悲鳴。
一言の断りも入れずに勝手に握り締められている袖。
もはやスクリーンを見ることもかなわず腕で両目を覆っている。
どうやら、ツキはホラーを苦手としているらしい。
始まる前まではそんな雰囲気は感じられなかったのだけれども、この様子で得意なんてことはないだろう。
最初は怖がってる演技で可愛いアピールでもしているのかと思っていたけれど、おそらくはガチだ。
「ぃっ……ぅぁっ……!」
今スクリーンに映し出されているのは廃屋の探索シーンだ。
何かが起こりそうな演出は確かに恐怖を煽られはするが、それでもまだ何も起こってはいないのだ。
この後に控えているであろう恐怖シーンに入ってしまったら、ツキはどうなってしまうのか。
ホラー映画ではあるものの、周囲にも人が居る状況で上映中に叫ばれるとちょっと困ってしまうのだけれども。
もはや画面も殆ど見れていないだろうにここまで怯えているのだ。
叫ぶことは避けられないにしても、せめて音量が控えめであるように祈るしかないかもしれない。
叫ぶような極限状態でそんな気遣いができるかは疑問だが。
「っ、っ……ぁ、ぁき……ぁきらさぁん……っ」
「……?」
今、名前を呼ばれただろうか。
上映中ということもあって、よく聞き取れなかった。
念の為ツキの顔を確認してみると、涙を溜めた必死の形相でこちらを見ていた。
「もっ、むり……むりぃ……っ」
「?」
口がパクパクと動いているのはわかるが、やはり聞き取れない。
声は聴こえるが、言葉として解釈できない。
上映中だから大声を出してもらうわけにもいかないので、
仕方なく耳を寄せてみると――
「っ!?」
――突然耳にツキの唇が触れて――
「でっ、出ます……! もっ、もう限界だから……そっ、そとに……いっ、いっしょに……!」
絞り出すような声で、そう囁かれた。
「はっ、はやく……はやくぅっ……ひぃっ!」
「わ、わかった……! わかったから!」
腕に引っ付いてくるをツキを引きずるようにして、
周囲の観客たちに必死に謝りながら、
なんとかふたりで外で脱出したのだった。
映画と言えばデートにおける鉄板というイメージがあるが、実際は賛否両論らしい。
まだぎこちない仲であれば喋らなくてもいい時間を稼げて、上映後には感想会という話題を稼げるため適しているという論もあるし。
逆に喋れないので相手との仲を深めることができなくて、互いの趣味を知らなければどちらかにとってはつまらない時間になりやすいという論もある。
では、翠とツキの間ではどうなのかと言うと――
「っ……ひっ……!」
多分、選んだジャンルが悪かった。
明らかに平静ではない荒い吐息と押し込められた悲鳴。
一言の断りも入れずに勝手に握り締められている袖。
もはやスクリーンを見ることもかなわず腕で両目を覆っている。
どうやら、ツキはホラーを苦手としているらしい。
始まる前まではそんな雰囲気は感じられなかったのだけれども、この様子で得意なんてことはないだろう。
最初は怖がってる演技で可愛いアピールでもしているのかと思っていたけれど、おそらくはガチだ。
「ぃっ……ぅぁっ……!」
今スクリーンに映し出されているのは廃屋の探索シーンだ。
何かが起こりそうな演出は確かに恐怖を煽られはするが、それでもまだ何も起こってはいないのだ。
この後に控えているであろう恐怖シーンに入ってしまったら、ツキはどうなってしまうのか。
ホラー映画ではあるものの、周囲にも人が居る状況で上映中に叫ばれるとちょっと困ってしまうのだけれども。
もはや画面も殆ど見れていないだろうにここまで怯えているのだ。
叫ぶことは避けられないにしても、せめて音量が控えめであるように祈るしかないかもしれない。
叫ぶような極限状態でそんな気遣いができるかは疑問だが。
「っ、っ……ぁ、ぁき……ぁきらさぁん……っ」
「……?」
今、名前を呼ばれただろうか。
上映中ということもあって、よく聞き取れなかった。
念の為ツキの顔を確認してみると、涙を溜めた必死の形相でこちらを見ていた。
「もっ、むり……むりぃ……っ」
「?」
口がパクパクと動いているのはわかるが、やはり聞き取れない。
声は聴こえるが、言葉として解釈できない。
上映中だから大声を出してもらうわけにもいかないので、
仕方なく耳を寄せてみると――
「っ!?」
――突然耳にツキの唇が触れて――
「でっ、出ます……! もっ、もう限界だから……そっ、そとに……いっ、いっしょに……!」
絞り出すような声で、そう囁かれた。
「はっ、はやく……はやくぅっ……ひぃっ!」
「わ、わかった……! わかったから!」
腕に引っ付いてくるをツキを引きずるようにして、
周囲の観客たちに必死に謝りながら、
なんとかふたりで外で脱出したのだった。
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