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親睦偏

性奴隷になりたいようです

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「? 何って、性奴隷ですけど……あれ? 前にも言いましたよね、私?」

 確かに、ツキの口からその単語を聞くのは初めてではない。

 以前、ホテルでツキに拘束された時。
 ツキと勝負をした際に、ツキが自ら設定した罰が性奴隷だったはずだ。

 あの時は、ただ勝負に勝つための卑猥な語りの一部としか考えていなかったけれど。
 まさか、ツキは本当に負けたら性奴隷になるつもりだったのだろうか。

「ツキは、そんなものになりたいのか?」
「なりたいと言えばなりたいですし、なりたくないと言えばなりたくないですね……」
「なんだよ、それ……。さっきからそんなんばっかりだな」

 ツキの語る性奴隷が、翠の認識している通りの性的に消費されるだけの奴隷であるとして。
 そんなものになりたいのだとしたら、正直頭がイカれていると言わざるを得ない。

 デリヘルも性を商いとしているが、それでも立派な職業の一つだ。
 会社、従業員、客はそれぞれが対等である。

 しかし奴隷は違う。
 奴隷は職業ではなく、得てして人権を無視される存在だ。

 現代日本では奴隷という制度は存在してはならず、
 奴隷を求めるならまだしも、なりたがる人間なんて信じられないのだが。

 ツキの様子を見ていると、冗談で言っているわけでもないようだった。

「なんて言うんですかねー……破滅願望? 多分、私はそんな感じの物を胸の奥に秘めてるんですよ」
「本気で言ってるのか?」

 破滅願望が文字通り、自身の破滅を望んでいる事なのだとしたら。
 それはツキのイメージとは真逆と言ってもいい願望だ。

 まだ若く、見目も整っていて、金にも不自由していない。
 現在の職業に満足している。
 歪ながらも恋をしてキラキラしている。
 多くの人に求められ承認欲求を満たされる日々。

 とてもではないが、鬱やら自殺やらと近い存在とは思えない。

「本気ですよ。私の全てを奪って、何もかもをぐちゃぐちゃに壊して、物として扱って欲しい……。気まぐれに嬲られて、気まぐれに愛でられて、気まぐれに放置されて……。時にはオナホのように性を吐き捨てられて、時にはペットのように思いっきり可愛がってもらえて、時には調教としてヒドいことされて……。思考をご主人様に独占されて……ご主人様意外の事を考えなくてよくて……全てを支配されている……。そんな風に破滅したいっていうのが、私の本望なんです……♡」

 表情を恍惚とさせながら、ツキはそう語った。

 ツキの語る言葉は、人生に疲れた人間が言いそうな言葉だ。

 仕事に疲れ。
 人間関係に疲れ。
 社会に疲れ。
 終わりを望む人たち。

 ツキもそうなのだろうか。
 いつも冗談めかして、明るく振る舞っているけれど。

 その心の内では、ツキは何を思っているのだろうか。
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