君が女の子

papporopueeee

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1日目

当然のことのように君は答えた

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「むっ、睦美? 大丈夫なの?」
「ハル君……? うん、ボクは大丈夫。何か心配させちゃったのかな?」
「えっ? だっ、だって……睦美、動画を見せられてる時に苦しんでる感じだったから」
「そうだったかな……? ごめん、よく憶えてなくて……なんだか眠ってたような、夢を見ていたような……そんな感覚かな」
「おい北条、腹は大丈夫かよ? 悪いな、蹴っちまって」
「お腹……? そういえば、何か痛いような……? ボク、久野絵さんに蹴られたのかな?」
「は? 何言ってんだお前……いくらヘルメット被ってたって、蹴られた瞬間の痛みは憶えてんだろ?」
「んー……記憶には無い……かな?」

 睦美は明らかに様子がおかしかった。あれほどに苦しんで叫んでいたのに今ではすっかり落ち着いているし、痛みに呻く様子も見せていたのに蹴られたことすら認識していないなんて正常ではない。

 榎戸の視聴を中途半端に止めるのは良くないという説明から、睦美は特殊な動画を見せられたのだろう。しかしその内容を睦美に問い質してもわからないと答えるばかりで、榎戸も説明する気は無さそうだった。残りの手がかりであるえるも帰って来る様子は無く、ディスプレイも真っ黒な画面のままだった。

「おい、さっきのはどういうつもりだ?」

 皆が睦美を囲んで心配する中、久野絵は榎戸に詰め寄っていた。椅子に座る榎戸の顔を見下ろして、至近距離で睨みつけている。

「ほんま、織田はきゃんきゃんうるさくてかなわんなぁ……何べんも言うとるやろ。えるの作った動画見せとるだけやて」
「そっちじゃねえ。オレが訊いてるのは、朝比奈に対する態度だ。どうして朝比奈に決めさせた?」
「どうしてって、それも説明したやないか。仲の良い朝比奈が決めたことなら、北条も納得するやろって。それに、そもそもは朝比奈が言い出したことやしなぁ……先生としては改めて確認しただけやん。何か問題あるか?」
「あるに決まってるだろうが……! もしも本当に北条に何かあったら、朝比奈は一生後悔しただろうよ。てめえが責任を押し付けたせいでな! 大人のくせに、てめえは子供の朝比奈に責任を擦り付けたんだっ。むかつくんだよ……てめえみてえな大人が、オレは一番嫌いなんだ!」

 久野絵は叫ぶと同時に、榎戸の顔の真横を掠めるようにして壁を蹴った。榎戸の真っ黒な長髪が揺れたものの、怪我はしていないようだ。
 久野絵は小陽の為に怒っていた。小陽の心情を慮って、心の底から榎戸に激怒していた。その気持ちは小陽にとっては嬉しかったが、榎戸には伝わっていないようだった。

「ほんなら、織田が代わりに責任被ってやったら良かったやん。何を自分は気遣ってました、見たいな顔をしとるん。自分なんかしたんか? 真っ先に手を差し伸べたんは如月やろ。織田はその背中にくっついて、後出しでぴぃぴぃ鳴いてただけやん。結局、お前はそういう奴なんやなぁ……人間性が透けて見えると言うか……安全圏から吠えてるだけなんは、楽でええなあ?」
「ぐっ……てめえは、どの立場から物言ってやがる……! そもそも、こんなふざけた催しもてめえのせいなんじゃねえのか? 大人のくせして、AIなんかの言いなりになってんじゃねえよ!」
「言い返せないからって話逸らすのめっちゃダサいで。それに、さっきから大人大人って……織田はいつまでも子供気分やねんなぁ。赤ん坊みたいに甘やかして欲しいんか?」
「違うっ……オレはっ……くそっ!」

 それだけ吐き捨てると、久野絵は教室の出口へと走り出した。その背に、睦美が声をかける。

「あっ、あの、久野絵さん……ごめんなさい、その……ボクのせいで……」
「あぁ? ……なんで北条が謝るんだよ。お前は何も悪くねえだろうが……」
「ううん、そんなこと無いと思う、かな……。だって、ボクが最初から素直になってたら、こんなにこじれることは無かったはずかなって……」

 その言い回しに、小陽は微かな違和感を覚えた。その微かな違和感は、すぐに全員を呑み込むほどにまで肥大し始める。

「北条はただの被害者だろうが……くそAIとくそ教師のな。その恰好が何よりの証拠だ……さっさと着替えちまえよ。いつまでもくそAIの言うことなんて聞いてなくてもいいだろう」
「え? 着替えるって、なんで……?」
「何でって……北条お前、あんなにセーラー服を恥ずかしがって……?」

 睦美は少しも恥ずかしがってなんていなかった。さっきまでは顔を真っ赤にして、縮こまろうとするくらいだったのに。今は、むしろ堂々としてすらいた。

 膨らみ始めた違和感は思考を浸食して、小陽はただ睦美の名前を呼んでいた。

「ハル君も、どうかしたのかな? ボクがセーラー服を着ているのって、そんなにおかしいことなのかな……?」
「でっ、でもっ、だってっ……睦美は、男の子でしょ?」

 林檎は赤くて、烏は黒い。そんな答えのわかりきっている、当たり前の質問を睦美に投げかけた――そのはずだった。

 睦美は小首を傾げると、不思議そうに小陽を見つめながら、ただ淡々と唇を動かした。

「ハル君、ちょっと変かな……ボクは、女の子だよ?」
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