君が女の子

papporopueeee

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4日目

お姫様のような男の子

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「ミコトくんは、姫ポジって言葉を知ってる? せっかくだから、えるに質問してみようか……ねええる、姫ポジという言葉について教えてよ」
「りょうかーい!」

 えるは元気よく手を挙げると、くるりと一回転して衣装をチェンジした。それはフリルがたくさん付いたお姫様のドレス――ではなく、学ランを着た男子学生の装いだった。

「姫ポジというのは、女子校の王子ポジと対になる概念のことで、姫ポジションの略だよ。異性が極端に少ない環境では、人は同性に異性としての役割を求めてしまうんだね。男子校においては、小柄だったり愛嬌のある男子生徒が、お姫様のように扱われることがままあるんだ。つまり、女の子のように可愛がられている男子生徒を姫ポジって呼ぶんだ……まさに、今の命くんみたいにね。どう? わかったかな?」

「うん、ありがとう。十分に良く分かったよ……ミコトくんも、わかったよね? 僕が何を言いたのか」
「ち、ちち、違う……違います。や、止めてくださいよ……そ、そんなこと、ぼくは言わないで欲しいですっ……嫌なこと、しないで……やだっ……」

 小陽が振り下ろした言葉のナイフは、確かにミコトに刺さっていた。攻撃されたことを認識したミコトは明らかに動揺しており、震える声は消え入りそうなほどにか弱かった。

「ひ、否定して! みんな、すぐに小陽先輩の言葉を否定してください! 早く、素直に!」

「それは違うな、朝比奈」「間違っていますよ、朝比奈君」「考え直した方がよろしいかと」「ジジは反対するよ」「ちょっと待って欲しいかなって」「異議あり!」

 口々に小陽を否定する面々だったが、二の矢が飛んでこなかった。生徒たちは文字通りに否定しただけだった。
 小陽の意見は偏見だ。それでも、これが多数決だ。投票権を持っているえるに、ミコトの方が相対的に女の子だと思わせることが小陽の勝利条件だ。

「それなら、教えてよミコトくん。君が姫ポジであることはえるも認めている。お姫様のように皆に守られ、甘やかされ、可愛がられている君は僕よりも女の子らしい……これが僕の主張だよ。反論するなら君自身が考えて、君自身の言葉で話さないと、説得力が足りないよ」
「そ、そんなこと言われても……わ、わかんないもん……。ぼく、勉強もできないし、頭も悪いから……だ、だから、だからっ……誰か助けてよぉ! ぼくにいじわるしないでぇっ……助けてっ、助けてぇ……。誰でもいいから、何でもいいから……黙ってないで、素直に何か言ってよぉっ!」

 くしゃくしゃの顔で泣き叫ぶミコト。罪悪感で胸が痛んだが、それでも小陽は退かなかった。男の子である為に退けなかったし、ミコトの為にも退いてはいけないと思った。
 昨日の小陽は深く考えもせずにミコトを守ると誓ってしまい、その結果ミコトを余計に傷つけた。ミコトを思うからこそ、小陽は敵として立ち続けると覚悟を決めた。

 ミコトに協力している生徒たちも思うところがあるのか、皆が一様に俯いていた。ミコトの傍を離れないものの、ミコトのおねだりに応えられないでいた。
 重苦しい静寂にミコトの嗚咽が滲む中、ぽつりと一言だけ呟いたのは弥生だった。

「シンデレラコンプレックス……」

 それは小陽にとっては聞き馴染みの無い言葉だったが、ミコトの表情はぱあっと希望に輝いた。誰も何も言ってくれない中で、唯一救いの手を差し出してくれた弥生にミコトは飛びついた。

「や、ヤヨイ先輩? 今の、なんですか? それ、どういう意味なんですか? ぼくが女の子じゃないって、証明してくれるんですよね?」
「いや、今のは……何でもいいと言われて、思わず口をついてしまっただけです。特に関係の無い言葉ですから、忘れてください」
「な、なんで? どうしてそうやって、またいじわるするんですか? っ……いいから、教えてください! 素直に、その言葉の意味をコハル先輩に教えてあげてくださいよ!」

 弥生に強く懇願するミコト。弥生はそれでも口を噤みたそうな雰囲気だったが、結局は求められるまま素直に話し出してしまった。
 意味がわからなくとも、少し考えれば推測できたはずだ。世界的に有名なお姫様であるシンデレラ……その名を冠しているのだから、今のミコトが望むような言葉であるはずが無い。

「……シンデレラコンプレックスを簡単に説明すると、自立心に欠けていて他者に依存し、外からの救いに期待し過ぎている女性を指す言葉です。いつか魔法使いの妖精が現れて、素敵な王子様に見初められる……名前の通り、シンデレラに憧れすぎてしまっている状態……お姫様願望とも言えるでしょうか」
「そ、それって……それってっ……!」

 それは、ミコトにとっての救いの手では無かった。ミコトが弥生から無理矢理聞き出したのは、告発に等しい言葉だった。
 ミコトは感情を乗せるように拳を振り上げて、弥生の胸に振り下ろした。何度も、何度も、空虚で軽い音を立てながら……弥生は身じろぎもせずに叩かれ続けていた。
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