死の間際、あなたは親友ですか?

papporopueeee

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一日目:いつものふたりで、いつもどおりに

願った理由は

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「あー、甘い。そして上手い。幸せに形があるとしたらそれは間違いなくクレープのことだな」

 ボクの手から取り戻したクレープを頬張りながら、抄は恍惚とした笑みを浮かべている。

「しかもそれが人の金で食えるんだから、そりゃ上手いだろうな」
「ああ、ごちそうさまだぜ、親友。やっぱ出かけるなら財布は持ち歩かないとな」
「? ショウが財布を持ち歩いてないから、ボクが奢ってるんじゃないか」
「俺の財布なら座ってるだろ。隣にな」
「……お前の親友は財布なのかよ」
「冗談だって。ちゃんと金が稼げるようになったら返すからさ」
「それ、いつになるんだよ」

 戸籍を持たない抄が簡単にバイトなどができるとは到底思えない。

「待ちきれないなら体で返そうか?」
「お断りだよ!」
「んー? 家事労働で返すことの何が不満なんだ?」
「ぐっ、お前……!」

 ニマニマと意地悪く微笑む様子から、抄が意図的に誤解を生む言い方をしたのは明らかだった。

「タクは不思議なことを言うんだなー? それなら、お言葉に甘えてぐうたら寝て過ごすのも悪くないなー。掃除も、炊事も、洗濯も。タクがどうしてもしてほしいって言うなら、吝かじゃないけどなー?」
「別に、したくないならしなくていいけどな……。ボクだって家事はズボラな方だし、それなのに人には強制させるのも気分悪いし……」
「ウソウソ、拗ねんなよタク。家事はもう全部俺に任せとけって。だから機嫌直せ?」
「っ!」

 それは、抄の意図した行動ではなかったのかもしれない。
 抄はただ、そっぽを向いたボクを振り向かせようとしただけで。
 男の時と同じように、ボクの肩に肘を置こうと思っただけで。

 ただ、今はその胸部が男の時とは比べようもないほどに膨らんでしまっているから。
 だから結果としてそれが当たってしまっただけで――

「おっ、耳が真っ赤ってことは機嫌直ったな」

 あ、わざとだこれ。

 転生して日が浅いというのに、抄はすっかり女の武器を使いこなしているように見える。

「……そういえば、どうしてショウは美少女になりたかったんだ?」
「そりゃお前、どうせなら可愛い方がいいだろ?」
「そうじゃなくて、どうして女になりたかったんだってことだよ。実は心の性別は女性でしたってわけでもないんだろ?」

 性同一性障害。
 体と精神の性別に乖離があるという症状だが、抄がそれに当てはまっていたとは思えない。

「大した理由じゃないんだけど……美少女になってみたい、なんてそう変わった願望でもないだろ?」
「いや、少なくともボクはそんな願望持ってないぞ。むしろイケメンになりたいくらいだし、ショウがあのルックスを捨てたのだって勿体ないって思ってるくらいだ」
「イケメンだってそんな万能じゃないけどな。人生を有利に楽しむための要素ではあるけど、デメリットもあるし」
「それにしたって、自分の死と引き換えにするような願いとは思えないんだけどな、女体化って」
「いや、むしろ死なないと意味がないだろ」
「そうか?」
「後天的な性転換手術だと、挿入される側の感覚を本当の意味では味わえないからな」
「……ん?」

 今の言葉はボクの聞き間違いだろうか。
 抄は呑気にクレープのアイスを齧っているが。

「今、ショウが挿入される側になりたかったって言ったように聞こえたんだけど……」
「なりたかったというよりは、体験してみたかったの方が近いな。だってさ、男で生まれてしまった以上、膣に挿入される感覚は絶対に経験できないんだぜ?」
「そっ、それは、確かにそうだろうけど……」

 絶対に手の届かない物に憧れるという気持ちはわからないでもない。
 抄はセックスでありふれた生活を送っていたために、女性側の感覚が気になったのだろうか。

「逆に女性は絶対に挿入ができない。本当の意味で両方の感覚を知るには、異性に転生するしか方法がないんだよ。そしてそんなチャンスが急に目の前に転がりこんできたら、そりゃ願うだろ」

 抄はボクに巻き込まれて二度も死ね神に殺された。
 この罪悪感を忘れたことはないし、これから先も決して消えることはないけれども。
 今の抄の話を聞いて、少しだけ気持ちが楽になった気がした。

「しかし想定外だったのは処女だったことだな。元々が童貞じゃないんだし、そこは気を利かせて欲しかったんだが……これじゃあセックスなんて一生できない、というかする気が起きない。……ああ、そうだな。もう二度とセックスができないってのは、ちょっと後悔してるかもな……」

 過去を、もう二度と戻らない日々を思い返すように抄は空を見上げた。
 仕方のない事と自分を納得させるように、小さく溜息を吐きながら。
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