死の間際、あなたは親友ですか?

papporopueeee

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二日目:生まれて生きて、その先に

特別だった人

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「違和感を感じてたって、体の構造が変わったことに対してとかか?」
「違う。確かにそこに戸惑いはしてたけど、不思議じゃなかった。男から女に変わって違和感があるのは当たり前だからな。俺が言ってるのは例えば……」
「例えば?」

 ボクの聞き返しに対して、少女は少しだけ悩んだ後にゆっくりと話し出した。

「……やけに甘い物を美味しく感じたこととか。元から嫌いだったわけじゃないけど、そこまで好きなわけでもなかった。最初は女性全般が甘い物が好きなのかもとか思ってたんだけど、多分そうじゃない。甘い物が好きなのは、最初の人格の嗜好だったんだ、きっと」

 最初の人格。
 死ね神が誕生させ、急成長させた直後の彼女本来の人格。

 死ね神が具体的にどのような成長をさせたのかはわからないが、彼女は日本語を話していた。
 つまり、彼女には自意識があったのだ。
 そうでなければ人の言葉なんて話さないし、自身の正体がわからないことに狼狽えたりもしない。

 死ね神がどのように用意したのかもわからない少女の人格。
 そこに抄の記憶が混ざって、甘い物を好む抄の人格が出来上がった。

「それに言われてみると、確かに憶えてる。いや、正確には憶えてはいないな。記憶が無いということを覚えているというか……なんか思い返してみると記憶に穴があるんだよな。死ね神に殺されてから死ね神に記憶をもらうまでの間に、空白があるような感覚がある。塗り潰されたように朧げだけど、確かに生きていた時間があるのはわかる……。多分、これがその何もわからない少女だった時間なんだろうな」

 少女の人格だった時間は十分にも満たない短い間だ。
 二十年近く積み上げられた抄の記憶には到底敵わず、思い出すこともできなくなってしまったのだろう。

 彼女は自身の現状をよく理解している。
 高伊勢抄の記憶を持っていて、それを基に自身の人格が形成されていること。
 自身が高伊勢抄ではないということを、彼女はわかっている。

 その上で、彼女はとても落ち着いていて。
 どうして、ボクは苛つきを覚えているのだろうか。

「それが、本当のお前なんろうな」
「え?」
「言っただろ。今のお前はショウのフリをしてるだけなんだって。本当のお前は、死ね神の手で生まれた少女。体は死ね神の手で作られていて、記憶はショウの物。どこにも本物なんて存在しないんだ」

 そんなことが言いたいわけじゃない。
 彼女が責められる謂れはないのだから。
 抄の願いと、死ね神の力によって生まれさせられただけなのだから。

 だから憐れまれこそすれ、誹りを受ける理由なんてないのに。
 それなのに頭は強い言葉をどんどんと作り出して、ボクはそれを少女に突き刺そうと振りかぶろうとしている。

「どうしたんだよ、タク。急に不貞腐れて」
「……お前にその呼び方をされたくない」

 ボクのことをタクと呼ぶのは抄だけだった。
 家族からは拓。
 他の人間からは苗字。

 それはボクにとっては特別だったのだと、今更になって気付いた。
 高伊勢抄をショウと呼ぶ人間は数多くいたかもしれないけれど、ボクをタクと呼ぶのは抄だけだったから。

 だから目の前の少女に、抄の紛い物にその特別を許してはならないと思ってしまった。
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