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聖剣に仇なす者たち
チェル様を言い表すならば、やはり神子様でしょうか
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カイナがチェルに脇腹を切り裂かれたその2日後。カイナがチェルを探し城内を歩いていると、兵士の詰所の前でラノイに声をかけられた。
「カイナ様、おはようございます。もうお加減はよろしいのですか?」
「ああ、昨日は一日休ませてもらったからな。迷惑をかけたが、今日から復帰だ」
カイナが医務室で傷の療養をしている間、チェルは大きな問題を起こすことなく大人しくしていたらしい。聞いたところによると、チェルを信奉している兵士たちを捕まえてボードゲームに興じていたとか。毎日がそうであって欲しいところだが、気まぐれで飽き性なチェル相手では儚い願いだろう。
「チェル様の剣を受けて一日で復帰されるとは。さすが、チェル様のご兄弟だけあってカイナ様もただ者ではありませんね。我々も見習いたいところではありますが……せめて回復魔法を使える魔導士がイクスガルドにも居れば……」
「ラノイが修めてみたらどうだ? やる気があるのなら魔導書を取り寄せるくらいはできる」
「ご冗談を。頑張ったところで修得できるものではないくらいは知っていますよ。それこそ、チェル様のような才能あるお人でなければ」
確かにチェルは聖剣に選ばれた人間ではあるが、それと回復魔法の才能は別だろう。そんな言葉を呑み込んで、カイナはチェルの所在を訊ねた。
「チェル様でしたら、聖剣の手入れに行くという言伝だけ残して出かけたようです。用があるのでしたら、街の鍛冶屋を訪れるのが良いかと」
「そういえば今日だったか。血を流した際にチェルの予定も流れていったようだ……」
チェルの部屋を訪れた際に寝床が空だったのを見た時には肝を冷やしたカイナであったが、ラノイの報告を受けると安心したように息を吐いた。自由気ままなチェルではあるが、その身に帯びた聖剣の重要性は誰よりも理解している。聖剣の手入れをしている間は大人しくしているだろう。
「私も護衛の為に鍛冶屋へ行こうと思ったのですが、兵士長に許可がいただけなくて……。なんでも、本日は若手を集めて特別トレーニングをするつもりらしいんです……」
ため息を吐くラノイの様子は心底憂鬱そうだった。
兵士長はチェルの在り方に否定的な人間であり、ラノイのようなチェルを慕いすぎている兵士にも頭を痛めていた。ラノイの憂鬱の通り、今日はかなり絞られることだろう。
「チェル様が居られるのだから、兵士が多少鍛えても意味無いと思うんですけどね」
兵士としては許されないラノイの発言だったが、カイナは敢えて触れないこととした。
ラノイは兵士であり、兵士としての教育はその兵士長に任せるべきだろう。本日の特別トレーニングとやらで、多少は考えを改めてくれることを願うばかりである。
「それなら、俺がチェルの所へ行ってくる。手入れが終わり次第城に戻るつもりだが、チェルの機嫌次第だ。そのまま外でチェルの面倒を見ることになるかもしれない」
「チェル様と一緒に粛清に向かわれるのですね。承知しました、皆にも共有しておきます」
「……」
粛清。そう口にしたラノイの表情はなんとも晴れやかであった。まるで仕事に出る父親を見送る子供のように、誇らしげにカイナを見ている。
「……参考までに聞きたいんだが、ラノイの目からチェルはどう映ってる?」
「え? どう映ってるか……ですか?」
カイナの質問の真意を図りかねているのだろう。ラノイはかしこまった様子で頭をひねり始めてしまった。
「そう硬く考えなくてもいい。ラノイは兵士たちの中でも特にチェルを慕ってくれているだろう。その話が聞きたいと思っただけなんだ」
ラノイが髪を金に染めているのはチェルに憧れているから、という噂をカイナは聞いたことがあった。年上のラノイにそこまでさせるだけのカリスマがチェルにはあり、ラノイも髪の色を真似するほどにチェルを信奉しているということだろう。
ラノイの気持ちはカイナにもわかるところはあった。チェルの強さと、どこか神聖さを感じる雰囲気は、実の兄すらも魅了しかける瞬間が時たま存在するのは確かだ。
しかしそれ以上に、その素行を受け入れることができない。少なくとも、チェルの私刑を粛清などと言って持て囃す心境はカイナには理解できなかった。
「そうですね……チェル様を言い表すならば、やはり神子様でしょうか。その一挙手一投足は正に神の振舞いだと思います」
「……神様ときたか」
「カイナ様、おはようございます。もうお加減はよろしいのですか?」
「ああ、昨日は一日休ませてもらったからな。迷惑をかけたが、今日から復帰だ」
カイナが医務室で傷の療養をしている間、チェルは大きな問題を起こすことなく大人しくしていたらしい。聞いたところによると、チェルを信奉している兵士たちを捕まえてボードゲームに興じていたとか。毎日がそうであって欲しいところだが、気まぐれで飽き性なチェル相手では儚い願いだろう。
「チェル様の剣を受けて一日で復帰されるとは。さすが、チェル様のご兄弟だけあってカイナ様もただ者ではありませんね。我々も見習いたいところではありますが……せめて回復魔法を使える魔導士がイクスガルドにも居れば……」
「ラノイが修めてみたらどうだ? やる気があるのなら魔導書を取り寄せるくらいはできる」
「ご冗談を。頑張ったところで修得できるものではないくらいは知っていますよ。それこそ、チェル様のような才能あるお人でなければ」
確かにチェルは聖剣に選ばれた人間ではあるが、それと回復魔法の才能は別だろう。そんな言葉を呑み込んで、カイナはチェルの所在を訊ねた。
「チェル様でしたら、聖剣の手入れに行くという言伝だけ残して出かけたようです。用があるのでしたら、街の鍛冶屋を訪れるのが良いかと」
「そういえば今日だったか。血を流した際にチェルの予定も流れていったようだ……」
チェルの部屋を訪れた際に寝床が空だったのを見た時には肝を冷やしたカイナであったが、ラノイの報告を受けると安心したように息を吐いた。自由気ままなチェルではあるが、その身に帯びた聖剣の重要性は誰よりも理解している。聖剣の手入れをしている間は大人しくしているだろう。
「私も護衛の為に鍛冶屋へ行こうと思ったのですが、兵士長に許可がいただけなくて……。なんでも、本日は若手を集めて特別トレーニングをするつもりらしいんです……」
ため息を吐くラノイの様子は心底憂鬱そうだった。
兵士長はチェルの在り方に否定的な人間であり、ラノイのようなチェルを慕いすぎている兵士にも頭を痛めていた。ラノイの憂鬱の通り、今日はかなり絞られることだろう。
「チェル様が居られるのだから、兵士が多少鍛えても意味無いと思うんですけどね」
兵士としては許されないラノイの発言だったが、カイナは敢えて触れないこととした。
ラノイは兵士であり、兵士としての教育はその兵士長に任せるべきだろう。本日の特別トレーニングとやらで、多少は考えを改めてくれることを願うばかりである。
「それなら、俺がチェルの所へ行ってくる。手入れが終わり次第城に戻るつもりだが、チェルの機嫌次第だ。そのまま外でチェルの面倒を見ることになるかもしれない」
「チェル様と一緒に粛清に向かわれるのですね。承知しました、皆にも共有しておきます」
「……」
粛清。そう口にしたラノイの表情はなんとも晴れやかであった。まるで仕事に出る父親を見送る子供のように、誇らしげにカイナを見ている。
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「え? どう映ってるか……ですか?」
カイナの質問の真意を図りかねているのだろう。ラノイはかしこまった様子で頭をひねり始めてしまった。
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「そうですね……チェル様を言い表すならば、やはり神子様でしょうか。その一挙手一投足は正に神の振舞いだと思います」
「……神様ときたか」
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