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聖剣に仇なす者たち
足を引っ張る者は早々に切り捨てるチェル様の即断即決は合理的で、非の打ちどころも無いかと
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チェルを信奉している者が居ると形容こそしていたものの、本当に神と思っているとは想定していなかった。圧倒的な力を持った存在による理不尽な処刑は神罰に近いのかもしれないが、チェルはまだ12歳の子供である。その身体も精神性もいまだ成長途中の未熟な状態にあり、そんな子供を神と崇めるラノイの姿はチェルの目には些か異様に映っていた。
それともチェルが幼い子供だからこそ、逆に神聖に見えるのだろうか。
「チェルを神たらしめている要素とは、やはり聖剣か?」
「もちろんです。実の兄であり、イクスガルドきっての実力者でもあるカイナ様でも崩すことのできぬ鉄壁。防御を考えることすら許さない、連撃を越えた同時攻撃と超遠距離斬撃。正に無敵であり、私の憧れであります」
はにかみながらもチェルへの想いを告白するラノイだが、カイナにはその胸中は理解できなかった。
憧れとはつまりは目標であるとカイナは理解している。自分もそうなりたいという思いが憧憬を生むのであり、ラノイはチェルのようになりたいのだろう。
しかし、それは不可能だ。ラノイの言う通り、チェルの強さは神がかっている。人の領域には在らず、努力すらもしていない。聖剣の加護は生まれ持った性質によるものであり、誰一人としてチェルの隣に並び立つことはできない。
チェルへの憧れを語るラノイの目はまっすぐ見ることも躊躇われるほどに眩しく、まるで聖剣の輝きを反射しているかのようだった。
「それに――」
憧れのチェルについて話し始めている内に高揚し始めたらしく、ラノイは鼻息荒く興奮しながら口にした。
「チェル様は若くして為政者としての才を見せております。武力だけではなく政にも秀でているとなれば、国を守護する兵士としては正に理想の国王様かと思います」
聞き間違いをしたのだとカイナは思った。もしくは解釈違いをしており、認識にずれが生じているのだと疑った。
しかしそうではなかった。ラノイはまだ現国王が健在である中、第一王子であるカイナの目の前で、よりにもよってチェルこそが国王として相応しいのだと言っていた。
カイナはラノイに動揺を悟られぬようにしながら理由を訊ねた。国王とカイナに対する非礼は流すことができたが、チェルのどこに為政者としての才を見出しているのかを問わずにはいられなかった。
「粛清ですよ。イクスガルドの発展を妨げる者を積極的に排除するあの姿勢。あまり大きな声では言えませんが、椅子の上で机上の空論を並べているだけの元老院の方たちとは比較にもなりません。自らの手足を以て国の為に尽力するお姿は、正にお国を背負う者として相応しい背中です!」
チェルのあの薄く小さな背中に、ラノイは国を背負った姿を見ているらしい。
聖剣を動かすのにも指すら動かしておらず、もっぱらその手には新鮮な果実を握ってばかりいるが、ラノイの目にはカイナとは違う光景が見えているのだろう。
「ラノイはチェルが行う私刑には賛成か?」
「当然です。先日もその曇りなき眼でイクスガルドに入り込んだ害虫を見つけ出して駆除しております。今のイクスガルドの発展も、平穏も、すべてはチェル様による賜りものですよ。チェル様の粛清が無ければ、今頃イクスガルドは内に抱える膿が広がり腐る寸前だったことでしょう。チェル様の御手が振るわれる度に、イクスガルドは磨かれ清廉になっていくのです」
チェルが斬った人間の中には外敵からの刺客も確かに居る。しかしその多くは歴としたイクスガルドの民だ。それを、ラノイは平然とした顔で膿と表現していた。
「……やりすぎ、という見方は無いか? 何も殺さずとも、一度留置するというやり方もあったとは思わないか?」
「全く思いません。犯罪者共を収容するスペースには限りがありますし、食料だって湧き出てくるわけではありません。足を引っ張る者は早々に切り捨てるチェル様の即断即決は合理的で、非の打ちどころも無いかと」
これではチェルがカイナの言葉に耳を貸さないのも当然だろう。カイナの想像以上に、チェルを取り巻く環境は思想が濃縮されている。互いが互いに影響し合って、もはや他者が簡単には入り込めない。
治安が良くとも、恐怖によるストレスで民たちの心が蝕まれている状況は健全とは言えない。たった一度の過ちも許されない人生など、あまりにディストピアだ。人間は完璧な存在ではなく、完全なる善の存在でもない。そもそも、善悪の定義すらも人によって異なるのだから。
「そうか……。時間を取らせて悪かったな」
カイナはラノイに背を向けると、足早にその場を立ち去った。ラノイに反論したい気持ちはあったが、ここで論じたところでラノイが考えを変えるとも思えなかった。
根本はチェルだ。チェルが変われば、ラノイ達も否応なく変わるだろう。問題はチェルに考えを改めさせることが困難なことにあるが、それでもカイナはやらざるを得ない。
カイナはチェルの兄なのだ。弟の為に身を粉にする覚悟など、とっくの昔に決めている。
それともチェルが幼い子供だからこそ、逆に神聖に見えるのだろうか。
「チェルを神たらしめている要素とは、やはり聖剣か?」
「もちろんです。実の兄であり、イクスガルドきっての実力者でもあるカイナ様でも崩すことのできぬ鉄壁。防御を考えることすら許さない、連撃を越えた同時攻撃と超遠距離斬撃。正に無敵であり、私の憧れであります」
はにかみながらもチェルへの想いを告白するラノイだが、カイナにはその胸中は理解できなかった。
憧れとはつまりは目標であるとカイナは理解している。自分もそうなりたいという思いが憧憬を生むのであり、ラノイはチェルのようになりたいのだろう。
しかし、それは不可能だ。ラノイの言う通り、チェルの強さは神がかっている。人の領域には在らず、努力すらもしていない。聖剣の加護は生まれ持った性質によるものであり、誰一人としてチェルの隣に並び立つことはできない。
チェルへの憧れを語るラノイの目はまっすぐ見ることも躊躇われるほどに眩しく、まるで聖剣の輝きを反射しているかのようだった。
「それに――」
憧れのチェルについて話し始めている内に高揚し始めたらしく、ラノイは鼻息荒く興奮しながら口にした。
「チェル様は若くして為政者としての才を見せております。武力だけではなく政にも秀でているとなれば、国を守護する兵士としては正に理想の国王様かと思います」
聞き間違いをしたのだとカイナは思った。もしくは解釈違いをしており、認識にずれが生じているのだと疑った。
しかしそうではなかった。ラノイはまだ現国王が健在である中、第一王子であるカイナの目の前で、よりにもよってチェルこそが国王として相応しいのだと言っていた。
カイナはラノイに動揺を悟られぬようにしながら理由を訊ねた。国王とカイナに対する非礼は流すことができたが、チェルのどこに為政者としての才を見出しているのかを問わずにはいられなかった。
「粛清ですよ。イクスガルドの発展を妨げる者を積極的に排除するあの姿勢。あまり大きな声では言えませんが、椅子の上で机上の空論を並べているだけの元老院の方たちとは比較にもなりません。自らの手足を以て国の為に尽力するお姿は、正にお国を背負う者として相応しい背中です!」
チェルのあの薄く小さな背中に、ラノイは国を背負った姿を見ているらしい。
聖剣を動かすのにも指すら動かしておらず、もっぱらその手には新鮮な果実を握ってばかりいるが、ラノイの目にはカイナとは違う光景が見えているのだろう。
「ラノイはチェルが行う私刑には賛成か?」
「当然です。先日もその曇りなき眼でイクスガルドに入り込んだ害虫を見つけ出して駆除しております。今のイクスガルドの発展も、平穏も、すべてはチェル様による賜りものですよ。チェル様の粛清が無ければ、今頃イクスガルドは内に抱える膿が広がり腐る寸前だったことでしょう。チェル様の御手が振るわれる度に、イクスガルドは磨かれ清廉になっていくのです」
チェルが斬った人間の中には外敵からの刺客も確かに居る。しかしその多くは歴としたイクスガルドの民だ。それを、ラノイは平然とした顔で膿と表現していた。
「……やりすぎ、という見方は無いか? 何も殺さずとも、一度留置するというやり方もあったとは思わないか?」
「全く思いません。犯罪者共を収容するスペースには限りがありますし、食料だって湧き出てくるわけではありません。足を引っ張る者は早々に切り捨てるチェル様の即断即決は合理的で、非の打ちどころも無いかと」
これではチェルがカイナの言葉に耳を貸さないのも当然だろう。カイナの想像以上に、チェルを取り巻く環境は思想が濃縮されている。互いが互いに影響し合って、もはや他者が簡単には入り込めない。
治安が良くとも、恐怖によるストレスで民たちの心が蝕まれている状況は健全とは言えない。たった一度の過ちも許されない人生など、あまりにディストピアだ。人間は完璧な存在ではなく、完全なる善の存在でもない。そもそも、善悪の定義すらも人によって異なるのだから。
「そうか……。時間を取らせて悪かったな」
カイナはラノイに背を向けると、足早にその場を立ち去った。ラノイに反論したい気持ちはあったが、ここで論じたところでラノイが考えを変えるとも思えなかった。
根本はチェルだ。チェルが変われば、ラノイ達も否応なく変わるだろう。問題はチェルに考えを改めさせることが困難なことにあるが、それでもカイナはやらざるを得ない。
カイナはチェルの兄なのだ。弟の為に身を粉にする覚悟など、とっくの昔に決めている。
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