15 / 67
聖剣に仇なす者たち
裏切りの理由がチェルにあったとしたら
しおりを挟む
「反対だ」
カイナは即座にラノイの案に異を示した。万が一にもその案を通さないために。
「なっ、なぜでしょうか? 50人もの刺客を侵入させるなど、一人の兵が裏切ったところで不可能です。民の中に裏切り者が居るのは確実であり、見せしめを行えば更なる裏切りは抑制できるかと」
「その為に多くの民に負担を強いるのか? 見せしめ、というからにはダズを相当に痛めつけるのだろう。そんな光景を無理矢理に見せつければ、ただでさえ疲労している民たちの心を更に追い詰めることになる。少数の裏切り者の為に、多くの民を傷つけるなど、俺はそのような行為には反対だ」
チェルの私刑に怯えている民に向けて、それよりも惨い見せしめを行う。それはラノイの言う通りに裏切りの抑制には多大な効果があるだろう。
しかし同時に国への信頼を落としかねない。国はチェルの私刑を肯定しているのだと受け取られてしまえば、蜂起の呼び水となる可能性もある。
追い詰められた一人の人間によってスーチェは命を喪った。悲劇を繰り返さぬ為にも、過度に民にプレッシャーを与えるのは避けるべきというのがカイナの考えだった。
「しかし、その少数の民によって国が滅びかねません。イクスガルドという国を護る為には、国と民が一丸となる必要があるのではないでしょうか!?」
「国と民を分けて考える必要は無いだろう。そもそも国とは民なのだから。裏切り者もまた国民であり、裏切られる弱みも含めて今のイクスガルドだ。それを恐怖で縛るのはただの現実逃避であり、一時凌ぎでは遅かれ早かれ国は自壊する」
「では、具体的にどうするおつもりなのですか? カイナ様はその賢明な頭を持って、裏切り者を内包するイクスガルドをどうやって導いてくださるのでしょうか?」
否定するばかりのカイナに苛立ちを覚えたのだろう。敬語こそ保っているものの、ラノイの目にはカイナへの敵意がぎらぎらと燃えていた。カイナの発言次第では、今にも飛び掛かってきそうな様子だった。
「……」
カイナはちらりとチェルを見た。チェルもまた、カイナの瞳を一心に見つめていた。
チェルの瞬きの音、まつ毛とまつ毛が擦れ合う音まで聞こえてきそうなほどに静まり返った室内。一つ息を吐き、ラノイに視線を移しながらカイナは口を開いた。
「あくまで俺個人としての考えだが……ダズは処刑しない」
余程想定外だったのだろう。ラノイの見せしめという提案にも声を漏らさなかった元老院の面々がどよめいていた。
一方で、真っ先に異を唱えると思っていたチェルは静かにカイナを見つめ続けていた。
「それはっ……さすがに、ありえなくないですか? カイナ様は、裏切りを許すと仰るのですか? チェル様のお命が脅かされたのですよ!?」
「許すとは言っていない。それと、処刑しないというのもあくまで可能性だ。まずはダズの裏切りの理由と、その切っ掛けを明確にするべきだ。内容によっては処刑もあるだろうが、少なくとも見せしめにする必要は無いと考えている」
もしもダズの裏切りの理由がチェルにあったとしたら。チェルの私刑に目を瞑り続ける国がダズを裏切らせたのだとしたら。カイナには、ダズの目を真っすぐに見ながら処刑する自信が無かった。
カイナは即座にラノイの案に異を示した。万が一にもその案を通さないために。
「なっ、なぜでしょうか? 50人もの刺客を侵入させるなど、一人の兵が裏切ったところで不可能です。民の中に裏切り者が居るのは確実であり、見せしめを行えば更なる裏切りは抑制できるかと」
「その為に多くの民に負担を強いるのか? 見せしめ、というからにはダズを相当に痛めつけるのだろう。そんな光景を無理矢理に見せつければ、ただでさえ疲労している民たちの心を更に追い詰めることになる。少数の裏切り者の為に、多くの民を傷つけるなど、俺はそのような行為には反対だ」
チェルの私刑に怯えている民に向けて、それよりも惨い見せしめを行う。それはラノイの言う通りに裏切りの抑制には多大な効果があるだろう。
しかし同時に国への信頼を落としかねない。国はチェルの私刑を肯定しているのだと受け取られてしまえば、蜂起の呼び水となる可能性もある。
追い詰められた一人の人間によってスーチェは命を喪った。悲劇を繰り返さぬ為にも、過度に民にプレッシャーを与えるのは避けるべきというのがカイナの考えだった。
「しかし、その少数の民によって国が滅びかねません。イクスガルドという国を護る為には、国と民が一丸となる必要があるのではないでしょうか!?」
「国と民を分けて考える必要は無いだろう。そもそも国とは民なのだから。裏切り者もまた国民であり、裏切られる弱みも含めて今のイクスガルドだ。それを恐怖で縛るのはただの現実逃避であり、一時凌ぎでは遅かれ早かれ国は自壊する」
「では、具体的にどうするおつもりなのですか? カイナ様はその賢明な頭を持って、裏切り者を内包するイクスガルドをどうやって導いてくださるのでしょうか?」
否定するばかりのカイナに苛立ちを覚えたのだろう。敬語こそ保っているものの、ラノイの目にはカイナへの敵意がぎらぎらと燃えていた。カイナの発言次第では、今にも飛び掛かってきそうな様子だった。
「……」
カイナはちらりとチェルを見た。チェルもまた、カイナの瞳を一心に見つめていた。
チェルの瞬きの音、まつ毛とまつ毛が擦れ合う音まで聞こえてきそうなほどに静まり返った室内。一つ息を吐き、ラノイに視線を移しながらカイナは口を開いた。
「あくまで俺個人としての考えだが……ダズは処刑しない」
余程想定外だったのだろう。ラノイの見せしめという提案にも声を漏らさなかった元老院の面々がどよめいていた。
一方で、真っ先に異を唱えると思っていたチェルは静かにカイナを見つめ続けていた。
「それはっ……さすがに、ありえなくないですか? カイナ様は、裏切りを許すと仰るのですか? チェル様のお命が脅かされたのですよ!?」
「許すとは言っていない。それと、処刑しないというのもあくまで可能性だ。まずはダズの裏切りの理由と、その切っ掛けを明確にするべきだ。内容によっては処刑もあるだろうが、少なくとも見せしめにする必要は無いと考えている」
もしもダズの裏切りの理由がチェルにあったとしたら。チェルの私刑に目を瞑り続ける国がダズを裏切らせたのだとしたら。カイナには、ダズの目を真っすぐに見ながら処刑する自信が無かった。
0
あなたにおすすめの小説
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる