28 / 67
剣の落ちた日
また3人で会えるのだと軽く考えていた
しおりを挟む
「来たか、カイナ、チェル」
カイナが亡命の為の身支度を整えた後、厩に向かうとふたりの父であるフートラ・ユーリィが待っていた。
「ご当主、わざわざ見送りに来ていただけるとは……」
いつものように恭しくフートラに挨拶するカイナ。それを見て、チェルもおぼつかないお辞儀をした。普段はそのようなことはしないが、なんとなくそうした方が良いと思った。
「その呼び方はもう良い。今生の別れの時くらい、父として息子を送らせてくれ」
「はい……父さん」
「今までお前には苦労をかけたな……。こんなことを言える立場ではないかもしれないが、せめてこれからは自由に生きてくれ」
「それは……難しいかもしれませんね」
横目でチェルを見た後、自嘲気味に笑うカイナ。それに釣られるようにして、フートラも笑みを零した。
チェルはそんな二人のやりとりをただ無表情に見上げていた。
「達者でな。父より先に死んでくれるなよ?」
「善処します」
互いの背に腕を回し、抱き合うふたり。それを見てチェルは自分も混ざった方がいいのかと考えたが、結局はただ眺めているに留まった。
「チェルも、こちらに来て抱かせてくれ」
「ん……えと……はい……」
両腕を真っすぐに伸ばしながら、身長差を少しでも縮めようと背伸びをするチェル。フートラは屈んで両脇に手を差し入れると、そのままチェルを勢いよく抱き上げた。
「わぁ……」
少しも驚いていない声で感嘆詞を漏らすチェルに対し、フートラは愉快そうに声を漏らした。
「チェルは変わらんな。昔からずっと変わらん……私の中では、今でも6歳の頃と全く変わらんよ」
「それは……さすがにどうかと思う……」
「すまんな……もっとお前のことも見てやりたかった……。この事態を招いたのは、私にも責任がある。どうか、許してくれ……」
フートラの言葉をチェルは十全には理解できなかった。
悪いのは反乱している兵であり、責任は民に嫌われてしまったチェルにある。フートラに謝る理由は無く、むしろ謝るべきはチェルであるが故に、チェルはフートラの謝罪に何て応えればよいのかがわからなかった。
「僕の方こそ……ごめんなさい……」
だから、それは薄っぺらい謝罪だった。ただその場の雰囲気に合わせただけの言葉だった。
自分は悪くないと思っているわけではなく、本当の意味での反省が出来ていない状態での謝罪。それを受け止めたフートラは悲し気に笑みを浮かべ、やはりチェルにはフートラの気持ちはわからなかった。
「では、私は戻る。この混乱の最中、あまり長いこと王が不在であるわけにもいかぬのでな……。カイナ、チェルを頼んだぞ」
「はい……お任せください、ご当主」
「ばいばい……お父さん……」
「ああ……さよならだ、息子たちよ……」
10分にも満たない短い親子の別れ。それは今生の別れなのだという実感を持つには短すぎて、チェルは心の底ではまた3人で会えるのだと軽く考えていた。
カイナが亡命の為の身支度を整えた後、厩に向かうとふたりの父であるフートラ・ユーリィが待っていた。
「ご当主、わざわざ見送りに来ていただけるとは……」
いつものように恭しくフートラに挨拶するカイナ。それを見て、チェルもおぼつかないお辞儀をした。普段はそのようなことはしないが、なんとなくそうした方が良いと思った。
「その呼び方はもう良い。今生の別れの時くらい、父として息子を送らせてくれ」
「はい……父さん」
「今までお前には苦労をかけたな……。こんなことを言える立場ではないかもしれないが、せめてこれからは自由に生きてくれ」
「それは……難しいかもしれませんね」
横目でチェルを見た後、自嘲気味に笑うカイナ。それに釣られるようにして、フートラも笑みを零した。
チェルはそんな二人のやりとりをただ無表情に見上げていた。
「達者でな。父より先に死んでくれるなよ?」
「善処します」
互いの背に腕を回し、抱き合うふたり。それを見てチェルは自分も混ざった方がいいのかと考えたが、結局はただ眺めているに留まった。
「チェルも、こちらに来て抱かせてくれ」
「ん……えと……はい……」
両腕を真っすぐに伸ばしながら、身長差を少しでも縮めようと背伸びをするチェル。フートラは屈んで両脇に手を差し入れると、そのままチェルを勢いよく抱き上げた。
「わぁ……」
少しも驚いていない声で感嘆詞を漏らすチェルに対し、フートラは愉快そうに声を漏らした。
「チェルは変わらんな。昔からずっと変わらん……私の中では、今でも6歳の頃と全く変わらんよ」
「それは……さすがにどうかと思う……」
「すまんな……もっとお前のことも見てやりたかった……。この事態を招いたのは、私にも責任がある。どうか、許してくれ……」
フートラの言葉をチェルは十全には理解できなかった。
悪いのは反乱している兵であり、責任は民に嫌われてしまったチェルにある。フートラに謝る理由は無く、むしろ謝るべきはチェルであるが故に、チェルはフートラの謝罪に何て応えればよいのかがわからなかった。
「僕の方こそ……ごめんなさい……」
だから、それは薄っぺらい謝罪だった。ただその場の雰囲気に合わせただけの言葉だった。
自分は悪くないと思っているわけではなく、本当の意味での反省が出来ていない状態での謝罪。それを受け止めたフートラは悲し気に笑みを浮かべ、やはりチェルにはフートラの気持ちはわからなかった。
「では、私は戻る。この混乱の最中、あまり長いこと王が不在であるわけにもいかぬのでな……。カイナ、チェルを頼んだぞ」
「はい……お任せください、ご当主」
「ばいばい……お父さん……」
「ああ……さよならだ、息子たちよ……」
10分にも満たない短い親子の別れ。それは今生の別れなのだという実感を持つには短すぎて、チェルは心の底ではまた3人で会えるのだと軽く考えていた。
0
あなたにおすすめの小説
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる